同人とは、同好の士。同じ趣味や興味・関心、志をもつ人のこと。
同じ趣味を持つ仲間同士での小規模な創作活動を行い、同じく仲間に向けて小規模な発表活動を行う人々である。
概要
かつて文芸作家達が、同じ志を持った仲間内で集まり、自主制作で文芸誌を制作した。これが同人グループによるいわゆる「同人誌」の始まりである。同人誌は、同人の手によって制作され、それを読むのも同人であった。つまり、同じ志を持ったもの同士が、出版社や大衆の趣向に縛られることなく、仲間同士で楽しむために発表活動を行ったのが同人である。文学のみならず、書道や美術の世界でも同人活動が行われた。
戦後には漫画を主体とした同人誌が登場、これらは1970年代にはコミックマーケット等の同人誌即売会が開催されるまでになる。やがて、漫画・アニメ・ゲームの二次創作を中心としてどんどん規模が大きくなり、同人ゲームや同人音楽、同人グッズなど様々な同人活動が行われていき、近年ではサブカルチャーの一翼を担う存在となった。
現代では漫画・アニメ・ゲームなどのサブカルチャーのイメージが強い同人であるが、今でも文学や芸術の同人誌も存在している。
文学の同人
尾崎紅葉、山田美妙らが中心となって制作された文芸誌、「我楽多文庫」が日本初の文学同人誌と言われている。
当時は同じ思想を持つ者同士が集まって小説や詩、短歌などを制作、掲載していた。また俳句や短歌、詩の専門同人誌も発行され、有名なものに国語の教科書でも習う「アララギ」や「ホトトギス」が存在する。
漫画・アニメ・ゲームの同人
漫画・アニメ・ゲームなどの同人作品も一般の商業ルートには流れず、これらは同人誌即売会(コミックマーケット等)や、委託販売を行うショップ(とらのあな等)、各サークルが個人で行う通信販売などでのみ入手できる。印刷代等が安くなり、個人で創作活動を行うものも増えた。これら同人活動を行う個人、またはグループのことを「サークル」と呼称する。個人の場合はとくに「個人サークル」と呼ばれる。
同人誌即売会では、実際に作家本人と対面して作品を受け取れる場合が多く、コミュニケーションの場としても機能している。また、「同人イベントは金銭的利益を目的としているわけではない」という志から、販売ではなく「頒布」という言葉が使われる傾向にある。同様の理由で本を買いに来る側もお客ではなく「一般参加者」であり、皆でイベントを作り上げていくものであるという考え方が広まっている(ただし、法律上は紛れもなく売買契約が成立しているということは理解しておくべきである。)。即売会ではこれら同人作品の頒布のほか、キャラクターのコスチュームを身に纏うコスプレも流行している。
二次創作とオリジナル
漫画・アニメ・ゲームの同人作品には、流行の作品(少年漫画、商業ゲームなど)の非公式二次創作が多い。これら版権作品の二次創作には著作権上の問題が付いて回るが、原著作権者によって建前上二次利用を禁止されてはいても一般商業ルートに乗らない同人活動は黙認されているというのが現状での多勢である。
しかしまれにではあるが、二次創作同人誌を頒布したために原著作権者とのトラブルに発展し、裁判や刑事罰にまで発展した例もあるのも事実である。そうした状況を踏まえてか、最近ではガイドラインを定めて著作物の二次利用を許諾している著作権者も存在しており、二次創作同人ジャンルにおける一つの潮流となっている。
その一方で、オリジナル作品を製作する同人サークルも多数存在する。有名なオリジナル同人作品としては、2000年代に登場した「東方Project」「ひぐらしのなく頃に」「月姫」があり、これらは同人作品でありながら、さらに二次創作が数多く作られ三大同人ゲームと呼ばれた。
同人での成功と商業化
同人で人気が出ると商業化(同人から脱し、企業等を立ち上げて再出発)する事もある。「月姫」を製作した同人サークル「TYPE-MOON」は商業ブランドとなり、新しい作品を多数発表して商業でも成功を収めた。「ひぐらしのなく頃に」はアニメ化、コミカライズなど多方面へと展開した。この他にも、同人活動からスタートして漫画家やイラストレーターになる者も多数存在する。出版社など企業の側でも、新規人材発掘や人脈確保のために同人誌や同人誌即売会を利用することも少なくなく、一種の営業活動が成立している面もある。
また逆のパターンとして、プロの作家(漫画家・イラストレーター・アニメーター・ラノベ作家・ゲームクリエイター等)が自由な作品発表の場を求め、仕事とは別の自身の個人製作や二次創作で同人に参加することも増えている。
よくある誤解
同人=エロ・二次創作?
メディアでの取り上げ方などにより、「同人=(特に男性向け)エロ漫画」や「同人=版権作品の二次創作」としばしば勘違いされる向きがある。しかしあくまでも一ジャンルとしてエロや二次創作コンテンツが存在しているだけであり、常に主体ではあるとは限らない。例えばコミックマーケット準備会調査報告(C81のアンケート)によれば、成人向け作品を頒布するサークルは全体の4割未満、それも男性向けより女性向けのほうが多いと報告されている。
また、完全オリジナル作品も一定数存在しており、その他にもありとあらゆるジャンルが存在するのが同人の世界である。大規模な同人イベントだと本当に扱うジャンルが広く、例えばミリタリー、車、電子工作、評論、あるいは自作の石鹸などまで多種多様なジャンルが存在している。
完全オリジナル作品しか取り扱っていない同人イベントの中で最大規模に当たる「コミティア」の場合、参加サークル数は毎回3,500~5,000サークル(ビッグサイト東館2~3ホール分程度)にのぼる。さすがにコミケの約35,000サークルと比べると参加サークル数は1ケタ違ってくるものの、これだけでも創作活動を行っている同人サークルが決して少なくないことは容易にわかるであろう。
同人=儲かる?
同人活動で成功し大量の頒布部数で高い収入を得ている者も一部存在するが、基本的には個人の趣味・ファン活動の範疇での製作販売であり、ごく小規模な販売円環である。少量を販売し、小額の販売益を得て、次回制作費に充てる程度が一般的とされる。
再びコミックマーケットのアンケートを例に挙げると、6割のサークルは赤字という報告が出ている。逆に言うと4割が黒字ということになるが、どのラインを黒字としているのかはアンケートからは読み取れず、制作費やイベント参加費などを総合して考えれば黒字が出ているサークルはさらに少ない可能性もある。頒布部数についても、全体の半数のサークルが100部未満の頒布数であり、3000部以上を頒布するサークルは全体の1%程度である。これら一部のサークルが委託販売なども含め相応の利益を上げていることは事実としても、全体的に見れば同人活動はそれほど儲かるようなものではない。
なお、サラリーマンなど給与所得者の場合黒字の額が年間20万円、他に仕事がない者の場合でも黒字の額が年間38万円を超えると確定申告が必要となる場合がある。それだけでなく、兼業禁止の職場で勤める者が前述のような黒字を出してしまうと勤務先から「兼業行為(=趣味の範疇を超える活動)ではないか?」と疑われたリ、親の扶養から外れてしまい税負担が増えてしまうなどの恐れが出てくるので注意が必要である。「自分は儲かっていない」と思っていても、自分のサークルの売上やかかった経費などを記録し、領収書などをきちんと保存しておくことが望ましい。
関連項目
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