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概要
1931年（昭和6年）より建造開始。姉妹艦は四隻。1934年（昭和9年）3月12日、竣工間もない姉妹艦『友鶴』が転覆事故を起こし、日本海軍の艦艇設計に大きな影響を与えたことで知られる。
建艦まで
日露戦争後の日本海軍の仮想敵は太平洋を挟んだ大国アメリカであり、対米戦術として敵艦隊を小笠原沖までおびき寄せ迎撃する作戦案が採用されていた（いわゆる漸減作戦）。この作戦のために、主力である戦艦による決戦の前に一隻でも多くの主力艦を減らすよう差し違え覚悟の夜間雷撃を行う目的で、900トン以下の安価な二等駆逐艦が建艦された。
しかし、第一次世界大戦の結果、日本の太平洋領は小笠原近海から南洋諸島にまで伸展し、迎撃帯もそれに伴って東進した。この結果、航続距離や航洋性に劣る小型駆逐艦は陳腐化し、二等駆逐艦の建艦は大正末期の『若竹』型で打ち切られた。
以降、大型で強力な武装と長大な航続距離を有する駆逐艦（福井静雄造船官いわく「駆逐艦型式の構造と偽装方式、そして機関部をもつ超高速の優秀軽巡」）が日本海軍の主流となる。ワシントン海軍軍縮条約が締結され主力艦が制限を受けると、補助艦艇でありながらも高性能を有する駆逐艦への期待はさらに高まる。軍縮条約後の艦であるが、1937年（昭和9年）度計画で建艦された『陽炎』型は18ノットで6000浬に達し、これは大正期の軽巡洋艦5500トン型の14ノットで5000浬をしのいでいた。
ところが、1930年（昭和5年）にロンドン海軍軍縮条約が締結され、基準排水量600トン以上の補助艦艇の保有にも制限がかけられる事態となってしまう。そこで、条約制限外の600トン以下の補助艦艇にかつての二等駆逐艦並の性能を与え、艦隊駆逐艦を使うまでもない近海での作戦では補助駆逐艦としても使用できる警備艦と言う需要が生まれた。
この流れを受け、1931年（昭和6年）の第一次補充計画において、建艦出来なくなってしまった1000トン級駆逐艦の代わりに四隻の500トン級水雷艇の建艦が認められた。
性能（竣工時）
基準排水量は予算の関係から、600トンをさらに下回る535トンにまで切り詰めた。具体的には船型の小型化だが、電気溶接を出来る限り採用しリベットの数を減らす画期的な建艦方法も取られている。
武装は53cm魚雷発射管連装二基、50口径12.7cm連装砲塔一基、同単装砲一基。これは最後の二等駆逐艦である『若竹』（820トンで53cm魚雷発射管二基、45口径12cm単装砲三基）を上回っており、さらに排水量比で言えば倍増に近い重武装であった。反面、対航空兵装は軽視され13ｍｍ機銃を一基のみの装備に止まっている。また、爆雷は投射機を二基で18個を搭載。
速力は30ノット。航続力は近海や沿岸の警備艦であるにも関わらず、14ノットで3000浬と艦隊駆逐艦並の性能が与えられた。新型の高温高圧缶（ボイラー）が採用されたため、燃料の搭載でも半分以下で済むなど『若竹』と比べて有利であった。
船型は全長82.0ｍ。小型機関部を補うために細長。艦体の3分の1を船首楼とした。艦橋は多大な武装を制御するための指揮装置が詰め込まれ、駆逐艦に準じた高さとなり上部構造物の重量増加に拍車をかけている。
艦の分類は水雷艇とされたが、日露戦争前後に作られた水雷艇群とは隔絶しており、実質的には駆逐艦であった。
友鶴事件
1933年（昭和8年）竣工した『千鳥』だったが、このような無理な設計がたたって当初から重心点が高く復元性の不足した不安定な艦となってしまった。このため、引渡し前に応急改善策として舷側にバルジ（張り出し）が設けられた。
しかし、性能改善の決定打とはならず、1934年（昭和9年）に三番艦の『友鶴』が佐世保沖における荒天下での演習中に転覆事故を起こし、死者・行方不明者110名を出す惨事となってしまう（友鶴事件）。
重武装かつ重心点が高い（トップヘビー）艦艇の脆弱さに衝撃を受けた海軍は直ちに『千鳥』型の改良に着手。また、事件の責任を取り、このような艦の導入に積極的だった艦政本部責任者だった藤本喜久雄少将を謹慎処分とした（翌年に脳溢血で死去）。
性能（改善後）
復元性の回復に重点が置かれ、武装は撤去された。具体的には魚雷発射管はわずか連装一基となり、魚雷の搭載数は八本から二本と四分の一にまで低下。主砲も45口径12cm単装砲三基となり大幅に弱体化した。
また、船体も艦橋を一層ごと減らすと言う大改装を行い、バラストキールの追加も加えて安定化を図った。
重心点は低下し復元性は回復したが、速力は28ノットに低下。航続距離はそれに伴い、近海用としてすら不足気味の14ノットで1600浬にまで落ち込んだ。
実戦
泣く泣く水雷能力の低下を忍んだ日本海軍であったが、こちらについては杞憂であった。そもそも、第二次世界大戦（太平洋戦争）は航空機と空母による戦いであり、戦前に想定されていた漸減作戦が行われる余地はほとんどなく、その漸減作戦をさらに補助する水雷艇に水雷を行う機会など皆無であった。
『千鳥』の大戦中の任務は南方の資源地帯と本土を行き来する輸送船団の護衛任務であり、こうした任務に必要な能力は防御のための対空砲と航続力であった。しかし、前者は建艦時点で軽視されており、機銃の増設などで対策が施されたが十分とは言い難かった。改修時に低下させた後者は水雷能力と違い、さらに致命的であり、新型の海防艦（丙型が14ノットで6500浬、戦時標準船の機関を流用した丁型ですら同4500浬）には追従出来ず、護衛船団の足を引っ張ることもあった。
最終的に四隻の姉妹艦のうち、三隻は航空機や潜水艦に逆に狩られてしまう結果に終わった。
評価
僕が考えた最強の艦・厨二病的武装制限の中で出来うる限りの武装を施すと言う創意工夫が垣間見れる画期的な艦だったが、問題となった装備そのものがそもそも戦争の実相には合っていなかった。これはもちろん、『千鳥』のみではなく他の軽巡的駆逐艦たちもそうであり、多くの優秀艦は雷撃の機会を与えられず船団護衛や輸送任務に従事し沈んで行った。
一方、『千鳥』の風下に立ち、旧式弱体化していたはずの旧二等駆逐艦である『若竹』は手ごろながら優足な護衛戦力と評され意外な活躍を見せた。これらの戦訓を受け、日本海軍は『若竹』を近代化させた性能（対空砲の装備と頑丈な機関配置、さらに戦時量産にも耐えうる生産性）を持つ『松型駆逐艦』の建艦に着手。竣工した『松』型は戦争後期において獅子奮迅の活躍を見せた。
実は『若竹』をそのまま近代化させれば良いと言う意見は『千鳥』計画時から存在していた。艦隊決戦に固執し個艦性能を重視した海軍主流は中途半端であると一蹴したが、この時にこの案を取っていれば、（軍縮条約明けを理由に少数生産に終わってしまったが）次級である『鴻型水雷艇』と合わせて、戦前から『松』に準じた艦艇を有することが出来、ソロモン戦やその後に続く海上護衛戦をもう少し有利に進められたのではないかと言う意見もある。
実際、航続距離こそ短かったが、速度性能では『若竹』と同様に『千鳥』も戦時急造であった海防艦群（17ノット）よりも秀でており、これらの艦艇では不可能であったアメリカ潜水艦（ガトー級が水上20.25ノット）への追撃が可能であった。この点では用兵側からも好評であったと言う事実もある。
日本海軍の戦前の軍備は特に駆逐艦・護衛戦の想定において批判が絶えないが、最適解自体は意外なところで眠っており、惜しいところでたどりつけなかったと言えるかもしれない。
姉妹艦
千鳥（ちどり）
1933年（昭和8年）11月20日竣工。1944年（昭和19年）12月22日戦没。
真鶴（まなづる）
1934年（昭和9年）1月31日竣工。1945年（昭和20年）3月1日戦没。
友鶴（ともづる）
1934年（昭和9年）2月24日竣工。1945年（昭和20年）3月24日戦没。
初雁（はつかり）
1934年（昭和9年）7月15日竣工。終戦時残存。
性能諸元
| 基準排水量 | 535トンのち600トン |
| 公式排水量 | 738トン |
| 全長 | 82.0ｍ |
| 主機 | 艦本式オール・ギヤード・ダービン二基、二軸 |
| 主缶 | ロ号艦本式水管缶（重油専焼）二基 |
| 出力 | 11,000馬力 |
| 速力 | 30ノット（諸説あり）のち28ノット |
| 航続力 | 14ノットで3000浬のち同1600浬 |
| 乗員 | 120名 |
| 兵装（改装前） |
13ｍｍ単装機銃×１ 爆雷×18 |
| 兵装（改装後） |
13ｍｍ単装機銃×1（戦中には25ｍｍを多数） 爆雷×18（戦中48） |
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関連項目
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