地獄八景亡者戯(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)とは、上方落語の演目である。
概要
登場人物らが旅行気分で地獄めぐりをする、ある種SF要素を持った演目。
1時間以上に及ぶ大ネタで、笑いどころも多く人気の高い噺。
ある意味噺家のセンスが問われるため、上方落語界ではこれが演じられたら一人前といわれるほどである。
…のだが、この噺はストーリーがあってないようなものであり、しかも最初に登場した人物はなかったことにされ、後になると別の4人が主役になって暴れまわるという、まるで漫☆画太郎の作品のような支離滅裂なものである。桂吉朝曰く「冗長な部分を削ったら、この噺は数分ほどしか残らなくなる」。
加えてかなり尾籠なネタ(小学生や久米田康治が喜びそうな下ネタ)が多く、名の通り残滓(いわばクソ)のような話である。
また、時事ネタをやたら盛り込んでいるのも特色。これをいかに面白おかしく表現するかという、噺家の高い知識と技量が問われる噺でもある。
話の途中の地獄めぐりの部分で、鬼籍に入られた噺家や芸能人が登場するが、「〇〇〇〇、近日公演」と自分の名前をメタネタに盛り込むのもお約束である(さすがに桂吉朝だけは、そのネタを採用しなかった)。
この噺の起源は天保年間にまで遡るが、大昔に廃れて歴史の奥底に眠っていた。
それを発掘して現代に蘇らせたのは、上方文化史の第一人者であった桂米朝である。
あらすじ
物語は前半と後半で大きく分かれる。
鯖の刺身を食ってあたって死んだ男(喜六)が、あの世へ向かう途中で先に亡くなった伊勢屋のご隠居と再会。地獄見物の為に宴席で河豚を食って死んだ若旦那と取り巻きと道連れになり、冥府に向かう。
三途の川では時流に併せて奪衣婆の代わりに茶店の娘が歓待し、渡し守の鬼は九九を使ったダジャレをかまして渡し賃をぼったくり、六道の辻こと「冥土筋」(御堂筋のもじり)に並ぶ寄席や芝居小屋をひやかし(近日公演ネタもこの辺り、宗教ネタが出て来る場合も)閻魔庁に到着。いよいよ閻魔大王のお裁きとなる。
閻魔大王の裁きの結果、医者の甘井羊羹(あまい ようかん)、山伏の螺尾福海(ほらお ふくかい)、軽業師の和屋竹の野良一(わやたけの のらいち)、歯抜き師の松井泉水(まつい せんすい)ら4人が地獄行きを申しつけられる。
ところがこの4人が曲者で、熱湯の釜に入れられると山伏が呪文を唱えて適温に変えて温泉を満喫、針の山では軽業師が3人を抱えてヒョイヒョイと踏破して物見遊山。大きな鬼・人呑鬼(じんどんき)に食わせようとすると歯抜き師が歯を治療すると嘘をついて、軒並み牙を引っこ抜いてしまった。
怒った人呑鬼は4人を丸飲みにする。だが胃の中にある色々な紐を医者が見つけ、4人はてんでに紐を引っ張って、笑わせたりくしゃみをさせたり屁をこかせたりとやりたい放題。自分をオモチャにされてたまりかねた人呑鬼は、とうとう閻魔大王に泣きついた。
「大王様、もうこの上は、あんたを呑まなしゃあない」
「わしを呑んでいかがいたす」
「大黄(下剤)を呑んで下してしまうんや」
なお桂枝雀のサゲは
人呑鬼の腹の中で好き放題暴れた四人衆が
「極楽にやってくれたら出たるぞ」と言うのを受けた閻魔大王が
「ああもうしゃあない、解った解った、極楽へやったるわい」
これを聞いた四人が人呑鬼の口から出てきた所を取っ捕まえた閻魔大王、
「アホな事言うな、ありゃ計略じゃ」とドヤ顔で言ったとたんに
「わあ、閻魔が嘘つきよった!閻魔が嘘つきよったぞ」
と四人がはやし立て、地獄の鬼が閻魔大王を押さえつけて舌を抜いてしまう
と、解りやすいものとなっている。
その他
米朝の子・小米朝(現・5代目桂米團治)は、2015年3月20日、米朝が亡くなった翌日の公演で本作の前半を演じ、冥土筋のくだりで「桂米朝、本日来演」と、亡き父を噺家らしいやり方で偲んでいる。
なお話の中で米朝は「ここに来るのは100年早いわ!娑婆でもっと修行せい」と一喝し、寄席は笑いと拍手に包まれた。
江戸落語の「地獄めぐり」では、近日来演のくだりで7代目立川談志を登場させ、「あいつまだくたばってなかったのか」というくすぐりを入れるがほぼお約束だった。
本作をベースとした舞台「地獄八景‥浮世百景」では、東野ひろあき脚本・G2演出の下、上方落語の多くの演目が登場する。
関連動画
関連商品
後半部分を絵本にしたもの。
関連コミュニティ
関連項目
- 0
- 0pt