微笑みデブとは、スタンリー・キューブリック監督作品「フルメタルジャケット」に登場したレナード・ローレンス二等兵のこと。転じて、レナードに似たキャラクターや人物にも使われる。類似語に「ヤンデブ」がある。
概要
「フルメタルジャケット」で多くの人々の印象に残った、ハートマン軍曹の練兵シーン。冒頭では新兵を兵舎内に並ばせて、軍曹は新兵らに罵詈雑言を浴びせつつ変なニックネームを付けていく。新兵の一人、レナード・ローレンス二等兵は太っちょの体で薄ら笑いを浮かべたような顔をしていることから、軍曹は「微笑みデブ」とあだ名した。微笑みデブの誕生である。
本家の微笑みデブ
微笑みデブは動きが鈍く、規則正しい海兵隊の訓練に当初は対応できていなかった。訓練教官のハートマン軍曹からはいつも怒られ、仲間の脚を引っ張る。主人公の「ジョーカー」ことJ.T.デイヴィス二等兵は軍曹に命じられて親身に面倒をみるが、中々改善しない。挙句に兵舎にドーナツを隠し持っていたのを軍曹に見つかってしまう。軍曹は「デブの責任は、全員の責任だ」とし、以後は微笑みデブの失敗は連帯責任として、全員が懲罰の腕立て伏せを受ける羽目になる。
ある夜、これに怒った同じ内務班の仲間から、微笑みデブは石鹸制裁(タオルと石鹸を使ったブラックジャックによる殴打)を受けたのだが、これが彼に変化をもたらす。薄ら笑いを浮かべた間抜け顔は、人殺しの顔つきに変わっていった。動きは機敏になり、さらに射撃の才能を開花させる。軍曹は「やっとお前の取り柄を見つけた」と喜んでいたが、実は彼の変化には恐ろしい側面があった。精神が徐々に異常をきたしていたのだ。
初任兵訓練の修了式が終わった日の夜。ジョーカーが当直番をしていると、トイレに微笑みデブがいるのを目にする。彼は便器に腰掛け、貸与火器のスプリングフィールドM14を携え、弾倉に7.62mmフルメタルジャケット弾を装填していた。ジョーカーが話しかけると、微笑みデブは狂気に満ちた笑顔を浮かべ「ハーイ、ジョーカー…」「俺は…本当に…ひどいクソだぜ!」「7.62mm…フル…メタル…ジャケット」などと呟き、彼が正気でないのは明らかだった。そして弾を装填し終えると、急に立ち上がり大声を張り上げ、ライフルドリルを始める。叫び声に気付いた軍曹がトイレに入ってきて、「なぜデブが俺の便所にいるんだ!なぜデブは武器を持っている!」と問いただすと、ジョーカーは「デブ二等兵は実弾を装填しています」と報告する。状況に気付いた軍曹が説得するが、微笑みデブは応じない。「パパとママの愛情が足りなかったのか!」と軍曹が叱咤した直後、微笑みデブは軍曹を撃つ。仰向けに倒れる軍曹。そしてジョーカーの目の前で、微笑みデブは今度は自分の口内へ向けてトリガーを引き、トイレの壁に己の血と脳漿を刻み付けた。
こういったことからハートマン軍曹と共に、微笑みデブは人々の記憶に残る存在となったのだ。
微笑みデブの原語
微笑みデブというのは邦訳として作られたもので、原語ではGomer Pyle(ゴーマー・パイルまたはゴマー・パイル)となっている。
ゴマー・パイルは、1960年代に三大ネットワークのCBSで放送されたシットコム「アンディ・グリフィス・ショー(The Andy Griffith Show)」(邦題「メイベリー110番」)に登場した人気キャラクター。パイルは当初はガソリンスタンドの店員だったが、後に海兵隊に入隊している。「フルメタルジャケット」の時代背景はベトナム戦争中であるから、軍曹は当時流行していたキャラクターからあだ名したことになる。
現代の日本で例えて言うなら、陸上自衛隊に入隊して前期課程を受ける二等陸士に、班長である陸曹が「日村」「上島竜兵」「ホリエモン」「宮崎哲弥」「モノマネの松っちゃん」「まいうー」「デブゴン」などとあだ名するようなものであろう。
(この画像の中央の男がゴマー・パイル。「ゴマー・パイル、海兵隊に行く」(TV邦題「マイペース二等兵」)
より。別にデブではないが、笑っているような顔をしている)
微笑みデブのその後
微笑みデブを演じたのは、ヴィンセント・ドノフリオという俳優である。役作りのための32kgもの増量は左ひざを痛めて手術をする程過酷だったらしいが、1年後の映画公開時にはちゃんと完治し元の体重にも戻せたとかなんとか。以降も様々な作品に出演している。
近年の活躍で日本でも知られているものでは、刑事ドラマ「Law&Order:クリミナルインテント」のロバート・ゴーレン刑事役であろう。ニューヨーク市警察刑事局重大犯罪捜査班(Major Case Squad)を題材にしたこのドラマにおいて、ゴーレン刑事は知能と話術を駆使して重大事件の真相に迫る。相変わらず顔が薄笑いっぽい時もあるが、卑劣な犯罪者を厳しく追求したり、時に法律書を手に持ち「この本には、あいつの罪を追及できる法は載っていないのか!」と検事に詰め寄ったりと、正義感あふれる人物を好演している。
2009年のアメリカ映画「クロッシング」では冒頭から麻薬密売人役で登場したものの、イーサン・ホーク演じる汚職刑事のサルにいきなり撃たれて金を奪われてしまった。
2015年の「ジュラシック・ワールド」ではパークの警備担当者にして、元軍人の立場から恐竜を生態兵器として売りこもうとする悪役、ヴィック・ホスキンスを演じる。
日本における派生用例
先述の様に強烈な印象を残した微笑みデブであるから、やがて様々な方面へと派生し、微笑みデブの語も派生して使われるようになってくる。
ネット、特にニコ動で一般的なのは、微笑みデブに似た外見の人をそう呼ぶことである。例えばグロック22(グロック17の.40S&W弾使用モデル)を分解し解説する白人男性は、見た目が似ていて銃が好きそうであることから、コメントにもタグにも微笑みデブが使われている。
セガから発売されたシミュレーションゲーム「戦場のヴァルキュリア」に「ケビン・アボット」という兵士が登場するが、彼の見た目が微笑みデブに通じるものがあるので、発売前から一部では微笑みデブのように言われていた。同作品には練兵軍曹が登場するが、当然こちらはハートマン軍曹扱いを受けた。
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関連項目
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