夏競馬とは、文字通り夏に開催される競馬のことである。
本記事では、主に日本の中央競馬における夏開催について記述する。
概要
一口に夏競馬といっても、時代やシチュエーションによって様々な定義が存在するため「これが夏競馬だ」と断言できる基準はない。はっきり言ってしまえば、発言者の数だけ夏競馬は存在するといってもいい。
ただし、大まかに最大公約数的な定義としては、7月上旬から9月上旬にかけての開催を指すことが多いようだ。具体的に2023年のカレンダーを例に取ると、6月4週に宝塚記念が終わって東京・中山・阪神・京都の主要四場での開催が消え、9月2週に中山・阪神開催が再開するまでの期間が相当する。
(工事などの開催日割りの変更で7月8月に主要四場の開催が行われる場合もありえる)[1]
ほかのパターンとしては、
- 夏季開催期間を指す場合 - この場合、6月1週から9月1週までになる。つまり、ダービーの翌週から始まる。競馬関係者にとっての一年はダービーが締めくくりなので、厩舎や騎手などの陣営にとってはこの区切りが最もしっくり来るかもしれない。この夏季開催期間の始まりから、2歳馬のデビューが始まり、夏季開催期間の終わりをもって、3歳未勝利戦がすべて終了する
- サマーシリーズの期間を指す場合 - この場合、6月2週(函館スプリントステークス)から9月2週(セントウルステークス・京成杯オータムハンデキャップ)までになる。このサマーシリーズで力をつけて重賞路線の常連に名を連ねることになる馬は結構多い
などがあるが、一番狭い範囲が先ほどの例年の開催スケジュールで、主要四場(東京・中山・阪神・京都)での開催がない期間になる。
夏競馬の位置付け
競走馬(厩舎・馬主)にとっての夏競馬
元来、馬は寒冷地を原産とする動物である。動物界では人間と並んで発汗による高い体温調節能力を持っているが、それでも暑さは人間以上に苦手なのだ。
特に、気温・湿度が極めて高い日本の夏において、競走馬はその能力を十分に発揮できるとは言いがたく、普段以上に競走による消耗は激しい。このため多くの馬は、この期間はレースへの出走を控えて放牧などを行い、春競馬の疲れを癒して秋の大レースに備えた休養に充てるのが一般的である。
……というのは、GIに無条件で出走できるような実績(賞金)を積んだ一流馬のお話。
彼らが軒並み休養で姿を消す夏場は、GIに手が届かず条件戦や下級オープン戦をウロウロしている馬たちにとっては、重賞を獲ってGI戦線に名乗りを上げる絶好のチャンスなのだ。
とりわけ、身体的な成長期の真っ只中にある3歳馬にとっては、この時期に積む実戦経験の効果は非常に大きい。春のクラシック戦線に間に合わなかったものの、夏場に実戦経験と賞金を積んで秋に台頭してくる3歳馬のことは「夏の上がり馬」と呼ばれ、春に活躍した早熟組を脅かす侮りがたい挑戦者として人気を集めることがある。
また、先述の通り、夏季競馬の終わり=3歳未勝利戦の終了なので、ここまでに勝利を挙げることができなかった中央競馬の競走馬たちは、1勝クラスへ編入され、いつ走れるかわからない[2]状態で戦うこととなる。したがって、夏季競馬の終わりまでに勝利のめどが立たない、もしくは勝利を挙げられなかった競走馬たちのほとんどは、中央競馬を去り、引退もしくは地方競馬への移籍を余儀なくされることとなる。このため、未勝利馬たちにとって、この夏競馬で勝利を挙げることは至上命題となる。
また、夏競馬の中でもとりわけ北海道開催は、海路(青函フェリー)を含む長距離輸送が必須となることもあって直前輸送が利かないため、現地に長期間(時には1ヶ月以上)滞在してレースを使うことになる。自然、調教師が直接馬の面倒を見られる期間は限られるため、代わって現地で馬の面倒を見る調教助手や担当厩務員の調教能力やコンディショニング力が問われることになる。
ファンにとっての夏競馬
良くも悪くも、春秋開催の目玉は主要四場で行われる大レースである。当然、出走してくるのは錚々たる一流馬であり、彼らは数々の実戦経験(=対戦)を通じて力関係がはっきりしており、能力や適性も明らかであることが多い。すなわち、一流の常連馬で馬柱が占められる上位グレードの競走は、傾向として大荒れが少ないのである。
もちろんGIシーズンだろうと平場戦は開催されており、それなりに荒れるレースは存在するが、GIIやGIIIであっても重賞(もしくはそれに準ずるメインレース級の特別戦)とそうでないレースとでは、やはり馬券の販売額に明らかな差が生まれる。結果が荒れたからと言って必ずしも高配当が生まれるとは限らない。
そこで、夏競馬である。
前述の通り、夏競馬の主役となるのは、GIに手が届かず、それどころかオープン特別で入着するのがやっとということも少なくないクラスの馬達である。普段大レースしか買わない層のファンにとっては、名前すら何度聞いたか怪しいような馬達が、メインレースに出走してくるのだ。当然、人気は割れる。
また、この時期の重賞の多くはハンデ戦であるため、条件戦を勝ち上がったばかりのような人気薄の馬が、軽い斤量に物を言わせてそのまま金星を挙げてしまうことも珍しくない。
それだけでなく、一流馬の主戦騎手として主要四場に貼り付いているようなトップジョッキーが、夏開催では地方に遠征して下級条件の馬にスポット騎乗する機会も多い。これもまた、馬の普段の実力以上の結果が飛び出す要因となる。
かくして、この時期の重賞は春や秋のGIシーズンよりも人気薄の馬にチャンスが多く、高配当が出やすい条件が揃っている。穴党ならずとも大当たりを狙えるビッグチャンスなのである。当然、人気薄が勝ちやすいと言うことは予想自体が難しいということでもあるが
一方で、馬券にそれほど拘りのないファンにとっても、この時期の開催は魅力が大きい。
なんと言っても、この時期限定の北海道開催である。小倉や福島や新潟は春や秋にも開催期間があるが、札幌と函館の開催はこの期間しかない。東京などに在住するファンにとっては、遠隔地であり宿泊を伴う遠征が必須となることもあって、ついでに観光やグルメといった楽しみが生まれる(夏休み期間ということも大きい)し、現地在住のファンにとっては、普段テレビの中だけの存在であるトップジョッキーや中央の競走馬を間近で見られる大チャンスである。
このように、ファンにとっての夏競馬とは、普段とはひと味違った競馬の魅力を発見する機会となりうる。
JRA(主催者)にとっての夏競馬
普段ひっきりなしにレースが開催されている主要四場にとって、ある意味休止期間に当たる夏場は馬場の整備に集中できる貴重なシーズンとなる。特に、芝の張り替えのような大整備ができる期間はここしかないと言っていい。秋の開催に備えてきっちり馬場を整える大切な機会なのだ。
夏競馬の主要なレース
- 七夕賞(7月2週福島・芝2000m・GIII)
- 「吼えろツインターボ!」の名実況で知られる中距離のハンデ戦。福島競馬場にとっては年間を通じてもトップクラスの大レースであり、時候ネタに乗せやすいこともあってサイン馬券[3]が乱れ飛ぶことから馬券の売り上げが凄まじいことになる。おまけにサイン馬券が集中すると馬の成績や実力に関係ないオッズが付くことも多く、JRAの重賞の中でも特に荒れやすいレースとして名高い。
- 函館2歳ステークス(7月3週函館・芝1200m・GIII)
- 2歳戦としては最初に開催される重賞。新馬戦をいち早く勝ち上がった早熟組が激突する晴れ舞台だが、実は重賞としては珍しく未勝利馬でも枠さえあれば登録・出走が可能[4]。
一方で、まだ身体能力も経験も未熟で実績も乏しい世代限定戦とあって、毎年波乱が起きることが多く、馬券師にとっては悩ましいレースの一つである。
また、余りにも時期が早いせいか、早熟なだけの馬が巡り合わせや勢いだけで勝ってしまうことも多く、このレースの勝ち馬は大成しにくい傾向がある。 - アイビスサマーダッシュ(7月4週新潟・芝直1000m・GIII)
- サマースプリントの大一番にして、日本唯一の直線コースで開催される重賞。観客ゾーンすれすれの直線外ラチ一杯を、スピード自慢のスプリンター達が全速力で駆け抜ける様は迫力満点。
このレースだけを競馬の楽しみにしているというファン……どころか馬主もいるほどの、コアな人気を誇るレースである。 - 札幌記念(8月3週札幌・芝2000m・GII)
- 夏の北海道開催の総決算とも呼べるレースで、この時期の中央競馬では唯一のGII。
JRAとしても毎年力を入れて演出に努めており、賞金額は国内のGIIで最高額[5]に設定されているほか、負担重量も世代戦やGI以外では珍しい定量である[6]ことから、秋のGI戦線に向けて弾みを付けたい実力馬や、天皇賞(秋)や欧州などへ遠征(凱旋門賞など)を目標に早目の調整を終えた一流馬が参戦して豪華な馬柱が立つことが多く、中山記念や毎日王冠などと並んで国際レーティングが毎回GI基準の115を超えてくるスーパーGIIの筆頭格である。
北海道開催のハイライトとあってスターホースを一目見ようと毎年大勢の観客が押し寄せ、それに応えるべくファンファーレも生演奏される……のだが、いかんせん北海道開催の重賞ファンファーレはJRA屈指の難曲であり、プペペポピーの常連レースとしても知られている。
暑さ対策
先述した通り、馬は暑さに弱いわけで、あまりにも酷暑の中走らせてしまうと、馬の健康を害し、最悪命を奪う結果になりかねない[7]。
さすがにこれに対してJRAも手をこまねいているわけではなく、2024年から、7月最終週付近の2週間、札幌と新潟の2場開催の期間に関して、新潟競馬場開催のレースについて、第5レース終了後、競馬開催を一時的に休むようにしている。
これに伴い、メインレースが通常の第11レースではなく[8]、第7レースに変わっている。
具体的に、アイビスサマーダッシュが実施される、2024年7月28日の開催時刻は以下の通り(カッコ内の数字はその日のレースの開催順序)。
レース番号 | 新潟 | 札幌 |
---|---|---|
1 | 2歳未勝利 9:40(1) |
3歳未勝利 9:50(2) |
2 | 2歳未勝利 10:05(3) |
3歳未勝利 10:20(4) |
3 | 2歳新馬 10:35(5) |
3歳未勝利 10:50(6) |
4 | 2歳新馬 11:05(7) |
3歳未勝利 11:20(8) |
5 | 3歳未勝利 11:35(9) |
2歳新馬 12:20(10) |
6 | 佐渡ステークス (3歳以上3勝クラス) 15:10(16) |
3歳以上1勝クラス 12:40(11) |
7 | アイビスサマーダッシュ(GIII) 15:45(18) |
3歳以上1勝クラス 13:15(12) |
8 | 3歳以上1勝クラス 16:20(20) |
3歳以上1勝クラス 13:50(13) |
9 | 3歳未勝利 16:50(21) |
阿寒湖特別 (3歳以上2勝クラス) 14:25(14) |
10 | 3歳未勝利 17:20(22) |
ポプラステークス (3歳以上3勝クラス) 15:00(15) |
11 | 3歳以上1勝クラス 17:50(23) |
クイーンステークス(GIII) 15:35(17) |
12 | 麒麟山特別 (3歳以上2勝クラス) 18:25(24) |
3歳以上2勝クラス 16:10(19) |
このように、夏季競馬で遅い時間に競馬が可能な理由としては、夏なので日没時刻が遅いことがあげられる。
関連動画
関連静画
関連リンク
関連項目
脚注
- *例えば通常7月の福島開催は2011年においては、七夕賞などを含めて中山競馬場で行われた。
- *出走順位において、未勝利馬は収得賞金がある馬に劣後するため
- *具体的には枠連7-7。競馬ファンにとっては夏の風物詩的な縁起物の一つである
- *なお、他の夏季開催の2歳GIII(新潟2歳ステークス・札幌2歳ステークス・小倉2歳ステークス)も同様
- *2024年現在、1着本賞金7000万円
- *ほかに定量のGIIは12月に実施される阪神カップ(基本は阪神・芝1400m)がある。こちらも短距離のGIIとしては破格の本賞金であり、2024年現在、中長距離のGI(大阪杯・天皇賞(春)・天皇賞(秋))のステップレース(中山記念・金鯱賞・阪神大賞典・日経賞・オールカマー・毎日王冠・京都大賞典)と同額の1着6700万円
- *というか、走らせなくても死ぬことがある。放牧中に熱中症で命を落とした馬として、アスクビクターモアがいる
- *なお、ほかの季節でもメインレースが必ずしも第11レースとは限らない。ジャパンカップの日は、基本的にメインレースが第12レースになる
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