概要
「対潜水艦戦闘を想定した、哨戒(パトロールの意)機」である。
広大な海洋を優雅に飛び回る潜水艦ハンター。
高性能な探知機材を満載し、水面下の潜水艦を捜索・発見・追跡・攻撃する能力を持つ航空機である。
「そんなに暗く冷たい水中が好きなら、そのまま沈んでるといいよ… 永遠にな」
固定翼機と、回転翼機(哨戒ヘリコプター)のタイプがある。
固定翼機は小型~中型の旅客機をベースに開発される場合もある。(P-3C、P-8など)
哨戒ヘリは基本的には戦闘艦に搭載されて運用され、戦闘艦の対潜システムの一部として機能する。
※特に記載がない限り、現代の対潜哨戒機を紹介していく。
※自衛隊では、07大綱(平成7年11月28日安全保障会議及び閣議決定)以降は「対潜哨戒機」の呼称は「哨戒機」に統一されている。
よく分からないので、簡単にまとめて
一行でまとめると、「隠れている潜水艦を探して、見つけたら魚雷をプレゼントするのが主な仕事」である。
飛行機型とヘリコプター型の2タイプがある。
(もちろん水上の怪しい船も捜索・攻撃できる)
…ただし海は広いな大きいな、水面上は見通しが良いとはいえ、水中捜索の場合は話は別。
領海全てが相手の隠れ場所であり、どこにいるか容易に分からない。今この瞬間にも領海内に他国の潜水艦がいるかもしれないのが怖い所である。
水は水深が深いほど急速に透明度を失い、また潜水艦自体も黒いため近距離であっても肉眼では発見できない。[1]
基本的に相手は浮上して来ない(その瞬間に居場所がバレる)ため、攻撃される心配はない。
ただし相手は移動できるため、一度捜索した場所が安全という保証はない。
様々な機能・アイテムを駆使しつつ潜水艦を探してみよう!
捜索に失敗すると、自国の高価なでっかい船が海の藻屑になるのでよろしく。[2]
対潜哨戒機がなかったらどうなる?
元祖&最強のステルスである潜水艦を放っておけば、自国の船はあっというまに海の藻屑。
でかい艦はもちろん、輸送船を沈没させられる「通商破壊」は戦時中も広く行われていた。
これが船や飛行機、ヘリコプターの攻撃ならば攻撃直前に気づいて対処できるかもしれないが
潜水艦の一撃は何の前触れもなくぶち込まれ、しかも水中から一番美味しい所(弱点)を頂かれてしまう。沈没を免れても航行不能など甚大なダメージは避けられない。
飛行機がやらなくても、軍艦がやれば良いのでは?
対潜哨戒機は、海底に設置された水中聴音機や音響測定艦(移動できる水中聴音機)等の情報を基に、潜水艦が居ると思われる海域に短時間で到着し、捜索を開始することができる。これは他の対潜ユニット(水上艦艇や潜水艦)では真似できない。
- 水上艦艇が対潜兵器を備えているのは、自艦隊を潜水艦の襲撃から守るためである。
- 忘れられがちだが、潜水艦も強力な「対潜兵器」である。空母のような高価値ユニットであれば、まず味方の潜水艦が水中から護衛していると考えた方が良い。
その他の脅威
実は前述のように敵の潜水艦=魚雷で艦船を沈めるだけではない。
全ての潜水艦が以下の機能・武装を有している訳ではないが
不透明な水面下では細かい艦種の識別までは不可能なため、リスクが無い訳ではない。
端的にまとめれば
「潜水艦は浮上したらバレるし、陸に上がれないから良いのでは?」という訳ではない点に注意。
※弾道ミサイル発射に関しては超長距離の射程があり、領海に入る必要がないため除外。
秘密裏に特殊部隊を輸送してくることも
敵の潜水艦から特殊部隊[3]が出発し、偵察や破壊活動を行う。
小型潜水艇(輸送潜水艇)等を用いて近隣の海域まで接近するパターンが多い。[4]
また水中破壊工作/水中爆破工作を行う部隊自体は多くの国が保有しており、手の内を明かしたくないことから他国が「詳しく公開していない=そういう装備を持っていない」という保証はない。近年の中国軍などは充分な資金力もある。(日本との比較兵力表に関しては 中国軍 の記事を参照)
機雷を敷設される可能性もある
潜水艦によって水中から敷設可能な機雷(水上/水中の地雷)も存在するため、放っておけば海が機雷だらけの危険な海域にされるかもしれない。これでは敵の潜水艦がいなくても危険であり、味方艦船の行動を大きく制限されてしまう。
用途
飛行機・ヘリで若干異なるが、捜索・攻撃機能は大抵付属している。
- 【水中目標】敵の潜水艦を捜索・追尾または攻撃する。
- 【水上目標】不審な船舶や敵の艦船を捜索・追尾または攻撃する。
- 自国海域、自国艦船の周囲を飛び回り、敵の潜水艦に警戒する。
- その他、海上の監視警戒、安全パトロール。
- 哨戒ヘリコプターの場合は特性が若干異なる。
実際に使われた例
- 2001年、九州南西海域工作船事件の際、最初に北朝鮮の不審船を発見。(P-3C)
- 2009年より、ソマリア沖の海賊に対する警戒監視も行っている。(P-3C)
- 2011年、東日本大震災時は海上の空母等を基地として救援物資の輸送を行う。(米海軍SH-60等)
装備
武装
| 爆雷 | かつての対潜主力兵器。水中へ沈ませる爆弾。 |
| 機雷 | 水上/水中の「地雷」。いわゆる設置型トラップ。 航空機からの空中投下により迅速に敷設可能なもの。 ※装備可能というだけで、必須の装備ではない。 |
| 魚雷 | 空中投下型。主に潜水艦に対して使用される。 |
| 対戦車ミサイル | 小型艦艇に対して使用される。 元の用途から沿岸の装甲車両にも攻撃可能。 西側ではAGM-114(ヘルファイア)など。 |
| 対艦ミサイル | 大型艦艇に対して使用される。 飛行機型のほうが長射程&強力なものを装備できる。 |
| 機関銃 | 【哨戒ヘリ】不審船等に対しての射撃による攻撃・警告を行う。 臨検や特殊部隊の輸送/回収時の援護にも用いられる。 |
その他、翼下などの機外搭載用のパイロン等に取り付け可能なもの。(ガンポッド・ロケット弾など)
センサー
潜水艦を発見するための高性能なコンピュータや装備が詰まっている。
| 磁気探知機(MAD) | 巨大な金属の塊である潜水艦から出る「磁場の乱れ」を検知する。 沈没船にも反応してしまうので、沈没船の位置は事前に把握しておく必要がある。 |
| 電波探知機(ESM) | 極稀に潜水艦は浮上してレーダーや無線通信を使用することがあるので、その電波を逆探知することで潜水艦の発見に役立てる。 |
| ソナー(広義) | ・水中の広範囲に音波を発信し、反射波で物体の有無を検出する。 ・水中の音響探知(聴音)も行う。(スクリュー音など) いわゆる水中のレーダー。 漁船等が「魚群探知機」として使っているが、あれより強力。 ※ソナー自体は水上艦艇・潜水艦にも付属している。 ※これ自体が魚雷のように攻撃してくれる訳ではない。 対潜哨戒機に関しては、次項の2つがある。 |
| ソノブイ (空中投下型のソナー) |
空中から広範囲に投下する。自ら音波を出して潜水艦からの反響音を拾うアクティブソノブイと、潜水艦が出す音を検知するパッシブソノブイがある。[7] ソノブイは音響情報を哨戒機に送信し、哨戒機は搭載しているコンピューターに情報を入力して潜水艦の位置を測定する。 細長い円筒形で、戦車の砲弾くらいのサイズがある。 アンテナだけ残し探知部分は沈んで待機する。 バッテリーが切れると内部に完全注水され自沈する使い捨て。 機内から再装填可能なものも多い。 機体の小さい哨戒ヘリでは携行本数に限度がある。 |
| ディッピングソナー (吊下式ソナー) |
【哨戒ヘリ用】機体からぶら下げて使うソナー。 使用中は動けないが、好きな場所へ持っていける。 探知状況は機内のモニターによって確認する。 使用後は吊り上げて機内収容し、また繰り返し利用可能。 (結構でかいため、少々機内のスペースを取りがち) |
| 前方監視型赤外線装置(FLIR) | 温度差・熱源を明確に視覚化する熱線映像装置。 いわゆるサーマルサイト。(→暗視装置) 昼間・夜間・悪天候でも長距離の目標捕捉や遭難者の発見が可能。 他の航空機、航空機以外にも幅広く使われている。 夜間・悪条件下における飛行や水上目標に対して使われる。 ただし水中は透視できない。(水面の温度を表示してしまうため) |
その他
ミサイル警報装置、チャフ/フレアディスペンサー、増槽[8]など。
代表的な哨戒機
記事がなくても構いませんが、記事のあるものはそちらを優先。
固定翼機(戦後) |
回転翼機(哨戒ヘリコプター) |
関連作品
動画
静画
関連項目
脚注
- *隠密性が自慢の潜水艦が水上から肉眼で発見できてしまったら、その時点で潜水艦失格である。
- *イージス艦は約1000億円以上などザラであり、艦種によってはさらに多くの兵士や装備、物資も海の藻屑になればこの額では済まない。この辺りは「空母」の百科記事で詳しく説明されている。
- *特殊部隊そのものが精鋭であるし、水中破壊工作は一般の兵士レベルでは不可能である。(潜水機材など各種装具の操作はもちろん、水面に顔を出せない水中で現在位置を確認しつつ長時間作業…というだけで大きな危険が伴う)
- *秘密裏に潜入するため、潜水艦から隊員を乗せた小型潜水艇が出発するのは米海軍特殊部隊のネイビーシールズ等でも行っている。もちろん隊員の存在が露呈しないよう、潜水艇自体は遠くの水中に残して隊員のみで上陸する。各種荷物を背負ったまま水中の長距離遠泳も行えるよう訓練されているため、生身の人間だからと油断はできない。
- *映画やゲームのように少人数で沿岸の敵の基地で無双するのは難しい。十分な火力支援があるなら別であるが。
- *行動半径…航続距離の半分。この範囲内であれば出発地点へ帰還できる距離。
- *海自の潜水艦探索は世界トップレベル、カギを握る「P-3C哨戒機」の任務
2024.6.12 - *着脱式の追加燃料タンク。広義には大小複数のサイズがある。
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