実業高校(実業高等学校)とは、特定の職業技能について専門的に学ぶことができる高校の総称である。
職業高校(職業高等学校)ともいう。
概要
そもそも高校の学科は主に英語や数学などの一般教科を学ぶ普通科と、一般教科の教育と職業教育がバランス良く行われる総合学科だけでなく、特定の分野に特化して学べる専門高校がある。
専門高校には大きく2つの種類があって、
- 普通科で学ぶ特定の教科について特化して学ぶ学科(理数科、英語科、体育科、音楽科、美術科など)
- 職業教育を中心に行う学科・高校(工業高校、商業高校、農業高校、水産高校・海洋高校、家政高校・家庭高校など)
があり、後者を特に実業高校(または職業高校)という。
一般的に普通科より偏差値が低めの高校が多く、40〜45くらいの高校が多いとされる(学区によっては地元で一番低い普通科よりもさらに偏差値が低い実業高校もある)。しかし、戦前からあるような名門実業高校であれば偏差値50〜55くらいのところも一部存在する(ちなみに商業科、家政科は実業高校の中では比較的偏差値高め)。
きわめて稀ではあるが、東京科学大学附属科学技術高校(旧・東京工業大学附属科学技術高校)のように偏差値70クラス(進学校並み)の実業高校も存在する。
また、学歴社会かつ大学進学率が高い地域(東京都内を中心とする首都圏など)では実業高校は立場が弱いものの、大学進学率が低い地域(東北地方など)では下手な普通科よりも立場が強い実業高校も存在する。
実業高校のほとんどは公立高校であり私立高校は少ないが、逆に私立の実業高校は自動車科や鉄道科、航空科などのマニアックな学科を置いている場合もある。
最近では普通科に併設されている実業高校や、複数の分野(学科)を有する実業高校(例:農業高校と商業高校が合併した高校など)、そもそも普通科や総合学科に転換される実業高校も増えている。
(学校にもよるが)普通科に比べて入学しやすい反面、専門教科はそれなりに難しいものも多く、適性が無い人(特に手先が不器用な人)にとっては地獄になる可能性もあるため安易に入学するのはオススメできないとされる。
実業高校のメリット
実業高校のメリットとしては、以下のようなものがある。
資格が取れる
工業高校をはじめとする実業高校では資格の勉強に力を入れているところが多く、(ちゃんと勉強すれば)様々な資格が取れたりする。取れる資格の例としては以下の通りである。
- 工業高校
- 商業高校(商業科、情報処理科):日商簿記3級、ITパスポート(旧・初級シスアド)、情報セキュリティマネジメント、FP技能士、全商簿記、全商情報処理検定など。
- 農業高校:危険物取扱者(乙4)、測量士補、ボイラー技士、造園技能士、フォークリフト運転士など。
- 水産高校(海洋高校):無線従事者、海技士免許など
実習の授業がある
工業高校などは通常の講義・座学だけでなく、実習の授業もあるので卒業後に就職してから即戦力になるというメリットがある。実習を受けた後はレポートの提出が必須である。
ただし、(商業科はともかく)工業高校などは危険な実習も多いから、ふざけていると冗談抜きで死亡事故や失明などの後遺症が残る重大事故になりかねないので注意しよう。また、実業高校では実習中にふざけている人がいると今でも先生による体罰・鉄拳制裁があるらしいよ…。
礼儀正しい人間が多い
世間では実業高校(特に男子が多い工業高校、水産高校)はヤンキーの巣窟で無法地帯でもある治安があまり良くないという偏見を持っている人もいるかもしれないが、実際の実業高校は(高卒で就職する人が多いため)むしろ普通科よりもマナー教育が徹底しており、礼儀正しい生徒・卒業生が多いのである。また、先生方の面倒見も(普通科に比べて)良い傾向がある。
ただし、逆に言えば「校則が厳しい」とも言えるので気をつけよう。また、(商業高校、家政高校は女子が多いのでそうでもないが)体育会系の雰囲気が強いので、上下関係が厳しく怖い先生・先輩が多いのも特徴である。
(高卒にしては)就職に強い
今の日本は(流石にアメリカ合衆国やヨーロッパの先進国じゃないが)学歴社会なので普通科出身者は大学か専門学校まで行かないと良い就職先がほとんど無いが、実業高校(特に工業高校)であれば地元企業や3大都市圏の有名企業の推薦枠があるので(高卒にしては)良いところに就職しやすいというメリットがある。
ただし、大学生や専門学校生と異なり実業高校生は学校推薦での就職が原則となるので、優良企業の枠は学校に気に入られた生徒(成績優秀者、手先が器用な人、礼儀正しい人、部活動で頑張った人など)が優先になりがちなので注意しよう。
(勉強を頑張れば)大学にも行ける
普通科に比べて就職に強い反面、大学進学には弱いイメージがある実業高校だが、実は実業高校にも国公立大学や私立大学の推薦枠があるので、やる気があれば大学にも行けるというメリットがある。
また、一部の名門商業高校や家政高校(家庭高校)では、就職者よりもむしろ大学進学者の方が多いという逆転現象が生じている場合もある。逆に言えば、(工業高校と違って)その分就職が弱かったりすることも多いが…。
ただし実業高校は(一部の名門商業高校や家政高校を除き)英語や数学などの一般教科をあまりやらないというデメリットもあるため、一般受験だとFランク大学にすら合格できない(行けても専門学校)ということも冗談抜きであるので注意しよう。
(移民反対派にとっては)日本人の労働者の確保として実業高校は重要である
これは保守派(右翼)の目線だが、工業高校や農業高校、水産高校(海洋高校)などの実業高校は日本人の肉体労働者・職人を確保するために重要な役割を果たしているため、安易に移民(外国人労働者)に頼らないためにも実業高校が必要であるという意見もある。
実業高校のデメリット
さて、ここまでメリットを中心に取り上げてきたが、実業高校には以下のようなデメリットもあるので注意しよう。
- (就職する場合も大学に行く場合も)学校の推薦枠ありきになりがちなので、学校から嫌われるとその後の人生に悪影響が出てしまう可能性も…。
- 名門校(戦前からある学校が多い)とそうでない高校(戦後にできたところが多い)で、就職実績や大学進学実績に大きな差がある。
- そもそも(工業高校はともかく)商業高校や家政高校は(昔と違って)あまり良い就職先が無い…。
- 手先が不器用な人や、そもそもその学科の専門分野に興味が無い人にとっては地獄。(特に工業高校は)
- (就職指導が徹底していることの裏返しにもなるが)普通科よりも校則が厳しいところが多い。(中には校則が緩い実業高校もあるかもしれないが…)
- (工業高校の場合)女子が少ない。(化学科、建築科、情報科を除く)
- 卒業後に専門学校に行く場合、(普通科には無い)実業高校のメリットを活かせない場合がある。
- 高卒で就職する場合であっても公務員に限れば(公務員試験で数学や地歴公民などが出題される関係上)むしろ普通科や総合学科の方が有利な場合もある。
- そもそも実業高校で取れる資格の多くは(受験資格が無いので)普通科出身者でも取れたりする。何なら社会人になってから勉強して取ることも可能である。
その他の特徴
その他、実業高校にありがちな傾向としては以下のものがある。
- 部活動が強い学校が多い。特に工業高校は野球部、柔道部、ラグビー部が強い傾向にある。
- 変わった部活動がある学校が多い。(例:商業高校の簿記部、プログラミング部など)
- (普通科や総合学科と異なり)公立高校であっても学区制度が無い学校が多く、越境入学しやすい。
- (普通科や総合学科に比べて)家が貧しい生徒が多い傾向がある。
実業高校と似たようなシステムの学校
陸上自衛隊や一部の民間企業(日立製作所、トヨタ自動車、日野自動車、デンソーなど)でも実業高校に似たようなシステムの学校が存在する。
一般的な実業高校と違うのは「勉強しながら給料がもらえること」「卒業後にその企業(組織)への就職が約束されること」などがある。また、一部の学校(陸上自衛隊高等工科学校など)では高卒資格も同時に取れる。
ただし、これらの学校は
- 半分社会人扱いになるので、一般的な実業高校よりも厳しい教育になる。遅刻や無断欠勤(欠席)も許されない。
- 部活動が必修となっているところが多い。(しかも運動部がほとんどである)
- (陸上自衛隊高等工科学校は)防衛大学校や防衛医科大学校などと同様に軍事教練(訓練)がある。工業高校の実習とは比較にならないほどハードである。
などのデメリットもあるので気をつけよう。
関連項目
- 高等学校
- 普通科
- 総合学科
- 教育困難校(底辺校)
- 学校の一覧
- 大学
- 短期大学
- 専門学校
- 職業能力開発大学校
- 職業訓練施設(職業訓練校)
- 高等専門学校(高専)…工業高校の上位互換。こちらは「工業高校に比べて校則が緩い」「工業高校よりも授業は難しいが、その分就職はもっと強い」「学歴としては短大卒とほぼ同等」などの違いがある。
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