大姫(おおひめ、1178?~1197)とは、源頼朝と北条政子の間に生まれた、平安時代末期~鎌倉時代初期の女性。
源平合戦における悲劇のヒロインの一人として知られている。なお、大姫という呼称は長女を表すものであり、実名はわかっていない。
概要
悲劇の序章
源頼朝が挙兵前に流人生活を送っていた頃に、北条政子との間に生まれた第一子である。この数年前、頼朝は当時の監視役だった伊東祐親の娘・八重姫との間に男児がいたが、平家の怒りを恐れた祐親によってその子は殺されている。頼朝自身も命の危険に瀕した結果、北条時政の元へ逃れてそこで政子と出会って恋仲になって子をもうけたというのが最新の学説のようである。こうして生まれたのが大姫であり、女子だったからこそ殺されることもなく、頼朝と政子は父・北条時政の許しを得て夫婦になったと考えられる。
1180年、頼朝は以仁王の令旨に応じて挙兵し、石橋山の敗戦で幼い大姫は母・政子と共に伊豆の山中に逃れたが、やがて頼朝は大勢の味方軍軍を率いて鎌倉に入ると、政子大姫母子も鎌倉入りして再開を果たした。2年後、弟・万寿(源頼家)が誕生する。
義高無惨
1183年、源行家や志田義広を匿ったことで頼朝との関係が悪化していた木曽義仲は、頼朝との仲を改善するために子の木曽義高を大姫の許嫁という名目で頼朝の元へ送った。その実態は、頼朝への人質である。ところがここで思わぬ事態が起こる。なんと大姫が義高に恋い慕ってしまったのである。それでも当初は、二人の仲睦まじい様子を見て、政子はこのまま二人が将来夫婦になれば良いと思う位であった。だが、その幸福な日々も長くは続かなかった。
翌1184年、先に上洛していた木曽義仲は後白河法皇と対立してこれを幽閉、頼朝の元に義仲追討の令旨が下り、宇治川の戦いで源範頼・源義経兄弟に敗れた義仲は討ち死。これによって遺児となった義高は、頼朝にとって用済みどころか反対勢力が担ぎ上げる危険節と化しており、遂に義高の粛正を決意。これを知った大姫は侍女と共に、父が義高の命を狙っていることを知らせ、密かに逃げるよう伝えた。義高は女装して北へ落ち延びるもむなしく、頼朝の追っ手によって惨殺された。この時、数え年で義高12歳、大姫7歳。義高の最期を知った大姫は悲しみのあまり倒れ、食事も水も喉に通らないほど衰弱してしまう。政子は頼朝に詰め寄り、義高を討ち取った下手人の郎党を処刑させたが、そんなことで大姫の悲しみが癒える訳も無かった。
薄幸の生涯
その後も病に伏す日々が続いた大姫だったが、2年後の1186年、頼朝と対立して追われる身となった義経の愛妾・静御前が捕らえられて鎌倉に送られる。大姫と静御前は、大姫の病気が治るようにお参りした際に対面したとあり、後に静御前が赦された京に戻る際には政子と共に、餞別を与えて彼女を見送ったという。静御前との出会いは、傷心の大姫にとって少しでも慰めになったと思われるが、その静自身も鎌倉で産んだ義経との男子を頼朝に殺されており、それを知った時の大姫の心中いかばかりだったか計り知れない。
1194年、頼朝は朝廷とも深い繋がりを持つ義兄一条能保の子・高能と大姫の婚儀を進めようとしたが、義高のことを一日たりとも忘れたことも無い大姫は激しく拒絶。婚儀を強行するなら自害すると言い放ち、この婚儀は白紙化する。
ならば帝の后にさせることが、鎌倉幕府の朝廷への影響力増加だけでなく、大姫の栄誉と幸せになると考えた頼朝は、後鳥羽天皇への入内を画策し、翌1195年に政子や病が小康状態にあった大姫ら子供を連れて上洛。頼朝は征夷大将軍就任など、それまで頼朝に力を尽くした九条兼実を切り捨ててまで、その政敵である土御門通親と後白河法皇の愛妾・丹後局に接近し、大姫の入内工作を図るが、大姫にとってはもはやどうでもいいことであった。
1197年、義高を失ってから十年来ずっと病状にあった大姫は、もはや生きる気力も希望もとうの昔に消え失せ、その命も尽きようとしていた。頼朝・政子の平癒祈願もむなしく、哀れ大姫は義高の元へ逝けることを喜びながら、20年足らずの短い生涯を閉じることとなった。これにより、頼朝の入内工作は頓挫し、次女の三幡姫を代わりに送ろうとしたが、その矢先に頼朝が落馬事故が原因で急死、それから半年も経たずに三幡も病死。大姫の死は、頼朝とその子供達の悲劇の始まりとなったのである。
物語で描かれる大姫
平家物語などの源平物でも取り上げられることが少ないため、マイナーな人物でもあるが、北条政子を主人公にした作品などで大姫の悲恋が描かれることが多い。大河ドラマでは、1979年の「草燃える」、2004年の「義経」、2022年の「鎌倉殿の13人」に登場している。
「草燃える」では、幼少期を朝ドラ「鳩子の海」でヒロインの子役時代で人気となった斎藤こず恵、成人後は80年代大河の常連女優であった池上季実子がそれぞれ演じた。脚本を「牡丹と薔薇」などドロドロの愛憎劇に定評がある中島丈博が手がけたこともあり、大姫の悲劇にも大きく物語を割いている。特に、衰弱死する直前に発狂し、義高がいた頃の姿に幼児退行してしまう結末は衝撃的であった。
また、「義経」では今も女優・声優として活動中の野口真緒が演じた。源義経の生涯を描いているために子役時代のみの登場となるが、義高を殺されたショックで、幼くして廃人となってしまう姿はあまりにも痛々しく、記憶に強く残った視聴者も多いと思われる。
鎌倉殿の13人では、義高の最期は主人公・北条義時がよかれと思った行動が裏目に出て悲劇に繋がり、彼が闇堕ちへ進むきっかけとなった部分に焦点が置かれており、大姫の出番は比較的少なめであったが、この後成長した大姫自身の悲劇も丹念に描かれることは間違いないため、本編にも期待したい。
関連項目
- 1
- 0pt