劇場版AIRとは、2005年2月5日に公開された、東映アニメーション製作の劇場アニメである。監督は出崎統。
概要
前作のKanonを受け、製作された劇場映画アニメーション作品。ミニシアターランキングで上位をキープ。
Key+出崎統監督という、その発想はなかった的なコラボレーション作品である。
キャラクターデザインは、かつてアゴアニメと揶揄され忌避された東映版Kanonの「デザインはちゃんと原作重視」の方針から、大きくアレンジして癖のないものにするという方向性に変わった。
BGMはほとんどがオリジナルだが、Kanon以上に原作BGMのアレンジ使用率が増えた。
放送前はTVアニメAIRがアゴの目立つデザイン、こちらは癖をなくした内容ということで、前評判は劇場版が上だった。
ところがその後、評価は一転してしまった。
劇場版は大胆にアレンジされた設定・内容とバリバリの出崎演出などで、ファンの反感を大きく買ったのである。
その証拠に出崎統のファンサイトの掲示板はKeyファンを名乗る者達によって誹謗中傷の的となり、一時閉鎖になってしまったほどだった。
京都アニメーションによるTVアニメ版とそう遠くない時期(映像公開はTV版は映画公開後とやや遅め)に情報公開されたのも、あるいはまた不運だったのかもしれない。
内容を巡る話題
強い思い入れを持ったファンが多い本作は、原作ファンの怒りを多く買った。
事実として上記のような騒ぎもあったり、東映版Kanonと同じく黒歴史としてみたり、ネタとして語る人が度々いる。
- 脚本の中村誠は本作の大ファンで、脚本を書く間何度もプレイしなおしていたが、出崎は一切原作をやっていない。製作中は、中村+Key監修の脚本から内容をより練り込んでいった。原作ファンから反感を買った大きな理由の一つ。
- 内容がかなりアレンジされており、登場人物の呼び方が違うなど細かい点でも批判された。これはCLANNADも同じ。
- 本作では主人公・国崎往人の最終目的である「祭り」が重大な要素を占めている。それに関連して、演出上において祭りを彷彿とさせる鬼の面や和太鼓など汗臭い、ないしはやや不気味さすら感じるシーンが挿入されており、原作ファンの守備範囲外な演出が目立ったことは否めない。
- そもそも終始惜しげも無く多用される出崎演出が多くの原作ファンの趣味に合わず、古臭いと度々否定されていた。
- ラストだけ唐突にわりと忠実な原作再現(ゴール)している。本作を評価する人でも「これは蛇足」とする声もちょくちょくある。
これに関して、脚本の中村は原作にこだわった批判をするユーザーに対し「なら原作をやればいい」と応答している。
実際、映像化作品として後にTVアニメ版AIRもやることが一応発表されていた事実もあるため、ユーザーには選択の幅は用意されていた。
さらに言うなら上でも記したように中村は原作ファンであり、鍵っ子(?)でもあった。
根本的に言うなら、本作のコンセプトは「もう一つのAIR」なのであり、原作再現を求めること自体が間違っていたと言えなくもない。
仮にそのコンセプトを知らなくても、90分という短い尺、原作クラッシャーとして有名な監督出崎統という要素から、それを十分予想し得たという点は否定出来ない。
裏を返せば、「当然改変ありきの内容」と鑑賞前に考えている視聴者が少なかったことから、こういった厳しい批判が止まらなかったのである。
中村誠は鍵っ子だったこともあってか、所々に原作のネタを仕込もうとしている。例としては「どろり濃厚ピーチ味」「が、がお……」という観鈴の口癖など。出崎だけでは(恐らく)仕込まなかった要素だろう。
また、背景演出は映画らしく非常に凝って作られており、海の演出は妙に綺麗である。
本作が不評だったことは出崎にとって悔しかったらしく、リベンジがしたいと意欲を示していた。当時60代だった彼にそこまで言わしめるほどの何かが、Key作品にはあったということであろう。
そしてそのリベンジとなったのが劇場版CLANNADである。詳しくは当該記事で。
また、当たり前とも言うべきかもしれないが、本作を評価するものもまた少なからずいる。
主にその独特の演出に惹かれた人が多く、「90分間でよくやった」とする声もしばしば見られる。
更に言うと、生粋の出崎ファンの中には、作品の共通点(演出)が多いことから「これはあしたのジョーの続編である」と本作を評価した人もいるほどだった。
登場人物
- 国崎往人(声・緑川光) - 原作よりちょっと熱い性格な、出崎イズムを秘めた漢。人形は麦わら帽子とマントを装備。
- 神尾観鈴(声・川上とも子) - 原作よりも自身の運命を悟っている。自転車に乗れない。もっと仲良くしてもいいのだよ。
- 神尾晴子(声・久川綾) - 唯一職業が明確になっている。観鈴とは一見仲睦まじいが…。
- 霧島聖(声・冬馬由美) - 神尾家御用達の医者。医者として良い役が彼女しかいなかったのだろう。
- 橘敬介(声・三木眞一郎) - 原作と違い眼鏡が追加。原作に輪をかけて完全に酷い親。
- 霧島佳乃、遠野美凪、みちる - ゲスト出演。みちるは往人に人形劇をせがむシーンでちょくちょく登場。
- 神奈(声・西村ちなみ) - お転婆ではなく、伝承上の人物として威厳ある口調と振る舞いに。
- 柳也(声・神奈延年) - 原作と違い、神奈には従者として礼節を尽くして会話する。デザインが他の媒体と異なる。
- 裏葉(声・井上喜久子) - 印象的に原作とそれほど変わっていないという、本作では珍しい人。
- そら(声・不明) - たまに喋るカラス。原作同様に国崎と同一なのかは定かではない。
トリビア
- 監督として出崎統を引っ掛けたのは東映版Kanonをプロデュースした横田守。当時は「すごい人がかかった」と、出崎に話を持ちかけた本人が驚いてしまうような話だった。
- 前売り特典のPVでは、あたかも霧島佳乃と遠野美凪もメインとして出張るような演出がなされていた。実際は祭りシーンでちょこっと出てくるくらいで声の出演はなく、あくまでゲストという扱い。
- 初回上映時、池袋ではミスで冒頭が音声だけの上映となり、ブーイングが起きた。その後はすぐに仕切り直しされた。
- ミニシアターランキング上位をキープしたことを頑なに宣伝しているが、どれくらいすごい功績なのか定かではない。ただし、後に劇場版CLANNADが製作されたということは、よほど旨みがあったということである。
- 池袋シネマサンシャインでは、CLANNAD上映記念に再上映されたことがある。さらに2011年には監督の出崎統の死去を受け、追悼イベントとして前者と同時に再上映された。
- 国崎の人形劇がバカうけするのが見られるのは、この映画だけ!!
- 国崎(人間)がゴールに立ち会うのもこの映画だけ!!!
- 晴子と神奈には、乳首が見えるシーンがある。
- DVDはコレクターズエディションとスペシャルエディションがリリースされた。汚いなさすがムービック汚い。
- 水瀬さんちの後継にあたる、神尾さんちというドラマDVDがスペシャルエディションのDVD特典についている。
- よく原作無視と言われるが、原作側は目を通し、意見を伝えてアドバイスしているし、おおまかなストーリーの流れ自体は実は近いものがある。
- パンフレットに載っている脚本の途中稿は、劇場版本編とはまるで異なる内容で、ゴールも無かった。出崎の手も加わっていないせいか出崎癖も弱く、原作ファンの一部は「こっちが良かった」という者もいる。
- 一部では、出崎が以前に制作したOVA版ブラック・ジャック、カルテ10『しずむ女』との共通点を指摘するものがいる。(海辺の田舎町が舞台、よそ者である主人公とふしぎな少女との出会い、町に伝わる伝説など)
- 特典として、ドラマCDに音声のみのコメンタリーを収録するという新しすぎる試みがおこなわれた。進行役は川上とも子と緑川光だった。その中で川上とも子はラストシーンの往人の台詞(「しばらくは観鈴と一緒だろう」)に一女性として文句を言っていた。
- TVアニメ版では、出崎演出を意識したかのような止め絵がある。(国崎最高)馬鹿にしてんだかオマージュなんだか。
- 出崎統作品としての知名度や印象は悪く、TVの特集などで出崎について語る際は、当たり前というかなんというか本作と劇場版CLANNADは、まず紹介されない。
関連動画
関連項目
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