たった一時間半で
世界は一変した。
全員が生きるか死ぬかの極限状況下で起きる密室殺人。
21世紀最高の大型新人による、前代未聞のクローズド・サークル
史上稀に見る激戦の選考を
圧倒的評価で制した、衝撃の本格ミステリ!!
屍人荘の殺人(しじんそうのさつじん)とは、今村昌弘によるミステリー小説。また、それを原作とする映画。
あらすじ
神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と会長の明智恭介は、曰くつきの映画研究部の夏合宿に加わるため、同じ大学の探偵少女、剣崎比留子と共にペンション紫湛荘を訪ねた。
合宿一日目の夜、映研のメンバーたちと肝試しに出かけるが、想像しえなかった事態に遭遇し紫湛荘に立て籠もりを余儀なくされる。
緊張と混乱の一夜が明け――。部員の一人が密室で惨殺死体となって発見される。しかしそれは連続殺人の幕開けに過ぎなかった……!!
究極の絶望の淵で、葉村は、明智は、そして比留子は、生き残り謎を解き明かせるか?! 奇想と本格ミステリが見事に融合する選考委員大絶賛の第27回鮎川哲也賞受賞作。
概要
第27回鮎川哲也賞に応募された、今村昌弘のデビュー作。今村はこれが初めて書いた長編ミステリであり、同年のミステリーズ!新人賞で最終選考に残ったため、同じ東京創元社の鮎川哲也賞に応募しようと思い立ち、『金田一少年の事件簿』を参考にして2ヶ月半ほどで書き上げたという。
この27回は本作の他にも優秀賞の一本木透『だから殺せなかった』と落選した戸田義長『恋牡丹』が後に刊行される激戦回だったが、その中でも本作は選考委員である加納朋子・北村薫・辻真先の3人からほぼ絶賛に近い評価を受け受賞した。[1]
2017年10月に東京創元社から刊行されると、ミステリプロパーの間でもたちまち高い評価を受け、なんと新人のデビュー作にして「このミステリーがすごい!」「週刊文春ミステリーベスト10」「本格ミステリ・ベスト10」の3ランキング全て1位の三冠を達成(東野圭吾『容疑者Xの献身』以来、史上2作品目)し、一気にベストセラーに。さらに第18回本格ミステリ大賞を受賞し、第15回本屋大賞でも3位に入った(「ミステリが読みたい!」では集計期間の違いのため翌年の2位)。ここ数年の本格ミステリの中でも最大の話題作と言っていいだろう。
2019年9月には、12月の映画化に先んじて創元推理文庫から文庫化された。文庫解説は有栖川有栖が担当。なお単行本は巻末に鮎川賞の選評がついているが、文庫版にはない。
本作がこれだけ話題になったのは、その本格ミステリとしての完成度の高さに加えて、「あるジャンル」の定番シチュエーションを本格ミステリの舞台にする、という今までありそうでなかった発想にある。[2]本作の「ある重要な要素」を本格ミステリに導入する作例自体は、オールタイムベストにも挙がる有名な前例があるが、吹雪の山荘・絶海の孤島といった本格ミステリの定番の舞台である「クローズド・サークル」と呼ばれる閉鎖環境の設定に「あれ」を導入した作品は前代未聞だった。[3]
もちろん舞台設定のアイデアのみならず、この設定だからこそ成立する謎解きを巧みに構築した点が、ミステリとしての評価の高さに繋がっている。
主人公・葉村とその先輩の明智、名探偵の剣崎比留子といったメインキャラクターたちは今風というかライトノベル系で読みやすい。突飛でスリリングな状況設定が売りだが、本格ミステリとしては「クローズド・サークルで起きた連続殺人の犯人を名探偵が突き止める」という非常にオーソドックスなフーダニット(犯人当て)であり(最近はここまでオーソドックスな本格ミステリは意外と少ない)、本格ミステリに不慣れな人にもわかりやすく、本格ミステリが苦手な人にもこの状況設定の面白さでとっつきやすい作品であるところもベストセラーになった要因だろう。
本作の大ヒット以降、いわゆる「特殊設定ミステリ」が本格ミステリ界を席巻しており、現在の特殊設定ブームの本格的な火付け役となった作品でもある。
単行本・文庫とも、装画は『Another』など角川文庫の綾辻行人作品の装画でおなじみの遠田志帆。本作のあとも遠田は相沢沙呼『medium 霊媒探偵城塚翡翠』などの話題作を手掛けている。
本作から主人公と探偵役を引き継ぎ、〈剣崎比留子シリーズ〉として東京創元社から続編も刊行中。
2019年2月、第2弾『魔眼の匣の殺人』が刊行。何故か本格ミステリ大賞候補にならなかったが「このミス」3位、「週刊文春」3位、「本ミス」2位、「ミス読み」3位と再び高い評価を集めた。
2021年7月、第3弾『兇人邸の殺人』が刊行。こちらも「このミス」4位、「週刊文春」3位、「本ミス」3位、「ミス読み」5位と高評価で、現代本格ミステリ界を牽引するシリーズとなっている。
また、2024年には本作以前の事件を描いた短編集『明智恭介の奔走』が出ている。
2019年5月からはウェブコミックサイト「少年ジャンプ+」にてコミカライズ版の連載が開始。かつて乙一の小説『山羊座の友人』のコミカライズを担当した経歴もある漫画家、ミヨカワ将が執筆する。2021年5月まで2年間連載され、単行本は全4巻。
映画版
2019年、神木隆之介(葉村譲)、浜辺美波(剣崎比留子)、中村倫也(明智恭介)主演で映画化。
監督は木村ひさし、脚本は蒔田光治とドラマ『TRICK』のコンビが務めた。2019年12月13日公開。主題歌はPerfume「再生」。
原作紹介時のお約束を踏まえ、映画版でも「あるジャンル」についてはほぼ完全に伏せたプロモーションを敢行。また原作に比べると、かなりコメディ色が強い演出がなされている。
このため、「あるジャンル」の映画だと知らずに見に行った人から文句を言われたり、原作ファンからもコメディ化がかなり賛否両論ではあったが、興行収入10.9億円とまずまずのヒットになった。
原作の映研がロックフェス研になっているなどの設定や序盤の展開、紫湛荘の間取りなど細かい部分の変更や、ストーリー面でも「斑目機関」に関するパートはほぼカット、また葉村の抱える過去や真相に関わる一部の行動などがカットされているなど、原作から色々と変更点はあるが、発生する殺人事件と本格ミステリとしての謎解き部分はほぼ原作通りに踏襲されている。
何も知らず中村倫也目当てで見に行った中村倫也ファンは怒ったようだが、仕方ないね。
登場人物(映画版キャスト)
- 葉村譲(はむら ゆずる)(演:神木隆之介)
- 神紅大学経済学部1回生。ミステリ愛好会会員。本編の語り手。
現代のライトミステリーより古典ミステリを愛するミステリオタク。古典の話が通じないミス研に失望していたところを明智にスカウトされ、非公認団体・神紅大学ミステリ愛好会の唯一の会員となる。
名(迷?)探偵・明智の助手として、明智と推理勝負をしたり振り回されたりする日々を送る。
中学時代に震災に被災した過去を持ち、そのとき負った怪我の痕が頭部に残っている。
映画版では震災関連の設定がなくなり、1浪した設定になっているため比留子より年上。また「一度もミステリの犯人を当てたことがない」という設定が追加され、比留子から「迷宮太郎」と呼ばれる羽目になる。
- 明智恭介(あけち きょうすけ)(演:中村倫也)
- 理学部3回生。ミステリ愛好会会長。人呼んで(?)「神紅のホームズ」。
大学の各サークルや近所の交番、探偵事務所などに売り込みをかけ、大学内の事件に果敢に首を突っ込み、解決したりしなかったりする名(迷?)探偵。そのため勝手に比留子をライバル視する。
原作では非常に人気の高いキャラで、こんなに人気が出たのは作者も予想外だったとか。そのため紫湛荘の事件以前の彼の活躍を描く短編も書かれている。
映画版では「7年生か8年生」と原作よりもだいぶ年上に設定されており、迷探偵ぶりが原作よりも前面に出ている。
- 剣崎比留子(けんざき ひるこ)(演:浜辺美波)
- 文学部2回生。名家のお嬢様で、現実の難事件をいくつも解決した実績を持つ本物の名探偵。
ある理由から葉村と明智を紫湛荘での映研の合宿に誘い、紫湛荘の異変と事件に巻き込まれる。
映画版では文学部1回生。原作と違い、葉村より年下になっている。また映画版ではコメディ要素が強めなこともあり、エキセントリックな部分が原作より強調されている。
- 静原美冬(しずはら みふゆ)(演:山田杏奈)
- 医学部1回生。映画研究部員。小柄で大人しい少女。
映画版では神紅大学の学生ではなく、ロックフェスに参加していたところを七宮と立浪にナンパされる形で登場する。
- 重元充(しげもと みつる)(演:矢本悠馬)
- 理学部2回生。映画研究部員。「あるジャンル」の映画のマニア。
原作では「あるジャンル」についての蘊蓄をいろいろ披露するが、尺の都合か映画版ではそういうシーンは少ない。
- 七宮兼光(ななみや かねみつ)(演:柄本時生)
- 大学OB。紫湛荘のオーナーの息子で、毎年合宿に紫湛荘を提供している。
クローズド・サークルのお約束「こんなところにいられるか!俺は自分の部屋に籠もる!」担当。
登場人物が多いが、原作では序盤で比留子による「名前の覚え方講座」があるので、小説の登場人物名を覚えるのが苦手な人も安心。この名前の覚え方講座は鮎川賞の選評で加納朋子が「大変親切でマル」と褒めており、続編の『魔眼の匣の殺人』でも同様のシーンがある。
外部リンク
関連項目
- 小説作品一覧
- 今村昌弘
- ミヨカワ将
- ミステリー
- クローズド・サークル
- 特殊設定ミステリ
- 鮎川哲也賞 / このミステリーがすごい! / 本格ミステリ大賞
脚注
- *選評によると、選考委員全員がA評価をつけ早々に受賞決定。加納朋子は「一言で言って、抜群に面白かったです」、北村薫は「これは、傑作といってもいいでしょう」とほぼ全面的に絶賛。辻真先は「紛れもなく水際立った本格ミステリである」と面白さや完成度は認めつつも、クローズド・サークルを成立させる外枠の扱いについて疑問を持ち一旦保留したが、2人の意見を聞いて賛同した、という形だったようだ。
- *前述の鮎川賞の選評で選考委員全員が「あるジャンル」について詳細を伏せていたことを踏まえ、本作を紹介する際には「あるジャンル」が何なのかを伏せるというのがお約束になっている。なので本項でも詳細は伏せる。
- *ちなみにその有名な「前例」の作者(敢えて名前は伏せる)は、光文社の電子雑誌『ジャーロ』No.64に掲載された第18回本格ミステリ大賞の選評で本作について「このネタは自分の作品という前例があるのに、作中に言及もないし、この作品に対する批評にも自分の作品についての言及が全然ないのはどういうことだ」という批判を寄せている(その選評よりも後に刊行された文庫版の解説では言及された)。
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