将棋倒し(しょうぎたお-/だお-)とは、将棋の駒を使った遊びである。
概要
将棋の駒を垂直にして1列に並べ、はじめの1つを倒すと連鎖的に倒れていくさまを楽しむ。
駒は通常底辺、回り将棋ならば「10点」になる面を下にして置く。しかし、駒は五角形をしているので、別の辺を下にしてもハイセンスな将棋倒しが楽しめるだろう。
将棋の駒は種類によって大きさが異なる。概ね「王/玉→飛車/角→金/銀→桂馬/香車→歩兵」の順に大きい。並べる際は、この順番かこの逆順になるように並べるとスムーズに倒れる。
ドミノ倒しとの違い
知名度
概要の冒頭に掲載した動画のタイトルが全てである。
投稿者はいずれも「将棋倒し」という言葉を使っておらず、おそらくは知らなかったと思われる。
「木の板を並べて倒す遊び」としてはドミノ倒しが有名であり、日本では本来のドミノがほとんど遊ばれていないにもかかわらず、この遊びにドミノを用いている。もしくは、倒すために作られた小片を「ドミノ」と称している。
つまり、この遊びは「将棋でやるドミノ倒し」であって、「将棋倒し」という言葉を日本人は忘れてしまっているのだ。
知名度については「将棋倒し」と「ドミノ倒し」で逆転現象が起こっているのが面白いところである。
「ドミノ倒し」の知名度が以上のように「将棋倒し」をはるかに凌駕するにも関わらず、通常のボードゲームとしてのドミノは日本では殆ど知られていない。遊び方を知らない人も多いどころか、「ドミノになぜサイコロの目のようなものが描かれているのか」すら知らない人が大多数である。
「ドミノ」の記事には、ドミノ倒しに対してゲームとしてのドミノがいかに知名度がないか書き綴られている。
ニコニコ動画でもドミノ本来の遊び方をしている動画は皆無に近く、大半は「ドミノ倒し」を指すタグとして使われている。
ドミノ牌を使わないドミノ倒し動画のタグに付けられている例も多い。
だいたい、このニコニコ大百科でも「ドミノ倒し」の記事のほうが2年近く先に製作された時点でお察しください。
一方将棋は、本将棋以外にも「はさみ将棋」「回り将棋」「将棋崩し」など様々な派生の遊び方が知られているが、「将棋倒し」は名前だけ知っていても遊んだことは殆どない人が多いと思われる。
というか、「話題の単語」に本記事が出た時、「ドミノ倒し」へのリダイレクトでいいじゃんと思ったやつは先生怒らないから正直に手を上げなさい。
さらに、「将棋倒し」を「ドミノ倒し」の記事内に書いた編集者は生徒指導室に来なさい。
準備の難易度
ドミノの駒は1セット55または91枚だが、将棋の駒は1セット40枚しかない。そのため、多くの駒で将棋倒しをしたいならたくさんのセットを買うしかない。
将棋倒しに最適な駒は、大きく、密度が高く、平面や角がきっちり出ているものが望ましいが、そのような駒は本将棋にも高級品である。1セット揃えるだけでも諭吉が何人も飛んでいくのに、それを「倒す」ためにいくつも買い揃えるのは並の金銭感覚では考えられない。おじいちゃんの秘蔵の駒など使った日には、リアル田楽刺しを食らっても文句は言えない。
安いプラスチック製の駒は、立てることをほとんど想定していないので、ペラペラで将棋倒しに使いにくい。プラスチック製だが平面や角がしっかり取れている、というような駒は本将棋では単にコストが上がるだけなので、どこも作らないだろう。
ドミノ倒しには「倒す専用のドミノ」が大量に用意されたセットが存在するが、将棋倒しにはそのような気の利いたものは存在しない…と思いきや過去にエポック社が製造していたらしい。下記「関連商品」を参照。
並べる/倒す難易度
ドミノは縦横比概ね1:2の長方形であり、安定して並べるのは少し難しい。
これに対して、将棋は下のほうが広い五角形をしており、下のほうが厚くなっているため、立てるのはドミノより楽である。
一方、きちんと計算して並べないと、安定しすぎて倒れてくれないということが起こりうる。
また、微妙に角度がつけられている関係から、ドミノ倒しでよくあるテクニックである「カーブだけ2列にして倒れやすくする」がやりにくいようである。
比喩表現
もともとは戦国時代あたりから生み出された戦術らしく、将棋に因んで、相手の兵士を倒していくことを指した。それが、群衆が折り重なって倒れることによって、次々と人が倒れていく事故、事件をそのように比喩するようになる。これは一般的な国語辞典にも普通に記載があり、戦前戦後の事件には「将棋倒し」という言葉が標準で用いられていた。
-
次々に折り重なって倒れること。また、一端から崩れはじめて全体にまで及ぶこと。「電車が急停止し、乗客が将棋倒しになる」
goo国語辞典「将棋倒し」の記事より (強調引用者)
その後は、そこまで目立った事件が起きていなかったため、あまり気に留められていなかったのだが、2001年の明石花火大会歩道橋事故が発生、上述の現象によって11人が亡くなる痛ましい事件が発生した。そしてこの際、日本将棋連盟が「将棋倒し」の語を使わないようマスコミに要請をしたことで、後にマスコミが自主規制を敷くようになった。また、この事件がきっかけで警察や学者などから群衆事故の分析が進み、過去の様々な事例を体系化していくと、その言葉だけでは説明が付きにくい(一方通行に倒れるケースのほか、多方向から倒れるケース、転落するケースもある)ため、より汎用的な表現が求められ、群集事故や雑踏事故という言葉が適切な表現であると一般化していった。一方、古くから慣用句として既に人口に膾炙していたため、そのような自主規制があることを知らない動画投稿サイトでは、現在でもこの意味で「将棋倒し」が普通に使われている例もある。
※これを風評被害と捉えるか、あるいは言葉狩りと捉えるかは自分の匙加減といったところである。
参考までに「将棋倒し」と称される群衆事故を列挙するが、だいたい原因は過密な状態と、そこで起きた無理が通れば道理が引っ込む行動であることがわかると思う。
主な群衆事故
年代順。
- 永代橋落橋事故(1807年9月20日/江戸)
- 京都駅跨線橋転倒事故(1934年1月8日)
戦前を代表する群集事故で、海軍海兵団入団を祝う人でごった返し、階段で押し合いが起きたことが原因で群衆雪崩発生。死者77人。今後を期待された女優の原静枝も巻き込まれ、18で犠牲になった。 - 二重橋事件(1954年1月2日/東京都千代田区)
皇居での一般参賀で起きた悲劇。死者16名。参列整理のためにロープを張ったことと、それを乗り越えようとした人物がいたことが原因で、巻き込まれた老人が転倒、そこから参列が横倒しになっていく。日本でイベント警備が厳重になった契機となった事件。 - 彌彦神社事件(1956年1月1日/新潟県彌彦神社)
- 横浜歌謡ショー事件(1960年3月2日/神奈川県横浜市)
ラジオ関東の公開録音で起きた悲劇。行列で無理に入り口に押し入ろうとした連中によって群集事故発生。12人死亡。なお、イベント会場は4000人がキャパであったのに対し、どうせそんなに来ないだろうと8000枚の無料招待券をばらまいたイベント主催の見通しの甘さも指摘されている(会場には6000人が押し寄せた) - ヒルズボロの悲劇(1989年4月15日/イギリス・シェフィールド)
- 明石花火大会歩道橋事故(2001年7月21日/兵庫県明石市)
- メナー谷での群衆事故(2015年9月24日/サウジアラビア)
- ソウル梨泰院雑踏事故(2022年10月29日/韓国 ソウル)
関連動画
関連商品
関連項目
- 4
- 0pt