古代教会スラブ語とは、インド・ヨーロッパ語族のうち歴史上最初に記述されたスラブ語派の言語である。
概要
スラブ語族はもともと現在のポーランドチェコ国境地帯にいたとされ、次第に東西南北に広がっていった。そしてその結果西はエルベ川から東はドニエプル川、南はバルカン半島まで広がっていったのである。しかしここであることが起きる。遊牧民であるブルガール人とアヴァール人、マジャール人らの侵入である。その結果分散したスラブ人たちは広範囲に広がったうえに相互交流が難しくなり、7世紀には方言差ができ、9世紀にはほぼ独立した言語となっていった。
さてそのスラブ人であるが9世紀後半に大モラヴィアというまとまった国家を形成した。860年代、この国のロスチスラフ公は周辺の政治的な動静から自国をキリスト教国に変えようとしたのである。この時期はローマとコンスタンティノープルが完全に対立していた時期であり、両者はなんとか自陣営に引き入れようと必死になった。そこでビザンツ帝国のミカエロス3世はキュリロスとメトディオスの兄弟にある任務を任せる。それこそがスラブ人の使う言語への聖書の翻訳であり彼らはグラゴル文字を発明、大モラヴィアへ向かったのである。
しかし大モラヴィアでの布教はローマのハドリアヌス2世に認められたにもかかわらず、ヨハンネス8世に代替わりするとスラブ語での布教を禁じられ、さらにはロスチスラフ公が廃位されキリスト教への改宗も中断されてしまった。その結果、この時期もうキュリロスたちは亡くなっていたが、彼の弟子たちは次の目的地を見つける。それこそが、キリスト教に改宗したボリス1世のおさめる第1次ブルガリア帝国であり、彼らはボヘミアやブルガリア、マケドニアへと広がり布教に成功したのである。そしてその過程でグラゴル文字をさらに簡易化させたキリル文字が誕生したのだ。
しかしその一方で、あることが起きる。大モラヴィア滅亡後のパンノニア平原にマジャール人が侵入、ハンガリーが誕生したのである。この結果ハンガリー以北とハンガリー以南に分断されたスラブ人の分化が激しくなり、カトリックと東方正教会のそれぞれどちらにつくかスラブ人国家によって分かれ、現在ラテン文字を使う国家とキリル文字を使う国家に分かれていったのであった。
要約
説明が長くなってしまったが、要するに中世にブルガリアなどバルカン半島あたりでスラブ人に使われていた言語であり、残存している文献資料がキリスト教関係に限るため、再建もそこから行われている。
文字体系
音韻体系
母音
前舌 非円唇 |
後舌 非円唇 |
後舌 円唇 |
|
---|---|---|---|
狭 | i | ɯ | u |
半狭 | ь/ɪ | ъ/ɨ | |
半広 | e | o | |
広 | ɛ | a |
前舌 | 後舌 |
---|---|
ẽ | õ |
子音
唇音 | 歯音 | 硬口蓋音 | 軟口蓋音 | |
---|---|---|---|---|
破裂音 | p b | t d | k ɡ | |
破擦音 | t͡s d͡z | t͡ʃ | ||
摩擦音 | s z | ʃ ʒ | x | |
鼻音 | m | n | nʲ | |
側面音 | l | lʲ | ||
ふるえ音 | r | rʲ | ||
接近音 | v | j |
なお口蓋化が顕著であり、そのあたりに関しては説明に時間がかかるので次回更新後予定。
文法
次回以降グラゴル文字併記予定
名詞
男・女・中の3性、単複双の3数、主属与対具所/位呼の7格に曲用される
名詞の種類はさらに6類に分かれる。
では試しに現在のロシア語男・中硬変化にあたるo語幹とロシア語女硬変化にあたるa語幹の曲用を見てみよう。
単数 | 複数 | 双数 | |
---|---|---|---|
主格 | rabъ | rabi | raba |
属格 | raba | rabъ | rabu |
与格 | rabu | rabomъ | raboma |
対格 | rabъ | raby | raba |
具格 | rabomъ | raby | raboma |
所格 | rabě | raběchъ | rabu |
呼格 | rabe | rabi | raba |
単数 | 複数 | 双数 | |
---|---|---|---|
主格 | žena | ženy | ženě |
属格 | ženy | ženъ | ženu |
与格 | ženě | ženamъ | ženama |
対格 | ženą | ženy | ženě |
具格 | ženoją | ženami | ženoma |
所格 | ženě | ženachъ | ženu |
呼格 | ženo | ženy | ženě |
動詞
動詞は以下の5種類に分かれる
活用はそれぞれ単純活用の現在、アオリスト、未完了過去、複合活用のそれぞれの時勢の完了形と未来形、の7種類に能動態と受動態の二つの態が存在する。またこの時期にもうアスペクトは完了体動詞と不完了体動詞が別々に使われるというスラブ語でおなじみのあの形式になっていたようだ。
子音幹 | 母音幹 | 2次的語尾 | |
---|---|---|---|
単数1人称 | -mъ | -ą | [-m] |
単数2人称 | -si | -ši | [-s] |
単数3人称 | -tъ | -tъ | [-t] |
複数1人称 | -mъ | -mъ | -mъ |
複数2人称 | -te | -te | -te |
複数3人称 | -ętъ | -ątъ/-ętъ | -ą[t]/-ę[t] |
双数1人称 | -vě | -vě | -vě |
双数2人称 | -ta | -ta | -ta |
双数3人称 | -te | -te | -te |
アオリストは以下の4種類が存在する
完了はそれぞれ
受動態は以下の2つの作り方が存在する
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関連項目
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