奇書とは、珍しい書物のこと。
概要
日本においては、奇抜・不可思議なアイディアや設定を取り入れた異端文学というニュアンスの傾向が強い。
日本の三大奇書は、夢野久作『ドグラ・マグラ』(1935年)、小栗虫太郎『黒死館殺人事件』(1935年)、中井英夫『虚無への供物』(1964年)とされている。これに竹本健治『匣の中の失楽』(1978年)を加えて四大奇書ともいう(『匣』は入らないという見解もあるらしいが、それに関しては後述)。
中国では本来、面白い・優れた書物というニュアンスで使われ、中国三大奇書には「水滸伝」「三国志演義」「西遊記」があげられる。四大奇書の場合はこれに「金瓶梅」が加わる。
日本三大奇書
夢野久作『ドグラ・マグラ』
構想・執筆に10年以上の歳月をかけ、作者が没する前年の1935年に刊行された探偵小説家夢野久作の代表作。
ーあらすじ
精神病院のベットで”私”と語る青年が目覚めると、若林教授と名乗る男から記憶喪失であることを告げられる。
青年は若林教授から、青年は事件の重要なカギを握る人物であり、若林教授の研究を完成させるためにも青年の記憶が重要だと語られる。
研究室に連れていかれた青年は、記憶に関わると言われるあらゆる資料を読まされることになるが、
資料を読むほど混乱していき、徐々に青年は自分自身のことが分からなくなっていく。
小栗虫太郎『黒死館殺人事件』
読者を限定する難読書とされるほどの壮大な知識の集大成から、推理小説の一大神殿と称される。
ーあらすじ
ボスフォラス以東にただひとつしかないという降矢木家の大城館、
かつて黒死病の死者を詰め込んだ城館に似ていると嘲られたのが名の由来である通称「黒死館」で、
門外不出の弦楽四重奏団のひとり、ダンネベルク夫人が毒殺された。
その死体からは不可解な発光現象が確認され、素人探偵である法水麟太郎に出馬を要請することになる。
中井英夫『虚無への供物』
1954年に青函航路で起こった転覆事故「洞爺丸事故」をきっかけに構想された、中井英夫の代表作。
ーあらすじ
光田亜利夫は、幼馴染で駆け出しのシャンソン歌手の奈々村久生と、氷沼家で起こる殺人事件に頭を悩ましていた氷沼藍司を引き合わせる。
久生はこれから起こる殺人事件を推理してみせると言い放ち、やがて本当に藍司の家族を新たな悲劇が襲う。
客人の藤木田老人も交えて三者三様の推理をする一行だったが、さらに殺人が繰り広げられていき…。
豆知識
『匣の中の失楽』を「第四の奇書」と認定するか否かという問題について、ひとつ事実関係を述べておくと、実はこの三作が「三大奇書」と呼ばれるようになったのは、第四の奇書とされる『匣の中の失楽』が出た後のことである。
もっとも、この三作を日本探偵小説史上における特異な作品として、一括りにして別格扱いする風潮は『匣の中の失楽』が出る前から存在した(埴谷雄高がこの三作を日本探偵小説ベストスリーに挙げて「黒い水脈」と呼んだ、とか言われているが、これは確定ソースがなく、わりと怪しい)。少なくとも『匣の中の失楽』が「幻影城」で連載開始した際、編集長の島崎博がこの三作(と、なぜか半村良の『石の血脈』)を列挙して、これらに「匹敵する大長編」と予告したのは事実である。
でもって、『匣の中の失楽』の連載が終了し、単行本として刊行された際に、新刊評で評論家の二上洋一がこの三作をまとめて「三大奇書」といい、『匣の中の失楽』を「第四の奇書」と呼んだ(「幻影城」1978年10月号)のが、この三作をまとめて「三大奇書」と称した文章の(現在確認されている限り)最初のものである。
というわけで、「三大奇書」が既にあったところに『匣の中の失楽』が出てきて「第四の奇書」と認定されたわけではなく、「第四の奇書」である『匣の中の失楽』が出てきたことによって『ドグラ・マグラ』『黒死館殺人事件』『虚無への供物』が「三大奇書」と規定されたのである。実際、竹本健治も「三大奇書」という呼称は聞いたことがなかったという。
なので、『匣』が奇書に入るかどうかという議論はこの経緯を踏まえるとあんまり意味がなかったりする。『匣』がなければこの三作が「三大奇書」と呼ばれること自体なかったかもしれないからだ。
その後、山口雅也『奇偶』をはじめ「第五の奇書」を名乗る作品はいくつか書かれているが、上記の「四大奇書」成立経緯を踏まえると、四大奇書に続く「第五の奇書」が新しく誕生することは考えにくい。
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関連項目
- 本
- 推理小説
- 夢野久作 / 小栗虫太郎 / 中井英夫 / 竹本健治
- ドグラ・マグラ / 黒死館殺人事件 / 虚無への供物 / 匣の中の失楽
- 水滸伝 / 三国志演義 / 西遊記
- 生物系三大奇書
- ヴォイニッチ手稿
- 非現実の王国で
- グリモワール
- 世界の奇書をゆっくり解説
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