岸辺露伴 ルーヴルへ行く(仏題:Rohan au Louvre)とは、荒木飛呂彦の漫画作品である。
概要
フランスの国立ルーヴル美術館と、出版社フュチュロポリス社が2005年から実施していた「バンドデシネ(BD)プロジェクト」の第5弾として、2009年に発表した荒木飛呂彦のフルカラー123ページの読切漫画作品。
荒木飛呂彦の代表作「ジョジョの奇妙な冒険」に登場する漫画家・岸辺露伴を主人公とし、ルーヴル美術館に収蔵されているという『この世で最も黒い絵』を取材するために、直接ルーヴル美術館を訪れるというストーリーとなっている。
岸辺露伴を主役に据えている事から、同作者の短編読切作品「岸辺露伴は動かない」シリーズの一作として数えられる事があるが、当時は「動かない」シリーズの新作が定期的に発表されていた時期ではなく、キャラクターの設定や性格面なども原作「ジョジョ」または「動かない」シリーズと差異が見られるため、厳密にはシリーズに含めないか、もしくは後付的にシリーズに含められている。
2009年に本作の一部の複製原稿がルーヴル美術館の企画展で展示。日本の漫画家の漫画作品がルーヴル美術館で展示されるのは初めての事。
翌2010年にフランス語版の単行本がルーヴル美術館で先行販売し、その後一般発売。日本でもこのフランス語版は購入できた。日本語版は月刊ウルトラジャンプ2010年4~6月号にモノクロ版として3号にわたって掲載された。また、企画に参加した経緯などの作者へのインタビューも3号にわたって掲載。
日本語単行本は2011年5月27日から販売開始。B5判のハードカバー本で全編フルカラー、雑誌掲載時の作者へのインタビュー記事もフルカラーで収録。
2023年には、NHKで制作・放映された実写ドラマシリーズ「岸辺露伴は動かない」のスタッフ・キャストによって実写映画が5月26日に公開。
それに伴い、同年4月4日に『ジョジョ』単行本と同じサイズの「ルーブルへ行く」のジャンプコミックス版がフルカラーはそのままに発売。同じく、電子書籍版でも発売される。
制作背景
ルーブル美術館は、フランスで9番目の芸術と認識されている「漫画(バンド・デシネ)」を通じてルーヴルの魅力を伝えようと、ルーヴルをテーマにしたバンド・デシネ作品を国内外の作家に執筆を依頼した「BDプロジェクト」を出版部によって展開。出版部副部長のファブリス・ドゥアールは、このプロジェクトに日本の漫画家の参加を希望していた。
2007年に、東京都美術館で開催されたオルセー美術館展で高橋明也(三菱一号館美術館初代館長)と荒木飛呂彦は対談を行っており、この対談のきっかけを作った新聞社を通じてルーヴルからオファーが舞い込んだのである。
制作にあたり、当初は新規のオリジナルキャラクターを主人公にして欲しいとルーヴル側から要望があったが、新たにキャラクターを起こすとその紹介の為に何十ページも割きルーヴルの物語へ入っていけない事から、作者がキャラクターを把握している「岸辺露伴」を主役にすることで、露伴を知らない読者にもキャラクターを提示できるという事でルーヴルに了承をとった。
また、BDプロジェクトに参加したほかの作品がフルカラーで仕上げられている為、荒木自身もフルカラーに挑戦。全編初めてフルカラー彩色の為に、『ジョジョ』カラー原稿で使っているカラーリングを抑え、他のBD作品を参考にフルカラー用の色彩感覚を研究している。
当初の構想では60ページほどだったが、日本とパリ・ルーヴルのつながりを意識した結果、日本の回想エピソードが長くなり最終的におよそ倍の123ページの読切作品となった。
なお、本作の岸辺露伴の設定は本作のエピソード用に起こしている部分が多く、作者から「『ジョジョ』用に描いてるのとちょっと違う」と明言されている。
ちなみに、本作発表後に制作された短編「岸辺露伴 グッチへ行く」の露伴の設定に「ルーヴルへ行く」から継承されている設定が見られるため、両作の世界観はつながっていると思われる。
あらすじ
岸辺露伴(27)は、読者に「この世で最も『黒い色』という色を見た事があるだろうか?」と切り出し、自身がそれを目撃した事とそれを追跡するまでのいきさつを語る。
10年前の日本、当時17歳の漫画家としてデビュー前の露伴は、夏休みを利用して祖母が営む元旅館のアパートで新人コンテスト用の原稿を仕上げている時、新たな入居者である藤倉奈々瀬と出会う。彼女はこの世で「最も黒い絵」、言い換えるなら『最も邪悪な絵』について話し始めた。
300年ほど前に山村仁左右衛門が発見した最も黒い「漆黒の色」で描いた一枚だけ残された絵を、奈々瀬の生まれ故郷の地主が蔵から発見し、ルーヴル美術館がそれを買い取ったが、幼い頃の奈々瀬はその絵を遠くからチラッと見ただけだけど特別な感じがしたと言う。
その後、奈々瀬は蒸発し、露伴も秋に漫画家としてデビューし仕事に明け暮れてその事をすっかり忘れていたが、10年後の現在、ふとした切っ掛けで思い出す。
漫画家としての好奇心か、それとも青春の慕情なのか。露伴はパリのルーヴル美術館を訪れ、その『黒い絵』が本当にあるのか所在を尋ねたが、その絵は現在使われていないZ-13倉庫に保管されているという…。
登場人物
- 岸辺露伴
- 27歳のデビュー10年目の漫画家。「露伴」の名は両親からつけられたもので、「露」ははかなきもの、「伴」はともにすごすという意味が込められている。人を『本』にしてその人間の『人生』を文字として読むことができるスタンド能力「ヘブンズ・ドアー」を持つ。『ジョジョ』では16歳で漫画家デビューし、20歳の時『弓と矢』でスタンド能力が発現したが、本作では17歳でデビュー前(その年の秋にデビュー)、スタンド能力もその時点で発現している。また、彼のエキセントリックな性格は鳴りを潜め、彼の初恋の過去にまつわるエピソードが明かされる。
- 藤倉奈々瀬
- 21歳の女性。結婚しているが近々離婚するという話なのでアパート入居が許可されている。気さくな性格で露伴の作品に興味を持ち、打ち解けるようになったがヒステリックな面もあり、突如として露伴の前から消えてしまう。本作の核心である『黒い絵』について露伴に語った張本人。実写映画版では姓が明かされず「奈々瀬」とだけ呼ばれている。
- 山村仁左右衛門
- 300年も前の絵描き。言い伝えによると、樹齢千年以上の老木から最も黒い「漆黒の色」を発見し、それを顔料に絵を描いたが、老木を切り倒した事で法令に触れ処刑された。彼の絵には「呪い」があると噂され全て焼き捨てられたが、一枚だけ隠していた絵が発見され、ルーヴル美術館が買い取った。
- 露伴の祖母
- 露伴の母方の祖母。S市杜王町で夫婦で旅館を経営していたが、夫(露伴の祖父)が亡くなった時に廃業し、賃貸アパートとして部屋を貸していた。入居者条件が厳しく、喫煙不可。夫婦不可。子供連れはもっと不可。ペット不可。料理不可。家具持ち込み不可。バイク不可。楽器及び麻雀不可。ドライヤー不可。門限夜10時までとなっているため入居者は少ない。本編の1年前に他界している。彼女が大切にしていた「グッチのボストンバッグ」は露伴が形見と猷して譲り受け、「岸辺露伴 グッチへ行く」のキーアイテムとなる。実写映画版では「猷」[1]という名前が付けられた。
- 野口
- ルーブル美術館の出版部職員。日本語の通訳も担当する。露伴の取材にアテンドするが、『黒い絵・月下』の保管場所がZ-13倉庫になっていることに気づき、ゴーシェに報告し見学許可を取り次いだ。パリで結婚しており、一人息子のピエールをもうけたが、目を離したときに公園の池で溺れさせてしまい、亡くしている。実写映画では日本人とフランス人のハーフという設定と、「エマ」というファーストネームが加えられた。
- ゴーシェ
- ルーヴル美術館東洋美術学芸部門の責任者。野口からの報告を受け、職員の誰も知らなかった山村仁左衛門の絵の存在と、その所在が現在使われていないZ-13倉庫にあるため、その理由を調べるべく警備管轄の消防士2名を連れて露伴をZ-13倉庫に案内した。実写映画版では登場せず、ルーヴル美術館に依頼されて見つかった収蔵品の調査を協力する、東洋美術の専門家「辰巳隆之介」が代わりに登場する。
- 東方仗助、広瀬康一、虹村億泰
- 「ジョジョの奇妙な冒険」Part4ダイヤモンドは砕けないの主要人物で、露伴と同じスタンド使い。本作ではカメオ出演的な登場で、彼らとお茶している時に億泰が「露伴先生の顔がモナ・リザに似てる」と発言した事で、露伴はルーヴル美術館の『黒い絵』を思い出した。なお、仗助は一言も喋らず、顔も一切紙面に見せていない。
実写映画
2023年1月5日に情報解禁となった、本作の実写映画化作品。同年5月26日公開。
2020年からNHKが制作・放送した実写ドラマシリーズ「岸辺露伴は動かない」のスタッフ・キャストによる実写映画作品で、実写ドラマ「動かない」の設定・ストーリーと地続きとなっている。
第三期に当たる第七話・第八話にて海外取材やパリ・ルーヴル美術館といった続編に「ルーヴルへ行く」が制作が予定されているかのようなキーワードが散りばめられていたが、年始早々に劇場版として制作中のOH!GOOD NEWSにファンは歓喜に震えたであろう(余談だが、2023年1月5日は実写ドラマ版で泉京香を演じる飯豊まりえの誕生日で、原作の泉京香の設定年齢である25歳と同じ歳になった日でもある)。
本作は舞台となったパリでの大規模ロケを敢行し、映画の撮影許可がなかなか下りないルーヴル美術館でも撮影が行われている。同美術館で実写邦画での撮影許可が下りたのは『万能鑑定士Q モナ・リザの瞳』以来9年ぶり。
実質的に実写ドラマ第三期の3話目にあたる「第九話」[2]で、恐らくはルーヴルが「9番目の芸術」として執筆依頼した作品という事に掛けてあるのかもしれない。
新規キャストには青年期の露伴になにわ男子の長尾謙杜を起用。集英社作品とジャニーズの繋がりは長年続いている間柄であるが、長尾はファンからはジョジョマニアとしてよく知られている。他にも奈々瀬には実力派の木村文乃を起用し、映画オリジナルキャラクターとして新たに辰巳隆之介、エマの2名が登場。それぞれ安藤政信、美波が演じる。
キャスト
スタッフ
- 監督:渡辺一貴
- 脚本:小林靖子
- 音楽:菊地成孔 / 新音楽制作工房
- 人物デザイン監修・衣装デザイン:柘植伊佐夫
- 配給:アスミック・エース
- 制作プロダクション:アスミック・エース、NHKエンタープライズ、P.I.C.S.
- 製作:『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』 製作委員会
特報映像
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予告編
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関連項目
脚注
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