帝国暦483年末、巡航艦の艦長となっていたラインハルトに、一つの密命が下った。
ヘルクスハイマー伯爵の亡命の阻止と、持ちだされた軍事機密の回収。
それは、拒否することも許される困難な任務だったが、ラインハルトは……。
「奪還者(Die Wiedergewinnung)」とは、OVA「銀河英雄伝説外伝」オリジナル作品の一つである。全四話。
概要
OVAオリジナル作品三部作の第三部。中佐・巡航艦艦長となったラインハルトが受けたある「密命」と、「決闘者」以来のヘルクスハイマー伯爵との因縁の終結を描く物語。時系列的には「黄金の翼」と「朝の夢、夜の歌」の間に当たる。
「叛乱者」のように艦の指揮を執るラインハルトと、「決闘者」で描かれたような貴族社会に渦巻く陰謀という二つの側面を併せ持つ、オリジナル三部作の集大成である。「決闘者」のルッツに引き続きワーレンを始めとする後のラインハルトの部下たちも多くが顔を出し、ファンには嬉しいゲストキャラとして物語に彩りを添えている。
巡航艦<ヘーシュリッヒ・エンチェン>
銀河帝国軍イゼルローン要塞駐留艦隊に所属する標準巡航艦。艦名の意味は「みにくいアヒルの子」で、艦中央部側面、帝国紋章の部分にはそれをイメージしたと思われる盾形の紋章がある。艦載機も標準装備。
旧式駆逐艦だった「叛乱者」の<ハーメルンⅡ>とは違い、何の変哲もない標準巡航艦だが、第四話まで見終えた視聴者は「帝国の巡航艦ってこんな便利なシロモノだったのか……」と唖然とするかもしれない。
「奪還者」では、密命によってヘルクスハイマー伯の亡命を追い、同盟領域内に単艦で侵入することとなる。
指向性ゼッフル粒子
かつて応用化学者カール・ゼッフル博士が発明した化学物質。爆発性のガスに近いが、酸素のない宇宙空間でも問題なく発火することができる。ブラスターのビームなどの火気によって発火・爆発するため、もっぱら基地内などでの戦闘時にブラスターの使用を阻止しトマホークと軍用ナイフによる白兵戦に持ち込むために使用されている。なお、宇宙艦のエンジン排熱や金属同士の衝突による火花程度で爆発することはない。
拡散を制御できないため、爆発時に巻き添えとなることを恐れて宇宙空間では使用されずにいたが、帝国軍科学技術総監のアントン・ヒルマー・フォン・シャフト大将の尽力によりナノマシンを使用して指向性を与えることに成功した。それが新兵器、指向性ゼッフル粒子である。そして以後何故かキルヒアイスの得意技となった。
登場人物
- ラインハルト・フォン・ミューゼル - CV.堀川亮
言わずと知れた主人公。<ヘーシュリッヒ・エンチェン>艦長、中佐。17歳。
今回は密命を受けてヘルクスハイマー伯の亡命事件を追い、意外な事実に出くわすこととなる。
- ジークフリード・キルヒアイス - CV.広中雅志
ラインハルトの親友。<ヘーシュリッヒ・エンチェン>保安主任、中尉。今回も白兵戦がチート。ゼッフル厨。
ラインハルトの片腕として、<ヘーシュリッヒ・エンチェン>内部のみならずヘルクスハイマー伯の船でも拿捕指揮官として活躍し、ともに窮地を脱する。そしてゼッフル厨。
- アウグスト・ザムエル・ワーレン - CV.岡部政明
<ヘーシュリッヒ・エンチェン>副長で少佐。後のラインハルト麾下。
今回は艦橋を離れることも多いキルヒアイスに代わって若き艦長の有能な副官として側に立ち、ラインハルトの命令を具体化して艦内各部署に伝達する役割を担う。
- ベンドリング - CV.森川智之
統帥本部から派遣された監察官。「密命」の案内役、悪く言えば目付役として乗り込んできた若き少佐。
男爵家の三男坊で穏和な性格をしており、能力的にも優秀。ただしいまいち空気が読めない。
- ヘルムート・レンネンカンプ - CV.渡部猛
ヒゲ。イゼルローン要塞駐留艦隊査閲部次長、大佐。後のラインハルト麾下。
「寵姫の弟」であるラインハルトでも公平に扱う人物。今回は上位指揮官として「密命」を仲介する役目を負う。
- アーベントロート - CV.伊藤昌一
統帥本部作戦三課所属の少将。ラインハルトに対し、ヘルクスハイマー伯の亡命を阻止するよう密命を伝える。
ラストシーンでは「密命」の裏に隠されたある秘密を指摘され、狼狽することとなった。
- ヘルクスハイマー伯爵 - CV.野島昭生(今回はセリフ無し)
リッテンハイム派の門閥貴族。初登場した「決闘者」以降も暗躍していたが、対立するブラウンシュヴァイク公について掴んだ秘密がリッテンハイム家にとっても不都合なものだったため暗殺されかけ、命からがら亡命を決意した。
- ヘルクスハイマー伯爵令嬢マルガレータ - CV.大谷育江
ヘルクスハイマー伯爵の一人娘。今回のキーパーソン。かわいい。
門閥貴族出、それも幼いながら英明の素質を持つ末恐ろしい少女で、ラインハルトらに感服される。
- ジークフリード - CV.なし
マルガレータ・フォン・ヘルクスハイマーのテディベアのぬいぐるみ。ところどころで重要な役割を果たす。
ストーリー
Kap.1
「了解しました。拝命します」
巡航艦<ヘーシュリッヒ・エンチェン>の艦長に任じられ、イゼルローン要塞で訓練に励むラインハルト。そんな時、彼は上司であるレンネンカンプに呼び出され、守秘義務についての誓約書にサインしたのち、統帥本部から来たアーベントロート少将という人物に引き合わされる。
アーベントロート少将はラインハルトに「密命」を提示した。かつて因縁のあったヘルクスハイマー伯爵が失脚し、一家で同盟へ亡命を企てている。しかも軍事機密「指向性ゼッフル粒子」と共に。ゆえに同盟領内をフェザーン回廊近くまで単艦進出し、ヘルクスハイマーを捕らえよ、というのがその内容であった。ラインハルトはしばし黙考し、これを受諾する。
「監察官」として同行することになったベンドリングという少佐に警戒しつつ、訓練航海としてイゼルローンを立つラインハルト達。ラインハルトは敢えて同盟軍の哨戒部隊に発見されて味方の警備部隊まで誘引し、交戦させることで哨戒線を突破。同盟軍哨戒部隊が交戦宙域に集まってくる隙を突き、同盟領内への侵入に成功した。
Kap.2
「後味の悪い結果ですね……」
同盟領内に入った<ヘーシュリッヒ・エンチェン>は、イゼルローンとフェザーンの間の航路が閑散としていること、侵入に気づかれておらず警備が薄いことなどを利用して無事フェザーン周辺宙域まで到達し、ヘルクスハイマーの船を待った。フェザーン駐在武官の情報でヘルクスハイマーの出立を知った彼らは、それを追いかけることとする。
フェザーンから出立した多くの船の中からヘルクスハイマーの一行を見分け、視界に捉えた<ヘーシュリッヒ・エンチェン>。ラインハルトは奇襲を選択し、艦載機ワルキューレによって相手の武装と通信設備を破壊、同時に主砲で私設護衛艦を撃破したのちヘルクスハイマーの船に強行接舷し、突入・拿捕を敢行する。
ヘルクスハイマーの船”アイマルラン号”に侵入した突入部隊は、キルヒアイスの指揮のもと艦橋を制圧、ヘルクスハイマーを捜索する。最上階のスイートルームにもその姿が見えないことを訝しむキルヒアイス。赤外線探査で見つけ出した隠し扉の向こうで彼が見つけたのは、脱出ポッドの減圧失敗で事故死したヘルクスハイマーの姿だった。
Kap.3
同盟軍の追跡を察した<ヘーシュリッヒ・エンチェン>とアイマルラン号は一時接舷を解いて警戒網を逃れる。彼らは指向性ゼッフル粒子発生装置を使用しようとするが、そのためにはアクセスコードによって装置のプロテクトを解除しなくてはならなかった。しかし、そのアクセスコードを知っているのはただ一人、唯一の生き残りである伯爵令嬢マルガレータのみ。そして彼女は、彼らを父の仇としてアクセスコードを教えることを拒否していた。
そんな時、同盟軍の哨戒艦が彗星群に隠れた二隻の存在に気付く。ラインハルトはプロテクトのために指向性を持たないままのゼッフル粒子をアイマルラン号のキルヒアイスに散布させ、追跡する敵を自爆させた。その後、キルヒアイスは父親の遺体の前で泣くマルガレータに彼女のぬいぐるみを手渡し、打ち解けることに成功する。
同盟軍の追手を振り払うため、ラインハルトは再びキルヒアイスにゼッフル粒子を散布させた。追う同盟軍巡航艦とぶつかり合いながらデッドヒートを繰り広げる<ヘーシュリッヒ・エンチェン>。最終的に同盟艦は小惑星との間ですり潰され、その爆発がゼッフル粒子に引火。生じた火球は後背で追る同盟軍警備部隊をも飲み込んだのだった。
Kap.4
ラインハルトはマルガレータと取引する道を選んだ。船ごと彼女の亡命を許す代わりにアクセスコードを得、指向性ゼッフル粒子を使用して同盟軍を突破しようというのである。ベンドリングはマルガレータが親のない10歳の少女であることを理由に反対したが、亡命の裏に隠された陰謀のために帝国に帰すと危険であることを知り、陰謀の存在を知っていたのではないかと糾弾されると、彼も俯くしかなかった。
取引条件を説明されたマルガレータは、彼女が「ジークフリード」と呼ぶキルヒアイスを信頼してアクセスコードを渡す。アクセスコードによってヘルクスハイマーが知ってしまった「秘密」を探り当てたベンドリングは、この任務に嫌気を感じ退艦の許可を求めた。彼は自ら後見人となってマルガレータとともに同盟に亡命しようと思い立ったのである。
それを知ったマルガレータはむしろキルヒアイスの同行を望んだが、むろん彼にはついていくべき相手が他にいた。その相手、つまりラインハルトにとって彼が「かけがえのない友」であると聞いた彼女は、ベンドリングに従者ではなく友となってくれるよう願う。ラインハルトは彼女の英明さに感服しつつ、去ってゆくアイマルラン号を見送った。
しかし、<ヘーシュリッヒ・エンチェン>はイゼルローンに還らねばならない。長期の単独航行でエネルギーも不足する中、キルヒアイスが散布した指向性ゼッフル粒子によって敵部隊を突破。途中駆けつけた補給艦からの巧妙な航行中補給も受け、追撃を振り切ることに成功する。帰還したラインハルトはアーベントロートを「秘密」で脅して昇進をもぎ取り、全銀河の偉才をいずれ手に収めたいという野望とともに要塞を去ったのだった。
その他作品詳細
見どころ
- オリジナル三部作の見事な幕切れ
原作にないオリジナルであるこれらの三部作は、OVA「銀河英雄伝説」の最終盤に製作されたものでもあることから、それまでの本編・外伝などと矛盾させることは当然許されない。その中でこれらの三部作は、原作に描写されていない10代中盤のラインハルトの軍歴を矛盾させること無く設定し、ベーネミュンデ侯爵夫人の陰謀のような原作由来の伏線を利用。さらにはヘルクスハイマー家との確執といったこの三部作のオリジナル設定を組み上げ、本編に影響をあたえること無くこの「奪還者」で見事に収拾してみせたのである。
- 絢爛豪華なゲストキャラクター
「奪還者」では、ラインハルトの追跡行の支援者として、のちのラインハルト麾下の諸提督の若年時代の影を登場させている。副長としてメインクラスで登場するアウグスト・ザムエル・ワーレンはもちろんのこと、収集した航路情報で幾度もラインハルトを救けたフェザーン駐留武官の名はナイトハルト・ミュラーであるとラストシーンで明かされ、また完成を利用した巧妙な航行中の物資放出・受け渡しで<ヘーシュリッヒ・エンチェン>を救った補給艦の艦長として「沈黙艦長」ことエルンスト・フォン・アイゼナッハの名が登場している。前作「決闘者」のコルネリアス・ルッツを含めたこの4人は、のちのラインハルト元帥府の提督たちの中でも原作中でラインハルトの知遇を得たきっかけとなる活躍が描かれていない4人であり、「奪還者」での登場は見事な原作補完であったといえよう。
- 巡航艦個艦の躍動感あふれる描写
本編では基本的に艦は部隊単位で動き、OVAでの描写も一糸乱れぬ艦隊運動のものばかりで、個艦単位での行動が移ることは極めて稀である。「奪還者」では、<ヘーシュリッヒ・エンチェン>の個艦単位での動きを躍動感溢れる映像で描写しており、こと第三話における同盟軍巡航艦との鬼気迫るデッドヒートは本編にない、さながらシヴァ星域会戦における強襲揚陸艦<イストリア>の<ブリュンヒルト>への突入のようなスピード感に溢れている。
- 律儀な帝国スタイルの描写
……は、残念ながら今回は少ない。だが、なぜか背景に帝国紋章が掲げられている指向性ゼッフル粒子発生装置の操作画面など、妙なところのこだわり自体は健在のようである。
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関連項目
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