倒叙とは、以下のことを指す。
本項では2.について説明する。
概要
一般的なミステリー作品では、物語は探偵や刑事側の視点で描写される。物語の流れとしては、主要人物が出揃う→事件発生→現場調査・聞き取り調査→トリック・アリバイ崩しで犯人を追及、といった進行が定番である。犯人が誰かわからない状態で物語が記述されるため、読者・視聴者は探偵や刑事に感情移入し、一緒になって犯人やトリックを推理していく。主な作品は、『シャーロック・ホームズシリーズ』『名探偵コナン』など。
一方で倒叙ミステリーは、犯人側の視点で物語が描写される。犯人が誰なのかわかった状態で進行する必要があるため、物語の始まりは犯行の瞬間前後、または犯人が刑務所や取調室にいるところから始まるものが多い。読者・視聴者は犯人側に感情移入し、どうやって犯行を隠したか、どうして犯行のトリックやアリバイが探偵・刑事側にバレてしまったのか、犯人の追体験をしていく。主な作品に『刑事コロンボ』『古畑任三郎』などがあげられる。
一般的なミステリー作品でも、一部のエピソードで倒叙形式を取るものは散見される。たとえば上記で紹介した『名探偵コナン』でも、『天下一夜祭殺人事件』『ベイカー街の亡霊』などのエピソードでは倒叙形式が取られている。同じ形式ばかりで描写しないことで、読者・視聴者を飽きさせない狙いがあると見られる。
倒叙ミステリーの魅力は、やはり犯行を隠そうとする犯人と、それとなく犯行の手がかりを探る探偵・刑事側とのスリリングなやりとりだろう。また犯人側の心理推移描写も作者の腕の見せ所であり、通常のミステリー作品では希薄になりがちな動機の描写も濃密にできる。さらに犯人があらかじめわかってるという性質上、映像作品では遠慮なく犯人役に大御所を起用できる(映像作品の場合、通常のミステリー作品では、一番ギャラの高そうな役者=犯人というメタ推理が成立しうる)。そのため大御所ならではの巧みな演技にもより期待がかかる。たとえばテレビドラマ『古畑任三郎』では、一話ごとに大御所の役者や各界の著名人をゲスト(=犯人役)を招くことで、キャストの話題性はもちろんのこと、刑事役の田村正和と犯人役との怪演ぶりが今でも語り継がれている。
なお、漫画『DEATH NOTE』のように、犯人視点とそれを追う探偵・警察視点が並行して描かれるタイプの作品を倒叙に分類するかどうかは微妙なところ。主人公やメインの視点人物が犯人側であれば広い意味での倒叙と言える、としておくのが無難か。
倒叙ミステリーと同様に、主人公が探偵側ではなく犯罪を行う側に立つ小説作品を表すジャンルとして犯罪小説(クライムノベル)があるが、倒叙ミステリーとの境界はわりと曖昧。強いていえば「犯人と探偵・警察との頭脳戦」に重点を置いているのが倒叙で、犯罪に至る過程や行為の描写、犯罪者の心理に重点を置いているのが犯罪小説、と言うべきか。もちろん倒叙と犯罪小説は対義語ではなく、倒叙でありながら犯罪小説、あるいは犯罪小説でありながら倒叙、は充分に成立する。
叙述トリックと混同して倒叙のことを「倒叙トリック」と言ってしまう人がいるが、「倒叙トリック」という言葉はない。詳しくは「叙述トリック」の項目を参照。
主な作品
太字は大百科に記事があるもの。
小説(海外)
小説(国内)
- OUT(桐野夏生)
- 青の炎(貴志祐介)
- invert 城塚翡翠倒叙集(相沢沙呼)
- 99%の誘拐(岡嶋二人)
- 皇帝と拳銃と(倉知淳)
- 心理試験(江戸川乱歩)
- 探偵が早すぎる(井上真偽)
- 倒叙の四季 破られた完全犯罪(深水黎一郎)
- 扉は閉ざされたまま(石持浅海)
- ナオミとカナコ(奥田英朗)
- 福家警部補シリーズ(大倉崇裕)
- 魔法使いは完全犯罪の夢を見るか?(東川篤哉)
- 容疑者Xの献身(東野圭吾)
漫画
- 金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿(原作・原案:天樹征丸、金成陽三郎 作画:船津紳平)
- 金田一少年の事件簿 殺人レストラン(原作・原案:天樹征丸、金成陽三郎 作画:さとうふみや)
- 警部銭形(モンキー・パンチ)
- DEATH NOTE(原作:大場つぐみ 作画:小畑健)
ドラマ
関連項目
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