外発的動機付けとは、人に一定の行動をさせる方法の1つである。類義語はインセンティブであり、反対語は内発的動機付けである。
概要
定義
外発的動機付けとは、人に対して賞賛・非難・報酬・罰金というような外部からの刺激を与えて人に一定の行動をさせることである。
ある行動をする者に対して賞賛して名誉を与えたり報酬を与えて財産を与えたりすることでその行動を推奨することを正の外発的動機付けという。
ある行動をする者に対して非難して名誉を剥奪したり罰金を課して財産を剥奪したりすることでその行動をやめさせることを負の外発的動機付けという。
性質
外発的動機付けで頻繁に行われる刺激は、賞賛・非難・報酬・罰金の4つである。この中で賞賛と非難は名誉に関する行動で、報酬と罰金は財産に関する行動である。
刑法や民法など様々な法律で人の名誉と財産が保護されていることから、「名誉と財産は人にとって非常に重要なものである」と言える。
このため「外発的動機付けというのは、人にとって非常に重要なものを操作する行為であり、かなり荒っぽく大胆な行動である」ということができる。
正の外発的動機付け
定義
ある行動をする者に対して賞賛して名誉を与えたり報酬を与えて財産を与えたりすることでその行動を推奨することを正の外発的動機付けという。
例
政府がある行動を取った者に対して表彰状を与えたり報奨金を給付したりすることは正の外発的動機付けの代表例である。
成果主義という経営思想がある。労働者が生み出した成果を客観的に計測して数量化しつつその数量に応じて労働者へ報酬を与えようという思想であり、報酬を与えることで労働者に正の外発的動機付けを掛けて労働者が成果を生み出す行動をするように誘導しようという思想である。
能力主義という経営思想がある。労働者の能力を客観的に計測して数量化しつつその数量に応じて労働者へ報酬を与えようという思想であり、報酬を与えることで労働者に正の外発的動機付けを掛けて労働者が能力を高める行動をするように誘導しようという思想である。
年功主義という経営思想がある。勤続年数に応じて労働者へ報酬を与えようという思想であり、報酬を与えることで労働者に正の外発的動機付けを掛けて労働者が勤続年数を増やすように誘導しようという思想である。
年齢主義という経営思想がある。年齢に応じて労働者へ報酬を与えようという思想であり、報酬を与えることで労働者に正の外発的動機付けを掛けて労働者がしっかり体調を維持して年齢を重ねるように誘導しようという思想である。
労働者は労働三権を行使して労働運動を行い、使用者にベア(ベースアップ)をさせることがある。ベアというのはすべての労働者の賃金の基本給を一律の割合または一定の金額で上昇させることであり、使用者が労働者に対して賃金による外発的動機付けを掛けて労働を奨めることである。つまり労働運動とは正の外発的動機付けを要求する運動である。
負の外発的動機付け
定義
ある行動をする者に対して非難して名誉を剥奪したり罰金を課して財産を剥奪したりすることでその行動をやめさせることを負の外発的動機付けという。
例
国会が罰則付きの法律を議決して行政府がその法律を執行して国民に刑罰を課すことは、負の外発的動機付けの代表例である。
企業が罰則付きの就業規則を制定してその就業規則を執行して労働者に懲戒処分をすることは、負の外発的動機付けの代表例である。
負の外発的動機付けは他者加害原理により制限される
負の外発的動機付けは、他者の名誉と財産に危害を加える行為であり、他者の権利に危害を加える行為である。このため負の外発的動機付けは他者加害原理に基づき入念に制限されねばならない。
政府が負の外発的動機付けの一環として刑罰を課すときは、民主的で正当な手続きを踏みつつ定められた法律に基づかねばならない。このことを罪刑法定主義という。
日本において行政府の首脳である内閣は政令を単独で制定できるが、政令というものは法律の委任がある場合を除き罰則を設けることができない(日本国憲法第73条)。人に刑罰を与えることができるのは法律のみであり(日本国憲法第31条)、その法律を成立させるには国会の議決が必要である(日本国憲法第41条)。国会は全国民を代表する選挙された議員で組織されており(日本国憲法第43条)、つまり、民意を吸収した議員達で構成されている。
また、企業が負の外発的動機付けを行うために就業規則を制定するときは、労働者の過半数で構成される労働組合からの意見を聞くように労働基準法で定められている。常時10人以上の労働者を使用する使用者は、一定の内容を満たす就業規則を作成し、行政官庁に届け出る必要がある(労働基準法第89条)。ただし、労働者の過半数で構成される労働組合の意見を聞いて書面にして行政官庁に提出する必要があり、そうした労働組合がない場合に労働者の過半数を代表する者の意見を聞いて書面にして行政官庁に提出する必要がある(労働基準法第90条)。
「負の外発的動機付けをする」と宣告することは強要罪になり得る
10人以上の正社員がいる企業において、労働基準法第90条に従って過半数の労働者の意見を聞いて慎重に定められた就業規則に基づかず、使用者がその場の気分で「君に対して負の外発的動機付けを行う」と宣告すると、強要罪に問われる可能性がある。
刑法第223条で強要罪が定められており、「一般人が畏怖するような表現でもって本人や親族の生命・身体・自由・名誉・財産へ危害を加えることを告げたり、暴行をしたりして、義務のないことを行わせたり権利の行使を妨害したりしたら、3年以下の懲役に処する」という条文になっている。
10人以上の正社員がいる企業において、就業規則を制定してから「君に対して負の外発的動機付けをする。君が好ましくない行動をしたら懲戒処分して、非難して名誉を剥奪したり罰金を課して財産を剥奪したりする」と宣告したとする。その場合は刑法第35条の「法令又は正当な業務による行為は、罰しない」に該当して刑法第223条で罰せられない。
しかし、10人以上の正社員がいる企業において、就業規則を制定せずに「君に対して負の外発的動機付けをする。君が好ましくない行動をしたら懲戒処分して、非難して名誉を剥奪したり罰金を課して財産を剥奪したりする」と宣告したら、正当な業務ではないので刑法第223条で罰せられる可能性がある。
関連項目
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