大動脈解離とは、その名の通り大動脈が解離を起こして様々な症状をきたす疾患である。
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概要
動脈は内膜・中膜・外膜の3層構造となっているのだが、中膜が何らかの理由で脆弱化しているところで内膜が破れて、中膜の部分に血液が流れ込むと、圧力(=血圧)によって中膜が引き裂かれていき内膜と外膜の間に間隙が生じてしまう。このことを動脈解離と呼ぶ。この動脈解離自体は全身の動脈で発生する可能性があるが、大動脈で発生したものを大動脈解離と呼ぶ。
発症のリスクが高いとされているのは男性、高齢者、高血圧患者などである。また、マルファン症候群などの特定の先天性疾患も、大動脈の中膜が脆弱化しやすくなるなどの理由から発症のリスクが高い。
アメリカにおける研究では、白人よりも黒人の方が特定の分類の大動脈解離の発症率が高かったと報告しているものがある[1]。その理由は、研究当時のアメリカにおいて上記のようなリスク因子のうちのいくつかが統計的に白人より黒人において多かったことを反映したものではないか、と考察されているようだ。
1990年代から2010年代にかけての国内外からの複数の報告によれば、急性大動脈解離の年間発症率は10万人当たり数人~10人程度であるとされる。大動脈解離は大動脈破裂などによる突然死の原因となりうる。[2]
症状
大動脈解離が起こると解離が起こった部位に激しい痛みが生じるほか、解離が起こった部位で枝分かれしている血管をふさいで血流が滞ってしまったり、中膜レベルに血液が貯留していくことによって外膜も破綻してしまい、大動脈破裂による大出血を起こしたりすることになる。これにより様々な症状が起こることが大動脈解離の特徴である。
まず基本的なこととして、大動脈は左心室からまず上向きに出て行き、そこからカーブを描いて下方向に向かっていく。上向きに血液が流れていく部分を上行大動脈、カーブの部分を弓部大動脈、下向きに流れていく部分を下行大動脈と呼ぶ。さらに下に行き、横隔膜を貫いて腹部にある大動脈は腹部大動脈と呼ぶ。
上行大動脈に解離が起こった場合、冠動脈への血流が阻害されて心筋梗塞の症状が発生したり、心臓とその周りにある心膜の間に血液が流れ込んで心タンポナーデという状態になったりして突然死する可能性もあり、非常にリスクが高い。弓部大動脈に解離が起こった場合も、脳に向かう血管である総頚動脈の血流が阻害されると脳卒中症状をきたしてしまう。下行大動脈や腹部大動脈で解離を起こした場合も、腸管や腎といった臓器あるいは下肢に向かう血流が阻害されると臓器虚血や下肢虚血が生じて重篤な状態となることがある。
慢性期になると、解離した部位に流れ込んだ血液によって大動脈瘤となってしまうこともある。これは解離性大動脈瘤とも呼ばれる。
診断
まずは胸部X線検査が行われる。胸痛や背部痛を訴えている患者にX線で大動脈が拡張している初見が認められた場合は大動脈瘤が疑われる。確定診断のためにはCT血管造影や経食道心エコー、MRAなどで大動脈が解離している所見を確認する必要がある。
治療
まず基本として、解離の進行を防ぐために血圧コントロールが行われる。手術を行うかどうかは解離の部位や状態によって判断される。
上行大動脈に解離が起こっている場合は、手術を行うのが大原則となる。一方で下行大動脈以下に解離がとどまっている場合は血圧のコントロールや鎮痛剤による疼痛の抑制が基本で、手術を行うのは血行障害がある場合や破裂により大出血を起こすリスクがある場合に限られる。
罹患した著名人
関連商品
関連リンク
- 大動脈解離 - 06. 心臓と血管の病気 - MSDマニュアル家庭版
- ガイドラインシリーズ | 一般社団法人 日本循環器学会 (「大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン」を参照)
- 急性大動脈スーパーネットワーク|東京都CCU連絡協議会
関連項目
脚注
- *Ethnic disparities in outcomes of patients with complicated type B aortic dissection - Journal of Vascular Surgery, Volume 68, ISSUE 1, P36-45, July 01, 2018
- *「関連リンク」内、「大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン」より
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