概要
方程式は未知の変数の値を計算するが、微分方程式は未知の関数の関数形を求める方程式である。
多くの場合解析解(いわゆるきれいな式)を得ることができないため数値解や近似解を求めることになるが、条件が合えば解析解を得ることができる。
微分方程式の形が分かれば、関数の具体的な形が分からなくても方程式の性質から関数の性質をある程度見積もることができる。解析力学、それに基づく量子力学や相対論などはそのようにして論理を展開する部分が多い。
役に立つところ
求めたい関数をf(x)、通常の表記d/dxでは大百科の仕様上見にくくなるので、微分をDと表記する。
物理学の分野ではほとんどの現象が微分方程式で表される。例えば、空気中の物体の落下の運動方程式は、位置xを時間tの関数とみることにより、x(t)=x0-μDx(t)-gD2x(t)と書くことができる。(μは空気抵抗、gは重力加速度)
物体の位置x(t)は、初期位置x0、位置の変化率Dx(t)、速度の変化率D2x(t)で決まるということである。
このほかにも、波動方程式、熱拡散方程式、反応方程式、マクスウェル方程式、シュレーディンガー方程式、…などなど、なんとか方程式と呼ばれるものの殆どは微分方程式の形をしている。しかし、多くの場合は二回微分までの近似であったり、微分方程式は立てられるけど直接解くことができなかったりする。
有名なオイラーの公式 exp(ix)=cos(x)+isin(x) は、微分方程式からも正当化される式である。
例
この解で必要十分であるか、具体的なアルゴリズムはどうなっているか、多変数の場合や複雑な形をしているときはどうするか、解を得られる微分方程式の形はどうなっているか…など、具体的な技法は教科書を参照。
基本的にはp(D)f(x)=g(x)の形に変形してから、p(D)f(x)=0となる斉次解に、特殊解を足すという構造になっている。
例1
Df(x)= 2x+3
この式は、「f(x)に微分を1回したら関数2x+3になる」という意味である。
そのような関数にはx2+3xがある。1回微分するとゼロになる定数関数aを加え、f(x)=x2+3x+aという解を得る。
例2
2回微分をD2と表記する。
「2回微分すると元の関数に4倍したものになる」ようなf(x)を求める。
2回微分して4倍になる関数はa×exp(±2x)がある。(aは定数。)
f(x)=a×exp(2x)+b×exp(-2x)という解を得る。
線形代数との関連
微分演算子Dは例2に見られるような、線形性と呼ばれる性質を持つ。
ここから、関数の集合からなる空間はベクトル空間になり、微分演算子はベクトル空間に作用させる線形演算子、つまり行列のようなものと見なすことができる。
Dは行列のようなものなので、固有値、固有ベクトルを考える事ができる。
Df = λf
のように書くことができる。この形はちょうど行列とベクトルの固有値問題を解く時と同じ形である。
微分をしてλ倍となる関数はexp(λx)である。λは全ての複素数を取ることができる。
線形代数の方式に則ると、微分演算子の固有値λは全複素数、固有値λに対応する固有ベクトルはexp(λx)となる。
また、n回微分Dnの固有値、固有ベクトルは、Dnf=λnfであるので、λnが固有値、その時の固有ベクトルはexp(ωλx)。(λに1のn乗根=ω倍したものが合計n個あることに注意。)
これにより微分演算子Dを変数のように扱うことで高階の微分方程式も表現できる。
a0+a1D+a2D2+…anDn=p(D)と置けば、n階微分方程式となり、固有値はdet(P(D)-λI)=0の解、固有ベクトルはexp(ωλx)となる。
p(D)f(x)=g(x)という微分方程式の、斉次解はp(D)を作用して0ベクトルに写る空間(核空間)であり、非斉次解はp(D)によってg(x)に写される前のベクトルということに対応する。
フーリエ変換、ラプラス変換との関係
ある種の微分方程式はフーリエ変換やラプラス変換をすると簡単な代数方程式になるという特徴がある。
変換対応表を用意すれば困難な微分方程式を直接解く代わりにn次の方程式を解くだけで解を得ることができる。これはなぜであろうか。
線形代数によれば行列Dの固有値λ1,λ2, …,λn …、固有ベクトルd1,d2,…dn,…がわかれば、Dp=qとなるベクトル方程式はp=Σandn、q=Σbndnと書くことで各nに関する1次方程式λnandn=bndnとなる。
ベクトルを演算子Dの固有ベクトルで展開することで、Dに関するp,qの複雑な線型方程式が対角成分dnの係数の単純な一次方程式になってしまうのである。この変換を対角化と呼ぶ。
微分演算子Dの固有値はλ、固有ベクトルはexp(λx)であったが、λは全実数を取ることができる。これは、Dの作用するベクトルf(x)をexp(λx)で展開し、λを変数と見なすことで係数に関する単純な代数方程式に変換することができるということである。
フーリエ変換は、F(λ)=∫f(x)exp(-iλx)dx、ラプラス変換はL(λ)=∫f(x)exp(-λx)dxという形をしている。
これは、関数f(x)を複素指数関数で展開しているということであり、複素指数関数は微分演算子の固有ベクトルである。フーリエ/ラプラス変換は微分演算子Dの固有ベクトルでf(x)を対角化しているということなのである。
注意
巷の解説書には「微分方程式をフーリエ変換、あるいはラプラス変換すると簡単な代数方程式になり、代数方程式を解いた後に逆変換を施して解を得ることができる。とっても便利。」という説明しかなされていないことが多い。なぜ魔法のような便利な方法が成り立つかと言えば、微分演算子Dが線形性を持つためであり、Dの固有値と固有ベクトルの素性がとても良いからなのである。また、実空間から複素空間へ置き換えることで、複素関数論や関数解析の豊かな結果を流用できる。
考察の対象となる殆どの関数や微分方程式については細かいことを考えなくても大丈夫なように理論が構築されているので、背後にある理論を考えず道具として使う分には問題になることがあまりない。しかし、実際は対象となる関数f(x)がどういう性質を持っていないといけないか、どのクラスの関数空間に属するかで注意深く操作しなければならない。連続性、収束性、二乗可積分かどうかなど、f(x)の性質によってはフーリエ/ラプラス変換で「普通の」関数にならないことがあるためである。
また、微分方程式が常に線形であるとは限らず、よく似た式であっても容易に非線型な微分方程式になる。常に便利な方法が使えるとは限らないため、そういう点でも注意しなければならない。
関連項目
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