戦車(せんしゃ)とは、戦闘用・戦争用の車のことである。主に以下の単語の和訳として使われる。
- 英単語「Tank」ドイツ語「Panzer」などにあたる和訳。軍用車輌のうちのAFV(装甲戦闘車両)の一種。現代陸軍の花形戦車。特に現代では通常
MTBMBT(Main Battle Tank)、主力戦車を意味する。 - 英単語「chariot」の和訳。戦闘馬車。「チャリオット」の項目を参照の事。
ここでは1.に付いて説明する。戦車かな? 戦車に良く似てるけど…もしかして戦車じゃないのかな? と迷ったら→装甲戦闘車両(AFV)、創作作品に登場する架空兵器の装甲戦闘車両(AFV)は→架空の装甲戦闘車両
初心者の方には難しく見えるかもしれないが、端的に言えば
「火力・防御力・不整地機動力に優れたキャタピラと大砲の付いた巨大な車」でだいたいあってる。
概要
戦車は第一次世界大戦半ばに、塹壕と機関銃と火砲の発達のためにすっかり膠着してしまった西部戦線をふたたび「流動化」させるべく、英国陸軍が発明し戦場に持ち込んだ革新的陸上兵器である。戦車は実戦デビューと同時に敵味方双方に鮮烈な印象を与え、その将来性をただちに確信された。その時から今日まで、主要先進国の間では途切れることなく戦車の性能強化競争が続いている。[1]
主に旋回砲塔[2]に主砲を搭載し、自分自身の主砲弾による零距離射撃[3]にも耐えられる[4]丈夫な装甲板に覆われたクローラー(装軌式)車輌[5]の一種と定義される事が多い。戦闘機が敵の戦闘機を圧倒することを求められる様に、戦車は(究極的には)敵戦車を含めた敵地上車両を直接火力戦闘で圧倒するための兵器である。
走(履帯の機動力)攻(主砲の火力)守(装甲の防御力)を高いレベルで兼ね備えた、直接戦闘では最強の地上兵器である。特に近代では暗視装置、熱源映像装置[6]や複合装甲、自動装填装置、砲安定装置、APFSDS弾、C4Iシステムといった様々な技術革新によりさらに戦車の能力を高めることとなった。
戦車やAFV相手の直接戦闘が第一の本業だが、ドーザーを付けての土木作業、歩兵支援、要塞・トーチカ等の地上軍事施設制圧、対テロ・対ゲリラ・コマンド戦闘等多種多様の軍事用途に対応する。
欠点・弱点
地上戦闘に活躍する戦車だが、もちろん万能というわけでもなく、対戦車兵器による待ち伏せ攻撃や航空機、砲兵による間接射撃などには脆弱である。また視野が狭く死角が多い[7]、騒音によって隠密性が低い[8]、価格や維持費(後述)が高い、燃費が悪い。
なお、見た目のでっかい図体やエンジンパワーに反して、砲弾は沢山積んでいても、乗員以外の人や荷物を載せる余裕はない(イスラエル軍のメルカバを除く)。ヒッチハイクや引越のお手伝いはお願いしても無理。一応車体上部に歩兵を乗せる運用法もあるとはいえ、無防備な身体が剥き出しなため攻撃を受けると全滅してしまう。(→タンクデサント)
走攻守に優れているとはいえ、単独行動では非常に脆弱である。
狭い視界と大きな騒音から、敵に察知されやすい上に近くで隠れた歩兵も察知しづらい。
連携・相互支援
航空優勢(敵の航空機が活動できない状態)を確保しない状態で運用される戦車はきわめて脆弱であるため(ハンス・ウルリッヒ・ルーデルを参照)、味方の空軍や対空砲・対空ミサイルによる援護下で行動するのが原則である。それと同時に戦車は味方歩兵を敵戦車やその他の脅威から護り、代わりに歩兵に敵歩兵の攻撃から護って貰いながら行動する。敵の砲兵は味方の砲兵や航空支援により排除する(こうした、各兵科の利点を生かし、共同しながら戦うことを諸兵科連合:コンバインド・アームズと呼ぶ。現代戦の重要なコンセプトの一つ)。
存在意義
現代では対戦車ミサイルや戦闘ヘリコプター、航空機が運用する精密誘導兵器など、戦車よりも「強い」兵器が多数存在するように見えるが、今のところ戦車の存在価値は失われていない。
ヘリコプターや航空機は常に戦場にとどまって活動する訳には行かないし、燃料や整備のコストもかさむ。航空機に重装甲を施せば重量増加となり最大離陸重量を超過したり、装備可能な兵器・弾薬類を大幅削減せざるを得なくなる。また携帯式地対空ミサイルの脅威も増大している。
歩兵の携帯式対戦車兵器の無反動砲や対戦車ミサイルは、機動力や防御力に劣るため防御戦闘はともかく反攻作戦には使いづらい。さらに言えば敵の戦車は単独で来ることはなく、大勢の歩兵やその他兵器と相互支援しながら前進してくるため。
旧式の戦車であっても、有効な対戦車兵器のない・乏しい歩兵には十分な脅威となりうる。[9]
…結局、依然として地上戦では歩兵で地域を制圧する必要が有るのは事実であり、歩兵を護り、敵の陣地を突破するには走攻守に優れた戦車が必要となる。冷戦崩壊とともに大規模な戦車同士の遭遇戦の機会は遠のいたが、近年の対テロ戦争・市街地戦闘のなかで戦車の価値は再発見されつつあり、一時期は戦車不要論に傾き装輪装甲車(LAV-MGS)で代替しようとしていた某国などもアフガンでの任務に戦車を急遽投入したりしている。
詳しくは 戦車不要論 の記事も参照。
区分[10]
一般的には重量により「軽・中・重戦車」に分類される。イギリスにおける最初の分類は「歩兵戦車」と「巡航戦車」だったが、その後「偵察戦車」「駆逐戦車」「突撃戦車」「対空戦車」「架橋戦車」「水陸両用戦車」「空挺戦車」など多くのバリエーションが作られた。これら支援用の戦車と区分して汎用な目的を持った戦車は「主力戦車」の名称で呼ばれるようになる。
すごく大雑把な戦車の歴史
- 第一次世界大戦の西部戦線では、1914年までに鉄条網を張り巡らした塹壕が北海からスイス国境までつながったため、戦闘用車両の行動が制限されるようになった。フランスとイギリスにはフランス領からドイツ軍を撃退しなければならない政治的理由があったが、既存の兵器や戦法で塹壕を突破することは事実上不可能で、塹壕を突破できる車両の研究を開始することになった(逆にドイツは戦略上、塹壕線を突破する必要がなく、この種の兵器を作る緊急性はなかった)。[11]
1916年に初めて戦場に投入されたイギリスのマークⅠ型はあまりにも兵器としての完成度は低かったのだが、翌1917年2月に全周の敵に射撃できる旋回砲塔を持つ、フランスのルノーFT戦車が現れた。このルノーFTの登場によって、現在の戦車の定義は「直射火砲を搭載した旋回砲塔を持つ装甲した装軌式車両」となった。[12] - いっそのこと、複数の砲塔つけたら便利じゃね?(多砲塔戦車の時代)→『君たちは何故戦車の中に百貨店など作ろうとするのかね』(byスターリン)→単砲塔へ収束。
- 戦車で敵の戦線を突破して一直線に突っ込んだら敵の指揮系統崩壊して涙目じゃね→戦車だけじゃ心もとないんで歩兵と砲兵もついてってね→電撃戦・戦車+自走砲と機械化歩兵による諸兵科連合部隊の運動戦(第二次世界大戦)
- 戦車の数は足りないし、乗せられる砲にも限度がある。いっそ砲を固定してしまったらどうだ? (自走砲・砲戦車・駆逐戦車の誕生)
- いろいろサイズの違う軽戦車とか駆逐戦車とか作ったけど、結局のところ走・攻・守のバランスの取れた戦車で事足りるよね(主力戦車 MBTの誕生)
- 歩兵なくてもアラブ相手だったら全部戦車で事が足りるぜ。機動力と火力で粉砕だ(イスラエルのオール・タンク・ドクトリンの誕生)
- と思ったら、歩兵でも戦車を倒せる携行型対戦車ミサイルが普及して大損害だぜ(第四次中東戦争でのオール・タンク・ドクトリンの挫折)
- 携行型対戦車ミサイルとか、火砲が強力になりすぎて鋼の装甲板傾けただけじゃ防ぎきれないよ!(傾斜装甲の限界)→セラミックとか劣化ウランとか材質異なる装甲をサンドイッチ状にしよう(複合装甲による防御力の回復)。
- 戦車とBMP(歩兵戦闘車)を山ほど準備して集団(作戦機動グループ=OMG)を作るぜ、で、この複数の集団で立て続けに進撃する無停止進撃でヨーロッパを蹂躙してやるぜヒャッハー!→ソ連おっかねえよ、こっちは戦車足りないから最初の集団と戦っている最中に後ろに控えている集団をMLRSやA-10やアパッチやF-111や戦術核総動員で叩きのめすよ、エアランドバトルだ。→OMGによる無停止進撃VSエアランドバトル(冷戦期)
- 冷戦も終わった。対戦車ヘリも充実してきたし、歩兵がもつ対戦車ミサイルもある。戦車って無用の長物かも。装輪式装甲車のほうが手軽でいいよねー(湾岸戦争以後)。→戦車不要論の台頭。
- と思ったら、イラク戦争で従来不適とされていた市街戦で活躍。強力な装甲と火力で戦術ネットワークで対テロ戦、ゲリラ・コマンド対策でも結構戦車って使えるんじゃね。
- とはいえ、対戦車兵器対策でアレコレと装備を追加したり装甲増やしたら重くて大変なことになってんじゃね?→じゃ軽量化してみるわ!(日本) 俺も俺も!(中国) お、俺もしてみようかな…。(米国)(イラク戦争以後 イマココ)
武装
主砲
戦車を戦車たらしめる最大の主力装備。
敵のいる建物を階ごと吹き飛ばしたり、装甲戦闘車両を一瞬で鉄屑に変える威力がある。
- 現在は105mm、120mm(西側)、125mm(東側)といった口径が主流。
- 車体とは独立して360度自由に動くため、車体方向を指定しておけば射撃後に素早く離脱も可能。
- 上下への可動角は国・時代や戦車によって異なる。
- 主砲横には平行に機関銃も装備されている。(後述)
- 人力装填と自動装填装置の2種類があるが、一長一短である。
- 近代はレーザー測距儀や暗視装置や熱源映像装置(サーマルサイト)といった装置や連動している。
- 射手の技量や勘に頼る部分が減り、初弾の命中精度も大幅に上昇することとなった。
- 基本的に主砲発射時は停止するのが望ましい。
弾種
戦車の砲弾には様々な弾種があり、必要に応じて切り替えられる。
※以下の全種類を必ず搭載している訳ではない
- 対戦車用
- その他
長距離においては誘導してくれるミサイルのほうが便利だし、主砲なんて時代遅れでは?
…といった議論がミサイル万能論だが、コストが高く思ったほど万能ではなかった。
一部の戦車砲[13]においてはミサイルが発射可能で、長距離の目標に対して使用する。
ただし全ての主砲にミサイルを詰めれば発射できる分けではないためあしからず。
機関銃
- 戦車=大砲というイメージが大きいが、機関銃も装備している。
装甲
戦車の大きな特徴のひとつ。
通常のライフル弾はもちろん重機関銃の弾も無効化する。
- 最前線での戦闘を想定されているため、通常の歩兵輸送用の装甲車よりもさらに分厚い。
- 重装甲だが装甲圧は均等ではなく、正面装甲が最も厚く、上面装甲が最も薄い。
- かつての戦車は丸みを帯びた砲塔が多かった。(74式戦車など)
- 接合部にリベットとは使用されていない。被弾時に車内で跳ね回り非常に危険。
- RPG-7などの成形炸薬弾の威力軽減や不発を狙った金網や格子が取り付けられる。
- 予備の履帯や転輪、工具箱、荷物をあえて外側に装着し、被弾時の貫通に必要な距離を稼ぐ例は多い。
車内
快適性
生存性
戦車の一覧
第一次世界大戦
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第二次世界大戦
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関連動画
左:日本中国の制式主力戦車比較。中国の戦車の主砲が揺れているのはスタビライザーを装備せず、走行間射撃を前提としてない旧世代戦車のため。日本の90式戦車は走行間射撃が前提の第三世代戦車。
右:英国国営放送BBCの名物車番組"TopGear"。金庫破りに挑戦!
左:いまのカーグラTVじゃ考えられないぜ!
右:敵を知ることこそ最大の攻撃である・・・ダダ盛れ?
左:この戦車なら第三次世界大戦勝てるんじゃないか?w
右:戦車っていったらPanzarlied
左:盗んだ戦車で走りだす~♪
右:ハマーと戦車、どっちが凄い?
左:「戦車は遅い、重い、時代遅れ」だと思っている人へ
右:Ⅲ号戦車J型のプラモデル
戦前日本戦車の性能・戦史・開発秘話・軍内の運用などを万遍無く語られている。
ただの性能説明のようなものではなく、各話がストーリー仕立てになっていて、
もはや、大河ドラマのような感覚を感じる。(注意*ゆっくりボイス)
関連コミュニティ
関連商品
関連項目
関連人物
- ルーデル(ハンス・ウルリッヒ・ルーデル大佐)(ナチス・ドイツ)
- ミハエル・ヴィットマン(もしくはビットマン)(ナチス・ドイツ)
- オットー・カリウス(ナチス・ドイツ)
- 西住小次郎(大日本帝国陸軍)
- 宮崎駿(オットー・カリウスの戦記を漫画化した著作「泥まみれの虎」他、兵器大好き)
- 小林源文(戦争劇画「黒騎士物語」などで有名な劇画家)
戦車が活躍した戦闘
戦車の異名・愛称
戦車を主題とした作品
- パンツァー・リート(和訳すると「戦車の歌」。ドイツ軍の行進曲)
- メタルマックス(ゲーム)
- メタルスラッグ(ゲーム)
- 鈍色の攻防(ゲーム)
- パンツァーフロント(ゲーム。上記の「鈍色の攻防」と同じ制作会社の作品)
- THE戦車(ゲーム)
- World of Tanks(無料オンライン戦車ゲーム)
- Armored Warfare(同じく無料オンライン戦車ゲーム。上記「World of Tanks」の開発陣の一部が離脱して制作)
- SteelFury(恐ろしいこだわりっぷりで有名なウクライナ製の戦車シム)
- Gear Up(無料オンライン戦車ゲーム)
- ガールズ&パンツァー(アニメ)
その他
- ガチタン
- 戦車の人
- 日高愛(アイドルマスター ディアリースターズ:公式キャッチフレーズが「どんなことにもへこたれない、とつげき豆タンク!」)
- 乗り物
- 軍用車両
- 無限軌道(キャタピラ)
- 暗視装置 / 熱源映像装置
- 戦車と同等の主砲を搭載しているが主力戦車(MBT)ではないもの
脚注
- *「AI戦争論 進化する戦場で自衛隊は全滅する」兵頭二十八 2018 飛鳥新社 pp.268-269
- *旋回砲塔を持たないスウェーデン陸軍MBT、Sタンク/Stridsvagn 103だけ例外。現在は退役し、レオパルド2にMBTの座を譲っている。
- *距離が0からの至近距離からの射撃ではなく、単に水平射撃を意味する。戦車からの直接攻撃=水平射撃だからだ。放物線を描く曲射弾道に対する防護は戦車戦では優先度が低い。戦車は戦車同士の直接照準射撃による戦いに勝つことを念頭において装甲を施しており、結果として上部装甲は優先度は低く(正面に比べて相対的に薄く)なる事を意味する。戦車がヘリの攻撃や自走砲、対地ミサイル等遠距離・上空からの攻撃を防御しきれないことはある意味で当然であり、戦車の設計運用においては折込み済みである。しかし、戦車が戦車同士の直接火力には負けられない。敵の主力戦車との戦車戦に打ち勝つ事が、「主力」戦車たるレゾンデートル(raison d'e^tre)、存在理由、存在意義であるからだ。
- *飽くまで主力戦車を構成する設計理念で戦車の中にはこの条件を満たしてないものもある。必須条件ではない。砲やミサイルの発展が装甲の発展を上回った時期には、装甲を捨てて機動力によって生存性向上を図る思想も存在した。
- *タイヤは弾性体であるため、装輪(タイヤ)方式の車両では強力な主砲発射の衝撃を吸収・制御し、行進間射撃や連続射撃を行うことが構造上困難である。また履帯(クローラ)と比べ、タイヤは小火器でさえ脅威になる程耐弾性が低く、路外の走破性でも劣る。
- *サーモグラフィのように体温やエンジン放熱といった「熱源」を強調し索敵・識別・捕捉を容易にするもの。暗視装置の一種とされる場合もある。サーマルサイト・サーマルイメージャとも。
- *戦車から外を見るための視察窓(ペリスコープ)が小さい。安全地帯ではハッチを開けて頭や身を乗り出す事は可能だが戦闘中は危険。
- *エンジンや無限軌道の騒音で、夜間においても遠距離から一方的に発見されてしまう。
- *分隊において1名程度の対戦車特技兵がいる場合もあるが、対戦車兵器ひとつでは複数台の装甲車両を相手するには厳しく、射撃後は発射時の炎や煙で居場所が暴露してしまう。
- *「機甲戦の理論と歴史」葛原和三 芙蓉書房出版 2009 pp.34-35
- *「世界の戦車―技術と戦闘の歴史」ケネス・マクセイ:編著/林 憲三:訳 原書房 1984 p.8
- *「機甲戦の理論と歴史」 pp.33-34
- *M551シェリダン空挺戦車や、東側の戦車など
- *対空用の大型照準器(環状照準)が付属している場合もある。
- *半自動誘導方式の対戦車ミサイルの照準用レーザーを検知するもの。ミサイルの誘導方式に関しては「ミサイル」の百科記事を参照。
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