「人は物語なしには生きていけない」
天保異聞 妖奇士(てんぽういぶん あやかしあやし)とは、BONES制作のテレビアニメである。
毎日放送制作土曜夕方6時枠、通称「土6」にて、2006年10月7日~2007年3月31日の半年間放送された。
概要
物語の舞台は天保十四年。「異界」より現れし「妖夷」に対し、幕府によって結成された「蛮社改所」。そのメンバーとして集められた五人の「奇士」達は、人や物が持つ名前の漢字を具現化した「漢神」という力を用いて次から次へと出現する「妖夷」から江戸の町を守る。
DVD付属の解説書によると本作の基本コンセプトは、『ウルトラマン』に出てくる科学特捜隊のようなチームが、江戸時代で妖怪退治をするというもので、そこに漢文学者の白川静氏の研究を元にした「漢神」の設定が追加された。監督の錦織博氏は「人が自分の置かれた世界で、周りの状況に振り回されてジタバタしながら、それでも何とかして生きていく」という物語だと語っている。
本作では時代考証に専門家を起用し江戸の描写には力を入れている。実在する歴史上の人物も数多く登場。「漢神」を使った戦闘シーンでは、漢字の成り立ちについての説明が入り、作中で登場する漢字の多くはプロの書家によって書かれている。作品のジャンルとしては時代劇や妖怪退治ものと言えるが、妖夷のデザイン等ファンタジー要素も多く、怪獣バトル的な側面も持ち、一言では語れない複数の要素が組み合わさった作品となっている。
一方で歴史や日本神話等の知識をある程度持っていないと、あまり馴染みのない描写や聞き慣れない言葉が頻繁に出てくるため、初見で物語を理解することが難しく、またカニバリズムや差別や遊郭の描写等、土曜の夕方6時に放送するには、あまり向いているとは言えない内容が多かったため、人を選ぶ作品となっている。放送当時の評判や視聴率や円盤の売上などは芳しくなかったようで、その影響かは不明だが、通常なら1年の放送が半年での終了となった。
TVシリーズ全25話。後日談となるOVA『奇士新曲』5話。(OVAはDVD6~8巻に収録)
蜷川ヤエコ氏によるコミカライズ版。全2巻(ヤングガンガン連載)
時代背景
天保十四年(1843年)は、ペリーの黒船来航により幕末の動乱が始まる十年前の江戸時代末期である。この天保という時代は、天保の大飢饉により多数の餓死者が出て、大塩平八郎の乱を代表とする御上への一揆が各地で勃発。アヘン戦争やモリソン号事件等で対外情勢は緊迫し、蛮社の獄(ばんしゃのごく)で、優秀な蘭学者の多くが投獄・処刑された。このような状況下、ひっ迫していた幕府の財政を立て直す為、老中水野忠邦による天保の改革が始まり、風紀が厳しく取り締まられ、質素倹約で贅沢品は禁止され、人々の中で幕府に対する不満が高まっていた。
オリジナル用語
- 妖夷(ようい)
人の強い想いに反応し異界から現れる妖。幽霊や物の怪とは異なり、実態を持ち倒せば肉となる。妖夷の肉は非常に美味とされ、その肉を食べた者は他の食べ物に興味を無くすほど虜となってしまう。奇士の手当にはこの倒した妖夷の肉も含まれる。
- 前島聖天(まえじましょうてん)
蛮社改所の本拠地で日比谷の地下に存在する古の神社。江戸元閥の一族が代々神主をしている。
以下ネタバレ:実は江戸城の地下に存在しその出入り口は江戸中に広がっている。御神体は大百足。
- 浮民(ふみん)
飢饉によって農地を捨て江戸に来た農民を中心に、家も仕事もなく人別(戸籍)もままならない浮浪の民達をまとめて浮民とし、腕に入墨を施し、浮民寄せ場に集めて行動を制限している。寄せ場から逃げ出した浮民には罰が与えられ、二度目は死罪となる。
登場人物
【 奇士 】
- 竜導往壓(りゅうどうゆきあつ)CV:藤原啓治
本作の主人公。39歳というアニメの主人公にしては高齢でじじい扱いされることも。
旗本である竜導家の御曹司として生まれたが、異界へと迷い込んだことが原因で出奔。以降は異界に惹かれつつも異界からも社会からも逃げ続け、しまいには浮民にまで身をやつしてしまう。異界で手に入れた漢神という力を用いて妖夷と戦い、途中からは漢神の力で竜へと変身する。
- 小笠原放三郎(おがさわらほうざぶろう)CV:川島得愛
蛮社改所の頭取にして奇士達のリーダー。20歳。漢字解説役その1。絵心は皆無。
元は城山放三郎といい、蘭学者の内田弥太郎の元で学んでいたが、蛮社の獄の際に幕臣の小笠原家の養子となることで取り締まりを免れる。幕臣という立場上、アウトローな性格の往壓とは何かとぶつかり合うことも多い。架空の人物ではあるが、小笠原甫三郎という実在した人物をモデルにしている。
- 江戸元閥(えどげんばつ)CV:三木眞一郎
女装の奇士。27歳。漢字解説役その2。通称は江戸元(えどげん)。
古来より女の姿で呪いをしていた侍者の末裔で前島聖天の神主。妖夷との戦闘では蘭学者達から押収した銃器を使用して戦う。吉原で顔が利く、ところてんの棒手振りをやっている等、謎の多い人物で、神に使える立場故か、妖夷の正体や鳥居の思惑にもある程度気づいており、敵である西の者の事も知っていた。
- 宰蔵(さいぞう)CV:新野美知
男装の奇士。14歳の少女。
元は歌舞伎一座の座長の娘で、女は舞台に上がってはならぬという当時の事情から男の姿をしている。
妖夷を鎮める天鈿女命(アメノウズメ)の舞いを踊ることができる。舞う時は男装を解き巫女の姿をしているが、その際剃っているはずの月代がどうなっているかは謎である。舞いの他は扇を改造した武器を使用。
- アビCV:小山力也
料理担当。24歳。
山で暮らす山の民(さんのたみ)だったが、妖夷に攫われた姉のニナイを探すため、山を捨て江戸へと下りてきた。身体能力が高く古代の獣の骨で作った槍で妖夷と戦う。副業は猫の蚤取り。
【 奇士以外の人物 】
- アトル/亜馬(おうま)CV:折笠富美子
メシカ(メキシコ)から来たアステカ人の血を引く異人の娘。13歳。
侵略により住む土地を追われ、逃げてきた日本でも異人ということで危険な目にあってきたため、普段は亜馬と名乗り、白粉で褐色の肌の色を隠している。かつて目にした異界に強い憧れを抱いており、無情なこの世よりも異界に行きたいと願っている。雪輪という愛馬を連れているがその正体は、以下ネタバレ:アトルが異界より呼び出したアステカの神ケツアルコアトルである。
- 雲七(くもしち)CV:うえだゆうじ
往壓の友人。往壓以外には見えないようだが……?以下ネタバレ:本名は七次といい、色々あって15年前に死亡。その時に異界に取り込まれ、以後往壓のスタンドのような存在になる。後にアトルが連れていた雪輪(ケツアルコアトル)と合体し、喋って飛んで変身する馬となる。そしてさらに往壓とも合体する。
- 河鍋狂斎(かわなべきょうさい)CV:高山みなみ
実在する画家。後の河鍋暁斎。14歳。
狩野洞白に師事し、普段は吉原で絵を書いている。過去に異界に触れたことがあり、同じく異界を知る異国の娘のアトルに興味を持つ。歳は若いが鋭い観察眼の持ち主で、奇士達とはまた違った視点で妖夷の起こす事件の解決に協力する。バーローではないので推理が外れることもある。
【 幕府の人間 】
- 鳥居耀蔵(とりいようぞう)CV:若本規夫
実在の人物。南町奉行。仇名は「妖怪」。
老中水野忠邦の腹心として蛮社の獄で多くの蘭学者達を取り締まった。
異界や妖夷に詳しく、竜導往壓についてもその正体に早くから気が付き、跡部良弼による蛮社改所の設立の際は、往壓を奇士に加えるよう要求した。蛮社改所とは何度も対立するが、彼の行動は私情ではなく徳川の世を想ってのことである。アニメの『大江戸ロケット』にも同じ声優で登場。
鳥居の部下には、花井虎一、本庄辰輔、松江ソテがおり、全員実在の人物である。
- 跡部良弼(あとべよしすけ)CV:土師孝也
実在の人物。老中首座水野忠邦の実弟で勘定奉行。官職は能登守。
兄の水野とは不仲で、水野の改革に反対する者が次々と追われる中、自身の立場を確立するために蛮社改所を設立した。水野の腹心である鳥居とは対立している。
【 敵対勢力 】
- 西の者
朱松命(あかまつみこと)を中心とする、仮面をつけた謎の集団。彼らも御札によって漢神を使用し、各地に眠る妖夷や「首」と呼ばれる竜達を蘇らせ幕府転覆を図る。以下ネタバレ:その正体は後南朝の末裔。
朱松の他は、呪い師の巖見、射撃手の光月、舞手の丹生夜がいる。
【 その他、実在の登場人物 】
蘭学者の内田弥太郎、高野長英。それ以外にも土方歳三、ジョサイア・コンドル等々が登場している。
漢神
※一部ネタバレもあるので注意されたし。
- 【西】(にし)
「西」は鳥籠を意味する。西の者達は「西」に「牙」を加えて仮初の名を与え、妖夷・西牙を作り出した。
スタッフ
原作:會川昇、BONES
監督:錦織博
キャラクターデザイン:川元利浩
コンセプトデザイン:草彅琢仁
異界デザイン:山形厚史
美術デザイン:成田偉保、金平和茂
美術監督:佐藤豪志
助監督:宮尾佳和
色彩設計:岩沢れい子
撮影監督:大神洋一
音響監督:三間雅文
音楽:大谷幸
時代考証:山村竜也
題字:森大衛
アニメーション制作:ボンズ
製作:毎日放送、アニプレックス、ボンズ
主題歌
1期OP:いきものがかり『 流星ミラクル 』
1期ED:ポルノグラフィティ『 Winding Road 』
2期OP:キャプテンストライダム『 LONE STAR 』
2期ED:紗希『 愛という言葉 』
関連動画
関連リンク
関連項目
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- 0pt