国際音声記号 (International Phonetic Alphabet) とは、あらゆる言語の発音の仕方を表記するために国際音声学会が制定した音声記号。略称はIPA。
概要
1888年に最初の版が公開され、その後何度か表記体系の見直しによる文字の増減・修正が行われている。一番新しい記号は2005年に追加された、唇歯はじき音を表す「」である。
記号の多くはラテン文字の小文字、もしくはスモールキャピタルを由来としている。ギリシア文字由来の物も存在するが、ラテン文字と調和するようにデザインが修正された物もある (γ → )。また、これらの文字を反転させたり筆画を加える等して新たな記号を作っている。さらに正確な発音を表記するため、補助記号も使用する。
表記の種類としては、言語上同じ音素とみなされる時は発音が近似する記号で統一して表記する「簡略表記(もしくは音素表記)」と、補助記号を使用して発音の仕方を正確に表記する「精密表記(もしくは音声表記)」の2種類がある。前者は / /、後者は [ ] で記号を括って表記する。
これら二つは単なる厳密さの違いだと誤解されることがあるが、質的に異なるものである。簡略表記では話者自身の「音の認識」を表記するが、精密表記では実際に話者が発する音を表記する。語学的にはどちらにも目を通すことが望ましい。簡略表記のみを見ても、実際にどのような発音をする(ことが多い)か正確に分からず、また精密表記だけを見ても、どのような音の区別をしているか分からない。
精密表記はあまり精密と言えない表記が割りと多く、特に母音記号で顕著である。[a] や [ɑ] という表記で [ä] と発音する(ことが多い)なんてことはよくある。また発音には「揺れ」があるので、信用しすぎず「基本的にこういう発音」ぐらいに留めておこう。
日本における中学校の英語の授業や、英和辞典等で主に使用される「発音記号」は、この国際音声記号の簡略表記に基づいている。
Unicodeでは、ラテン文字やギリシア文字で代用できる記号以外の物がU+0250-02AF、補助記号がU+02B0-02FFおよびU+0300-036Fの位置に収録されている。また、廃止された一部の記号がU+0180-024Fの中にも含まれている。
記号の一覧
各記号が示す音声の名称は、Wikipediaで使用されている見出しに基づいている。
子音 (肺臓気流)
両唇音 | 唇歯音 | 歯音 | 歯茎音 | 後部 歯茎音 |
そり 舌音 |
硬口 蓋音 |
軟口 蓋音 |
口蓋 垂音 |
咽頭音 | 声門音 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
破裂音 | |||||||||||||
鼻音 | |||||||||||||
ふるえ音 | |||||||||||||
はじき音 | |||||||||||||
摩擦音 | |||||||||||||
側面摩擦音 | |||||||||||||
接近音 | |||||||||||||
側面接近音 |
子音 (非肺臓気流)
吸着音 | 入破音 | 放出音 | |||
---|---|---|---|---|---|
両唇音 | 両唇音 | 両唇音 | |||
歯音 | 歯音 | 歯音 | |||
歯茎音 | 硬口蓋音 | 軟口蓋音 | |||
硬口蓋歯茎音 | 軟口蓋音 | 歯茎摩擦音 | |||
歯茎側面音 | 口蓋垂音 |
子音 (その他の記号)
無声両唇軟口蓋摩擦音 | 歯茎硬口蓋摩擦音 | ||
有声両唇軟口蓋接近音 | 歯茎側面はじき音 | ||
有声両唇硬口蓋接近音 | ʃ と x の同時調音? (スウェーデン語のsj音) | ||
無声喉頭蓋摩擦音 | 破擦音および二重調音は、必要なら2つの記号をタイで結んで表してもよい。 |
||
有声喉頭蓋摩擦音 | |||
喉頭蓋破裂音 |
母音
- 記号が2つ並んでいる所は、左側が非円唇、右側が円唇を表す。
前舌 | 中舌 | 後舌 | |||
---|---|---|---|---|---|
狭 | |||||
半狭 | |||||
半広 | |||||
広 |
超分節要素
|
声調と語アクセント
|
補助記号
無声音 | 息もれ声 | 歯音 | |||
有声音 | きしみ声 | 舌尖音 | |||
有気音 | 舌唇音 | 舌端音 | |||
強めの円唇 | 唇音化 | 鼻音化 | |||
弱めの円唇 | 口蓋化 | 鼻腔開放 | |||
前寄り | 軟口蓋化 | 側面開放 | |||
後寄り | 咽頭化 | 開放が聞こえない (内破音) | |||
中舌寄り | 軟口蓋化または咽頭化 | ||||
中央寄り | 上寄り ( = 有声歯茎摩擦音) | ||||
音節主音 | 下寄り ( = 有声両唇接近音) | ||||
音節副音 | 舌根前進 | ||||
R音性 | 舌根後退 |
参考文献
関連動画
関連商品
関連項目
外部リンク
-
IPA: International Phonetic Association- 国際音声学会のサイト。
- The International Phonetic Alphabet (revised to 2005) (PDF) - 全ての記号と補助記号の表。上掲の一覧はこの文書に基づいて作成。
- IPAトップページ - 21世紀COEプログラム 言語運用を基盤とする言語情報学拠点 - 東京外国語大学・大学院総合国際学研究科の研究成果コンテンツの1つ。発音の仕方を音声で聴く事ができる。
- IPA Transcription with SIL Fonts - SIL International - 国際音声記号を収録したフリーフォント「Doulos SIL」「Charis SIL」等を配布している。上掲の文字画像の一部はこのフォントに基づいて作成。
- コンピューターの部屋 - 組版システム「TeX」用の音声記号パッケージ「TIPA」の紹介。
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