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悪性腫瘍(Malignant tumor)とは、衰弱・多臓器不全を引き起こす腫瘍が発生する疾患である。悪性新生物(Malignant neoplasm)、がん(Cancer)とも。
一般に、癌が別名として扱われているが、これは病理学的には癌腫(悪性腫瘍の一種)を指す。一方、がんは癌腫だけでなく肉腫、白血病、悪性リンパ腫なども含む。すなわち、漢字の「癌」と、ひらがなの「がん」は、病理学上は異なる概念である。また、癌は比喩表現として、組織において障害となっている人物ないし集団に対して用いられることがある。下の「比喩」の節で述べる。
概要
通常、細胞は摂取した栄養分と遺伝子(DNA)をもとに新しい細胞を作り、身体機能を維持している(新陳代謝)。このDNAには、細胞が必要以上に作成されないように制御する遺伝子(がん抑制遺伝子)も備わっている。
この制御遺伝子に何らかの理由で変異が発生すると、無制限に栄養を奪って無制限に自己細胞を増殖させる「腫瘍」という細胞塊が発生する。通常の腫瘍(良性腫瘍)の場合、栄養を奪うことはできても周りの細胞を巻き込むようなことはしないため、その細胞塊を切除すれば容易に完治できる。
一方、悪性腫瘍と呼ばれる変異細胞は、正常な細胞に渡るべき栄養を奪い、栄養不足で死んだ正常な細胞に成り代わり(浸潤し)、末期になるとリンパ管や血管を伝って(転移して)、すべての細胞を変異細胞に置き換える悪性の細胞になる。たとえば、もし「肺の細胞しか作らない細胞」が脳や心臓の細胞にとりつき、脳や心臓を維持するためのの栄養を奪い、脳や心臓に肺の細胞を作り出したら、どうなるであろうか。がん患者、とくに末期患者が異様にやせ細るのも、筋肉などに回るべき栄養を全身に広がった悪性腫瘍が使い果たしているためである。
遺伝子に悪性な変異を引き起こす要因としては、突然変異を引き起こす遺伝毒性化学物質や物理的刺激、紫外線や放射線、細菌やウィルスの感染、不健康な生活、喫煙といったものから、特定のカビ毒(マイコトキシン)によるもの、肥満やメタボリックシンドローム、熱い飲み物や塩分や酒類の過剰摂取など、様々なものが挙げられる。さらに、近年では「遺伝子そのものに悪性変異を引き起こしやすい原因が備わっている」という意見もある。
とくに喫煙、塩分・脂肪分・酒類の過剰摂取、そして不摂生な生活(とくに運動不足)が主なリスクファクターと考えられる。したがって、がんのリスク軽減のため、これらを断ち、健康的な生活を送るのがよいとされている。また、日差しと共にふりそそぐ紫外線も皮膚がんのリスクファクターとなるため、過度の日光浴を避けることでもリスクを軽減できる。
悪性腫瘍発生後の治療方法としては、外科手術による腫瘍の摘出、抗がん剤を使用した化学療法、放射線治療などがあるが、前述のように悪性腫瘍片が循環器に乗って全身の細胞を変異させる(転移する)と手遅れ、末期である。とくに末期がんのイメージから、白血病と並び不治の病であると恐れられる病気であるが、定期的にがん検診を受け、早期発見・早期治療ができれば、たとえ悪性の腫瘍が発生していても完治が期待できる。また末期がんであっても、抗がん剤の進歩により5年生存率が上昇しているケースも存在する。いずれにせよ、前向きに諦めない姿勢が大切である。
がんに斃れた有名人としては逸見政孝、今敏、栗本薫などが挙げられる。また、がんとの闘病生活を耐えた有名人として吉田拓郎、小橋建太、和田アキ子などが挙げられる。
分類
悪性腫瘍は、上皮組織由来か、それ以外の組織由来かによって、大きく2つに分類される。上皮組織由来、すなわち、臓器や血管を覆ってほかの臓器や外界との仕切りを形成している細胞や、膵臓のような分泌器官の細胞を由来とする悪性腫瘍を癌腫(Carcinoma)、それ以外の組織、つまり骨や筋組織、脂肪組織、神経組織などから発生する悪性腫瘍を肉腫(Sarcoma)という。悪性腫瘍は、癌腫と肉腫のほか、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫がある。
ひらがな表記の「がん」と「悪性腫瘍」と「悪性新生物」は、基本的には同義であるが、漢字表記の「癌」は癌腫を意味する。「がん」は主に臨床で、「悪性腫瘍」は病理学で、「悪性新生物」は統計で使われることが多い。
厚生労働省は「悪性新生物」という表現を用いている。生命保険会社も、「悪性新生物」という表現を用いることが多いが、その定義はそれぞれの企業、あるいはがん保険ごとに異なる。一部の悪性腫瘍を悪性新生物の定義から外し、保険適用外としているケースもある。
比喩
癌は、組織、あるいは集団において、集団全体の利益を奪い取ってでも利己的な行動をとる、特定の派閥ないし人物を指す比喩表現としても使われる。悪性腫瘍が自らは無尽蔵に栄養を奪い取って増殖した結果、母体を死に至らしめることからのアナロジーである。
いわゆる「腐ったリンゴ」と似た意味だが、普段の生活ではまず使われることはなく、特定個人というよりは特定の付帯組織に使われることが多い。用例:「~は日本の癌だ」。
関連項目
親記事
子記事
- なし
兄弟記事
- 3
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