「大魔神」とは、1966年に公開された大映製作の特撮時代劇映画「大魔神」「大魔神怒る」「大魔神逆襲」に登場する埴輪の武人の姿をした巨神「阿羅羯磨(あらかつま)」の事である。
トレードマークは、激怒した際の埴輪然とした無表情から一転、腕で顔を一旦隠す動作の後に現れる憤怒の形相で、映画を知らなくても顔が変わるネタのひとつとして認知度は高い。
その他の「大魔神」の使用例 |
大魔神現る
戦後に大映系で公開されたジュリアン・デュヴィヴィエ監督のチェコスロバキア映画「巨人ゴーレム」をヒントに、日本の民話や伝承そして埴輪の武人像を組み合わせて誕生した勧善懲悪物の特撮時代劇の主人公が阿羅羯磨(あらかつま)こと「大魔神」である。
映画の撮影は、「ガメラ」シリーズの東京大映ではなく、「座頭市」シリーズや「眠狂四郎」シリーズを撮影して時代劇に定評のあった京都大映で行われており、戦国時代におけるパニックムービーとして時代劇映画風のリアリティを持たせる事に成功し、大魔神登場までのストーリーも勧善懲悪な時代劇のフォーマットにそった内容となっている。
外観は、ウルトラシリーズやピープロ特撮での怪獣造型に定評のある現代美術家「高山良策」の手による印象的なシルエットの埴輪武人を模した姿をしている。その最大の特徴でありトレードマークといえる、顔を片手または両手で隠した状態から腕を上げて現れるへの字口に割れアゴをした「憤怒の形相」の怒髪天ぶりは、中の人を演じた橋本力が、撮影中は粉塵の舞う中でもまばたきをしないようにこころがけた為にリアルに目が充血した事から生まれたもので、威嚇による恐怖効果がアップして荒ぶる魔神の神格化に効果を上げた他、大魔神=顔が変わるネタの定着に一役買っている。
※高山良策は、東京大映製作の「ガメラ対バルゴン」にてバルゴンの着ぐるみも担当している。
また、「大魔神」シリーズの特筆すべき点としては、「大魔神」「大魔神怒る」「大魔神逆襲」の三本製作された映画が、全て1966年の1年間で公開されているところであり、基本的なストーリーラインは、悪役により虐げられた民の祈りにより石像が大魔神となるという点は同じながらも、三本の映画それぞれで
と、大自然への畏怖を感じさせる点は共通させながらもシチュエーションの異なる三種類の大魔神を見せており、大魔神のスケールにあわせて製作されたセットやブルーバックを効果的に使用した高度な特撮演出に時代劇の王道なストーリーとあわせて、子供だけでなく大人の鑑賞にも耐えうる娯楽作品として評価をうけ、たった三作ながらもガメラと並ぶ大映特撮の代表格として数えられている。
※セットは、大魔神のスケールにあわせて、瓦の1枚まで1/2.5で統一されているこだわりぶりである。
音楽は伊福部昭が担当して、「神」が主役と言うことから「ゴジラ」とは異なる神秘的で荘厳な楽曲を提供しているが、後に「大魔神」の姿を見た伊福部昭は
魔神といっても神様ですから、神々しいイメージでいたところ、映像を見たら緑色の顔に血走った目玉で睨むようなものだったので驚いた
と述べている。
その後の大魔神
1966年に一挙三作の上映を行って長い休眠期間に入った「大魔神」だったが、1990年代のリメイク企画の際は、結局「平成ガメラ」シリーズが採用され、1988年には無敵の男スティーブン・セガールを主演にした東宝映画として企画が上がり、筒井康隆によるシナリオが2000年に公開される等したが実現せず、大映を合併した角川映画も2003年の「妖怪大戦争」とともに再映画化を準備している事を公表し、三池崇史を監督に迎えて2008年公開を目処に進めたものの実現しなかった。
そして2010年春・・・「仮面ライダークウガ」で知られる元東映プロデューサー高寺重徳(髙寺成紀)によりTVシリーズ「大魔神カノン」が放映された。
舞台を現代に置き換えた「大魔神カノン」は、高寺重徳の他、高寺と共に「仮面ライダークウガ」の文芸担当そして「仮面ライダー響鬼」脚本を手掛けた「大石真司」や、同じく高寺と共に「激走戦隊カーレンジャー」「電磁戦隊メガレンジャー」「仮面ライダー響鬼」の監督を務めた「坂本太郎」や、「仮面ライダークウガ」や「仮面ライダー響鬼」の助監督を務めた鈴村展弘、そして高寺作品にかかせない音楽担当の佐橋俊彦の他、造型にはエキスプロの流れをくむ若狭新一を起用している。
また、1966年当時に撮影に使用された4.5メートルの大魔神像は、1986年に大映から海洋堂へと引き取られ、現在は海洋堂の本社正面玄関上に置かれている。
映画「大魔神」
片手で千人を倒し、片足で大城門をふみつぶす大魔神!少女の涙によみがえって荒れ狂う!
「大魔神」シリーズ第一弾として1966年4月17日に公開された。(併映は「ガメラ対バルゴン」)
封印された破壊神が娘の祈りにより大魔神となり、憤怒の形相をもって人間達の手におえない破壊力を見せ付けて、悪政を働く領主を殺すと言うシリーズの基本フォーマットが確立されている。
あらすじ
戦国時代の丹波の国を舞台に、人々が、武神によって山奥の岩壁に封じられた魔神を祭って平和を祈る最中、城主の花房忠清が家老の大館左馬之助一党の謀反に倒れ、花房忠清の遺児「小笹」と「忠文」の兄妹は、猿丸小源太らと共に武神像近くの洞窟で生活することになった。
成長した兄妹だったが、大館左馬之助の重税により領民達は困窮し、城増築の大工事にまぎれた小源太らが捕らえられ、小源太らの危機を知って山を下りた忠文もまた捕らえられ、小源太らと共に処刑されることとなった。そして、武神像を破壊せんとした大館左馬之助により額にタガネがうちこまれると、傷口から鮮血が滴り落ちると共に稲妻や地割れが起こり、忠文らの無事を祈る小笹が滝に身を投げようとした時、願いを聞き入れた魔神は、武神像に乗り移り、憤怒の形相へと変貌して城下を破壊しつくし、大館左馬之助を自らの額にうちこまれたタガネで柱に釘付けにして抹殺した。
さらに破壊の手を城下から里の方へと伸ばさんとした大魔神だったが、小笹の涙により憤怒の形相は静まり、土砂となって崩れ落ちるのだった。
キャスト |
スタッフ |
映画「大魔神怒る」
悪への怒りか!逆巻く湖水を真っ二つ!驚異の大魔神ふたたび現る!
「大魔神怒る」は、シリーズ二作目として1966年8月13日に公開された。
前回の破壊神的存在から一転して、湖を中心とする一帯の守護神的存在として登場し、やはり今回も娘の祈りにより目覚めて、自らの身体を湖に沈めた上に悪行三昧の隣国領主を倒すまでが描かれている。
あらすじ
戦国時代、名越の一族と、本家筋にあたる千草の一族が平和の日々を送っていた八雲の湖の真中には、守護神の武神像が祀られた神ノ島があった。千草城の城主を務める青年千草十郎は、許婚である名越一族の娘早百合と共に領内の平和を祈って神ノ島の武神像のもとを訪れると、武神像の顔が赤くなるという不吉の前兆を見た。
やがて、悪名高き隣国の領主御子柴弾正が攻め込んでくると、武神像は砕かれて湖に沈められ、捕らえられた十郎と早百合は火あぶりの刑に処される事となった。
そして風前の灯火となる中で必死に祈る早百合の願いを聞き届けた武神像は、大地を揺るがし湖を割って出現し、 怒り狂った形相で弾正らを滅ぼし、水滴となって消えたのだった。
キャスト |
スタッフ |
映画「大魔神逆襲」
山が動く!大魔神だ!はじめて抜いた大剣をかざし、大鷹をしたがえ、悪人どもをコッパみじん!
「大魔神逆襲」は、シリーズ三作目として1966年12月10日に公開された。
本作の大魔神は、災厄の根源とされる山の神の立ち位置で描かれ、「ガメラ」シリーズの様な「少年達の願い」を聞き入れて、神らしい神々しさで奇蹟を見せながら、悪い領主を倒した後に去っていく存在となっている。
あらすじ
大雪等の災厄の象徴とされ、祟神の棲む魔の山と言われた“魔神の御山”があった。
近隣国の侵略を企んだ荒川飛騨守により、瓜生の里の村人達は武器作りに狩り出されて酷使されていたが、救出しようにも“魔神の御山”を越えねばならなかった。
鶴吉・金太・大作・杉松ら四人の少年達は、村人を救いだそうと“魔神の御山”を越える決死の旅を決行し、数々の困難に見舞われ、仲間たちを失いながら祟神の使いとされる大鷹と出会った鶴吉だったが、飛騨守の兵の手により大鷹は死に、鶴吉はその身を祟神に捧げんと断崖にその身を躍らせたその時、憤怒の形相をあわらにした大魔神が吹雪の中より出現し、鶴吉と仲間達をその光の奇蹟により救いだすのだった。
武器製造を終え、狩り出していた村の者達を皆殺ししようとしていた飛騨守だったが、現れた大魔神により軍勢は踏み潰され、飛騨守もまた大魔神の宝刀により串刺しにされ、大魔神は雪の中へと消えていった。
キャスト |
スタッフ |
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