器物損壊罪とは、他人の所有物を損壊する犯罪である。この場合の「所有物」には生物も含まれる。
現在の日本国では刑法第二百六十一条(器物損壊等)で定義されている。他国にも類似の法令は存在する。
概要
前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
この条や、この条が属する章(第四十章 毀棄及び隠匿の罪)には未遂を罰する規定はないため、未遂の場合は罪に問わない。
同じく過失を罰する規定も無いため、故意でなく過失による場合は罪に問わない。
この犯罪は親告罪であり、この犯罪の被害を受けた側が加害側を告訴する必要がある。
なお、この条文はあくまで「刑法」の条文であり、民事とは別問題である。損壊したものの価値に対する賠償の要否やその金額などについては民事での争点となる。
「前三条」
条文にある「前三条」について解説すると、刑法第二百五十八条(公用文書等毀棄)では「公務所の用に供する文書又は電磁的記録」、刑法第二百五十九条(私用文書等毀棄)では「権利又は義務に関する他人の文書又は電磁的記録」、刑法第二百六十条(建造物等損壊及び同致死傷)では「他人の建造物又は艦船」の毀棄または損壊について記載されている。
つまりこれら「公用文書・権利または義務に関する私用文書・建造物又は艦船」の損壊案件については器物損壊罪とは別の法律によって裁かれることになる。
さらに、放火や失火や爆破または出水で損壊した場合も、刑法第九章(放火及び失火の罪)や刑法第十章 (出水及び水利に関する罪)に列挙された条文によって、さらに重い罪に問われることになる。
自分の所有物を損壊した場合
刑法第二百六十一条(器物損壊等)では、条文に「他人の」と明記されているため、自分の所有物を損壊してもこの法律違反には問われない。
とも規定されている。
生物の傷害について
条文で「損壊」だけではなく「又は傷害」とされている部分は、この法律の対象が物品だけではなく他人が私有する生物も含むためと思われる。
なお動物の傷害については「動物の愛護及び管理に関する法律」の第四十四条でも定義されている。
第四十四条 愛護動物をみだりに殺し、又は傷つけた者は、二年以下の懲役又は二百万円以下の罰金に処する。
(中略)
4 前三項において「愛護動物」とは、次の各号に掲げる動物をいう。
「自分が所有する動物の傷害」については器物損壊罪には問えないが、その動物が「愛護動物」の範囲に入る生物だった場合は「動物の愛護及び管理に関する法律」によって裁かれることになる。
電磁的記録が対象となるか否か
この「器物損壊罪」の対象に電磁的記録が含まれるのか否かについては条文を見るのみでは解釈しづらいが、専門家の意見などを見るに「含まれない」とする意見が多い。
上記のように第二百五十八条(公用文書等毀棄)や刑法第二百五十九条(私用文書等毀棄)では「電磁的記録」も含むと明記してあるが、刑法第二百六十一条(器物損壊等)ではそうではない。条文に含まれる「他人の物」には「電磁的記録」は含まれないと解釈する専門家が多いようだ。
ただし、
- 破壊した電磁的記録が公用文書や、権利又は義務に関する私用文書だった場合 → 第二百五十八条(公用文書等毀棄)や、刑法第二百五十九条(私用文書等毀棄)
- コンピューターウイルスなどを使用して他人の電磁的記録を破壊した場合 → 刑法第百六十八条の二(不正指令電磁的記録作成等)
- 破壊した電磁的記録が業務に使用するものだった場合 → 刑法第二百三十四条の二(電子計算機損壊等業務妨害)
- 電磁的記録を破壊するために、不正アクセスを行った場合 → 不正アクセス行為の禁止等に関する法律
などの別の法律で裁かれることになる。
関連動画
この動画に登場する少年は「嘘のウラ技で騙し、ゲームのセーブデータを破壊した」相手に対して、器物損壊罪で訴えると憤っている。しかし「ゲームのセーブデータ」は電磁的記録に当たるのだった……。
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関連項目
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