公共の福祉(public welfare)とは、人権制約の原理である。日本国憲法第3章の4条文(第13条など)に見られる。
概要
日本国憲法では、基本的人権は永久かつ不可侵の権利と明記されている(第11条、第97条
)。
しかし特定の人権を制約なく保障すると、他の人権や、景観保護・公衆衛生などとぶつかる。
これを解決するために持ち出されるのが公共の福祉である。判断基準は、自由権>社会権とか、精神的自由権>経済的自由権(二重の基準論)とか、より大きな利益を優先(比較衡量論)などがある。
なお「表現の自由」は精神的自由権である。民主主義の維持という「公益のため」だけのものではなく、自己実現に関わる基本的人権の一部なのである。また真理の獲得や社会の活力・創造力、人間の暗黒面や意外性への関心・想像力・客観視といった別の公益にも寄与しうる。
木村草太教授によれば、公共の福祉による人権制約の正当化は次の4条件(4要件)を満たす必要がある。
例えば「俺は野グソが好きだから俺の幸福追求のためにそうするぜ」と考えて実行する人が居たとする。この自由を認めてしまうと、道路が汚されて仕事が邪魔されたり、人々の健康が害されたりする。そこで「公共の福祉に反する」として制限するのである(刑法142条浄水汚染罪、261条器物損壊罪など)。
公共の福祉とはなにか?4つの説
一元的外在制約説
「人権の外から人権を制約できる 」という説。憲法第12、13条によって広く人権が制約できるとする。
<批判>抽象的で、表現の自由などの人権が簡単に制約できてしまう。だからほとんど支持されない 。
内在・外在二元的制約説
「人権の外から制約できる人権 と、人権の内(他の人権)からのみ制約できる人権 がある」という説。
条文に公共の福祉による制約が明記されている経済的自由権(憲法第22、29
条)と、国が施策をしなければならない社会権(第25~28条
)だけが人権の外からも制約でき、他は人権の内からのみ制約できるとする。憲法第12、13条
は、人権の内から人権が制約されることを示す訓示規定だとする。
<批判>経済的自由権・社会権と他の人権を分けて扱うのは難しい。また憲法第13条を訓示規定と考えると条文の法的拘束力の否定になり、新しい人権の根拠にできなくなる。だからあまり支持されない 。
(用語解説)
経済的自由権:財産を奪われず、経済活動を縛られない 権利
社会権:生存権、教育を受ける権利、働く機会を得る権利など、社会で人間らしく生きる 権利
訓示規定:政府機関に指示をするが、違反しても罰則がなく、政府機関の行為が無効になることもない。
一元的内在制約説(かつて通説)
「人権の内からのみ人権を制約できる つまり人権を制約できるのは他の人権のみ 」という説。かつて通説(今でも通説とされることもある)。
人権同士がぶつかったときバランスを取るのが公共の福祉と考える。人権の性質上、社会権より自由権(経済的自由権に限らない)のほうが強く守られるべきとする。現代立憲主義(近代立憲主義+社会権)に基づく考え方。
<批判>「必要最小限、必要な限度」があいまいという点もあるがそれ以上に、文書偽造罪のように文書の信用を守ることなどを人権侵害で説明するのは無理がある。今はあまり支持されない 。
公共の福祉とは公益のことである(現在の通説)
「公共の福祉とは端的に公益つまり社会全体の利益のことである 」という考え方。たぶん現在の通説 。
見かけは一元的外在制約説に戻ったようだが、公益>個人の人権なのではない。言葉の定義から人権の制約範囲を決めるのは無理があり、事例ごとに違憲なのか基準を立てて慎重に判断する。一元的内在制約説が通説だった時期でも、実際は人権間のバランスというより社会全体の利益による人権制約を正当化する概念
として公共の福祉が議論されていた。
公共の福祉で人権が制限された例はこちらなどを参照。他に、文書偽造罪、通貨偽造罪、景観法、礼拝所及び墳墓に関する罪
、電波の混信を防ぐ電波法、性秩序・性道徳を維持を保護法益(法律の目的)とした刑法174条、刑法175条(これは違憲説が根強い
)などがある。
外部リンク
- 公共の福祉 - Wikipedia
- 日本国憲法 | e-Gov法令検索
- 質疑応答(1) 公共の福祉の理解 - 木村草太の力戦憲法
- 「公共の福祉(特に、表現の自由や学問の自由との調整)」に関する基礎的資料(平成16年4月)
- 基本的人権と公共の福祉に関する基礎的資料(平成15年6月5日)
関連項目
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