対艦ミサイルとは、その名の通り艦船を対象とした攻撃に使用されるミサイルである。
日本の対艦ミサイルについてはこちら→対艦誘導弾
概要
誘導方式は慣性誘導とパッシブ赤外線ホーミングかアクティブレーダーホーミングのどちらかとの組み合わせを採用しているのが一般的。これは発射機からは捕捉することができない水平線下の敵艦を攻撃することがあるために発射機側からの誘導あるいはその補助が期待できないことによる。対艦ミサイルは発射後慣性誘導にて飛行、シーカーが目標を捕らえた時点でシーカーによる誘導に切り替わるのが普通である。また最近ではGPSを搭載し精度を上げた物も存在する。ただしロシア等東側陣営の対艦ミサイルは超音速でかっ飛ばす思想のものも多い。
推進機構は他のミサイルでは一般的なロケットエンジンを採用することももちろんあるが、最近ではジェットエンジンを採用していることが多い。これはシースキミングを行う場合あまり速度、具体的には音速を越すと大きく水しぶきを上げてしまい、これがレーダーの電波を反射し発見されやすくなるからということと、射程距離をできるだけ稼ぐとなった場合に燃費的な意味でジェットエンジンが有利であるからということの2点が大まかな理由である。またジェットエンジンを搭載している場合、発射時の加速を稼ぐため追加でロケットブースターを装着している場合がある。
対艦ミサイルの常套手段として超低空での飛翔(シー・スキミング)がある。慣性誘導・GPS誘導による飛行中は水平線の影に隠れ、シーカーの作動開始以降もシー・クラッターに隠れて接近できる。攻撃される側からすれば、艦載レーダで対艦ミサイルを補足することができても、これを迎撃する為に発射する対空ミサイル自身はシーカーの規模が限定されるため補足が難しくなる。対艦ミサイルが最終段階で急上昇を行うのも迎撃側の防空システムを撹乱するためのもので、迎撃側から見るとターゲットが大きく動くので照準を狂わされるか、あるいは追尾を外してしまう。初期型のハープーンでは目標1マイル手前で上昇して30度で目標に突入するモードを持つ他、エグゾセのブロック2以降では任意の機動を設定できるという。[1]
超音速対艦ミサイル
一般的な対艦ミサイルが亜音速飛行で水しぶきを抑えつつ超低空飛行で被発見を避ける思想に対し、こちらは超音速飛行によりそもそも敵艦に対処の余裕を与えないというのがこちらである。近年は艦対空ミサイルや艦艇そのものも対処能力が上がっており、これに対抗するための手段といえる。先述の通りロシアは西側陣営に比べ当初から超音速対艦ミサイルの開発、配備が活発であり、有名どころだとP-700グラニートなどがある。反面、西側ではほとんど開発が行われていない・・・どころかまるで無い。少ない例に現在日本が開発中のXASM-3がある。
対艦弾道ミサイル
見て字のごとく、弾道ミサイルを対艦用途に転用したものである。実現していれば迎撃が非常に困難な対艦ミサイルとなる。中国はDF-21Dと呼ぶ対艦弾道ミサイルを配備、運用しているという。
RV(大気圏再突入体)を空力でコントロールして命中精度を最高度に高めた弾道ミサイルは史上ただひとつ、INF条約で全廃された、アメリカ製の「パーシングⅡ」(重量7.5トン、最大射程1800km)のみである。このパーシングⅡでもCEPは30mだった。チャイナがこれを超える射程(落下速度が大きくなり、空力コントロールがさらに難しくなる)で、このCEPよりも高い命中精度を実現できるはずはない-つまり「対艦弾道弾」など実在しない-と考えるのが普通だろう。[2]
※2023年11月以降、イエメンの一部を支配するフーシ派によって、おそらく史上初と思われる弾道ミサイルによる洋上の船舶への攻撃が実行されているが、これは目標船舶のAIS(船舶自動識別装置)データを利用しているようだ。[3]
歴史
Hs293
第2次世界大戦中に、対艦ミサイルの始祖と言えるHs293がドイツのヘンシェル社で開発された。グライダーがロケットを胴体下に抱いた形で、炸薬を500kg搭載、発射後にロケットが10秒間噴射する。Hs293の尾部には発光装置が付いており、発射母機にいる誘導員がその光を見ながら発射されたHs293を無線で操縦した。各種発展型も考案され、音響有線誘導型のHs293B、胴体を再設計した潜水艦攻撃型のHs293C、弾頭にテレビカメラを持つ有線誘導型のHs293D、空対空型のHs293Hがテストされた。Hs293の他にフリッツXという誘導兵器も作られたがこれは徹甲爆弾PC-1400の弾体を利用した無線誘導の滑空爆弾で、1943年9月に連合軍に投降を図るイタリアの戦艦ローマに3発を命中させて撃沈した他、英海軍の戦艦ウォースパイトを大破させている。[4]
ASM-N-2
第2次世界大戦中では他にもアメリカがドイツに遅れて対艦ミサイルを開発していた。ASM-N-2 BATというこのミサイルが画期的であったのはレーダーによる自律誘導、現在でも主流であるアクティブレーダーホーミングが実装されていた点である。実戦投入が遅く、また確認されている戦果も正直前2種に大きく見劣りする上、戦後アメリカがこのシリーズの開発を打ち切ったためいまいち影が薄い。しかしその誘導方式は先見の明があったといえるだろう。
ケ号爆弾
実は日本でも末期に対艦用の誘導爆弾を開発していた。ケ号爆弾という名のそれは誘導にパッシブ赤外線ホーミングを採用していた。こちらはテスト飛行は一回行われたものの、技術的要因から量産化には至らなかった。しかし誘導方式の発想そのものは後の時代にも通用するものである。なお、温泉旅館に突っ込んだことで有名なのは空対地ミサイルのイ号一型乙無線誘導弾であるので注意。
また、特攻機ではあるが桜花は人が乗っているという点を除けばやろうとしていたことは対艦ミサイルと変わらないとも言える。
エイラート事件
1967年10月、イスラエル海軍の駆逐艦「エイラート」が示威行動のためエジプトの領海近くを遊弋していたところ、ポートサイド港内で待機していたエジプト海軍のミサイル艇が対艦ミサイルを発射、エイラートは3発の直撃を受け、沈没した。使用されたのはソ連が開発したSS-N-2SSMスティックスで、射程45km、炸薬量500kg。[5]
関連動画
個別記事の一覧
関連項目
脚注
- *「『中華神盾』は張子の虎か!?」文谷数重 軍事研究2014年9月号
- *「兵頭二十八の防衛白書 2016」兵頭二十八 草思社 2016 p.231
- *フーシ攻撃、西インド洋に拡大か。射程2000キロ以上。喜望峰回りも注意。アンブリー分析
2024.07.10
- *「世界のミサイル」ワールドフォトプレス編 光文社 1991
- *「戦車はミサイルはいつ、どのようにして生まれたのか!?」防衛技術ジャーナル編集部 2008
親記事
子記事
兄弟記事
- 4
- 0pt