合唱曲とは、楽曲のジャンルの一つである。
広義には「多人数で歌唱する楽曲は全て合唱曲である」と言えるが、当記事では主に戦後の日本における合唱曲について記述する。
概要
合唱の記事も参照。
多くの演奏者が複数の声部に分かれて歌唱する楽曲であり、属性としてはクラシック音楽の系譜に属する。作曲・演奏とも所定の理論や演奏技法に依拠しており、1曲の中でテンポの緩急や拍子の変化がつけられる事や、音量にも強弱(ダイナミクス)がつけられる事が多い。また演奏する際は合唱の発声法によって演奏しないと奇妙な違和感が生じる。いわゆる「パチソン」を聞いた時に感じるコレジャナイ感が近いかもしれない。
吹奏楽曲もそうであるが、合唱曲も「聞くための曲」である以上に「演奏するための曲」という面がある。全国規模の合唱コンクールで演奏された曲の中には、しばしば翌年のコンクールで複数の演奏団体が取り上げ、さらにその演奏に刺激を受けたより多くの演奏団体が演奏する…といった経緯で知名度と演奏頻度が上がる現象が生じる。こうした「自分たちも演奏したい」という気にさせ、実際に頻繁に演奏される楽曲が、合唱曲における「ヒット曲」であると言える。
日本の音楽教育においては、すべての学校に高価な楽器を揃えることは叶わず、必然的に「歌」を主軸としたカリキュラムを組んでいた。加えてクラス内で平等に音楽を奏でてもらうのに「合唱曲」は都合がよく、結果として多くの人が小学校~中学校の期間にそれなりの合唱曲を演奏した経験を持つにいたる。もちろん地域による偏りは大きく、中には器楽ばっかりやってきたという人もいるであろう。しかしまるで合唱曲に縁がなかったという人は少なく、ゆえに著名な合唱曲は演奏体験を不特定多数が共有することが可能になる。一方で合唱曲にも「流行り廃り」の影響は及ぶもので、ある世代にとっての定番曲が、後の世代では廃れてしまい、演奏体験をまるで共有できない事態もしばしば生じる。学校では指導者(担任や音楽教師)の好みに伴う影響も大きい。もちろん世代を超えて共感される楽曲も存在するのだが。
演奏形態
声部は2~4パートに別れた楽曲が多く、一般的には声部が多い楽曲は難易度が高くなる。
- 混声合唱
- 男女による合唱。女声2パート・男声2パートによる混声四部合唱がポピュラーであるが、変声期にある中学生男子に配慮し男声1パートとした混声三部合唱も多数の楽曲がある。
- 男声合唱
- 個別記事も参照。男声4パートによる男声四部合唱がポピュラー。原則的に変声期を経過した男性により歌唱される。
- 女声合唱
- 女声3~4パートによる女声三部・女声四部の楽曲がともに多い。たまに同声合唱曲を演奏することがある。
- 同声合唱
- 少年少女/児童合唱とも。変声前の児童(男女問わず)による合唱で、2~3パートによる二部合唱・三部合唱の楽曲が多い。
作曲者はそれぞれの声で歌われる演奏効果を考えて作曲しており、混声のために作られた楽曲は、そのままでは男声・女声の演奏には適さないことが多い。一方でNコン(NHK全国学校音楽コンクール)高等学校の部の課題曲は、同一楽曲を混声・男声・女声の演奏に対応して編曲しているが、楽曲によっては違和感が生じる事例もなくはない。
楽曲によっては男声と同声などを混ぜたり掛け合いさせたりすることもある。また独唱を交えたり掛け声や手拍子が入ることもある。
合唱のみの無伴奏曲(ア・カペラ)こそ合唱曲の神髄と考える人も少なくないが、実際にはピアノによる伴奏の付いた楽曲が多数である。また「第九」や「大地讃頌(原曲)」など管弦楽と協奏する楽曲も見られるが、大勢の演奏者と広い会場が必要であり、演奏できる機会はどうしても限られる。
演奏機会
- 演奏会(コンサート)
- 合唱を演奏する団体(合唱団)が開催する。2~3の団体による合同演奏会の場合もある。1回の演奏会で3~4ステージ、1ステージ15~20分くらいの長さで構成され、新しい楽曲の披露も時折行われる。
- 合唱祭
- 地域の統括団体が主催し、多くの団体が参加する演奏会で、特に演奏について評価をおこなわないもの。参加団体による合同演奏をおこなうこともある。
- コンクール
- Nコンや全日本合唱コンクール、こども音楽コンクールなどの全国規模のものがあり、秋から冬にかけて行われる。演奏人数の制限や楽曲の演奏時間制限などの規定が存在する。
多くの人が経験するのは中学校(一部高等学校)で催される校内合唱コンクールであろう。
各団体はこうした演奏機会に向けて選曲し練習を積み重ね、演奏の完成度を高めていく。もっとも各団体とも演奏機会に関わらず演奏できる楽曲レパートリーを持っているものである。
楽曲に関する分類
演奏機会上の分類
- 単独曲
- 文字通り他の楽曲と特につながりを持たない楽曲。
- 組曲
- あるテーマのもとに制作された複数の楽曲からなる。作詞者も同一であることが多いが、複数の作詞者が名を連ねることもある。建前としては演奏会で一括演奏すべき楽曲だが、コンクール等では組曲内の一曲がしばしば単独で演奏される。
ふわっとした分類
- 定番曲
- 音楽の授業などで練習したり、団体で発声練習代わりに歌われたりする楽曲。コンクールの審査時間中に自然発生的に演奏されたりするが、コンクールにはめったに採用されない。歌謡曲やポップス・フォークソングの合唱編曲版も多くはここに含まれる。
- 卒業式用楽曲
- 「巣立ちの歌」「旅立ちの日に」などで、定番曲以上の知名度がある。但し地域差・世代差は大きいし、コンクールは勿論、演奏会でも企画ステージを組まなければ演奏されない。
- 演奏会用楽曲
- 演奏会・コンクールで演奏される難易度の高い楽曲…といっても演奏者の主観と流行に左右されやすい。「プロ向け」のつもりで制作された楽曲を、何年かしたら(演奏技術の高い)中学生が演奏する…という事例は多く、そのことで難易度が低く見られがちになる。
主な邦人作曲家
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ニコニコ動画における合唱曲
ニコニコに限った話ではないが、「合唱曲」のアップはそれなりに多い。一方で合唱曲を検索していると、次のようなジレンマを感じることがあるのではなかろうか。
- オムニバスとして複数の楽曲を合わせた投稿が多い→単独の曲をサーチしにくい
- 定番曲の割合が圧倒的に高い→知名度の低い曲は無いか、あっても再生数が少ない
- 探していた曲にたどり着いた!→なぜかオレが昔歌ったのと違う…(後述の「同題異曲」も参照)
…合唱曲は昔から音源化されない。されても定番曲・有名曲ばかりだし、そもそも取扱いのあるレコード店が極端に少ない。かえってヤマハなどの楽器店のほうがよっぽど手に入れやすい…。だから動画サイトで合唱曲を聞けるのは十分ありがたいことである…でも唐突に削除されたりする…。
付記
- 合唱曲は基本的に「詞先」で制作される。詞は楽曲発注時に書き下ろされる場合と、作曲家がすでに世に出ている詩集などから詞を選ぶ場合がある。一方で作曲家自身が詞を書く事例も近年増えつつある。
- 合唱曲は時々、一度世に出た楽曲の改訂・編曲がおこなわれる。「若い翼は」や「青葉の歌」なども複数回改訂され、世代によって記憶しているパートが違う、といったことがしばしば生じている。難易度調整の為に移調したり、混声四部→混声三部への編曲なども日常的におこなわれる。
同題異曲
合唱曲に限らないが、しばしば同じタイトルなのに全く違う楽曲が複数存在するが、特に合唱曲で特徴的なのは「テキスト(作詞)が同じで作曲者が異なる」楽曲であろう。前述の「作曲家が詩集などから詞を選ぶ」場合、人気の詩に複数の作曲家が作曲することが珍しくないためである。同題異曲は多くの場合、知名度・人気に差が生じてしまい、自分が歌った楽曲をまわりが知らなかったり、検索しても情報が得られなかったりする。
- 「名づけられた葉」は加賀清孝版と飯沼信義版があり、珍しくどちらも知名度が高い。
- 「風になれ」は川口真版と小六禮次郎版があるが、作詞が同じ藤公之介であるにも関わらず、歌詞が異なっている。
- 「風になりたい」はいまやTHE BOOMの曲であろうが、合唱曲でも歴史ある磯部俶版とNコン課題曲の寺嶋陸也版があり、こちらは詞も異なる別の楽曲である。更にTHE BOOM版も合唱編曲されてよく演奏されており、より注意が必要である。
- 谷川俊太郎の詩は作曲家の好物と見え、同じ詩を3人以上の作曲家が事実上の競作をする事例が複数生じている。…でも「そのひとがうたうとき」あたりは木下牧子版や松下耕版は知名度高いけど、青島広志版は知られてないよなぁ…。
関連動画
関連項目
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