御用組合とは、労働組合の1つである。
概要
定義
御用組合とは、使用者に対して過度に協調的で、使用者の意向を受け入れやすい労働組合のことをいう。
日本語圏では、権力者にこびへつらう者に対する蔑称として「御用○×」という表現が使われる。政府を批判しない新聞を御用新聞とか御用メディアと呼び、政府を批判しない学者を御用学者と呼び、政府を批判しないテレビタレントを御用タレントという。
英語圏における名称
御用組合は、英語圏では主にcompany union(会社組合)と呼ばれている。
御用組合をyellow union(黄色組合)と呼び、対決型組合をred union(紅色組合、赤色組合)と呼ぶこともある。これは、御用組合に反・社会主義の支持者が多いから反・社会主義の象徴である黄色を割り振り、対決型組合に社会主義の支持者が多いから社会主義を象徴する紅色を割り振ったものである。しかし、「対決型組合に入っておきながら社会主義には全く興味が無い人」も確かに存在するので、「対決型組合=社会主義」と決めつけることは望ましくない。
重度の御用組合を労働組合と認定しない法令
労働組合法第2条では、労働者が結成する団体が同条の第1号から第4号までのいずれか1つに該当すれば労働組合と認定されないことを示している。そのうち第1号と第2号は次のようになっている。
労働組合法第2条 この法律で「労働組合」とは、労働者が主体となつて自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体をいう。但し、左の各号の一に該当するものは、この限りでない。
第1号 役員、雇入解雇昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある労働者、使用者の労働関係についての計画と方針とに関する機密の事項に接し、そのためにその職務上の義務と責任とが当該労働組合の組合員としての誠意と責任とに直接に抵触する監督的地位にある労働者その他使用者の利益を代表する者の参加を許すもの
第2号 団体の運営のための経費の支出につき使用者の経理上の援助を受けるもの。但し、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく、且つ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。
労働組合法第2条第1号では「労働者に対する人事権を持つ人を受け入れている団体」を労働組合と認定せず、同条第2号では「使用者からお金を受け取った団体」を労働組合と認定していない。どちらの団体も使用者の意向を濃厚に受ける団体であり、「重度の御用組合」と言える。
御用組合を作りあげる行為を禁止する法令
労働組合法第7条では、同条の第1号から第4号までの行為を不当労働行為として禁止している。そのうち第3号は次のようになっていて、使用者が御用組合を作りあげることを禁止している。
労働組合法第7条 使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。
第3号 労働者が労働組合を結成し、若しくは運営することを支配し、若しくはこれに介入すること、又は労働組合の運営のための経費の支払につき経理上の援助を与えること。ただし、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく、かつ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。
労働組合法第7条で禁止されている不当労働行為を使用者が行ったら、労働者は労働組合法第24条に基づき労働委員会に対して救済申立てを行うことができる。
性質
労働者と使用者が対決することを労使対決といい、労働者と使用者が協調することを労使協調という。御用組合は労使協調を過度に行う労働組合である。
御用組合では、労働組合の幹部だったものがいつの間にか会社の中の上級管理職に栄転することがみられる。そして「労働組合の幹部は出世ルート」という噂さえ流れ始める。そのように出世という餌で買収し、労働組合の幹部の態度を軟化させ、服従させるのである。
御用組合は、使用者とグルになり、使用者好みの行動をとり続ける。そうした姿は「第2人事部」と呼ばれる[1]。
日本には御用組合が生まれやすい
日本は企業別に労働組合が作られることが多く、欧州では産業別に巨大な労働組合が作られることが多い。このため日本は欧米よりも御用組合が生まれやすい。
三公社五現業は極めつけの対決型組合を生み出していた
1980年代までの日本には三公社五現業という国の現業が存在した。その三公社五現業の労働組合のなかで主要な9つの労働組合は公労協(国営企業体等労働組合協議会)を結成しており、やたらと戦闘的で、労使対決を大いに好む性質を持っていた。つまり、御用組合とは正反対の存在だった。
三公社五現業は国の現業であり、労働者に対して「自分たちの職場は決して倒産しない」という確信を抱かせるものだった。このため労働運動を激しく行う労働者を多く生み出した。
ユニオンショップ制度と御用組合
ユニオンショップ制度の概説
ユニオンショップ制度というものがある。これは使用者と「特定の工場事業場で雇用される労働者の過半数を代表する労働組合A」が「労働組合Aを脱退しつつ一定の期間が過ぎたあとにいずれの労働組合にも属しない労働者について、使用者は解雇しなければならない」という労働協約を結ぶものである。これにより、労働者はいずれかの労働組合に所属せねばならなくなる。
ある職場に労働者の過半数を代表する労働組合Aが存在してユニオンショップ制度の労働協約を結んでいる場合、労働者がその労働組合Aを脱退した後に職場に残りたいのなら、少数派の労働組合Bに加入するか、企業の垣根を越えて結成される横断型労働組合Cに加入するか、どちらかを選ばなければならない。
「ユニオンショップ制度=御用組合」とは限らない
ある企業の特定の工場事業場に労働者の過半数を代表する労働組合があり、その労働組合がユニオンショップ制度の労働協約を結んでいるとする。
その労働組合は、御用組合である可能性があるし、対決型組合である可能性もある。「ユニオンショップ制度=御用組合」とは限らない。
関連リンク
Wikipedia記事
コトバンク記事
関連項目
脚注
- *『内側から見た富士通 「成果主義」の崩壊』を著した城繁幸は、1990年代において富士通人事部に所属していた人物であり、富士通の内情をよく知っている。その彼によると、富士通の労働組合は富士通第2人事部と言うべき存在で、従業員を守る気なんてハナからない存在だったという。富士通に懲戒解雇を言い渡された社員が富士通労働組合に助けを求めて駆け込んだら、富士通労働組合の者はその社員を怒鳴って追い返していたという。また、労働組合の執行委員長クラスの人間が定年前に人事部首席部長(事業部長クラスの上級管理職)として会社に復職し、その半年後に人事部傘下の食堂子会社の社長として出向していたという。『内側から見た富士通 「成果主義」の崩壊(光文社)城繁幸』179~183ページ
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