亜愛一郎の狼狽とは、泡坂妻夫の短編集である。デビュー作「DL2号機事件」が収録されている。
本項では亜愛一郎シリーズ全体についても触れる。
概要
名探偵辞典でアイウエオ順に並べたときに一番最初に来ることを狙って名付けられた、カメラマン亜愛一郎(亜が名字、愛一郎が名前)が様々な事件を解決する短編ミステリシリーズである。発音するとどうしても「あっあいいちろう」になるし、呼ぶときには「あさん」とか「あー」になってしまう。作中でも様々な登場人物からそのことをネタにされている。
ものすごい美貌の持ち主であり、通り過ぎると大抵の女性は振り返る。ただし行動はトンチンカンなことを喋ったりヘマをしたりとドジキャラである。推理は独創的でかつ鋭いが、インスピレーションが湧いたときはよく白目をむく。こうした行動のせいで、さんざんフラグをへしおっている。完結編「亜愛一郎の逃亡」では、亜の意外な出自が明かされ、それまでの登場人物が総出演している。
シリーズは第1回幻影城新人賞に佳作入選した泡坂のデビュー作「DL2号機事件」(「幻影城」1976年3月号掲載、ちなみに佳作に留まったのは規定枚数が100枚以内のところを50枚しか無かったためだとか)を皮切りに順次「幻影城」誌上に発表され、8作目の「黒い霧」までが1978年に『亜愛一郎の狼狽』としてまとめられ幻影城から刊行された。
その後14作目の「争う四巨頭」まで掲載されたところで「幻影城」が廃刊となったため、角川書店の「野性時代」や双葉社の「小説推理」に掲載誌を移し、1984年に発表された24作目「亜愛一郎の逃亡」で完結。9~16作目が『亜愛一郎の転倒』、17~24作目が『亜愛一郎の逃亡』にそれぞれまとめられており、現在は全て創元推理文庫で読める。
また、愛一郎の先祖・亜智一郎(あ・ともいちろう)が登場する、幕末を舞台にした時代ミステリのシリーズがあり、『亜智一郎の恐慌』(創元推理文庫)が刊行されている。他に単行本未収録分が『泡坂妻夫引退公演』(創元推理文庫)に収録。
G・K・チェスタトン(特に『ブラウン神父』シリーズや『詩人と狂人たち』)の影響が非常に強く、ユーモラスな展開の中に縦横無尽の伏線を張り巡らせ、大胆な逆説に基づいた驚くべき真相を提示する、日本の本格ミステリを代表する短編シリーズ。特に品質の高い作品が揃った『亜愛一郎の狼狽』は、オールタイムベスト系のランキングでも上位の常連であり、短編集に限れば連城三紀彦『戻り川心中』と毎回1位を争っている。
「幻影城」編集長の島崎博に「1日に何枚書けるか」と問われ、当時「掘出された童話」の作中に登場する暗号の作成に苦労していた泡坂が「2行書くとふらふらになります」と答えたところ、「泡坂はとんでもない遅筆だ」とネタにされてしまったという逸話がある。
収録作品
亜愛一郎の狼狽(1978年、幻影城刊)
- DL2号機事件 (「幻影城」1976年3月号、デビュー作)
- 右腕山上空 (「幻影城」1976年5月号)
- 曲った部屋 (「幻影城」1976年7月号)
- 掌上の黄金仮面 (「幻影城」1976年12月号)
- G線上の鼬 (「幻影城」1977年1月号)
- 掘出された童話 (「幻影城」1977年3月号)
- ホロボの神 (「幻影城」1977年5月号)
- 黒い霧 (「幻影城」1977年7月号)
亜愛一郎の転倒(1982年、角川書店刊)
- 藁の猫 (「幻影城」1977年9月号)
- 砂蛾家の消失 (「幻影城」1977年11月号)
- 珠洲子の装い (「幻影城」1978年11月号)
- 意外な遺骸 (「幻影城」1979年1月号)
- ねじれた帽子 (「幻影城」1979年6月号)
- 争う四巨頭 (「幻影城」1979年7月号)
- 三郎町路上 (「野性時代」1980年2月号)
- 病人に刃物 (「野性時代」1980年6月号)
亜愛一郎の逃亡(1984年、角川書店刊)
- 赤島砂上 (「小説推理」1980年8月号)
- 球形の楽園 (「野性時代」1981年2月号)
- 歯痛の思い出 (「小説推理」1981年6月号)
- 双頭の蛸 (「小説推理」1982年6月号)
- 飯鉢山山腹 (「野性時代」1983年1月号)
- 赤の賛歌 (「月刊カドカワ」1983年6月号)
- 火事酒屋 (「野性時代」1984年1月号)
- 亜愛一郎の逃亡 (「野性時代」1984年7月号)
関連項目
親記事
子記事
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兄弟記事
- なし
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