扶桑型戦艦単語

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扶桑型戦艦とは、大日本帝国海軍が大正時代に建造した戦艦の艦型である。

　当初計画では四隻の建造が予定されていたが、三番艦と四番艦は途中で設計が変更されて伊勢型戦艦となり、本型は「扶桑」「山城」の二隻のみとなった。

　14インチ砲を連装6基という、当時としても相当の大火力を誇る超弩級戦艦であったが、主砲塔の配置の悪さから速力アップのための機関改修が難しかった、主砲発砲の爆風・爆煙で射撃統制に支障が出た、装甲が弱すぎた等々の欠点を指摘され、失敗作・欠陥戦艦として評論されることが多い。

　その一方、特徴的かつ特異な巨大艦橋（ナンセンス戦艦）のインパクトと、太平洋戦争での悲劇的な最後というエピソードから、日本のみならず海外のミリタリーファンの間でも人気は高い。

　要目

　国産超弩級戦艦

　明治39年（1906年）に登場したイギリスの戦艦「ドレッドノート」は、搭載主砲を単一口径に揃えて斉射するという、それまでの戦艦の戦術を変える画期的なものだった。

　これに対し、当時日本海軍が建造していた国産戦艦・薩摩型（「薩摩」「安芸」）は異なる口径の主砲を混載した従来形式（前弩級戦艦）で、「ドレッドノート」の出現により完成前から旧式の烙印を押されてしまうものだった。
　続いて建造した河内型（「河内」「摂津」）も、砲術の工夫で斉射的な射撃は可能だったが異なる口径の主砲混載（東郷平八郎元帥が混載を強制したという説がある）となってしまい、戦艦の技術革新について日本海軍は後れを取っていた。

　このため海軍は、新技術を導入するため戦艦「金剛」の建造をイギリスに発注し、それを踏まえて超弩級戦艦となる新たな国産戦艦の開発に取りかかった。これが扶桑型戦艦である。

　焦点の主砲は、12インチ砲と14インチ砲の二種類が検討されて14インチ砲に決まり、これを「金剛」と同じ様に中心線状に直列配置（「ドレッドノート」は2番砲塔と3番砲塔が並列配置）することで、同一舷側へ主砲を全て向けることが可能となった。さらに砲塔数も「金剛」の4基より増やして6基とし、大正4年（1915年）11月、「扶桑」は当時最強の火力を持つ戦艦として登場した。

　大正時代の海軍は金剛型を高速力による遊撃戦力（第二艦隊）として扱っていたことから、「扶桑」は大正5年（1916年）2月より、早くも主力決戦部隊たる第一艦隊の旗艦として配備。大正6年（1917年）3月に就役した二番艦「山城」も同年11月より「扶桑」から第一艦隊旗艦を引き継ぎ、戦艦「長門」の登場まで海軍のシンボルを務めた。

　ポスト・ジュットランドと八八艦隊

　第一次世界大戦中に起きたユトランド沖海戦（ジュットランド沖海戦）の戦訓として、戦艦の防御は側面のみならず甲板（水平防御）も重要であることが明らかとなり、一次大戦以前の防御認識で造られている扶桑型・伊勢型・金剛型の各戦艦は、その対策に迫られた。扶桑型は6基の主砲塔を広く配置しているため、甲板上の被弾危険箇所が多かったのである。
　また、ユトランド沖海戦ではそれまでの想定砲戦距離8,000mの倍となる15,000ｍ前後において戦いが行なわれたことから、砲の仰角が小さい（＝砲弾を遠くまで飛ばせない）扶桑型の主砲は改修されなければならず、この他にもユトランド沖海戦の戦訓に基づく数々の改修点が現れてきた。

　こうなってくると、既存艦をあれこれいじるより新型艦を造るほうが良さそうなもので、実際に日本海軍は戦艦「長門」をはじめとするポスト・ジュットランド型戦艦による八八艦隊の編成を目指していた。
　しかし八八艦隊計画は、当時の国家予算の四割を食い潰す大規模なもので、第一次世界大戦後の戦争バブル崩壊と軍縮気運の中では到底無理な代物であり、大正11年（1922年）のワシントン海軍軍縮条約によって「長門」「陸奥」の建造のみで計画は破棄となる。

　こうして、八八艦隊の成立とともに退役するものと見られていた扶桑型戦艦（および金剛型・伊勢型）は、改修を重ねながらも、引き続き海軍の主力艦として留まり続けることになる。

　「ドックに居るほうが長い」の虚実

　扶桑型戦艦というと、当初同型艦として予定されていた「伊勢」「日向」が「扶桑」の欠陥を理由に設計変更されたとされる事をはじめとして、建造時の公試で指摘された発砲の爆風・爆煙問題、砲塔の位置による機関部の改修問題などを挙げて、「何年もドックに放り込んで修理してみたが結局ダメだった」という評価が多い。改装期間に関しては金剛型も同等以上の時間がかかっている。

　しかしながら「扶桑」「山城」が、改良型とされる「伊勢」「日向」より決定的に劣るという事実は無い。巷間ささやかれている欠陥は感じなかったとする元「扶桑」艦長の証言や、演習で「扶桑」が最優秀成績だったという記録もあるし、何よりも「扶桑」「山城」は第一艦隊の旗艦だった時期が長い。上記の大正時代の他、昭和10年（1935年）に「山城」は連合艦隊の旗艦を務めた。

　戦艦として致命的な欠陥があるのであれば、扶桑型を旗艦とすることは無かったのではないだろうか。

　太平洋戦争

　空母と航空機の時代となった太平洋戦争。建造から25年を超え、空母の速力についていけない劣速で、古錆びた大艦巨砲の扶桑型戦艦は、前線から離れた内地で虚しく時を過ごす日々だったとされる（昭和16年に南雲機動部隊の支援、昭和17年の米空母追撃、ミッドウェー海戦に出撃。他、「扶桑」はトラック島へ進出したのと、昭和19年の第一次渾作戦出動の実績がある。トラック島へ進出した「扶桑」は「長門」と行動することもあり、あ号作戦には「長門」と共に機動部隊・乙部隊に編入され参加する予定であった。）。

　しかしそれは「伊勢」や「長門」、最新鋭の「大和」でさえ同様であり、同世代の14インチ砲・速力20ノット級のアメリカ戦艦「ペンシルヴァニア」「ニューメキシコ」「テネシー」らが、上陸作戦での艦砲射撃部隊として十分に活動したことを考慮すれば、扶桑型に活躍の機会が無かったのは、ひとえに日本海軍（連合艦隊）の艦船運用能力と戦略の拙さによるものと言わざるをえない。

　そして「扶桑」「山城」の姉妹が最後の活躍の場として与えられたのは、十死零生の最悪の戦場だった。

　昭和19年（1944年）10月、フィリピンにおいて最後の大反攻を企図した海軍は、水上艦戦力のほぼ全力を投入しての作戦を決行。捷一号作戦（レイテ沖海戦）となる。
　第二戦隊の「扶桑」「山城」は、老朽化による速力劣化と支隊（西村艦隊）の航続力不足を理由に第一遊撃部隊の主力（栗田艦隊）とは別行動を取ることになりフィリピン南方から進出。アメリカ軍の上陸地点であるレイテ島を、栗田艦隊と南北から挟撃することになっていたが、米機動部隊の攻撃や他部隊との連携ミスにより、栗田艦隊の進撃は遅れてしまう。

　10月25日未明、西村艦隊は単独でレイテ湾に突入。待ち構える米艦隊の猛攻を受け、「扶桑」「山城」はあの特徴的な艦橋を崩落させながらフィリピンの海へと沈んでいった。両艦とも、生存者は10名に満たなかった（一般に「扶桑」は全員戦死とされる）。

　大艦巨砲の最後の敵が、同じ大鑑巨砲の遺物である「ペンシルヴァニア」「メリーランド」らの戦艦であったことは、せめてもの慰めであろうか。

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