国債恐怖症(government debt phobia)とは、経済に関する言葉である。
概要
定義
国債恐怖症とは、国債発行残高が巨額であることや国債発行残高が増加することに恐怖を感じることをいう。
性質
国債恐怖症は2つに分けられる。1つはある時点での国債発行残高の大きさに恐怖を感じるもので、ストックに対して恐怖を感じるものである。もう1つはある期間の国債発行残高の増加幅の大きさに恐怖を感じるもので、フローに対して恐怖を感じるものである。
2024年現在の日本は国債発行残高が巨額であり、プライマリーバランスが赤字であるので国債発行残高が順調に増加している。このため国債恐怖症が2種類とも発症しやすい国である。
症状
国債恐怖症には様々な症状があるので、本記事の『国債恐怖症の症状』の項目で列挙する。
治療法
国債恐怖症にはいくつかの治療法があるので、本記事の『国債恐怖症の治療法』の項目で列挙する。
自ら進んで国債恐怖症に感染する者
国債恐怖症の感染者には、自ら進んで感染する者がいる。
「政府が国債発行残高を増加させる政策を実行すると自らの損失になるため、他者の国債恐怖症を上手に刺激するプロパガンダを発して、国債発行残高を増加させる政策に反対する世論を作り上げたい」という政治的な欲求を持つ者がいる。
そういう者は、より巧妙にプロパガンダを行う目的で、自ら進んで国債恐怖症に感染することが多い。
たとえば税引後当期純利益を増やすことを目指す株主資本主義者がいる。政府がプライマリーバランスを赤字にして積極財政をすることは、クラウディングアウトを発生させて実質利子率を上昇させて借り入れの費用を増やして企業の税引後当期純利益を減らすので、株主資本主義者にとって実に忌まわしい政策である。そこで株主資本主義者は自ら進んで国債恐怖症に感染し、国債発行残高の増加を恐怖する心理を持ちつつ「積極財政をすると国債を返済できなくなって財政破綻する!」と迫真の叫びを行い、他者の国債恐怖症を上手く刺激して、積極財政を阻止しようとする。
国債恐怖症の症状
緊縮財政
緊縮財政を主張する。政府購入を減らし、消費が減るのを承知の上で増税して租税収入を増やし、プライマリーバランスを大幅に黒字化して国債発行残高を減少に転じさせようとする。
緊縮財政にすればクラウディングアウトの逆が発生し、実質利子率が下落し、借り入れの費用が減って企業の税引後当期純利益が増え、株主資本主義者にとって好ましい事態になる。ゆえに国債恐怖症による緊縮財政は株主資本主義者にとって利益になる。
マネタリストになりつつ金融政策を重視して積極財政を軽視する
貨幣数量説に傾倒してマネタリストになり、「中央銀行が金融政策を実行して投資を増やすだけでインフレ率の上昇と景気の活性化が達成できる」と主張し、「積極財政をする必要は無い」と主張する。日本においてリフレ派と自称する論者たちがそうした主張をする傾向にある。
中央銀行の金融政策として量的金融緩和を主張する。この金融政策は短期国債を買いこみ、それでも効果がないのなら長期国債を買いこみ、それでも効果がないのならETF(複数の株式をあわせた金融商品)を買い込むものである。
ETFを買い込む段階になれば株価が中央銀行によって釣り上げられていくので、株主資本主義者にとって好ましい事態になる。ゆえに国債恐怖症による量的金融緩和は株主資本主義者にとって利益になる。
さらに中央銀行の金融政策としてイールドカーブコントロール(長期金利操作)を主張する。この金融政策は利子率が高めの長期国債を買いこんで長期金利を引き下げるものである。政府の発行する国債の中の多くが、長期金利を課せられる長期国債である。長期金利を引き下げることで、政府は新規に国債を発行して利払いをする必要性が減り、国債発行残高が増加する勢いを弱めることができる。
長期金利を引き下げれば、民間企業に対する長期の金利も下がるので、借り入れの費用が減って企業の税引後当期純利益が増え、株主資本主義者にとって好ましい事態になる。ゆえに国債恐怖症によるイールドカーブコントロールは株主資本主義者にとって利益になる。
国有財産の売却
「日本政府には豊富な国有財産がある。それらを売却すれば国債を減らすことができる」と言いながら国有財産を民間企業へ売り飛ばすことを主張する。そして、水道民営化などのインフラ民営化を進める。
こうした国有財産の売却は、政府の大幅な弱体化や、国民生活の水準の低下につながるのだが、それは問題視しない。あくまで国債の発行総額の削減だけを考える。
政府紙幣の発行
国債恐怖症を発症しながら積極財政を実行したがる人は、政府紙幣の発行を提案することがある。「国債を発行せずに済む」というのが口癖である。
実際には、政府紙幣を発行しすぎたときに「政府紙幣を吸い上げることができる金融商品」を政府が発行して市場に売り出す必要がある。
そして「政府紙幣を吸い上げることができる金融商品」というのは、要するに国債なのである。政府紙幣の発行は国債の発行も必要とするのだが、国債恐怖症で判断力が低下しているのか、国債恐怖症の発症者は「政府紙幣を発行すれば国債を発行せずに済む」と考える傾向にある。
日銀保有の国債を政府紙幣や硬貨に置き換える
日銀は大量の国債を保有している。2019年9月30日の時点では479兆円の国債が日銀の貸借対照表の資産の部に入っている(資料)。
国債恐怖症の発症者は、日銀保有の479兆円の国債を政府紙幣や「479兆円硬貨1枚」に変換しようとする。国債の発行残高が479兆円減ることに大きな魅力を感じるようである。
実際は、日銀保有の国債は売りオペレーションの道具として重要なものである。政府紙幣や硬貨は全く利子が付かないものなので、売りオペの道具にならない。
日銀保有の国債を政府紙幣や硬貨に置き換えたあとに日銀が売りオペをする必要に迫られたら、日銀は日銀手形を売るという形で売りオペをすることになる。つまり日銀の売りオペの道具が、政府の負債である国債から、日銀の負債である日銀手形に変化する。
そうした状況でも相変わらず政府は国債をおよそ月1回の頻度で国債市場に売り、国債市場で金利を形成する。そうなると国債市場と日銀手形市場の2つで金利が形成されることになり、金融業者はどちらの金利を参考にしたらいいのか迷うことになり、やや不便なことになる。
国債恐怖症の治療法
自国不換銀行券建て国債であることを強調する
日本において国債恐怖症に感染する人は、「日本円は兌換銀行券であり、日本の国債は兌換銀行券建て国債である」という感覚を漠然と抱いている。
「日本円は不換銀行券であり、日本には日銀法第4条という法律があり、日本の国債は自国不換銀行券建て国債である」と教えることで、そうした感覚を除去することができ、国債恐怖症を解消することができる。
先進国で緊縮財政をすると過剰投資が生まれて大不況になることを強調する
国債恐怖症を治療するにはショック療法も有効である。つまり、「国債恐怖症を発症して先進国で緊縮財政をすると大不況になる」と強調し、国債に対する恐怖を大不況に対する恐怖に変換し、そうして国債恐怖症を解消する。
生産設備が十分に存在する先進国で国債恐怖症を発症して緊縮財政をすると、クラウディングアウトの逆となり、過剰投資が発生してバブル景気になり、バブル崩壊となって大量の不良債権が残り、長期にわたる不景気になる。このことは1980年代後半から1990年代前半の日本が経験したことである。
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