「悪魔のいけにえ」(原題:The Texas Chain Saw Massacre)とは、
1974年に公開されたアメリカ映画である。
概要
テキサスの片田舎で、殺人鬼・レザーフェイスを擁するキチガイ一家に襲われる若者達の姿を描く。
レザーフェイスやその家族の持つ精神異常の姿を非常にリアルに描き出し、真に迫った恐怖を描いたことで大ヒット。映画における殺人描写において、これほど無機質でおぞましい殺人鬼を描いた作品はなく、また「何の罪も無い被害者達が殺される」という理不尽さについても、ここまで突き詰めた作品はなかった。
後世のホラー映画に絶大な影響を与えた金字塔である。
その恐怖描写は芸術の域にまで達したと絶賛され、PTA的組織や自治体からは「絶対に見てはいけない」と激しく忌み嫌われ、上映中止を求める抗議デモが相次いだ。
一方、芸術性の高さからマスターフィルムをニューヨーク近代美術館が永久保存するという、ホラー映画としては異例の処遇を受けている。本作以外でこの栄誉に預かったホラー映画は、ジョージ・A・ロメロの『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』のみ。
さぞ派手な血しぶきが……と思われるだろうが、実は直接的なスプラッタ描写はそれほど多くない。
腐乱死体や人骨製家具など狂った小道具を映す、あるいはレザーフェイスが犠牲者を扉の向こうへ連れ去るのをワンショットで映すなどの演出で、恐怖を演出している。
予算は当時の額で8万ドル(現在の価値で4000万円)という低予算で、今作で名を馳せたトビー・フーパーも当時新人のペーペー、俳優陣もパッとしない若手ばかりと、粗製乱造される安物の1つに過ぎないものだった。
しかし上記のように「史上屈指の名作」と評価されたことで、全米での興行収入は3000万ドルに上った。これはリバイバル上映なども含めた数字である。
第一作が有名だが、実は続編が4作作られており、リメイク版とその続編も作られている。
なお、被害者の体の一部を使って家具を作る、精神に異常を来たしているなどの共通点から、実在した殺人鬼エド・ゲインをモデルにしているというのが通説となっているが、監督としてはそれはむしろ偶然の一致で、実際は1966年に起こった『テキサスタワー乱射事件』の影響が強いという(監督はこの現場に居合わせた)。
あらすじ
いけにえの5人の若さが哀れさを増す
この事件こそ
テキサスの田舎道をドライブする5人の若者が、道中で一軒の家を訪れる。道中で一人のヒッチハイカーを拾うが、ナイフで自傷行為に及ぶなどの奇行に走った為に追い出される。
その後、若者達はガソリンを分けてもらうために通りかかった家に立ち寄るが、現れたのは、食肉解体用のエプロンと人肉マスクを着けた、狂った殺人鬼だった。
レザーフェイス
映画史上最悪の殺人鬼として名高く、「13日の金曜日」のジェイソン・ボーヒーズ、「エルム街の悪夢」のフレディ・クルーガー、「ハロウィン」のマイケル・マイヤーズらと並び、ホラー映画界に今なお輝くスターである。
本名はババ・ソーヤー。リメイク版では、トーマス・ブラウン・ヒューイット。
改造を施したチェーンソーを武器に、人肉解体を働く狂人。金槌で相手を殴りつけ、解体用の肉フックに吊り下げて殺害する。
特徴はチェーンソーと、被害者の皮膚から作った人肉のマスク。レザーフェイス=『人皮の仮面』という名前も、ここから来ている。
ちなみに「チェーンソーと言えばジェイソン」という誤解が多いが、少なくとも上記3人の中には、チェーンソーを武器として使用したことのある者はない(ジェイソンは鉈、フレディは手製の鉤爪、マイケルは肉切り包丁)。すなわち、チェーンソーはれっきとしたレザーフェイスの武器である。
また、何かしかの人外的能力を持つ上記3人と違い、若干ふくよかな人間である。そのため、被害者から手痛い反撃を受けたことも再々ある。
しかし常識では考えられない怪力の持ち主で、激しく暴れる被害者を強引に家の中に引きずり込む。また、巨体でありながら(しかもチェーンソーを抱えた状態でも)異常に足が速い。
梅毒持ちの精神病患者で、女装癖を持っている。つまり男の娘。
通りかかる人間を襲っては解体し、家族と共にその肉を味わい、骨や皮から家具を作り上げる。しかし、このような狂った面を持つ一方で、キチガイ揃いの家族に対しては従順。かわいい。
また、1作目では何をするかわからない精神異常者としての面が強く描かれたが、続編では被害者の女性に恋をして家族から隠したり、その家族に叱られて凹んだりと、妙に人間臭いところを見せる。
1作目のビデオ・DVDのパッケージは彼のドアップで飾られており、それだけでもう怖い。
初作で彼を演じたグンナー・ハンセンは、アイスランド出身の俳優兼小説家。
怖ろし気な演技とは裏腹のインテリだった。2015年にすい臓がんで死去。享年68。
後述の通り、ボス・ソーヤー役で最新作にも出演していた。
続編
『悪魔のいけにえ2』(1986年)
初作の大人気を受けて作られた続編。トビー・フーパーが再び監督を務める。
多額の予算が降りたのをいいことに、よせばいいのに大枚をはたいて大スターを主演に据えた。
前作の家から家族ぐるみで脱出し、廃園となった遊園地に潜んだ一家を、前作の被害者の叔父(演:デニス・ホッパー)と、レザーフェイスに一目ぼれされたヒロインが襲撃する。
……本当にこういう話である。
前作と比べて残酷描写が格段にパワーアップしているが、恐怖描写ではもはや前作を超えることは不可能と監督自身認めたか、あるいは開き直ったか、コメディ・エンターテイメント要素に満ちた作品に仕上げられている。
しかしこの思い切った選択は結果として成功しており、趣の違った作品として楽しめる出来となっている。
『悪魔のいけにえ3 レザーフェイスの逆襲』 (1990年)
続編なのかリメイクなのかいまいちよくわからない作品。
製作側も思い切って新シリーズを作ろうとしたようだが、煮え切らない出来と同様、煮え切らない人気・興収に終わった。
「テキサスのガソリンスタンドで、若者達がレザーフェイスに襲われる」という、1作目と殆ど変わらないプロットだが、家族設定や舞台などが微妙に変えられている。
はっきりいって余り面白くない。
『悪魔のいけにえ レジェンド・オブ・レザーフェイス』(1995年)
またも世界設定をリセットして作った4作目。
やっぱり前半のプロットは変わらない。襲われるのが学生というだけである。
原副題は『The Next Generation』=「次世代」と、やはり新たな流れを生み出したかったようだが、結果として、「レザーフェイス一家の背後に巨大な組織がいる」ということを妙な形で示唆したのみに終わった。
これもあまり面白くない。
『飛びだす 悪魔のいけにえ レザーフェイスの逆襲』(2013年)
『1』の直接の続編。ただし『2』とはパラレルワールドである。もう何でもありやな。
2014年時点での最新作だが、後述する『テキサス・チェーンソー』の続編ではなく、あくまで『1』の続編と言う、変わった位置づけの作品。
唯一逃げ延びたサリーの通報により、テキサスの自警団がキチガイ一家を襲撃。『1』の大虐殺からわずか59分後、レザーフェイスとキチガイ一家は、当時赤ん坊だったヘザーを残して全滅した。
20年後、自警団の夫婦に引き取られたヘザーは成人を迎えていた。そんな彼女の元に、祖母が死んだと言う知らせが入り、その家と財産を相続する。もちろん自分が殺人鬼一家の末娘であったことなど知らないヘザーは、自分のルーツへの興味もあって、友人と共にその豪邸を訪れる。
しかしそこには、死んだはずのレザーフェイスの魔の手が延びていた、という物語。
シリーズ初の3D映画。ギャグのような邦題に対して、原題は『Texas Chainsaw 3D』とシンプル。
過去作品のキャストがカメオ出演しており、『1』でレザーフェイスを演じたグンナー・ハンセンは、彼の父であるボス・ソーヤーを、『2』でレザーフェイスの兄のチョップトップを演じたビル・モーズリーは、長兄のドレイトン・ソーヤーを、『1』以降3度に渡って一家の祖父を演じてきたジョン・デュガンは、今作でも祖父を、それぞれ演じている(ちなみに、たまに混同されるが、チョップトップは次男でドレイトンは長男である)。
また、生還したヒロイン・サリーを演じたマリリン・バーンズが、ヘザーの祖母ヴァーナ・カーソンを演じている。彼女は数えるほどしか映画に出演しておらず、その近影を確認できるだけでも貴重な作品である。
ファンにはたまらない、同窓会のようなキャスティングであると言えよう。
しかし、『13日の金曜日 part3』や『ジョーズ3』のような、80年代のちゃちな3D映画と同等のチープな内容であるとして、批評サイトなどでは微妙な評価になってしまった。
だが約2000万ドルの制作費に対して興行収入は4724万ドルと、興収面では成功を収めている。
リメイク
『テキサス・チェーンソー』(2003年)
マイケル・ベイ製作のリメイク版。
後の『13日の金曜日』や『エルム街の悪夢』のリメイクのさきがけとなった。
家族構成や苗字などを変更してはいるものの、基本的なプロットは初作と同様。
進化したCGや撮影技法で、1作目の骨子を損なわないまま現代的にリメイクしており、評価は概ね好評。
全米で1億ドル以上の興行収入を記録した。
ちなみに、今作でレザーフェイスを演じたのは、実写版ストリートファイターでザンギエフを演じたアンドリュー・ブリニアスキー。
また、ハートマン軍曹ことロナルド・リー・アーメイも、キチガイ一家の一員を演じている。
『テキサス・チェーンソー・ビギニング』(2006年)
リメイク版の続編、というよりはエピソード0モノ。
レザーフェイス生誕の秘密と、家族の経歴が語られる。
被害者達の構成や殺害方法、また(レザーフェイス達の過去を描いた場面と結末を除く)ストーリーは前作以上に1作目に近い。
こちらも一応好評は得たものの、予算は倍額なのに興行収入は半減してしまったため、リメイク製作は今作で落ち着いてしまった。
関連動画
関連商品
関連項目
- 映画の一覧
- ホラー
- 13日の金曜日
- ハロウィン
- ジェイソンさん - ホッケーマスクを被ってはいるが、使っているのはチェーンソー。
- エド・ゲイン
- Dead by Daylight - 2016年発売のホラーゲーム。チェーンソーを装備した殺人鬼「ヒルビリー」の元ネタとなっている他、犠牲者を肉フックに吊り下げて殺害する演出がある。また有料DLCでレザーフェイス本人も出演。
- モータルコンバット - 残酷描写で有名な、アメリカ発の対戦格闘ゲーム。2016年発売の「モータルコンバットX」でプレデター、エイリアン、ジェイソンと共にゲストキャラとして出演。
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