妖精作戦とは、朝日ソノラマおよび創元SF文庫から出版された笹本祐一著作の小説およびそのシリーズ(全4巻)である。
朝日ソノラマでの初版 1984年~1985年、新装版 1994年。
2011年~2012年には新たなカバーイラストで創元SF文庫版も発売された。
概要
SF作家、笹本祐一が高校生時代から温めてきた構想を大学時代にまとめ上げたデビュー作。
同じ世代がどういう作品を好むのかに注目し、文中でキャラクターの軽妙な会話を多用することによるテンポの速さと作者自身のマニア心をくすぐる設定や小物が作品内にちりばめられているのが特徴。
作中登場する小物は一部を除いてネタの経年劣化を防ぐため、あえて当時から見てやや古い物を登場させていた。…が今ではプレミアが付いているモノばかりになってしまい実のところ高校生が入手するのが困難なものになったりしている。その点が計算外であったと作者が漏らしたりしている。
また榊達が好んで集めていたマンガや写真集などは当時の流行に合わせた設定にされているが、新装版とのあいだに10年の隔たりがある為、時代に合わせた書き直しがされている。だが、2011年~2012年の創元SF文庫版ではあえて1984~1985年のオリジナル版が収録されている。
挿絵は1巻初版が若菜等(空想科学小説風)、1巻2版および2巻以降が平野俊弘(80年代アニメ風)、1994年の新装版が御米椎(現:みよね椎 平成ライトノベル風)。2011年~2012年の創元SF文庫版のカバーイラストはD.K、カバーデザインはSF本好きにはお馴染みの岩郷重力+WONDER WORKZ。
都内高校に通う高校生と彼らの元に転校してきた超能力を持つ少女、その少女をめぐって暗躍する超国家組織とタフガイ私立探偵が東京都国立市から関東の米軍基地、太平洋上の超弩級原潜、果ては地球を飛び出し宇宙へと追跡劇を繰り広げるSFアクション。
各巻概要
妖精作戦
本シリーズ第1巻。
9月1日の早朝。新宿にて夏休み最後の休日を利用した徹夜で映画のはしごから国立の学生寮に帰ろうとする榊裕の目の前に切符を買えずに困り果てている一人の少女が現れる。
榊と同じ星南高校の女子部に転校してきたその少女、小牧ノブと一緒に朝帰りを送り届けた榊だが、その日から高校周りで不穏な墜落事件が立て続けに発生する。それと呼応するように現れる大型バイクに乗った男の影。
そして放課後、榊とルームメイトの沖田玲朗、真田佐助の眼前でノブが何者かに連れ去られようになる。その場は謎の大型バイクの男の手により難をのがれたが、その夜、再度ノブが連れ去られてしまう。
とっさにノブを連れ去るヘリに飛び乗った榊だがノブと一緒に薬で眠らされ横須賀沖の潜水艦に拉致されてしまう。
やられっぱなしが気に食わない彼らを救い出そうと作戦を練る沖田と真田、面白そうなにおいを嗅ぎつけたノブとルームメイトで新聞部の鳴海つばさ、そして大型バイクの男・平沢千明だったがそれぞれ潜水艦に潜入するまでは成功するも、彼らも次々に捕縛されてしまう。
はたして彼らは無事に東京に帰れるのか?そしてノブが狙われる理由とは?超弩級潜水艦を運用する超国家組織SCFの真の目的とは?
ハレーション・ゴースト
本シリーズ第2巻。外伝的な内容であり伝説の怪作。
文化祭前日~当日が舞台、いろんな夢の産物(映画やアニメなど)を借用し作中にそのまんま登場させている点など、映画「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」にかなりの影響を受けている。また本作の前半部分(パターンA)はデビュー前年の某紙新人賞に応募した物が原型となっている。
また笹本祐一が妖精作戦シリーズの次に書いた「スターダスト・シティー」と本巻は密接な関係に成り立っている。
SCFから逃れてきた榊達過激派高校生一同。今度は文化祭の準備に追われていた。
そんな中、沖田は不思議な光景を目撃する。国立駅前の大通りで黒服の男数人に連れ去られようとする少女。その直後大きな岩が現れて黒服たちの頭上に落下する。呆然とする沖田を後に少女は町中に消え、大岩に潰されたはずの黒服も岩だけを残していつの間にか消えていた。
その日から高校では不思議な事が立て続けに発生する。女子寮のみが地震に襲われ、剥製の始祖鳥が飛び、3階にある教室の皇帝に面した窓の外を先日の少女と黒服が駆け抜け、大温室には怪力の黒マントオールバックのドラキュラ伯爵を名乗る中年が女子生徒を小脇に抱えて疾走する。その大温室で沖田は先日の少女・氷島陽子と対面し助けられる。
相変わらず奇怪な事が発生し続ける中、再び消えた陽子を探す沖田であったが、その結果沖田は衝撃の事実を知らされる。
大混乱の中、進行する学園祭準備と…。そして文化祭当日、日本中はわやくちゃになった。
カーニバル・ナイト
本シリーズ第3巻。
話は再び小牧ノブをめぐる追跡劇へ。4巻目の「ラスト・レター」との実質上下巻。
ある冬の日、ロンドンにある高級クラブ「ペニーレイン」で銃撃戦の最中、平沢千明はクライアント仲介人からSCFが再び活動を開始したという報を受ける。ほぼ時を同じくして星南高校のノブたちのクラスに一人の転校生・和紗結希がやってくる。
学園の周りでまた平沢が動き出した事に気付いた榊達はこの転校生があやしいと思いあの手この手で転校生の身辺を探ろうとする。その一環で沖田は結希をデートに誘う羽目に…。
はたして榊達はSCFの企みからノブを守り通す事が出来るのか?今、国立を舞台にした『カーニバル・ナイト』が始まる。
ラスト・レター
本シリーズ第4巻。
シリーズ最終巻。本作のラストは当時の読者に大きな衝撃をもたらし、その中から当時学生だった今日現役のライトノベル系作家(秋山瑞人、小川一水など)が影響を受けたりオマージュ的作品を発表したりしている。
「…いくら逃げても、また追っかけてくる――きっとまた捕まる」
「先の心配してもしょーがないよ。大丈夫、また逃げてやろーぜ」
「どこへ?どこへいったって、もう逃げる場所なんか――」
「いくらだってあるよ!地球って結構広いんだぜ、二人だけなら充分逃げ回れる」
「無理よ…」
口の中だけで呟いてから、ノブは顔を上げた。
「いいわね。そう出来たら…素敵ね」
登場人物
榊 裕
本作の主人公のはずである。
星南学園男子部2年B組。寮の部屋は沖田や真田と同じ405号室。ダグラス・トランブルを敬愛している。
映画好きであり文化祭では自主映画のシナリオ兼(くち)効果音を担当。ちなみに「ハレーション・ゴースト」の上映会で榊が観たのは「太陽の王子ホルスの大冒険」。
同室の沖田がバイク乗りなのに対し、メカにあまり強くない榊はアラヤのMTBを愛車としている。
本作一巻で小牧ノブをひっかける事に成功し、以来恋仲である。
沖田 玲朗
榊の同室者。クラスも榊と同じく榊の一つ後ろの席で外の窓そば。バリー・シーンを崇拝している。2巻では主人公に。それ以外は脇役のはずである。
本人曰く、アメリカ育ちでブロンクスなまりのアメリカ語を操る。無神論者で幽霊が苦手。吸う煙草の銘柄はハイライト。
暴走部自動車部に出入りしカワサキ750SS(7台からの部品かき集め)を愛車としている。また2巻の大温室立回りではスズキRH250に乗車している。そのほかに山岳部にも顔を出しており金紺館雪中捜索や文化祭正面玄関飾付崩落救助に駆り出されたり、新聞部ではライターとして鳴海つばさから夏休みバイトのレポートを押しつけられたり依頼されたり、文化祭の自主映画では監督を務めたりしている。さらにはトランペットも演奏でき(得意曲はラプソディー・イン・ブルー)女子部の生徒から隠れファンクラブがあると言われるほど結構モテたりする。リア充爆発しろ。
名前の読み方は「れいろう」(であってたはず)。
鳴海 つばさ
小牧ノブの同級生。星南高校女子部2年2組。沖田の天敵。桂木荘(女子寮)の部屋番号は432号室。尊敬する人はアメリア・イアハート。
新聞部部長。今日も愛車「必殺トレーシー(ヤマハCZ125にDT200のエンジンを換装したキ○ガイスクーター)」を駆り、北辰一刀流の技を用いて愛刀村雨蘭丸を片手に記事ライター達を脅h…うわっ、やめろ!何をする…
文化祭の覆面上映会ではマーク・レスター主演の映画を見た模様(話の流れから「オリバー!」か?)。
真田 佐助
榊の同室者。クラスも同じ。自称、戸沢白雲斎直系(13代目)の忍者。13代目石川五ェ門を尊敬している。脇役である(断定済み)。
体操部部員。バイクは持っていないが免許は所持しており、時々自動車部からバイクを借りて乗っている(バイクの知識はない)。
榊が駅前のTZ書店に行く際には男性が買うにははずかしめの本を所望する。
前出のように彼だけ脇役と断定されたり、ラジオドラマではとんでもない設定になったり、話の外で不幸な人。
小牧ノブ
つばさの同室者。クラスも同じ。ヒロインのはずである。尊敬する人、チャーリー・チャップリン。
念動系の超能力者でけた外れの力を秘めているのだか、ほとんどろくに使えない。
東京より東の田舎じゃないところから夏休み明けを持って国立市内にある星南高校に転校してくる。
機械が全く駄目。自転車くらいなら何とかなるが腕時計はしないし電卓も出来れば触りたくないくらい。
部活は吹奏楽部でクラリネットをセカンドパートを担当。指使いはとろいが良い音を出すという評価。クラリネットは機械に入らないのか?
身長158cm、体重45kg。転校後3日目でスナップ写真カラー5枚組が男子生徒の間で流通される。
ラジオドラマ
NHK FM「アドベンチャー・ロード(現:青春アドベンチャー)」にて1989年2月13日~2月21日の10回にわたって放送放送された。
内容は1巻をもとにしており、時間内に収めるため細かい部分が大きく改変されており、一部キャラクター見についても登場がカットされたり設定が大胆に変更されている。真田ェ…
のちにこの放送をまとめた物がソノラマカセット文庫より上下巻に分けて発売されている。
スタッフ・キャスト
脚色:関澄一輝、
音楽:大島ミチル
演出:竹内豊、
音響効果:広瀬洋介
技術:小倉善二
イラスト:平野俊弘
榊 裕:長谷有洋
沖田 玲郎:知念正文
鳴海 つばさ:石丸有里子
小牧 ノブ:安永亜衣
真田 佐助:田の中勇
平沢 千明:塩沢兼人
ジルベスター:久米明
ライトノベルを語る上での本作
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この項目は、初版編集者がとりあえず書いてます。 より正確・明確な内容になるよう。加筆、訂正などをして下さる協力者を求めています。 |
「ライトノベル」という言葉が存在しない時代(1984年)に刊行された本作であったが、本作の登場が後のライトノベルというジャンルを形作るのに少なくない影響を与えていると言われている。
- 読者に近い年齢の作家が執筆
- スペースオペラともハードSFともファンタジーともジュブナイルともちょっと違う
- コアな層に狙いを定めた内容・ネタ・登場小物
- 突き抜けた第2巻、読んだ物にトラウマを与えた第4巻(やっていい領域の拡大)
- 人気アニメーターを起用した表紙や挿絵
- 会話文で物語が進む(少なめな「地の文」)
本作より前に発表された作品でも上記のような特徴を持つ作品は存在するが、これらの特徴を一気にひとつの作品に内包した作品というのは少なく、後にこれらの特徴を有した作品が続いた点が、この作品をして「ライトノベルの源流のひとつ」と呼ばしめる理由ではないかと思われる。
関連商品
※1994年版は「マンガ図書館Z」で公開されている。 https://www.mangaz.com/book/detail/4441
ニコニコ漫画
関連項目
- 4
- 0pt