供給ショック(supply shocks)とは、経済学の用語の1つである。
概要
定義
供給ショックとは、国家の総供給が変動してタテ軸物価・ヨコ軸実質GDPの総需要-総供給モデルにおいて短期総供給曲線(右肩上がり)や長期総供給曲線(垂直)が右や左に平行移動することをいう[1]。
供給ショックの中で、国家の総供給が増えて総需要-総供給モデルにおいて短期総供給曲線や長期総供給曲線が右に平行移動することを「有利な供給ショック」と呼び、国家の総供給が減って総需要-総供給モデルにおいて短期総供給曲線や長期総供給曲線が左に平行移動することを「不利な供給ショック」と呼ぶ。
解説
国家の総供給は、資本の量や労働の時間といった生産要素と、利用可能な生産技術で決定される[2]。
利用可能な生産技術は、使用者に属する生産技術と労働者に属する生産技術に分けることができる。
供給ショックは、①資本の量を増減させるもの、②労働の時間を増減させるもの、③使用者に属する生産技術を増減させるもの、④労働者に属する生産技術を増減させるもの、のいずれかに分類することができる。
供給ショックが起こると実質GDPと価格が変動する
有利な供給ショックが起きると、総需要-総供給モデルにおいて長期総供給曲線が右に平行移動し、均衡点が総需要曲線(右肩下がり)に沿って右下に移動し、実質GDPが増えて価格が下がっていく。このことは好景気と物価安の同時進行である。
不利な供給ショックが起きると、総需要-総供給モデルにおいて長期総供給曲線が左に平行移動し、均衡点が総需要曲線(右肩下がり)に沿って左上に移動し、実質GDPが減って価格が上がっていく。このことは不景気と物価高の同時進行であり、スタグフレーションと呼ばれる。
資本の量を増減させる供給ショック
資本の量を増やす有利な供給ショック
資本の量を増やす有利な供給ショックには様々なものが考えられる。
1.の例は、1986年にOPECの足並みが乱れて原油の増産が行われて世界的に原油安になったことである。原油は様々な製品の原材料になるので、原油の供給が増えればすべての製品の供給が増える。
2.の例は、1959年にオランダがフローニンゲン・ガス田を掘り当てたことや、1960年代に英国やノルウェーが北海油田を掘り当てたことである。
3.の例は、1958年に日ソ貿易協定を結び、日本がソ連から石油を輸入するようになったことである(記事
)。当時の日本は、米国などの西側諸国から睨まれることを承知の上で、東側諸国の総大将であるソ連からの原油輸入に踏み切った。
4.の例は、第二次世界大戦でソ連軍がドイツ東部の最先端工業地帯を占領し、優秀な工作機械を戦利品としてソ連に持ち帰っていったことである。こうした有利な供給ショックによりソ連の製造業の実力が向上し、1950年代に米国よりも早く宇宙開発を行うことができた。
資本の量を減らす不利な供給ショック
資本の量を減らす不利な供給ショックには様々なものが考えられる。
- 国際的な石油カルテルが結成されて原油の減産が行われて原油高になる
- 産油国で革命が発生して原油の減産が行われて原油高になる
- 油田や鉱山が枯渇する
- 敵対的な産油国から離れて原油の輸入を打ち切る
- 戦争で空爆されて生産設備が壊れる
- 洪水や津波や台風や隕石や噴火や地震などの自然災害で生産設備が壊れる
- 洪水や津波や台風や隕石や噴火や異常高温や異常冷温や干ばつといった自然災害で農産物が減る
- 豊作や豊漁が続くのに政府が規制を掛けて農産物や水産物を廃棄する
- 企業の汚染物質削減を求める環境規制のような規制を強化する
- 国際海域でのテロ活動や軍事行動が増えて遠回りの航路を選ぶようになり物流費が増えて輸入が減り国内の資本財が減る
- 国際的な運河の運営が上手くいかなくなり遠回りの航路を選ぶようになり物流費が増えて輸入が減り国内の資本財が減る
- 実質為替レートが高くなって輸入が減り国内の資本財が減る
1.の例は、1973年の第1次オイルショックや1978年の第2次オイルショックである。どちらもOPEC各国が足並みを揃えて原油の減産に踏み切った。
2.の例は、1979年のイラン革命である。産油国イランに革命が起こってその影響でイランの原油が減産され、原油高になった。
4.の例は、2019年5月に日本がアメリカ合衆国の制裁の影響を受けてイランからの石油の輸入を停止したことや[3]、2022年のウクライナ戦争のあとにヨーロッパ諸国がロシアからの原油やガスの購入をとりやめたことである。ちなみに2022年のウクライナ戦争の時は、日本もロシアからの木材などの輸入をとりやめた。
5.の例は、第二次世界大戦の日本やドイツである。どちらも空襲により生産設備が多く破壊された。
6.の例は、2011年にタイで洪水が起こり、生産設備が水に浸かって破壊されたことである。タイには日本から自動車産業などの多くの企業が進出しており、そうした企業も被害に遭った。
7.の例は、1993年の冷害により日本のコメの生産が減ったことである。
8.の例は、日本において農協と農林水産省が指導して行う緊急需給調整施策である。天候に恵まれて農家が農産物を過剰に作りすぎたとき、農産物を廃棄して農産物の供給を減らすものである。なぜそうするのかというと、農産物の価格を高い状態に維持して農家がいわゆる豊作貧乏にならないようにするためである。
9.の例は、アメリカ合衆国の大気浄化法(マスキー法、自動車排ガス規制法)である。企業に対して「汚染物質削減を求める環境規制」のような規制を掛けると、企業は規制対策としての費用を計上するようになり、製品1つあたりの費用が増える。企業は製品1つあたりの税引後当期純利益を維持するために、製品の価格を上げて、製品1つあたりの収益を増やす。購入者は高い価格に直面するので以前のように購入できなくなる。このようにして製品の供給が減り、不利な供給ショックが起こる。
10.の例は、2023年~2024年において紅海やアデン湾でイエメンのフーシ派が船舶に対してテロ活動を行ったことである(記事
)。このテロ活動により多くの海運業者がスエズ運河航路をあきらめて喜望峰航路を選ぶようになり、物流費を増大させた。日本においても欧州産の物品の供給が減り、不利な供給ショックとなった。
11.の例は、2023年~2024年においてパナマで干ばつが発生してガトゥン湖の水が不足してパナマ運河の運営が難しくなったことである(記事
)。これにより多くの海運業者がパナマ運河を利用しにくくなり、物流費を増大させた。
12.の例は通貨危機である。詳しくは当該記事を参照のこと。
また、12.の例は2022年~2024年の日本である。アメリカ合衆国などが積極財政を行って実質利子率を高めたのに対して日本は緊縮財政を続けて実質利子率を低く保ったので、日本の純資本流出が増えて実質為替レートが高くなり、輸入が減って国内の物資が不足し、インフレになった。
労働の時間を増減させる供給ショック
労働の時間を増やす有利な供給ショック
労働の時間を増やす有利な供給ショックには様々なものが考えられる。
- 労働三権を否定して労働組合の結成を禁止し、争議行為が発生しないようにする
- 国の現業を廃止して戦闘的な労働組合を減らし、争議行為が発生しないようにする
- 労働者に内発的動機付けが強く掛かる産業の比率を上げ、争議行為が発生しないようにする
- 移民を減らして、国民の言語的・文化的な統一性を高め、人から人へ感謝の声が届きやすい状態にして、労働者に内発的動機付けが強く掛かりやすい状態にして、争議行為が発生しにくいようにする
- 祝日を増やして宗教的または地域的なお祭り行事を増やし、国民の文化的な統一性を高め、人から人へ感謝の声が届きやすい状態にして、労働者に内発的動機付けが強く掛かりやすい状態にして、争議行為が発生しにくいようにする
- 国家が保有する資源を放棄して「資源の呪いの逆」を発動させ、国民に「資源に頼ることができないので生きるためにはひたすら労働せねばならない」と思わせて、争議行為が発生しにくいようにする
- 所得税の累進課税を弱体化させて一律課税に近づけて、労働者を労働好きの性格に変貌させて、争議行為が発生しにくいようにする
- 構造的失業を減らす
- 労働者に払う賃金を増やす以外の方法で、摩擦的失業を減らす
- 残業規制などの労働時間規制を緩和する
- 移民を増やして、労働者を増やす
- 軍隊の徴兵制を廃止して企業の労働者を増やす
1.の例は、1900年から1926年までの日本において治安警察法第17条に基づいて争議行為を行った労働者を警察が逮捕していたことである。あるいは、かつての米国で労働組合に属する労働者を政府が逮捕し、その労働者が海外生まれである場合に国外追放していたことである[4]。そうすれば争議行為が発生せず、労働者が労務の提供を一斉に拒否する事態が起こらず、労働の時間が減らずに維持される。
2.の例は、1980年代以降の日本において三公社五現業のような国の現業を相次いで民営化していったことである。公的企業が民間企業になると、その労働組合は「どれだけ労働運動をしても自分たちの職場は決して倒産しない」と思うことができなくなり、御用組合に近づいていき、労働運動を控えるようになる。
3.の「労働者に内発的動機付けが強く掛かる産業」というのは、労働者に感謝の声が掛かりやすい産業のことであり、やりがい搾取がしばしば見られる産業のことである。労働者に内発的動機付けが強く掛かる産業の例の1つは人命に対する影響力が高い産業であり、防衛産業や医療産業や介護産業である。また、労働者に内発的動機付けが強く掛かる産業の例の1つは消費者と生産者の距離が近い産業であり、観光業や外食産業や小売業である。これらの産業の比率が増えると内発的動機付けが掛かった労働者が増え、国内の労働運動が下火になり、争議行為に参加する労働者の数が減り、労働時間が増える。
5.の例は、世界各国の祝日である。祝日を設けて宗教的または地域的なお祭りを増やすと、住民同士が文化的な統一感を感じるようになり、住民同士の心の壁が低くなり、人が感謝の声を発しやすくなり、労働者に感謝の声が届きやすくなり、内発的動機付けが掛かった労働者が増え、国内の労働運動が下火になり、争議行為に参加する労働者の数が減り、労働時間が増える。
6.の例は、日本である。日本は天然資源がほとんど産出されない国で、全ての国民が「資源に頼ることができないので生きるためにはひたすら労働せねばならない」といった意識を持っていて労働好きの国民性になっており、争議行為が発生しにくく、労働時間が増えやすい。つまり日本は「資源の呪いの逆」が強力に発動していて国民の労働意欲が豊富な国である。
7.の例は、1990年代以降の日本である。所得税の累進課税を弱体化させて一律課税に近づけると「働いた分だけお金を稼げる」と考えるようになり、労働者の労働意欲が刺激され、労働者が労働好きの性格になり、争議行為に参加する労働者の数が減り、労働時間が増える。さらには仕事中毒(ワーカホリック)が促進されて長時間労働が増える。
8.の構造的失業の減少を実現するには、労働運動を抑制したり最低賃金を引き下げたりして労働者の賃金を引き下げることが必要であるが、それ以外の方法としては、リスキリング(職業訓練)の実施も有効である。詳しくは構造的失業の記事を参照のこと。
9.の摩擦的失業の減少を実現するには、労働者の賃金を増やすことがひとつの手段だが、それを行うと構造的失業が増えてしまう。それ以外の方法としては、失業保険の減額や、ハローワーク(職業安定所)の整備や、国家の中央集権化や、リスキリング(職業訓練)の実施などが有効である。詳しくは摩擦的失業の記事を参照のこと。
10.の例は、2025年大阪・関西万博の建設工事に携わる労働者を時間外労働規制から外すよう求める意見が2023年10月10日の自民党大阪・関西万博推進本部で出されたことである。ただし、それについて武見敬三厚労相が否定的な考えを示した(記事1
、記事2
)。
11.の例は、平成時代以降の日本である。11.と4.を見比べても分かるように、移民の流入を制限しても、移民の流入の制限を解除しても、労働の時間を増やす有利な供給ショックになる。
労働の時間を減らす不利な供給ショック
労働の時間を減らす不利な供給ショックには様々なものが考えられる。
- 労働三権を肯定して労働組合の結成を許可し、争議行為が発生するようにする
- 国の現業を創設して戦闘的な労働組合を増やし、争議行為が発生するようにする
- 労働者に内発的動機付けがあまり強く掛からない産業の比率を上げ、争議行為が発生するようにする
- 移民を増やして、国家の言語・文化の統一性を下げ、人から人へ感謝の声が届きにくい状態にして、労働者に内発的動機付けが掛かりにくい状態にして、争議行為が発生しやすいようにする
- 祝日を増やして労働時間を減らす
- 国家が保有する資源を増やして資源の呪いを発動させ、国民に「資源に頼ることができるので生きるためにひたすら労働する必要はない」と思わせて、争議行為が発生しやすいようにする
- 所得税の累進課税を強化して、労働者を労働嫌いの性格に変貌させて、争議行為が発生しやすいようにする
- 労働者に払う賃金を増やすなどの方法で、構造的失業を増やす
- 労働者に払う賃金を減らす以外の方法で、摩擦的失業を増やす
- 残業規制などの労働時間規制を強化する
- 移民を減らして、労働者の量を減らす
- 軍隊の徴兵制を導入して企業の労働者の量を減らす
労働者が労働組合を結成し、争議権を行使してストライキや怠業といった争議行為を起こすと、労働者が労務の提供を拒否することになり、労働の時間が減り、不利な供給ショックになる。
ちなみに労働者の労働運動とは、労働者が使用者に対して賃金を多く払うように要求するものであり、労働者が使用者に対して労働者へ外発的動機付けをすることを要求するものである。
1.の最も極端な例は、1923年のドイツのストライキである。同国最大の工業地帯であるルール工業地帯がフランス軍とベルギー軍に占領され、それに反発するドイツ政府はルール工業地帯の労働者にストライキを呼びかけた。本来のストライキは参加した労働者が給料をもらえなくなるので長続きしないが、このときはドイツ政府が紙幣を発行してストライキに参加する労働者へ報酬を払った。そうして行われたストライキにより労働の時間が激減し、ハイパーインフレとなった。このことについてはハイパーインフレーション(経済学)の記事も参照のこと。
2.の例は、1940年代以降の日本において三公社五現業のような国の現業を相次いで創設していったことである。三公社五現業の労働組合は「どれだけ労働運動をしても自分たちの職場は決して倒産しない」と確信する組合員たちで構成されており、戦闘的な労働組合で、日本の労働運動を牽引する存在だった。
3.の「労働者に内発的動機付けがあまり強く掛からない産業」は、労働者に感謝の声が掛かりづらくて内発的動機付けが掛かりづらく、やりがい搾取が起こりづらく、労働運動が発生しやすい産業である。そういう産業は、(防衛産業や医療産業や介護産業に比べて)人命に対する影響力が低い産業であり、(観光業や外食産業や小売業に比べて)消費者と生産者の距離が遠い産業である。運輸業、通信業、金融業、保険業、農業、林業などが候補に挙がる。かつての日本の三公社五現業は、その労働組合が盛んに労働運動を実行したことで知られているが、それらは運輸業と通信業と金融業と保険業と農業と林業の一角を占めていた。また2023年にアメリカ合衆国で自動車産業の労働組合である全米自動車労働組合(UAW)が46日間にわたる長期間のストライキを実行したが、彼らは運輸業に関わる製造業の構成員だった。
5.の例は、世界各国の祝日である。祝日を設けて宗教的または地域的なお祭りを増やすと、その分だけ労働時間が減る。
6.の例は、アルゼンチンである。アルゼンチンは「大草原パンパの牛肉」という事実上の天然資源に恵まれている。そしてアルゼンチンの多くの国民が「資源に頼ることができるので生きるためにひたすら労働する必要がない」といった意識を持っていて労働意欲が乏しい。アルゼンチンは争議行為が発生しやすくて労働時間が減りやすいことで有名である。つまりアルゼンチンは資源の呪いが強力に発動していて国民の労働意欲が乏しい国である。
7.の例は、1940年代以降の日本である。所得税の累進課税を強化すると「働いてもその分だけ稼げるわけではない」と考えるようになり、労働意欲が薄れて労働嫌いの性格になり、争議行為に参加する労働者の数が増え、労働時間が減る。さらには労働者の仕事中毒(ワーカホリック)が抑制されて長時間労働が減る。
11.の例は、昭和時代以前の日本である。11.と4.を見比べても分かるように、移民の流入の制限を解除しても、移民の流入を制限しても、労働の時間を減らす不利な供給ショックになる。
12.の例は、戦前戦中の日本や21世紀現在の韓国である。軍隊が徴兵制を導入すると企業の労働者の量が減る。第二次世界大戦のころの日本は徴兵制を敷いていて、なおかつ長期間の戦争を遂行していたので、企業の労働者が決定的に不足した。学徒勤労動員という政策を実行して学生を工場で働かせたが、それでも人手不足が深刻だった。
使用者に属する生産技術を増減させる供給ショック
特許を取得するほどの技術
使用者に属する生産技術の例は、発明をして得られる特許などの技術である。これは知的財産権の対象となる無体物であり、知的財産である。発明が増えて特許が多く取得されると、使用者に属する生産技術を増やす有利な供給ショックになる。
産油国が原油掘削の生産技術を向上させると、有利な供給ショックとなる。2010年代にアメリカ合衆国がシェールガスの掘削の生産技術を確立したことが好例である。
特許を取得するほどではないが生産性を向上させる技術
特許を取得するほどではないが生産性を向上させる技術というものがあり、その1つは、生産設備に付着するモノ(治具や工具など)を高速で交換する技術である。たとえばトヨタ自動車は在庫を極限まで減らすことを目指しており、そのためにいつでも即座に生産設備に付着するモノを交換して生産を開始できる体制を整えるようにしており、生産設備に付着するモノを交換する速度を高める努力をしている。工場の中でモノを置く空間が限られているので、モノの置き方を工夫する。モノを効率的に移動させるため、モノに何かを装着して移動させやすくする。さらにモノの運び方のマニュアルを作る。
政府が工場内の5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)を徹底するように呼びかけ、それに感化された工場が増えて、様々な工場で生産設備に付着するモノを高速で交換する技術が高まったら、使用者に属する生産技術を増やす有利な供給ショックとなる。
海外の優れた生産技術を導入する
産油国の政府が、海外の石油企業に対して、自国の石油企業の株式を購入することを許可したとする。そうなると、自国の石油企業に海外の優れた生産技術を導入することになり、自国の石油企業の生産量が増え、使用者に属する生産技術を増やす有利な供給ショックとなる。
一方で、産油国の政府が資源ナショナリズムの思想にこだわって、海外の石油企業に対して、所有する自国石油企業の株式を無理矢理に政府へ無償譲渡させたとする。そうなると、自国の石油企業に海外の優れた生産技術を導入できなくなり、自国の石油企業の生産量が減り、使用者に属する生産技術を減らす不利な供給ショックとなる。
2006年以降のベネズエラにおける自国石油企業の国有化が後者の好例である。これにより産油国ベネズエラの石油企業は海外の石油企業から優れた生産技術を学べなくなり、産油量を減らした。ベネズエラの原油はアスファルトのように超重質で、粘度が低く、硫黄分が多く、低品位で、生産・出荷の手間がかかるものであり、海外の優れた生産技術を必要とするものだった。
労働者に属する生産技術を増減させる供給ショック
人々に教育をして学識や技術を増やす
人々に対して学校で教育を施して学識を持たせたり職業訓練所で教育を施して技術を持たせたりすると、その人々が労働者になったときに労働者に属する生産技術を増やす有利な供給ショックが発生する。
学校を卒業したあとに労働者や失業者といった就業意欲保持者(経済学では労働力という)になったものが職業訓練所で学習して技術を身につけることをリスキリングという。
言語や文化の統一による情報流通の活発化
多くの場合において、移民は原住民と言語や文化の統一性を持っておらず、原住民との意思疎通の水準が低く、情報を流通させる能力が低い。
移民に対して言語や文化の教育を施せば、国家の言語や文化の統一性が高まり、移民と原住民の間の意思疎通が容易になって情報の流通が活発化し、労働者に属する生産技術を増やす有利な供給ショックが発生する。
NHKのニュースサイト「NHK NEWS WEB
」では日本語の不自由な移民に向けてやさしい日本語でニュースを提供している。移民向けのテレビ局やラジオ局を開設するなどしてそのようなことを大々的に行い、移民に対して日本語の教育や日本文化の紹介を行うと、移民の日本語能力が高まり、移民の日本文化の理解が深まり、移民と原住民の間で一体感と情報の流通が生まれ、労働者に属する生産技術が増える有利な供給ショックになる。
ただし、言語と文化の統一性が進むと、感謝の声が届きやすくなって内発的動機付けがかかりやすくなる。内発的動機付けが過剰にかかるとやりがい搾取が発生しやすくなり、労働者を苦しめることになる。
また、言語と文化の統一性が進むと、人々が「この人には言葉が通じるので積極的情報提供権(表現の自由)を行使してズケズケと文句を言おう」という気分になる。これは好ましい面と好ましくない面の両方がある。消費者から販売者を通じて生産者に対して「この製品のここがダメだ」という情報提供が行われやすくなって生産者の生産技術が向上しやすくなることは好ましいことだが、消費者から販売者に対してカスタマーハラスメント(カスハラ)と評されるような苛烈な要求が生じて販売者を苦しめることは好ましくない。
日本の小売業や外食産業において日本人の店員が外国人の名札を付けるとカスタマーハラスメントが減るという(記事
)。言語や文化の統一性が高くなるとカスタマーハラスメントが増え、言語や文化の統一性が低くなるとカスタマーハラスメントが減る。
職場における情報流通の活発化
挨拶や報連相(報告連絡相談)といった初歩的な躾(しつけ)を労働者に教え込み、労働者が挨拶や報連相をするようになると、職場の中の情報伝達が円滑に行われるようになり、職場の欠点が改善されやすくなり、職場が発展しやすくなる。
トヨタ自動車は誰かが成功や失敗をしたらその事象を報告書に書かせて他の多くの労働者に伝達することを行っており、これを同社ではヨコテン(横に展開するという意味)と呼んでいる。これは職場の中の情報流通の一形態である。そういうことを行うと労働者の知識が増える。
以上のようなことを政府が各企業に対して推奨すると、労働者に属する生産技術が増える有利な供給ショックとなる。
平等社会や無階級社会の実現による情報流通の活発化
政府が国会の承認を得て所得税や相続税や贈与税の累進課税を強化して、格差社会や階級社会を解消し、平等社会や無階級社会に近い状態を実現する。そうなると人々は「あの人は自分よりはるかに多い財産を持っており、自分とは出来が違っていて、自分とは住む世界が違うので、話しかけるのを止めておこう」などと考えなくなり、遠慮せずに話しかけるようになり、積極的情報提供権(表現の自由)を十分に行使できるようになる。そうなると人々の間で情報の流通が促進され、人々が知識や技術を高めやすくなり、労働者に属する生産技術が増える有利な供給ショックが発生する。
企業が年功主義(年功序列)や年齢主義の賃金体系を堅持したりして、同期入社の集団または同一年齢の集団において格差社会や階級社会が形成されることを解消し、平等社会や無階級社会に近い状態を実現する。そうなると労働者は、「あの人は自分よりはるかに多い賃金をもらっており、自分とは出来が違っていて、自分とは住む世界が違うので、話しかけるのを止めておこう」などと考えなくなり、遠慮せずに話しかけるようになり、積極的情報提供権(表現の自由)を十分に行使できるようになる。そうなると企業の中で情報の流通が促進され、労働者が知識や技術を高めやすくなり、労働者に属する生産技術が増える有利な供給ショックが発生する。
労働者が職務専念義務を遂行できる環境を整備する
労働者が職務専念義務を遂行できる環境を作り出すと、労働強化が達成され、労働者が労働時間の一単位内において筋肉運動量や思考量を増やすようになり、労働時間が一定なのに生産が増えるようになる。これは労働者に属する生産技術が増える有利な供給ショックとなる。
労働者が職務専念義務を遂行できる環境というと、副業を禁止して本業のことだけ考えるようになる環境や、解雇規制を維持したり年功主義(年功序列)や年齢主義を導入したりして使用者の権力を制限することで労働者が使用者の顔色をうかがわずに済む環境や、暴力犯罪や知能犯罪が抑制されて治安が良好に維持されて人々が生命・身体・自由・名誉・財産に危害を加えられることにおびえず生活できる環境のことである。
労働者が職務専念義務を遂行できない環境を作り出すと、労働強化の反対となり、労働者が労働時間の一単位内において筋肉運動量や思考量を減らすようになり、労働時間が一定なのに生産が減るようになる。これは労働者に属する生産技術が減る不利な供給ショックとなる。
労働者が職務専念義務を遂行できない環境というと、副業が完全に解禁されて本業の最中に副業のことを考えることができるようになった環境や、解雇規制を緩和したり成果主義や能力主義を導入したりして使用者の権力を強化することで労働者が使用者の顔色を常にうかがうようになった環境や、暴力犯罪や知能犯罪が発生して治安が悪化して人々が生命・身体・自由・名誉・財産に危害を加えられることにおびえながら生活するようになった環境のことである。
関連項目
関連する用語
有利な供給ショックに関連する用語
不利な供給ショックに関連する用語
脚注
- *『マンキュー マクロ経済学Ⅰ 入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー』280ページ
- *『マンキュー マクロ経済学Ⅰ 入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー』67~69ページ
- *2019年5月2日にアメリカ合衆国政府は、日本を含む8カ国・地域がイランから原油を輸入することを認める特例措置を打ち切った(記事
)。それまでの日本はアメリカ合衆国から睨まれてもずっとイランとの友好関係を続けてきたが、ついに原油輸入の停止となった。ちなみに、この当時のアメリカ合衆国はドナルド・トランプ政権だったが、この政権はイランを追い込んでイスラエルを助けようとする意欲が強かった。 - *『格差はつくられた―保守派がアメリカを支配し続けるための呆れた戦略(早川書房)ポール・クルーグマン』42ページ
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