容疑者Xの献身とは、2005年に刊行された小説家・東野圭吾の推理小説である。
第134回直木賞、第6回本格ミステリ大賞受賞。2005年の『このミステリーがすごい!』『週刊文春ミステリーベスト10』『本格ミステリ・ベスト10』すべて1位。2012年版『東西ミステリーベスト100』国内編13位。また2008年に映画化され大ヒットし、東野圭吾を日本を代表する大ベストセラー作家に押し上げた。
短編集『探偵ガリレオ』、『予知夢』に登場した物理学者の湯川学が長編で活躍する。犯人役が数学者なのは、「探偵が物理学者なら犯人は数学者だろう」と作者が考えたため。
2012年に英訳版がアメリカの推理小説最高の賞であるエドガー賞にノミネートされたが、受賞は逃した(日本人作家のノミネートは桐野夏生の『OUT』以来史上2人目)。同年には韓国にて『容疑者Xの献身 天才数学者のアリバイ』としてリメイク、Amazon Prime VideoとHuluにて配信中。2023年にはインドにて『容疑者X』として二度目のリメイク、Netflixにて配信中。なおインド版に湯川は出てきません。
なお正式な表記は『容疑者χの献身』(アルファベットのエックスではなく、ギリシャ文字のカイ。ただし読みは「エックス」)。また「オール讀物」連載時のタイトルは『容疑者χ』だった。
あらすじ
弁当屋に勤め、つましく暮らしていた花岡靖子と娘のもとへ元夫が上がり込んでくる。靖子は口論の末に夫を殺してしまうが、そこへたまたまやって来たのが以前から靖子へ思いを寄せていた数学者、石神だった。彼は何もかも自分に任せてくれれば何も心配はいらないと言い、死体の処理を請け負うのだった。
やがて死体が発見され、花岡靖子が犯人の筆頭に挙がる。湯川も事件に登場し、やがて背後に知り合いの石神が潜んでいることを知る。犯人は彼女たちだと確信する湯川だったが、彼の前には石神の仕組んだ鉄壁のアリバイトリックが待ちかまえていた。愛する人のため、彼が行ったこととは。
映画と原作との相違
- 映画では湯川役が福山雅治だが、作者が当初考えていた湯川役は佐野史郎である。
- 原作では湯川がするスポーツはバドミントンのみ。
- ドラマでは湯川がひらめくとなにやら無心に数式を計算するシーンがあるが、ドラマ独自のものである。
本作を巡る本格論争
前述の通り、各方面で非常に高い評価を受けた『容疑者Xの献身』だが、刊行から数ヶ月後の2005年11月、作家の二階堂黎人が自身のサイトで本格としての高評価に疑義を呈し、よせばいいのに笠井潔も乗り出してきて、2006年に主に「ミステリマガジン」誌上にて、『容疑者Xの献身』の本格ミステリとしての評価をめぐって大論争が巻き起こった。
なお実際のところは「『容疑者X』は本格ではない」と言い張ったのは二階堂ひとりで、笠井は「本格だが本格ミステリとしてのレベルは低く、これを高評価するということは新本格は終了したということ」という論を張り、それに有栖川有栖を筆頭として主だった作家・評論家が反論するという格好になった。
その間、『容疑者Xの献身』は2006年の第6回本格ミステリ大賞を受賞。本格ミステリ業界としては『容疑者X』を本格として認めたという形になり、2006年限りでほぼ議論は収束した。
この騒動で笠井潔は2007年に探偵小説研究会を脱会。二階堂黎人は原書房から探偵小説研究会が出していた『本格ミステリ・ベスト10』に対抗して、2007年より南雲堂から島田荘司監修という形で『本格ミステリ・ワールド』というムックを出し始め(笠井潔もそちらに合流)、そちらで「黄金の本格ミステリー」というランキングではなく数名の選者による推薦作という形の表彰を始めた(一部では「俺ミス」と揶揄されたりした)。
狭い業界内のコップの中の嵐と言ってしまえばそれまでだが、業界内にはいろいろな遺恨やら何やらを残した騒動であったようである。
論争の詳しい経緯については、詳細にまとめた「X論争黙示録」というページがあるのでそちらを参照。
関連動画
シックス・センスやセブンのように真相が重要な映画なので、ネタバレには注意して下さい。
関連項目
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