八大競走とは、日本の中央競馬において特に格が高いとされる(された)重賞競走の総称である。
1984年にグレード制が導入されるまでは特によく使用されていた。現在ではマスコミ・ファン共に使用頻度が減ってきたが、全く使われなくなったわけではない(後述)
概要
対象レースは皐月賞・日本ダービー(東京優駿)・菊花賞・桜花賞・オークス(優駿牝馬)・天皇賞(春・秋)・有馬記念の8レースで、有馬記念以外は戦前にルーツとなる競走のある伝統的なレースである。
グレード制が導入される以前の中央競馬の重賞は日本ダービーも天皇賞も朝日杯3歳ステークスもカブトヤマ記念も中山大障害もセイユウ記念も、全てが「重賞」という区分であり、賞金以外の差はなかった。しかし、そんな横一列の重賞においても、この八大競走は抜けて格のあるレースとされ、JRAや競馬関係者の中で特別扱いされてきた。
当然ながら、グレード制導入後は全レースがGⅠに格付けされている。
なお、このうち赤字は旧4歳(現3歳)牝馬限定競走であるため、牡馬による八大競走完全制覇は事実上不可能。さらに天皇賞も1981年までは勝ち抜け制だったため、勝利できるのは青字の旧4歳クラシック三冠と天皇賞のどちらか、有馬記念の最大5レースだった。
また、桜花賞と皐月賞、日本ダービーとオークスは開催日程の関係上同時に出ようとすると連闘になることが多く、牝馬による完全制覇も行われていない。
八大競走対象外の大レース
八大競走はグレード制導入以前はごく少数だった馬券の全国発売対象レースだったが、全国発売競走の対象ながら八大競走にカウントされなかったレースが存在する。
宝塚記念
現在でもおなじみの、ファン投票制で行われる春のオールスター戦。有馬記念と対とされ、春のグランプリと称されることもあるが、開催時期が6月~7月と高温多湿のコンディションを嫌って有力馬が回避することが多く、八大競走の対象外とされた。初めてフルゲート出走になったのが2007年だし仕方ないよね。
三冠馬シンザンが本競走を含めて現在で言うGⅠレースを6勝していながら五冠馬と呼ばれたのは、宝塚記念が八大競走と認められていなかったためである。
エリザベス女王杯
現在では三歳と古馬が激突する秋の女王決定戦として知られるレースだが、1996年に秋華賞が創設されるまでは旧四歳牝馬三冠の最終戦だった。しかし創設は前身のビクトリアカップを含めても1970年と遅く、旧4歳クラシックレースにも含まれていなかったため、八大競走としても認められなかった。
また、レースの性格を受け継いだ秋華賞は現在でも牝馬三冠の最終戦であってクラシックレースとは呼ばれない。なおエリザベス女王杯はフランスのヴェルメイユ賞(フランス牝馬三冠競走最終戦にして凱旋門賞前哨戦の一つ)をモデルとして創設されたレースでもある。
ジャパンカップ
1981年創設の国際招待競走。レースの格としては創設当初から十分だったが、創設がグレード制導入直前の時期であったため八大競走に新たにカウントされることはなかった。八大競走にこそ組み込まれなかったが関係者からは年末のリーディングや表彰を受ける上で「勝たなければならないレースの一つ」としてほぼ同格の扱いを受けている。実際に賞金やレースレーティングも有馬記念と同等である(賞金は元々ジャパンカップの方が高額だったが有馬記念も同額まで増額した)。
ただし宝塚記念、エリザベス女王杯と本競走を合わせて十大競走という呼称が一瞬だけ使われたことはある。
高松宮杯⇒高松宮記念
1971年から中京競馬場にて実施されている競走。現在はスプリントGⅠとして知られているが、かつては7月上旬に行われる2000mの別定戦であると同時に全国発売競走だった。天皇賞と並んで皇族の名前を冠しており、レース的にもいわゆる「オープン重賞」としては賞金額が高く、また宝塚記念との間隔が概ね中3週と程よく空くことから有力馬も多く出走。夏競馬の大一番であると同時に宝塚記念などに次ぐ格の競走として扱われた。
グレード制導入後は夏競馬唯一のGⅡ格付けを受け開催されていたが、1996年に「春季のスプリント王決定戦」として1200m戦・5月開催に変更されGⅠに格上げ、1998年にはレース名を現行の高松宮記念に改称し、2000年には開催時期を5月から3月に変更されている。これは、春季開催のスプリントGⅡだったCBC賞と比べ、レースの格が高かったためといわれている。旧高松宮杯の施行条件は金鯱賞に、夏季に開催されるスーパーGⅡとしての位置付けは札幌記念にそれぞれ引き継がれた。
中山大障害
1934年から年の瀬に実施されている障害競走の大一番。有馬記念創設までは平地も含めた中山競馬場最大のレースの一つだった。また1998年までは現在の中山グランドジャンプも「中山大障害(春)」として、年2回開催されていた。
障害競走自体が裏街道であることから八大競走の枠組みには入らないが、その長い歴史や障害競走最高の賞金額から、障害競走最大のレースとして親しまれた。現在でもJ・GⅠの格付けを受けているのは中山大障害と中山グランドジャンプのみである。
なお、1984年のグレード制施行時にGⅠとされたのは、八大競走・宝塚記念・エリザベス女王杯・ジャパンカップの他、12月に開催される東西の3歳(現2歳)重賞「朝日杯3歳ステークス」「阪神3歳ステークス」(当時は両レースとも牡牝混合戦)、マイルGⅠとして位置づけられた最古のマイル重賞「安田記念」と春・関東開催の安田記念に対応する秋・関西開催のマイルGⅠとして創設された「マイルチャンピオンシップ」である。朝日杯3歳Sと阪神3歳Sはグレード制以前から東西それぞれの3歳馬のチャンピオン決定戦として定着していた。一方の安田記念は歴史こそあったが、ハンデキャップ重賞かつマイル路線が王道ではなかったことなどから、レースのレベルはあまり高くなかったと言われており、天皇賞(秋)やジャパンカップ、有馬記念と並んで世界のトップ100GIレースの上位常連の一員となっている現在と比べてレースの格の認識はかなり違ったものと言える。
八大競走の完全制覇をした、または完全制覇に近づいた人馬
ここでは一般的な慣例に従い、八大競走以外のGIレースはグレード制導入前の勝ち数を冠数に含めず、グレード制導入後の勝ち数を冠数に含めるものとする。海外GIについても同様とする。(もっとも、グレード制導入前の日本馬のレベルを考えると、当時海外の最高峰となるレースで勝つことは到底考えられなかった時代ではあったが。)
競走馬
シンザン
クラシック三冠、天皇賞(秋)、有馬記念と牡馬が出走可能な八大競走完全制覇(天皇賞は勝ち抜け制)を果たし、五冠馬と呼ばれた。前述の通り、宝塚記念も勝っているが、六冠馬とは呼ばれない。
シンボリルドルフ
クラシック三冠、天皇賞(春)、有馬記念と牡馬が出走可能な八大競走準完全制覇(天皇賞(秋)は出走したが2着)だが、有馬記念を2勝したことと同格とされるジャパンカップの勝利によって七冠馬と呼ばれた。
ディープインパクト
クラシック三冠、天皇賞(春)、有馬記念と牡馬が出走可能な八大競走準完全制覇(天皇賞(秋)は出走せず)だが、ジャパンカップ、宝塚記念の勝利により七冠馬と言われる。グレード制導入前の基準に合わせると六冠馬に相当する。
クリフジ
日本ダービー、オークス、菊花賞を制覇し、牝馬として初めて八大競走3勝。ただし現役当時は有馬記念は設立前であるため出走は不可能。
ブエナビスタ
桜花賞、オークス、天皇賞(秋)を制覇。変則三冠のクリフジ、牝馬三冠のジェンティルドンナと違い当馬だけ三冠馬ではないが、ジャパンカップも勝利しているためシンボリルドルフやディープインパクトの先例に従うと四冠馬ということになる。現代の基準では阪神ジュベナイルフィリーズとヴィクトリアマイルを加えた六冠馬と言われる。
ジェンティルドンナ
桜花賞、オークス、有馬記念を制覇。また、同時に牝馬三冠馬でもありジャパンカップを連覇しており、海外GIのドバイシーマクラシックを制しているためそれを含め七冠馬、グレード制導入前の基準だと秋華賞とドバイシーマクラシックを外して五冠馬となる。
アーモンドアイ
桜花賞、オークス、天皇賞(秋)を制覇し、天皇賞(秋)は連覇。牝馬による八大競走単独最多勝となる4勝。牝馬三冠馬かつジャパンカップも2勝しており、現代の基準ではヴィクトリアマイルと海外GIのドバイターフを含めた九冠馬と言われている。先例に倣うと海外GIと新設GIを除いた七冠馬、秋華賞を外せば六冠馬となる。
競走馬別の制覇図
下図太字は八大競走。便宜上八大競走ではないが、それに準ずる格である秋華賞・宝塚記念・ジャパンカップも併記。
- ●は勝利した競走。◎は2勝した競走。
- …は三冠競走のもう一方の競走、あるいは当時存在しなかった競走。
- △は勝ち抜けした天皇賞のもう片方。
- ×は出走したが敗北した競走。
- ーは出走権はあったものの出走しなかった競走。
- 「2歳GI」は、朝は朝日杯フューチュリティステークス(旧朝日杯3歳S時代を含む)、阪は阪神ジュベナイルフィリーズ(旧阪神3歳S時代を含む)、★はホープフルステークス(GI昇格以降に限定)。いずれかのレースに出走したが敗北した場合は色分けせず×とした。
- 追加初版時点の掲載条件は、シンザン以降の牡馬三冠、およびJRA芝GI7勝以上の競走馬とした。概ね年代別通り。
競走馬名 | 2歳GI | 牡馬三冠 | 牝馬三冠 | 古馬五競走 | その他GI・備考 | ||||||||
皐月賞 | 日本ダービー | 菊花賞 | 桜花賞 | 優駿牝馬 | 秋華賞 | 天皇賞春 | 宝塚記念 | 天皇賞秋 | ジャパンカップ | 有馬記念 | |||
シンザン | ー | ● | ● | ● | … | … | … | △ | ● | ● | … | ● | 牡馬三冠 |
ミスターシービー | ー | ● | ● | ● | … | … | … | ー | ー | ● | × | × | 牡馬三冠 |
シンボリルドルフ | ー | ● | ● | ● | … | … | … | ● | ー | × | ● | ● | 牡馬三冠 |
ナリタブライアン | 朝 | ● | ● | ● | … | … | … | × | ー | × | × | ● | 牡馬三冠 |
テイエムオペラオー | ー | ● | × | × | … | … | … | ◎ | ● | ● | ● | ● | 古馬王道完全制覇 |
ディープインパクト | ー | ● | ● | ● | … | … | … | ● | ● | ー | ● | ● | 牡馬三冠 |
ウオッカ | 阪 | … | ● | … | × | … | × | ー | × | ● | ● | × | ヴィクトリアマイル 安田記念×2 |
ブエナビスタ | 阪 | … | … | … | ● | ● | × | ー | × | ● | ● | × | ヴィクトリアマイル |
オルフェーヴル | ー | ● | ● | ● | … | … | … | × | ● | ー | × | ◎ | 牡馬三冠 |
キタサンブラック | ー | × | × | ● | … | … | … | ◎ | × | ● | ● | ● | 大阪杯 |
アーモンドアイ | ー | … | … | … | ● | ● | ● | ー | ー | ◎ | ◎ | × | 牝馬三冠 ドバイターフ ヴィクトリアマイル |
コントレイル | ★ | ● | ● | ● | … | … | … | ー | ー | × | ● | ー | 牡馬三冠 |
種牡馬
*ヒンドスタン
三冠馬シンザンの父として知られる。ヤマニンモアー(天皇賞(春))、スギヒメ(桜花賞)、シンツバメ(皐月賞)、ハクシヨウ(日本ダービー)、リユウフオーレル(天皇賞(秋)、有馬記念)、オーハヤブサ(オークス)、シンザン(菊花賞)でそれぞれ初制覇し完全制覇達成。
*パーソロン
七冠馬シンボリルドルフの父として知られる。メジロアサマ(天皇賞(秋))、ナスノカオリ(桜花賞)、カネヒムロ(オークス)、サクラショウリ(日本ダービー)、シンボリルドルフ(皐月賞、菊花賞、天皇賞(春)、有馬記念)でそれぞれ初制覇し完全制覇達成。
*サンデーサイレンス
日本競馬の血統を塗り替えたとも言われる大種牡馬。三冠馬ディープインパクトの父としても知られる。ジェニュイン(皐月賞)、ダンスパートナー(オークス)、タヤスツヨシ(日本ダービー)、バブルガムフェロー(天皇賞(秋))、ダンスインザダーク(菊花賞)、スペシャルウィーク(天皇賞(春))、チアズグレイス(桜花賞)、マンハッタンカフェ(有馬記念)でそれぞれ初制覇し、完全制覇達成。
ディープインパクト
上記の通り自身も牡馬が出走可能な競走で準完全制覇を果たしているが、種牡馬としてもマルセリーナ(桜花賞)、ジェンティルドンナ(オークス、有馬記念)、ディープブリランテ(日本ダービー)、スピルバーグ(天皇賞(秋))、ディーマジェスティ(皐月賞)、サトノダイヤモンド(菊花賞)、フィエールマン(天皇賞(春))でそれぞれ初制覇し、完全制覇達成。内国産種牡馬としては初の記録である。
これ以外には、戦前の種牡馬である*トウルヌソルが設立前の有馬記念を除く7競走を制覇している。
騎手・調教師
騎手では保田隆芳、武豊、クリストフ・ルメールが完全制覇を達成。他に現役騎手では横山典弘(桜花賞)、ミルコ・デムーロ(天皇賞(春))が該当レースを勝利すれば完全制覇達成となる。
また、福永祐一は有馬記念を勝利すれば完全制覇だったが、調教師転身のため引退を表明し、これが最後の挑戦となった2022年有馬記念で惜しくも2着。完全制覇達成はならなかった。
調教師は尾形藤吉、武田文吾が完全制覇を達成。現役調教師では完全制覇達成者どころか完全制覇に王手がかかっている調教師も存在しない。
名前 | 桜 | 皐 | オ | ダ | 菊 | 春 | 秋 | 有 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
池江泰寿 | 11 | 15 | 11 | 11 | 11 | 09 | ||
須貝尚介 | 21 | 12 | 12 | 15 | 13 | 12 |
馬主・生産者
また、吉田善哉、金子真人は個人名義の所有馬と法人名義の所有馬を合わせれば完全制覇を達成している。
生産者では当然いつもの社台ファームとノーザンファームと2つ実質一つだけのみが完全制覇の達成者となっている。
現在の八大競走
安田記念やジャパンカップ、宝塚記念といったレースの地位向上、天皇賞(春)や菊花賞といった長距離重賞の地位低下により以前よりは八大競走の重要性は薄れてきているものの、未だに特別視する関係者は多い。
また、2004年に初めて行われた調教師顕彰制度の選考基準は「通算勝利数が1000勝以上かつ、旧八大競走10勝以上かつその中に日本ダービーが含まれていること」だった(ただし2014年の調教師顕彰ではGⅠ10勝以上に条件が緩和された)。
また、八大競走から公開抽選が行われる有馬記念を除き、そこに宝塚記念、ジャパンカップ、チャンピオンズカップ(旧ジャパンカップダート)を足した10競走は、木曜日の14時すぎとそれ以外のGI競走より早く枠順が発表される(他の日曜開催のGIは木曜14時に出走馬が確定し金曜9時すぎに枠順が発表される)。
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関連項目
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