本記事「広域強盗事件」では、2022年から2023年にかけて日本で発生している同一グループによる連続強盗事件について解説する。
概要
一連の強盗事件の起点となるのは2022年5月2日に起きた京都市中京区の『京都腕時計強盗事件』であるとされている。また、その後の調査で2021年以降の50数件の事件を一連の事件として判断していることを警察当局は発表している。
一連の事件は、過去に特殊詐欺グループを率いていた指示役らが、秘匿性の高い通信アプリ『テレグラム』を用いて実行役とやり取りを行い、事件後に報酬を支払うという形式を取っていることが判明している。実行役は高報酬のバイトの募集などとして集められ、全国各地で強盗事件等に関与していた。事件の多くは人の少ない貴金属店や質屋、年配の者のみが住んでいる、あるいは時間によって年配の者しかいない家を狙った計画的犯行である。一方で、実行者そのものは元埼玉県警捜査一課の佐々木成三によれば「証拠隠滅が徹底されていない」「素人の犯行であると現場を見ればすぐに気づく」と指摘されている (参考) 。2023年1月20日の『狛江強盗殺人事件』ではついに死者が出てしまう (被害者は90代女性) 。
指示役は「ルフィ」「キム」「ミツハシ」等を名乗り、フィリピンの刑務所内から指示を出していたとされている。これはフィリピンの刑務所は、金を支払うことで個室を用意したりエアコンをつけられるなど、ホテル暮らしよりも快適で、携帯も持ち込めるうえ、あくまで被告人・受刑者という立ち位置であるため強制送還されないからというのが理由ではないかと考えられている。指示役は現在4名と見られており、いずれも2023年2月9日までにフィリピンから日本に移送されている。
事件全体について
規模
警察は2021年夏以降に14都府県で起きた強盗と窃盗の50数件を手口や供述から関連を疑っており、10 - 40代の60数人を逮捕したことを公表している。またもともとは特殊詐欺グループであり、その被害は2018年11月 - 2020年6月頃まで遡ることができ、2300件で総額60億円にも登るという。この特殊詐欺による利益でフィリピンの刑務所に贈賄し、実質的にアジトとして利用して実行役にテレグラムで指示を出していたと見られている。
テレグラムはロシア製のSNSであり、秘匿性が高く、「メッセージが一定期間で削除される」という性質からやりとりがあった証拠をつかむことができない。
事件全体の流れ
2018年 - 2020年
この時期、フィリピンを拠点として指示役らのグループは特殊詐欺事件を2300件ほど指示していた。フィリピン国内の拠点の1つが19年11月に摘発され、電話役36人が一斉に拘束されたが、その後もグループによる詐欺は続いていた。日本は指示役ら4名の身柄の引き渡しをフィリピンに要求していたが、彼らはフィリピンにおいても刑事事件に問われており、2023年まで引き渡しは行われることはなかった。彼らは収容所で贈賄し、快適なアジトとしてそこから特殊詐欺に関与しつづけていたのであろうと見られる。
2021年
この時期にも当該グループによる事件が起きたことを警察は疑っている。
2022年 - 2023年
2022年5月に京都市中央区で『京都腕時計強盗事件』が発生。闇バイトを募っての貴金属店での強盗事件であることを京都府警は突き止め、実行犯のみならず調整役も逮捕された。しかし、グループの本丸はノーダメージであり、その後に10月20日に東京都稲城市、11月7日に山口県岩国市で強盗事件を起こす。
12月5日に宅配業者を装い、住宅に押しいって強盗事件が発生 (中野区強盗傷害事件) 。その後年末年始を挟んで渋谷区、千葉、埼玉、神奈川、栃木、茨城、広島で次々に同様の手口による強盗事件が発生した。
2023年1月19日に狛江強盗殺人事件が発生。被害者は90代女性であり、犯行が行われた当日、同居家族は出かけていてひとりきりだった。犯行グループは女性に金庫の場所を案内させたと見られている。女性は地下1階の廊下で手を結束バンドで縛られて頭部から血を流した状態で発見され、左肘の開放骨折などが見られていた。一連の事件ではじめての死者となる。
その携帯電話の通信の解析から、フィリピンで拘束されていた指示役らの関与が浮上。人命が失われたことや、フィリピンのマルコス大統領の訪日も迫っていたことから、フィリピンはその時点での司法手続きを中断して指示役ら4名を日本に送致することを決定。2便にわかれて飛行機で日本に移送された (日本側としては航空機内で逮捕手続きを取った形になる) 。
現在は、指示役らの更に上に黒幕がいる可能性を指摘されており、捜査が進められている。
関連リンク
事件総体
- 〈狛江90歳強盗殺人にも関与!?〉中野区強盗傷害事件。貧困家庭で育った○○○○容疑者(21)の過去と、フィリピンから指示をだす首領の正体「コネを活用すれば“別荘の中”でも自由を謳歌できる」 | 集英社オンライン | 毎日が、あたらしい
- 広域強盗、関連する事件は50件以上と判明 すでに60数人逮捕:朝日新聞デジタル
- 狛江強殺で重要参考人浮上 広域強盗、関連は五十数件: 日本経済新聞
- 【ルフィ強盗事件】「ジジイやババアだけがお金を持っていてズルい」…若者たちの身勝手すぎる「ヤバい思考」(週刊現代) | 現代ビジネス | 講談社(1/3)
指示役の移送関連
- フィリピンの収容所・刑務所は「お金しだいで何でもできる」辛坊治郎が解説 – ニッポン放送 NEWS ONLINE
- 残る2容疑者を移送、逮捕 フィリピン拠点のニセ電話詐欺、主犯格か 広域強盗事件の関連捜査:東京新聞 TOKYO Web
- 「ルフィ」完落ちへ捜査当局に“奥の手”あり 取り調べ中に裏切りや仲間割れの可能性も|日刊ゲンダイDIGITAL
- フィリピンから2容疑者送還、逮捕 広域強盗事件の全容解明は?「ルフィ」の関与は:東京新聞 TOKYO Web
- 「ルフィ」ら容疑者 日本への送還手続き進め実態解明急ぐ 警察 | NHK | 事件
個別事件
関連項目
- 3
- 0pt