弾道ミサイル(Ballistic Missile)とは地上/海上から発射され文字通り弾道を描いて飛翔し、地上を攻撃するミサイルである。
概要[1]
厳密には「ロケット式推進システムで大気圏外に打ち上げられ、その慣性の力によって大気圏外を弾道飛翔することで、最小のエネルギーで最大の飛翔距離を得ることができるミサイル」を弾道ミサイルと称している。
弾道ミサイルはその射程距離によって以下のように分けることが出来る。
種類 | 英語名称 | 射程距離 |
---|---|---|
短距離弾道ミサイル | SRBM | 1,000km 以下 |
準中距離弾道ミサイル | MRBM | 1,000 ~ 3,000km |
中距離弾道ミサイル | IRBM | 3,000 ~ 5,500km |
大陸間弾道ミサイル | ICBM | 5,500km 以上 |
弾道ミサイルの飛翔過程は以下の3段階に区分出来る。
段階 | 説明 |
---|---|
ブースト段階 | ミサイルが発射されてからブースター(加速ロケット)が 燃焼し終えるまで |
ミッドコース段階 | ブースター燃焼終了後に宇宙空間を慣性飛行しながら大気圏に再突入するまで |
ターミナル段階 | 大気圏に再突入してから目標に着弾するまで |
弾道ミサイルは一旦発射されると短時間で目標に到達する。弾頭自体も爆撃機に比べるとかなり小さいためレーダ等での追尾は難しくなる。
射程距離が短ければ短いほど着弾までの時間が短いため、迎撃に使える時間が制限される。しかし逆に、射程距離が長ければ長いほど、着弾までの時間は伸びるが降下時の落下速度が増すので、これも迎撃を難しくする。
潜水艦発射弾道ミサイル (SLBM)
近年の国々で開発が進んでいるものが潜水艦発射弾道ミサイル (Submarine Launched Ballistic Missile)、通称「SLBM」と呼ばれるものである。これは、弾道ミサイルとしての特性を残したまま潜水艦から発射できる仕様にしたもので、通常の弾道ミサイルのように陸上から発射台を使うことなく、海中から発射できるというものである。
これの何が恐ろしいかというと、本拠地から飛ばすと落とされるかもしれないミサイルを、相手の国の鼻先までこっそり潜水艦で持ち運べることである。
通常、監視用の人工衛星はミサイルの動きをモニターしている。しかし、潜水艦で水の中を潜っていけばそれらの動きをモニターしにくくなるため、ギリギリまで相手に近づいてから発射することができるようになってしまう。ただでさえミサイルの速度は上がっていて迎撃が困難になっているというのに、防空圏をかいくぐってド近くでぶっ放されたら悪夢である。
そのため、SLBMを開発する場合は、海軍力の強化とミサイル技術の向上を同時並行で行わなければならず、特に潜水艦の動力機関の性能や静音性を大幅に上げる必要があるため、それ相応の国力や資金、技術がなければできない(北朝鮮のように国民などに割り振るべき国力ステータスを軍事に極振りしているならできないというわけでもないようである)。
弾道ミサイルの種類
- V2
- 第二次世界大戦中にドイツが開発した弾道ミサイル。最大射程は416kmで、20000m以上の高度に上昇してから、マッハ4で落下してくるので、迎撃どころか事前の探知さえほとんど不可能であった。誘導は慣性誘導装置(加速度を積分して自身の速度と位置を知る)を使用していた。元々野戦用兵器として開発されていたので、ミサイルのサイズは鉄道トンネルの制限から決定されており、結果的に射程も制限されていたため、ロンドン攻撃を行うためにはヨーロッパ大陸の沿岸に発射基地を設けなければならなかった。ドイツはV2号の長射程型も研究しており、A9、A10という開発名称(V2の開発名称はA4)で二段式、射程4800kmのものが考えられていた。また、V2をカプセルに入れて米本土近くまで潜水艦で曳航し、カプセルを垂直に立てて発射するという、いわばSLBMのような計画も存在した。[2]
- スカッド
- 前述のV2を元にしてソ連が開発した弾道ミサイルR-11のNATOのコードネーム。TEL(Transporter-Erector Launcher 輸送・起立・発射機) に搭載して使用される。スカッド及びその派生・改良型は多くの国に輸出されている。湾岸戦争でイラクが大規模に使用したことで有名。
- パーシングⅡ
- 誘導機能を持った弾道ミサイル。
搭載された弾頭が目標の上空5万フィート(約15000メートル)まで近づくと弾頭のカバーを外しレーダを作動させる。弾頭のコンピュータはレーダで得られた地上の画像を事前に入力された画像と照合し、弾頭の後部に付いた可動翼で軌道を制御する。CEPは25ヤードになる。[3] - ノドン
- 北朝鮮が開発したミサイル。輸入したスカッドを元に開発した。ノドンはアメリカがつけたコードネーム。
- テポドン(1号)
- 北朝鮮の弾道ミサイル。二段式で、一段目にノドン、二段目にスカッドを使用している。1998年8月31日に北朝鮮はこの弾道ミサイルを発射し、ミサイルは日本列島を越え太平洋に落下した。
- テポドン(2号)
- テポドン1号をさらに発展させたもの…らしい。2006年7月5日に発射実験が行われたがこの時は失敗し、改良されたものが2009年4月5日11時30分ごろに発射された。一段目は日本海に落下、二段目以降は弾頭(搭載した衛星?)ごと太平洋に落下したようだ。
- LGM-118A ピースキーパー
- アメリカが2005年まで運用していた大陸間弾道弾(ICBM)。地下サイロからロケットに点火するのではなく、圧搾空気でサイロから地上に飛び出したあとロケットに点火する「コールドローンチ」方法を初めて採用。これによりサイロの再利用が可能になった。MIRV(マーブ)、多弾頭独立目標再突入方式型で内部に300ktの核弾頭10発を搭載する。
- UGM-96 トライデントI / UGM-133 トライデントII
- アメリカ/イギリスが運用している潜水艦発射型大陸弾道弾(SLBM) 現在使用されているのはトライデントI(C4)の後継であるトライデントII(D5)。ただしC4とD5の基本設計は別物とのこと。LGM-118Aピースキーパー同様MIRV(多弾頭独立再突入ミサイル)ミサイルで、最大14個のW88核弾頭の搭載が可能だがアメリカ=ロシアによる核兵器削減条約の縛りで現状は5つ。性能も同程度とされている。運用しているのはアメリカ・オハイオ級14隻、イギリス・ヴァンガード級4隻。通常弾頭搭載型も計画されているが、ロシア側が反発している。
- SS-18 (R-36)
- ソ連の大陸間弾道弾。SS-18というコード番号は西側が付けたもので、ニックネームである「サタン」もNATO側からつけられたもの。正式コードはR-36。冷戦時代を象徴する大型大陸間弾道弾。0.55Mtの小型核弾頭10発、あるいは最大20Mtの核弾頭1発を搭載可能とした。ピースキーパー同様コールドローンチ方法で打ち上げられる。ソ連崩壊後は緩やかに縮小がつづけられているものの、現在なお100発あまりが残っているとされている。ちなみに民間転用もされており衛星打ち上げにも利用されている。
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SLBM
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関連項目
脚注
- *「日本のミサイル防衛政策の現況」国会図書館
- *「兵器と戦略」江畑謙介 朝日新聞社 1994
- *「SDIは核を無力化できるか」著:ロバート・ジャストロウ 訳:河野健一 草思社 1985 p.133-135
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