労働組合(英:labor union)とは、労働者の経済的地位を向上させる目的で労働者たちが自主的に結成する組織のこと。
「労組」と略され、これは「ろうそ」とも「ろうくみ」とも読まれる。
概要
歴史的起源と日本国憲法第28条
産業革命期に労働者が使用者(雇い主)に対抗する為に結集したのが起源である。労働者の地位は使用者に比べると低いため、集団になって使用者と交渉すべきであると判断されて労働組合が結成された。
日本では日本国憲法第28条にて労働三権が保障されていて、労働組合結成権が団結権として認められている。より具体的には労働組合法や労働関係調整法などの法律で規定されている。
労働組合法第2条の定義
労働組合法第2条で以下のように労働組合が定義されていて、第1号から第4号までの中の1つでも該当する団体は労働組合と認められない。
労働組合法第2条 この法律で「労働組合」とは、労働者が主体となつて自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体をいう。但し、左の各号の一に該当するものは、この限りでない。
第1号 役員、雇入解雇昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある労働者、使用者の労働関係についての計画と方針とに関する機密の事項に接し、そのためにその職務上の義務と責任とが当該労働組合の組合員としての誠意と責任とに直接に抵触する監督的地位にある労働者その他使用者の利益を代表する者の参加を許すもの
第2号 団体の運営のための経費の支出につき使用者の経理上の援助を受けるもの。但し、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく、且つ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。
第1号や第2号は、いわゆる御用組合の中の深刻なものである。御用組合は労働者の経済的地位を向上させる効果が乏しい。
第3号は、労働者同士の助け合いをするだけで使用者との団体交渉に臨まない団体のことである。
第4号は、労働組合の名前を借りただけで実態は政党や慈善団体になっている団体のことである。
労働組合の結成とナショナルセンターへの合流
法律的に有効な労働組合となるためには、行政機関である所管の「労働委員会」に登録する必要がある。
日本は企業別に労働組合を作る傾向がある。一方で欧米は産業別に巨大な労働組合を作る傾向がある。
日本では企業別の労働組合が連携して大集団を作りあげていて、「ナショナルセンター」「中央労働団体」などと呼ばれている。おもな日本のナショナルセンターは全国労働組合総連合(全労連)、日本労働組合総連合会(連合)、全国労働組合連絡協議会(全労協)など。こういったナショナルセンターは現組合員以外の労働相談も受け付けている。
日本の民間ではユニオン・ショップ制が主流
日本の民間ではユニオン・ショップ制が主流となっている。これは使用者と労働組合Aが「労働組合Aを脱退しつつ一定の期間が過ぎたあとにいずれの労働組合にも属しない労働者について、使用者は解雇しなければならない」という労働協約を結ぶものである。これにより、労働者はいずれかの労働組合に所属せねばならず、労働組合の組織力が強化される。
また、日本において治安部門に属する公務員(自衛官・海上保安官・刑務官・入国警備官・警察官・消防士といった治安部門に属する公務員)以外の公務員は、オープン・ショップ制が法律で定められている。これは労働者に対して労働組合に加入しない自由を保障するものである。これにより日本の公務員系の労働組合は労働者を組織に勧誘する力がやや弱いものになっている。
ちなみに欧米ではクローズド・ショップ制が主流となっている。労働者が企業に就職したいと思ったら、ます労働者は、その企業の労働者達が所属している労働組合に加入する必要がある。そして企業は、労働組合に所属する者だけを雇用できる。
活動内容
労働組合は、労働者側の要求をとりまとめて、団体交渉権を行使して、経営者側と交渉することで労働者の利益を引き出すことが第一の仕事である。具体的な要求内容としては、賃金の保護・値上げや労働時間短縮などの労働条件の向上、不当解雇の防止・撤回、福利厚生の充実など。
交渉については労働組合法第7条第2号で保護されており、基本的には経営者側が交渉拒否することは認められていない。交渉拒否のような不当な行為があった場合は、労働委員会に申し立てる事ができる。
そうした交渉が上手くまとまったら、労働組合と使用者が労働協約を結ぶ。
そうした交渉が上手くまとまらないと、争議権を行使して争議行為を実行することになる。
労働組合が使用者に対して戦闘的な態度で臨み要求の貫徹を目指すことを労使対決という。1980年代までの日本には三公社五現業という現業が存在した。その三公社五現業の労働組合は公労協(国営企業体等労働組合協議会)を結成しており、労使対決の路線を突き進むことで知られていた。
労使対決を押し通した結果として経営に苦しい影響を与えてしまった例として、アメリカ合衆国の三大自動車会社ビッグスリーの一角と言われたゼネラルモーターズが2000年代後半に経営危機に陥った事例が挙げられることがある。労働組合の強さによって企業負担による年金や医療費補助が削減できなかったことが巨額の負担を招いていたと言われる。
一方で、労働組合が使用者に対して融和的な態度で臨むことを労使協調という。労働者側が「雇用してくれる企業が潰れては元も子もないので、労働者・経営者の双方が頷ける落としどころを探り、納得できる対価を得た労働者が頑張って企業を栄えさせ、そのことでさらなる労働条件アップにつなげていこう」と考えるのである。
ただし、労使協調の労働組合は御用組合と揶揄される場合もある。また、御用組合の首脳部には労使協調を行う事を条件に企業側から多大な私的利益を得ている者もいたとされ、こういった者を表す「労働貴族」という言葉もある。
公務員と労働組合
治安部門に属する公務員(自衛官・海上保安官・刑務官・入国警備官・警察官・消防士といった治安部門に属する公務員)は団結権(労働組合結成権)を剥奪され、労働三権のすべてを否定されている。
治安部門以外に属する公務員は団結権を認められ、団体交渉権も一部の制限があるが認められている。しかし団体行動権の中の争議権を剥奪されている。このことについて詳しくは日本国憲法第28条の記事を参照のこと。
専従
休職して労働組合から補償金をもらい、組合活動に専念する
基本的に労働者は労働組合活動を勤務時間外に行う。労働者には職務専念義務が課せられているとされており、勤務時間中は職務にすべての注意力を向けることとされているので、勤務時間中に組合活動をすることができない。
ただし、大企業などにおいて組合活動の内容が大規模化してくると組合の幹部としての仕事(他の組合や行政関係者との会見、政治的パーティーへの参加など)について勤務時間外の活動だけでは賄えなくなるため、そういった役割を担う幹部(ユニオンリーダーなどと呼称される)には組合専従者を配している労働組合もある。つまり、元々の職務からは休職して労働組合の活動のみに専念し、賃金に相当する補償金を労働組合から支給されることになる。この賃金は組合員から毎月集めた組合費を財源としている。
御用組合の専従
元々の職務から休職するのはキャリア形成的に不利になりそうなものだが、専従の制度がある大規模労働組合は労使協調路線の御用組合であることが多いためか、問題が起こらないようにうまくやっている所が多いようだ。例えば、元々人事・労働関係の職務に付いていたものが組合専従者となり、その期間を終えるとまた元の職場で元より少し責任ある立場として戻る……といった感じである。子会社の役員としての一時出向と言った感覚が近いかもしれない。むしろ労働組合専従職員を経験することがキャリアパスの一つとなっている企業もあるという。また、そのまま元の企業の籍を抜け、元の労働組合を傘下に収めていた(つまり、より上層の)労働組合の役員などへと進んでいく場合もある。
ヤミ専従
ヤミ専従とは、正規の手続きを経ない労働組合専従活動の事である。
ヤミ専従は公務員の場合で問題となることが多い。公務員でも専従職員的な事を行うことは可能であり、国家公務員法第108条の5第8項や地方公務員法第55条第8項で「勤務時間中に労使交渉活動を行ってもよい」と定められている。しかしこの規定では前もって、職員団体と使用者たる者との間で、どのような条件下で交渉活動を行うか決定しておく必要がある。この部分をなおざりにしたままに、勤務時間中に職員団体としての活動のみを行っている違反事例が時折発見され、「職員としての給与を勤務先から受け取っておきながら勤務時間中に職務専念義務を果たしておらず、組合活動をしている」と糾弾されて問題となる。
また、その活動が政治的活動(次項参照)であった場合は公務員の政治的中立性の確保の観点からも問題視されることがある。
政治活動
政治活動に熱意を傾ける労働組合も多い。労働条件などには経済政策や労働関連の法規制などが大きく関わってくるため、自分たちにとって有利になる政策を打ち出している政党を支持しようとする場合が多い。
ただし、労働組合内のパワーバランスにも左右される。上記のようなナショナルセンターの傘下にある労働組合は、親組織の意向にある程度協力を求められる。例えば全労連は共産党寄り、連合は民主党寄りとされる。
労働問題とは直接的に関連するとは言い難い分野においてまで、支持する政党と同調した政治活動を行う例もある。これに対して労働組合内部からの反発が生じ、組合員が減少したり組合自体が分離したりする場合もある。過去には政治的な理由からのストライキ(政治スト)などを行う例もあったが、憲法や各種法令によって保障されたストライキと見なされないことが昭和の年代に判例で示されている事などもあり、2015年現在では日本国内で政治ストが行われることは非常に稀である。
歴史的な経緯、および労働者側に有利な政策を主張する政党に「左派」が多いことから左派寄りの組合が多いとされる。しかし特に外交政策などに関して所謂「右派」寄りの意見を強く表明している労働組合も散見されるため、一概には言えない。
労働組合と左派との親和性が高いことを悪用して、極左セクトが労働組合に浸透していた例もある。かつて1980年から1995年にかけては、極左セクト同士の内ゲバによって国鉄/JRの労働組合員が襲撃・殺害される事件が起きていた時期すらもあった。
企業別労働組合と産業別労働組合の比較
日本や米国は企業別労働組合が多く、欧州は産業別労働組合が多い
日本や米国では企業別に小さな労働組合が結成されることが多く、欧州では個別企業の垣根を越えて産業別に巨大な労働組合が結成されることが多い。
企業別労働組合の長所と短所
企業別労働組合の長所は、個別の企業内の問題について争議行為を起こして解決することが容易で、労働者の権利をきめ細やかに保障することが可能な点である。例えば企業Aにおいて経営陣がパワハラをしたときに企業Aの労働組合が「パワハラを止めるように要求する。さもないと争議行為を行う」と警告することが可能である。
企業別労働組合は、御用組合になりやすく、労働運動が弱くなりやすく、労働者の実質賃金が低く抑制されやすいという特徴がある。この特徴により「構造的失業が少なくなりやすく、労働資源の効率的な運用を行いやすい」という長所が生まれ、「労働者の消費が伸びにくく、労働者の生活水準が低くなりやすい」という短所が生まれる。
企業別労働組合が主流の国の特徴
企業別労働組合が主流の国では、中小企業・零細企業において労働組合が結成されないことが多く、労働者の労働組合組織率が低くなる傾向にある。
2004年における日本の労働者の労働組合組織率は23%で、米国のそれは18%である[1]。
企業別労働組合が主流の国では、労働組合の団体交渉に政府が直接的な影響を及ぼすことがなく、せいぜい、行政の首脳がストの現場に訪れて「我々は労働者の味方である」と応援の発言をする程度である[2]。
産業別労働組合の長所と短所
産業別労働組合は、戦闘的組合になりやすく、労働運動が強くなりやすく、労働者の実質賃金が高くなりやすいという特徴がある。この特徴により「労働者の消費が伸びやすく、労働者の生活水準が高くなりやすい」という長所が生まれ、「構造的失業が多くなりやすく、労働資源の効率的な運用を行うことが阻害されやすい」という短所が生まれる。
産業別労働組合の短所は、個別の企業内の問題について争議行為を起こして解決しにくく、労働者の権利をきめ細やかに保障することが難しい点である。例えば企業Aにおいて経営陣がパワハラをしたときに企業の労働者たちが「パワハラを止めるように要求する。さもないと争議行為を行う」と警告しても、そうした団体行動は山猫ストであって違法な行為なので[3]、経営者に無視されてしまう。
産業別労働組合が主流の国の特徴
産業別労働組合が主流の国では、中小企業・零細企業の労働者も労働組合に参加することになり、労働者の労働組合組織率が高くなる傾向にある。
2004年における欧州主要国の労働者の労働組合組織率を高い順に列挙すると、オーストリア98%、フィンランド95%、フランス92%、ドイツ90%、ベルギー90%、スウェーデン83%、ポルトガル79%、ノルウェー75%、オランダ71%、スペイン68%、スイス53%、イギリス47%である[4]。
産業別労働組合が主流の国では、労働組合の団体交渉に政府が直接的に影響を及ぼすことも多い[5]。
産業別労働組合が主流であるスウェーデンは特別に高い失業率を経験していない。このため「スウェーデン政府が労働組合の団体交渉に影響を及ぼし、労働運動を抑制し、実質賃金が高くなりすぎないようにして、構造的失業を抑制している」という事情を推測できる[6]。
まとめ
以上のことをまとめると次のようになる。
企業別労働組合 | 産業別労働組合 | |
長所 | 個別の企業内の問題について争議行為を起こして解決することが容易で、労働者の権利をきめ細やかに保障しやすい 御用組合になり労働者の実質賃金が低くなるので、構造的失業が少なくなる |
戦闘的組合になり労働者の実質賃金が高くなるので、労働者の消費が増え生活水準が高くなる |
短所 | 御用組合になり労働者の実質賃金が低くなるので、労働者の消費が減り生活水準が低くなる | 戦闘的組合になり労働者の実質賃金が高くなるので、構造的失業が多くなる 個別の企業内の問題について争議行為を起こして解決することが不可能で、労働者の権利をきめ細やかに保障しにくい |
それが主流の国 | 日本や米国 | 欧州各国 |
それが主流の国の特徴 | 労働者の労働組合組織率が低い 政府が労働運動に直接的な影響を及ぼさない |
労働者の労働組合組織率が高い 政府が労働運動に直接的な影響を及ぼすことがある |
関連動画
関連項目
脚注
- *『マンキュー マクロ経済学Ⅰ 入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー』232ページ
- *2023年9月26日にジョー・バイデン米国大統領は自動車業界のストライキの現場を訪問して「昇給は当然のことだ」と演説をした(記事)。
- *なぜ山猫ストが違法になるのかはストライキの記事を参照のこと。
- *『マンキュー マクロ経済学Ⅰ 入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー』232ページ
- *『マンキュー マクロ経済学Ⅰ 入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー』232ページ
- *『マンキュー マクロ経済学Ⅰ 入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー』232ページ
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