供託金とは、法律上の理由により供託所(主に法務局)に金銭を渡し、その管理を委ねた金銭のこと。
さまざまな理由での供託があるが、本記事では特に、公職の選挙において立候補者が一時的に供託しなければいけない金銭について説明する。
一定票数を獲得すれば供託金は返還され選挙費用の補填も受けられるが、低得票率で落選した場合没収となる。
概要
選挙に立候補しようとする場合、まず法務局で現金または国債証書によって供託金を納付し、供託した証明を添えて立候補届け出を出さなければならない。これは当選を争う意思のない人が、売名などの理由で無責任に立候補することを防ぐためとされている。
供託金については、公職選挙法第92条~第94条で定められている。
(供託)
供託金の金額はその選挙の区分によって異なり、1人15万円から600万円まで幅がある。また、供託金は立候補手数料ではなくあくまで供託するものなので、一定の票数を得れば返還される。このボーダーラインを供託金没収点という。
なお、供託金没収点は法定得票とは全く別のものなので注意。
供託金没収点 | 法定得票数 | |
---|---|---|
有効票数の10分の1 | 衆議院小選挙区では | 有効票数の6分の1 |
供託金返還、公費による選挙費用の補填が受けられる 比例復活当選の権利を得る |
達した場合 | 何らかの事情で欠員が生じた場合に繰り上げ当選の対象になる |
(注) | 全員達しなかった場合 | 再選挙 |
(注)そもそも供託金没収点の方が少ないので、法定得票数の存在しない比例選挙以外は全員が供託金没収点を割り込んでいる=法定得票数も割り込んでいることになる。 |
供託金の金額と没収点
国政選挙
ここでの得票率とは、得票数÷有効投票総数を指す(法律上の文言も「有効投票総数の10分の1」とされているが、ここではわかりやすく「得票率10%」と書き換えた)。
種別(国会議員) | 供託金の金額 | 供託金没収点(選挙区)、供託金最大返還額(比例) |
---|---|---|
衆議院小選挙区 | 300万円 | 得票率10% |
衆議院比例区 | 比例のみ立候補した候補は600万円 小選挙区と重複して立候補した候補は300万円 (つまり小選挙区と合わせて600万円) |
小選挙区で当選した重複立候補者数×300万円+比例区議席割り当て数×2×600万円 |
参議院選挙区 | 300万円 | 得票率(12.5÷その選挙区での議員定数)% |
参議院比例区 | 一人あたり600万円 | 比例区議席割り当て数×2×600万円 |
衆議院選挙の供託金
衆議院選は小選挙区・比例で重複立候補が出来るため、比例代表の供託金は少々計算がややこしい。ここでは「非拘束名簿式」の記事にある表を借りて説明する。衆議院選は非拘束名簿式じゃないって?こまけえこたぁいいんだよ
さて、衆議院総選挙が執行されるにあたり、比例区である百科ブロックに以下の三つの政党が候補者を掲載した名簿を提出した。
また、小選挙区(どことは限らない)に立候補した候補も記載した。なお、太字は小選挙区・比例区両方に立候補している候補である。
衆議院比例区 百科ブロック | 参考:どこかしらの小選挙区に立候補した候補 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
新党ボカロ | アイマス会 | 東方党 | 候補者名 | 党派 | 候補者名 | 党派 |
MEIKO | 天海春香 | 博麗霊夢 | 結月ゆかり | ボ | 鏡音リン | ボ |
KAITO | 高槻やよい | 霧雨魔理沙 | 四条貴音 | ア | 古明地こいし | 東 |
神威がくぽ | 萩原雪歩 | 十六夜咲夜 | 天海春香 | ア | 東風谷早苗 | 東 |
鏡音リン | 如月千早 | 八雲紫 | 如月千早 | ア | 射命丸文 | 東 |
鏡音レン | 秋月律子 | MEIKO | ボ | 博麗霊夢 | 東 | |
初音ミク | 菊地真 | KAITO | ボ | 星井美希 | ア | |
巡音ルカ | 初音ミク | ボ | 藤原妹紅 | 東 |
衆議院選での供託金は、小選挙区では重複・単独にかかわらず1人あたり300万円、比例代表では重複1人あたり300万円・単独1人あたり600万円となる。立候補者数と各党の払う供託金をまとめると、以下のようになる。
開票の結果は以下の通りとなった。赤背景が当選、青背景は小選挙区で供託金没収点(得票率10%)を下回った候補である。
注:小選挙区で当選した候補および供託金没収点を下回った候補は比例区の名簿から除かれる。
衆議院比例区 百科ブロック | 参考:どこかしらの小選挙区に立候補した候補 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
新党ボカロ | アイマス会 | 東方党 | 候補者名 | 党派 | 候補者名 | 党派 |
KAITO | 天海春香 | 博麗霊夢 | 結月ゆかり | ボ | 鏡音リン | ボ |
MEIKO | 高槻やよい | 霧雨魔理沙 | 四条貴音 | ア | 古明地こいし | 東 |
神威がくぽ | 萩原雪歩 | 十六夜咲夜 | 天海春香 | ア | 東風谷早苗 | 東 |
鏡音リン | 如月千早 | 八雲紫 | 如月千早 | ア | 射命丸文 | 東 |
鏡音レン | 秋月律子 | MEIKO | ボ | 博麗霊夢 | 東 | |
初音ミク | 菊地真 | KAITO | ボ | 星井美希 | ア | |
巡音ルカ | 初音ミク | ボ | 藤原妹紅 | 東 |
ちなみにこの表の如月千早・KAITOのように「比例の名簿で当選範囲にいたのに小選挙区で低得票率だったために除かれた」事例としては、2005年衆議院議員選挙の若林義春(日本共産党・東京22区)があげられる。若林も比例では最上位に書かれていたが、小選挙区での得票率が9.8%となってしまい比例復活当選できなかった。この規定は以前はなかったため、1996年衆議院議員選挙では同じく東京22区の保坂展人(社民党)が得票率5.9%にもかかわらず比例復活当選してしまったことがある。
小選挙区は供託金没収点(得票率10%)を上回るか下回るかだけの基準なので簡単だが、わかりにくいのは比例区。衆議院選比例区で各党が返還される供託金は、小選挙区で当選した重複立候補者数×300万円+比例区議席割り当て数×2×600万円である。人数だけ数えるため、得票率は考慮されない。
つまり、比例区では重複立候補者は小選挙区で当選すれば300万円がそのまま返還され、さらに比例獲得議席数につき1,200万円が戻ってくる。ただし供託金以上に返ることはない。
地方選挙
種別(首長) | 供託金の金額 | 供託金没収点 |
---|---|---|
都道府県知事選挙 | 300万円 | 得票率10% |
政令指定都市の市長選挙 | 240万円 | |
その他の市・東京特別区の市長・区長選挙 | 100万円 | |
町長・村長選挙 | 50万円 | |
種別(議員) | 供託金の金額 | 供託金没収点 |
都道府県議会議員選挙 | 60万円 | 得票率(10÷その選挙区での議員定数)% |
政令指定都市の市議会議員選挙 | 50万円 | |
その他の市・東京特別区の市議・区議会議員選挙 | 30万円 | |
町議・村議会議員選挙 | 15万円 |
こんなときは?
→ 没収点は「得票率(10÷その選挙区での議員定数)%」ですが、ここでいう議員定数とは通常時の選挙の定数で考えます。これは補欠選挙でも同じです。ですから通常時の選挙でその市議会の定数が20名であれば、(10÷20)%=0.5%以上の得票率で供託金が返還されます。さすがに通常時の定数が3人(没収点3.333…%)ってことはないでしょうから、この場合は供託金は返ってきます。
→ 一度供託金を支払った場合、立候補を取りやめても供託金は返ってきません。
→ 上と同じで、供託金は返ってきません。
→ 再選挙の場合は、もう一度供託金を出す必要があります。ただし、無効になった選挙でも供託金没収点を超えていれば供託金は返還されますので安心してください。…え、下回ってたって?ご愁傷様です。
→ 国政選挙だと国庫に、地方選挙だとその自治体のお金となり、税金と同じように財源として使われます。
供託金に関する主張
――後藤輝樹
供託金制度は小規模な政治団体や個人候補にとって不利な制度であり、日本国憲法15条による立候補の自由を侵害しているという主張がある。供託金没収の多い少数派政党(日本共産党など)は供託金の度重なる引き上げを批判していた。
一方、たびたび供託金の違憲訴訟が起こされているが、現時点ではいずれも合憲の判断が下されている。しかしその合憲の根拠が明確ではなく、弁護士の宇都宮健児はこれについて「判例としての先例性はない」と指摘している。
供託金制度自体が1925年の普通選挙法成立時代から続く制度で、設定以来引き上げは何度かあっても引き下げはされたことがない。当時としては社会主義政党を排除する意味合いもあったものの現在ではそのような目的はほぼ潰えており、時代に合わない状況になっているという指摘もある。
また「供託金を払ってでも無料で政見放送ができることを考えれば宣伝広告費として安上がり」という考え方もできるため、過去に売名行為を働く候補が乱立したこともある。これもあってか日本の供託金は諸外国の供託金よりも比較的高額であるが、上記の通り高すぎるという指摘から引き下げや違う方法をとるべきという主張がある。
一方で、自民党が野党に転落しかけていた2009年に「国政選挙の供託金を3分の2、没収点を半分に緩和する」という供託金引き下げ法案が衆議院を通過したことがある。しかしこの法案は当時民主党が多数だった参議院を通過しないまま衆議院解散となり、法案も廃案になってしまった。
関連項目
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