八十岡翔太(やそおか しょうた)とは、マジック:ザ・ギャザリングのプロプレイヤーである。
非常に特徴的な構築をするプレイヤーとして知られており、そのデッキは時に禍々しいとも評される。『Team Cygames』所属。通称ヤソ。
経歴
元々は関東圏で活躍していたプレイヤーであり、かつて存在した関東最強を決める完全招待制トーナメントであるLord of Magic Championships(LoM)の常連でもあった。
その卓越したデッキ構築力は既にこの頃から遺憾なく発揮されており、前述のLoMにおいてはトップ8に残ったプレイヤーのうち3人が八十岡の構築したデッキを使用し、しかも決勝はそのデッキ同士のミラーマッチという年すらあった。この頃に八十岡が構築し、実績を残したデッキはいずれも特徴的なコントロールデッキであったため、これらのデッキは彼の名を冠してヤソコン(後述)と呼ばれるようになった
2006年ごろから国内外のトーナメントをサーキットして賞金を稼ぐという生活をするようになり、プロツアー優勝、グランプリトップ8多数という成績を残して、その年最も活躍したプレイヤーに送られるプレイヤーオブザイヤーのタイトルを獲得した。
その後もプロプレイヤーとして第一線で活躍を続けるものの、2009年にはMagic Online(MO)上に活動の軸を移すことになり、しばし表舞台から姿を消した……と思いきや、MOでも素晴らしい戦績を残し続け2009年度のMO上のプレイヤーオブザイヤーを獲得してしまった。
2010年度からはリアルに復帰し(さすがにMOは飽きたらしい)、各種プレミアトーナメントで活躍を続けている。
年間成績こそ一流ではあったが、グランプリやプロツアーで何故か決勝進出できないという弱点があり、個人戦のグランプリ優勝1回、プロツアーはチーム戦での優勝こそあったものの個人戦ではトップ8もなく、成績は確かだが戦績が無いとされ、長年殿堂入りを阻まれていた。しかし、2014年のプロツアー『タルキール龍紀伝』にて個人戦初のトップ8、準優勝の成績をあげ、晴れて殿堂入りを果たした。2016年のプロツアー『カラデシュ』では優勝した。プロツアートップ8に2回進出した2016年の年間獲得賞金総額は110,000ドル(約1200万円)[1]と、トッププロとして活躍を続けている。
ヤソコン
八十岡の独特のデザインセンスによって構築されたコントロールデッキはヤソコンと呼ばれ、デッキブランド化している。
ヤソコンと呼称されるデッキ同士はコントロールデッキであるという事以外には特に一貫性があるわけではなく、時期によって全く違うアプローチの構築がされているのだが、どのデッキにも八十岡らしいとしか言いようが無い工夫が埋め込まれているのが特徴である。
一例を挙げると、
- 「ネクストレベルドラン」(プロツアーアムステルダム2010)
- 只でさえ黒緑白の3色を占有する《包囲の塔、ドラン》デッキに、強力であるものの全く色が絡まない青の呪文である上にトリプルシンボルである《謎めいた命令》を入れたデッキ。色の関係上有り得ないと思われていたクリーチャーと呪文の組み合わせを可能にしたこのデッキで、八十岡は構築ラウンドで全選手中トップとなる9勝1敗という成績を残した。
- 「テゼレットコントロール」(プロツアー名古屋2011)
- アーティファクトがフィーチャーされたエキスパンションのみを使う事が許され、デッキを構築する際は単色に近いほうが強いとされた環境で、「単色にこだわって多重シンボルの対策カード使うより、単一シンボルのカード色々入れたほうが楽でしょ」という逆転の発想により、まさかの4色デッキとして構築された。高速デッキの横行していたこの環境において、色を散らしてでもマナコストの少ない呪文を採用すると言うアプローチは絶妙にマッチしており、八十岡本人は18位、このデッキをシェアされた藤田剛史はベスト8進出となった。
- 「Eternal Command」(プレイヤー選手権2012)
- それまでそのフォーマット(モダン)の中では余り使われていなかった《霊気の薬瓶》を軸に据えた構築を行い、そこから生まれるマナ・アドバンテージから変態的としか言いようが無い動きを次々と繰り出して相手を翻弄した。特に、場に出たとき墓地からカードを回収するクリーチャー《永遠の証人》と、パーマネントのバウンスとカウンターを同時に行なえる《謎めいた命令》を組み合わせることによって、相手の呪文を延々とカウンターし続ける動きが特徴的で、デッキ名の由来ともなっている。このデッキを使用した八十岡は11勝1敗と言う圧倒的な成績で予選ラウンドを勝ち抜き、見事トップ4へ進出(ちなみに他のトップ4は全員7勝5敗の成績)。惜しくも決勝では敗れたもの「この年のMtG界最強を決める」と銘打たれたプレイヤー選手権での活躍によって、大きな注目を集めた。
などがある。もちろん、この他にも特徴的なデッキを使って結果を残している事例が幾つも存在する。
前述したとおり、各々のデッキによって別々のアプローチが成されている訳だが、共通している部分を挙げるとすると
- 青を使ったコントロールデッキである。
- 強力なアドバンテージ獲得手段がある(例:『Eternal Command』のカウンターエンジン)。
- 序盤から何らかの手段で相手にプレッシャーをかける(例:『ネクストレベルドラン』で採用された《包囲の塔、ドラン》(事実上3マナ5/5クリーチャー))。
が該当するだろうか。
これらヤソコンはそれまでの環境には無い突飛な構成である事がほとんどどのため、一見しただけではデッキの狙い、動きがわからない場合が多く、時に変態駆動としか言い様がない動きでアドバンテージを奪っていく。このためしばしばヤソコンは名だたるプロプレイヤー達をあろう事かわからん殺しでなぎ倒していく事がある
なお、その複雑な構造と扱いの難しさ、使用する大会でのメタゲーム分析に特化した構造などから一般はもとより他のプロプレイヤーからも“ヤソコンはヤソ専用機”という認識をもたれており、本人もプロツアー『カラデシュ』の優勝者インタビューで「今回のデッキ(青黒赤コントロール)を使用する人へのアドバイスは?」と聞かれ「使わないほうがいいですよ」と答えたことも。
実際、海外のプロプレイヤーがプロツアー『カラデシュ』後にこの青黒赤コントロールを使用して大会に出たものの扱いきれず、『I Am Not Shota Yasooka』という記事を執筆した、というエピソードもある。
デッキ構築スタイル
八十岡の構築するデッキが特徴的なものである事は既に述べた通りだが、近年はそのデッキ構築スタイルそのものも非常に特徴的である。
トレーディングカードゲームをやった事がある人ならわかると思うが、通常デッキ構築とは、
という手順を踏むことが多い。特に大きな大会に自分でつくったデッキを持ち込むとなれば、これを何度も繰り返して、納得がいくまで調整する人も多いだろう。
しかし八十岡は違う。グランプリやプロツアーなどの大きな大会に臨むに当たって、なんと事前の調整作業などはほとんど行なわず、更には事前に練習などもせず、大会前日にデッキを構築し始めるのである。
もちろんデッキが完成した後は大抵深夜になっているので練習相手も居らず、後はひたすら一人回しを行ってデッキの感触を確かめて大会に備えるのだそうだ。
これで世界トップレベルの成績を残し続けているのだから恐ろしい男である(さすがにチームを組んでいる場合などは事前に練習や調整を行なっているようだ)。
最近はウィザーズの開発チームが何をさせたいのかを読みきってデッキを作成してるとかなんとか。
もちろん、既存のトップメタのデッキを使わせても強い。特に『青黒フェアリー』や『ジャンド』といった「同系対決がプレイングスキルによって決まる」ときはそれらを使い続けて好成績を挙げている。逆に「同系対決が運ゲーになりやすい」デッキがトップメタなときは自作のデッキを持ち込むことが多い。
近年の活躍
近年の大会で目立った活躍をしたものを羅列していく。
- プロツアー・アムステルダム2010(エクステンデッド、ブースタードラフト)
- 日本勢の不振が目立った大会で「日本勢は、なぜ勝てなかったのか。」というコラムが話題になった。特に構築ラウンドでの不振が取り沙汰された中で、独自路線を貫く八十岡はそんな論調どこ吹く風とばかりに構築ラウンド9勝1敗の好成績。しかしリミテッドラウンドの不振により上位入賞は叶わなかった。
- グランプリ・神戸2011(エクステンデッド)
- 12回目のグランプリトップ8にして、自身の個人戦初優勝を成し遂げた大会。ちなみに使用デッキはヤソコンではなく、フェアリーに調整を加えたものであった。本人曰く「フェアリー倒そうとして頑張ったけど本当にどうしようもなくてフェアリー使った」とのこと。勝負に負けても試合に勝つ、それがヤソ。
- グランプリ・シンガポール2011(スタンダード)
- 後にデッキを構成するパーツの内《精神を刻む者、ジェイス》と《石鍛冶の神秘家》という2枚のカードが禁止カード入りすることになる『Caw-Blade』が圧倒的な一強体制を築いていた時期の大会。そんな中、当事メタ外と言っても差し支えの無かった独自調整の『テゼレットコントロール』でトップ8入賞を果たして異彩を放った。
- プレイヤー選手権2012(モダン、キューブドラフト、ブースタードラフト)
- その年各地域で最も活躍したプレイヤーのみを招待して、世界最強を決めようというコンセプトで始まったイベント。最強レベルのプレイヤーのみが集まったため、実力が拮抗し、勝ち越しすらままならないという状況の中、八十岡はヤソコンの項目で紹介した『Eternal Command』を駆って、11勝1敗と言う圧倒的な成績でトップ4へ入賞。決勝で惜しくも敗れたものの、公式の解説者に「2000年の全米オープンを15ストローク差で圧勝したタイガー・ウッズを彷彿とさせる形で、八十岡はこの大会を支配していた」と言わしめた。
- プロツアー『タルキール龍紀伝』(ブースタードラフト、スダンダード)
- 『タルキール龍紀伝』が加わって多くのドラゴンとそのサポートカードが投入されたスタンダード環境、そんな中で八十岡は帰ってきた《対抗呪文》こと《シルムガルの嘲笑》を4枚使った『青黒コントロール』を組み上げての参戦。《嘲笑》を使うためにドラゴン・クリーチャーを計6枚投入、コントロールだけど偶にドラゴンで速攻ビートダウン決めたりしながら自身初のプロツアー個人戦トップ8、準優勝という結果を残した。
- プロツアー『カラデシュ』(ブースタードラフト、スダンダード)
- 機体系ビートダウンと霊気池6連ガチャ《霊気池の驚異》デッキが本命と目されコントロールには逆風といわれる中、またしても前日作成のグリクシス(青黒赤)コントロールで参戦。1〜2枚挿しを多用する対応力の高さと、何より本人のプレイングスキルにより初日全勝からの2位で決勝ラウンド進出。決勝ではジェスカイ(赤白青)コントロール相手に「コントロール相手には絶対負けない」という言葉通り“コントロールの達人”の技量を見せつけ勝利。自身初の個人戦タイトルを獲得した。
- ワールド・マジック・カップ2017(チーム・シールド、チーム共同デッキ構築スタンダード)
- 各国代表の3人が1チームとなり争うWMC、チーム構築では同じカードを使えるのは1名のみという制限の中で八十岡は赤単デッキを担当。赤の強力カードのうち幾つかを渡辺雄也の4色エネルギーデッキに渡しつつも、その渡辺が「(ヤソは)実はビートのほうが上手い」とまで評するプレイングにより勝ち星を重ねチームに貢献。決勝ラウンドでは「相手(コントロールデッキ)のゲーム・プランとか構えているカードとか手に取るようにわかるので、それに合わせてうまくできた」という言葉通り赤単でコントロールデッキをコントロールする『真のコントロール・マスター』の所以を世界に魅せ付け、日本初のWMC優勝を決めた。
エピソード
- これまでのデッキ作成の来歴から、特に青黒カラーのデッキの使い手としての評価が高いが、全く毛色の異なるバーンデッキも得意であり、グランプリで準優勝の経験がある。ワールド・マジック・カップ2017でも赤単で優勝に貢献するなどの活躍もあり、『コントロールというよりマジック自体が上手い』『(コントロール使ってるのは)縛りプレイみたいなもの』と評されることも多々。
- 上述の『Eternal Command』構築の際、八十岡は環境の強力クリーチャーである《タルモゴイフ》を3枚投入した。4枚入れなかった理由は手持ちの《タルモゴイフ》が3枚しかなく、現地で買おうとすると1万円近くしたためである。
- 一時期、《ボーラスの工作員、テゼレット》というカードをフィーチャーしたデッキを使い続け、ついには公式記事でも「テゼレットの化身」と書かれたことがある。
- 八十岡のデッキ構築理論は「環境に存在するすべてのデッキに5割5分勝てるデッキを構築すること」である。そのうえでオリジナルデッキであることを生かした情報アドとプレイングの習熟で相性差を広げていくらしい。
- 誕生日は8月10日。冗談のようだがマジである[2]。
- アニメオタク、ゲームオタクとしても“ガチ”であり、TwitterやMOのアカウント名“yaya3”は『Strawberry Panic』の南都夜々からきている。
ゲームデザイナーとして
八十岡は現在ホビージャパンに勤務しており、TCGのゲームデザイナーとしても活躍している。八十岡が製作に関わった作品は以下の通りである。
- FINAL FANTASY TCG
- ご存知、有名国産RPGの公式TCG。八十岡と同じく、MtGのプレイヤーである浅原晃、景山太郎、藤枝勇らも開発者として名を連ねている。
- WIXOSS
- 2014年4月に発売となったタカラトミー発のTCG。公式で「一言で言うなら、美少女でガチなTCG。それがWIXOSSです。」と表現されているが、この「ガチ」な部分(ゲームシステム、バランス調整)を担当したのが八十岡との事。カードの発売に先駆けて、2014年4月からTVアニメ「selector infected WIXOSS」が放映された。
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関連項目
脚注
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