前件否定とは、詭弁の一形態である。当記事では似たような論理構成である後件肯定についても解説する。
概要
様々な詭弁があるが、必要条件と十分条件のすり替えに帰着できるものが多い。前件否定と後件肯定はそういった必要条件と十分条件のすり替えに帰着できる詭弁の一つである。
この記事を見たことを機に、うっかり使わないよう普段から意識してみてはどうだろうか?
そもそも前件と後件って何?
PならばQである時、Pのことを前件と呼び、Qのことを後件と呼んでいる。前件否定・後件肯定という用語の中以外で用いられることはほとんど無い。
前件否定
前件否定は以下のような形式をとる。
- PならばQである
- Pでない
- よってQでない
2.で前件Pが否定されているので、前件否定と呼ばれる。2.から3.は「PでないならQでない」すなわち1.の「裏」の関係にある。命題の「対偶」の真偽は一致するものの「逆」「裏」は必ずしも一致しないので、演繹としては正しくない。
例1(初心者向け)
Aがホームランを打てなくても、次の打席のCがヒットを打つなどしてBチームが勝つ場合もありえるので、Bチームが勝てないと決めつけるのは早計である。
例2(上級者向け)
A「パンツ丸出しじゃないか。恥ずかしくないのか」
Aが「パンツであれば恥ずかしい」という前提の元に発言し、Bが「恥ずかしくない」と主張する場面である。「パンツである→恥ずかしい」から「パンツでない→恥ずかしくない」は導けないので、Bの主張が前件否定による誤りを犯している事になる。パンツじゃなくてもパンツ並かそれ以上に恥ずかしい格好というのが存在しうる事から、Bの発言が誤りである事は明らかであろう。
普通に考えて、パンツ同然の布面積でその辺を歩き回るのは恥ずかしい事であり、「パンツじゃないから恥ずかしくないもん!」というのは(一般常識の範囲内では)詭弁であるといって差し支えない。
しかしたとえば水着のように、機能性その他の事情によりドレスコードとして認められており恥ずかしくない、という立場は考えられる。その立場から「パンツである。パンツであれば恥ずかしい。ゆえに恥ずかしい」というA氏の三段論法に反論するなら、パンツである事を否定するというプロセスが必要になる。空では誰も見ていない!!
問題は、その事から直ちに「恥ずかしくないもん!」を導いている事にある。「恥ずかしくない」事をきちんと論証するためには、彼女たちの「ズボン」が機能性に優れる正規の軍服である事を説明する必要があり、パンツでない事一点のみに頼った反論は、反論の体をなしていないという事になってしまうのである。
成立しない例
形式にとらわれていると本質を見失うことがある。「裏」も真である場合には詭弁は成立しない。
上記は論理学の試験答案としては減点対象になるが、「私の19歳の誕生日から1年間生きていないければ、私が20歳の誕生日を迎えていない」が無条件で成立しているので、3行目は1行目の前提から導き出されたものではない(ので「従って」という接続詞を用いるのが不適切だ)が誤った内容ではない。
このことから、前件否定の詭弁を指摘するときは、「前件否定」というあまり普及していない用語を用いるより、単純に「PでなくてもQである場合が存在する」ことを指摘する方が相手にもわかりやすいし、自身も誤った指摘をする危険が少ないと言える。
後件肯定
後件肯定は以下のような形式をとる。
- PならばQである
- Qである
- よってPである
2.で後件Qが肯定されているので、後件肯定と呼ばれる。2.から3.は「QならばPである」すなわち1.の「逆」の関係にある。
例
関連項目
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