恩赦又は赦免復権とは、国家機関が裁判手続きを経ずに刑事裁判の内容を変更し、その効力を変更若しくは消滅させることである。
概要
日本では、伝統的に天皇・皇室絡みの慶弔事を機会に実施されている為、君主制特有の制度と思われがちだが、実際は君主制・共和制といった政体を問わず各国に同様の制度が存在している。
前述の様に、日本では、伝統的に天皇・皇室絡みの慶弔事を機会に実施されて来た。近代に入ると、これを継承する形で大日本帝国憲法第16条「天皇ハ大赦特赦減刑及復権ヲ命ス」の天皇大権の一つと位置付けられた。現在では日本国憲法第7条及び第73条の規定により、恩赦の決定は内閣が行い、恩赦の認証は天皇の国事行為とされ、その具体的な手続き、基準、及び効果は、恩赦法(昭和22年法律第20号、リンク)に規定される形となった。同法の手続きに従い、政令によって一律に行われる恩赦のことを「政令恩赦」と称する[1]。
法的根拠
日本に於ける赦免復権の法的根拠は、前述の様に日本国憲法及び恩赦法の規定に基づいている。
日本国憲法の恩赦に関係する条項を以下引用する。引用文中の「左」の文言は「次」と同義であり、順序付き箇条書きの番号はニコニコ大百科の仕様の為アラビア数字を使用し、重要箇所は太字で強調する。
第七条
天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
- 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
- 国会を召集すること。
- 衆議院を解散すること。
- 国会議員の総選挙の施行を公示すること。
- 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。
- 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
- 栄典を授与すること。
- 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
- 外国の大使及び公使を接受すること。
- 儀式を行ふこと。
第七十三条
内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
- 法律を誠実に執行し、国務を総理すること。
- 外交関係を処理すること。
- 条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。
- 法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること。
- 予算を作成して国会に提出すること。
- この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。
- 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること。
同規定及び恩赦法の規定に従い、内閣が恩赦を決定し、天皇がそれを認証することで恩赦が成立する。
余談だが、一部の護憲論者が「恩赦の制度は三権分立に反して憲法違反なので廃止すべし。」と主張し、それに対して一部の改憲論者が「恩赦の制度は日本国憲法に根拠規定があるので、憲法違反ではない。恩赦の制度を廃止したくば憲法改正が必要だ。」と反駁した。結論から言ってしまうと、下線部を除いて、両者の言い分は的外れである。後述の様に、恩赦の制度(赦免復権制度)は様々な論点から批判されているが、「憲法違反」という批判は、上記で引用した日本国憲法の根拠規定があるので的外れであり、恩赦を憲法違反とするには憲法改正が必要となる。また、三権分立であっても司法権の言い渡す判決が法律によらなければならないことは変わらず、司法権は恩赦の可能性まで踏まえた現行法を前提に判決を言い渡すことが求められているのである。
又、同規定では「行ふ」となっており、「行はなければならない」という義務を課した規定ではないので、恩赦の制度を廃止することに憲法改正を必要としない。
種類
恩赦法に規定された、日本に於ける赦免復権の種類を挙げる。
- 大赦(恩赦法第2条、第3条)
- 有罪の言渡しを受けた者に対して判決の効力を失わせ、まだ有罪の判決を受けていない者に対して公訴権を消滅させる。
- 特赦(恩赦法第4条、第5条)
- 有罪の言渡しを受けた特定の者に対して有罪言渡しの効力を失わせる。ちなみに、明治政府に恭順しなかった幕府軍残党の首班として牢獄されていた榎本武揚は、特赦により出獄した。
- 減刑(恩赦法第6条、第7条)
- 刑が軽減、又は刑がより軽い種類のものに変更される。
- 刑の執行免除(恩赦法第8条)
- 刑の執行が免除される。但し、前科は残る。
- 復権(恩赦法第9条、第10条)
- 刑の言渡しを受けたことに伴い資格喪失又は資格停止された者に対してこの措置を取り消す。
メリット
恩赦制度には、歴史的に存在した制度に根ざすものであるが、刑事政策的に以下のようなメリットが指摘されている。
- 法律は画一的に運用しなければならないが、その分個別的に見るとどうしても不当な処罰になるケースも出てしまうので、それを救済できる。
- 時代や社会情勢が変わったことで、処罰する必要性がなくなった行為を処罰し続ける必要がなくなる。(第二次世界大戦直後は、これを理由に大規模な恩赦が行われている)
- 誤判・冤罪から救済することができる。再審制度は存在するが非常にハードルが高く、公権力側が気づいた場合に救済するシステムも必要である。
- 後から処罰が軽くなる可能性があれば、処罰を受けた犯罪者が「無敵の人」と化して再犯したり、刑務所内の秩序を乱す事態を抑えることができる。
批判
赦免復権制度は、大きく別けて次の論点で批判されている。
- 司法で行われた処罰を犯罪被害者の感情を無視して軽くしているのではないか。
- 政治利用されて都合のいい犯罪者だけを許すような運用が行われる可能性はないか。(海外では、政府にとって都合のいい行動をするテロリストが恩赦で救済されてしまう例もある)
- 行政府又は立法府が司法府の決定を覆すことになり、三権分立の原則上好ましくないのではないのか。(違憲ではないのは上記の通り)
- 君主絡みの慶弔事と結びつけるのは、君主権力の政治利用になるのではないか。
特に2の対策の一環として、恩赦法とその関連諸法令の遵守・厳格運用や更なる適正化が挙げられる。
同制度の廃止を主張する言説としては、全面廃止論の他に、政令恩赦と個別恩赦(常時恩赦、特別基準恩赦)の区分の内、前者の政令恩赦のみを廃止すべきという部分廃止論がある。例えば、毎日新聞は令和元年(2019年)10月19日付東京朝刊の社説にて「時代にそぐわない」と結ぶに留まり明確に廃止を主張してはいないものの、部分廃止論に近い見解を示した[2]。以下、当該部分を引用。
ただ、政令恩赦は内閣の決定過程が見えず、国民によるチェックの方法もない。選挙違反で公民権を停止された人の救済に関しては、恣意(しい)的な運用の懸念が残る。被害者の意思が確認されることもない。
政府は恩赦の意義について、社会生活上の障害を取り除くことで改善更生を後押しすると解説している。
しかし、こうした事情は個別に判断されるべきだ。現在も、普段から特定の人ごとに恩赦を決める常時恩赦という仕組みがある。
有識者でつくる中央更生保護審査会が日々の行いや再犯の恐れ、社会感情を審査して妥当性を判断し、年間30人前後が認められている。これで十分ではないか。
関連動画
関連リンク
関連項目
脚注
- *【速報】政令恩赦は約55万人、18日閣議決定へ: ニコニコニュース
- *社説:政府が恩赦を決定 時代にそぐわない制度だ: 毎日新聞(2019-10-19)
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ページ番号: 5574838
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リビジョン番号: 3330417
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