夜警国家(英:Night-watchman state)とは、国家のあり方を示す言葉の1つである。
概要
定義
夜警国家とは、政府の役割を「国民の財産・生命・自由・身体などの警備」、具体的には「警察・消防・刑務所運営・入国警備・軍隊のような治安分野」に限定する国家のことである。
小さな政府との比較
夜警国家は小さな政府と同義語のように見えるが、そうとは言い切れない。
小さな政府というのは2つの定義が考えられる。「人員規模や予算規模が小さい政府」という定義1と、「企業の経済活動を規制する権力が小さい政府」という定義2である。
夜警国家は政府の役割を治安部門に限定するので、企業の経済活動を規制する権力が小さい政府になり、小さな政府の定義2に該当する。
しかし、夜警国家でありながら小さな政府の定義1に該当しないことも十分に考えられる。政府の一部門である軍隊の予算と規模を目一杯大きくすれば、夜警国家であると同時に「人員規模や予算規模が大きい政府」の国家になる。
生みの親
夜警国家という言葉を生み出したのはドイツの社会主義者フェルディナント・ラッサールである。自由主義者が「政府というものは国民の私有財産などを警備する機能だけを備えていればいいのであり、経済への介入をする必要はない」と主張していたのに対し、ラッサールが演説の中で「それは夜警国家だ」と批判的に表現したことが始まりである。その演説は『労働者綱領』という1862年の書籍に収録されている。
夜警国家のもともとの表現はドイツ語のNachtwächterstaat(ナハト・ヴェイシュター・スタート)である。これを英語に訳すとNight-watchman stateになる。
特徴
夜警国家というのは、治安部門に属する公務員が多く、治安部門に属さない公務員が少ない国家である。
治安部門に属する公務員というのは、日本を含めてたいていの国で労働三権を否定されている。治安部門に属する公務員は厳しい規律を要求されるので、上司に対して反論する権利を与えられる余地がなく、労働組合を結成する権利を与えられる余地がない。このため治安部門に属する公務員をいくら増やしても、そうした人々が国内の労働運動に参加することがなく、国内の労働運動を活性化させることがない。
一方で治安部門に属さない公務員は、日本を含めてたいていの国で労働三権をある程度肯定されている。治安部門に属さない公務員が労働組合を結成すると、「親方日の丸」「政府は決して倒産しない」という意識が強いので労働運動を強力に行うことが常である。民間企業の労働組合が「労働運動をやり過ぎると倒産してしまう」と尻込みするのに対し、官公庁の労働組合は力強く労働運動を行い、国内の労働運動を引っ張っていく。このため治安部門に属さない公務員を増やすと、そうした人々が国内の労働運動に参加していき、国内の労働運動を活性化させることになる。
このため、夜警国家になれば、国内の労働運動が縮小し、労働三権を軽視する風潮が広がり、労働者の経済的地位が低いままになり、格差社会・階級社会に近づいていく。
階級社会というのは大きな欠点を抱えている。階級社会になると下位階級の人が上位階級の人に対して「あの人は自分とは出来が違う人なので、話しかけづらい」と思うようになり、心理的な壁を感じるようになり、話しかけることを遠慮するようになり、積極的情報提供権(表現の自由)を自ら封印するようになる。そのため階級社会になると、情報の流通が円滑に行われない国家になり、欠点を指摘する気風が衰えた国家になり、「見て見ぬ振り」「知らぬ存ぜぬ」「知ったことか」という態度の人が多い国家になり、社会の闇がいつまでも温存される国家になり、発展せずに停滞する国家になる。
支持者の傾向
夜警国家を支持する人は、労働三権を重視せず、労働者の社会的・経済的地位を向上させることを重視せず、使用者(企業経営者や株主)と労働者の経済格差を縮小させることを重視せず、平等社会・無階級社会を嫌い、格差社会・階級社会を肯定し、労働運動の高まりを嫌い、労働組合を嫌う傾向にある。
また夜警国家を支持する人は、労働者が労働三権を主張するときに「自由及び権利には責任及び義務が伴う」と言って労働者が労働三権を行使しないように仕向けようとする傾向も見られる。
支持者
アメリカ合衆国の共和党には、夜警国家を支持する人が多く見られる。
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関連リンク
- 夜警国家 コトバンク記事
- 自由主義国家論 日本語版Wikipedia記事
- Night-watchman_state 英語版Wikipedia記事
- Nachtwächterstaat ドイツ語版Wikipedia記事
関連項目
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