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抗うつ薬とは、気分を高揚させ抑うつ状態を改善する薬である。
概要
うつ病の原因はハッキリと分かっていないが、脳内のノルアドレナリン(意欲をもたらす)、セロトニン(安心をもたらす)の低下が関係すると考えられている。これらが神経細胞に再取り込みされるのを阻害することで、受容体によく作用するようにするのが抗うつ薬の主なメカニズムである。
抗うつ薬の効果が発現、安定するには2~3週間、短くても1週間はかかるため、不安が強い場合は効果の発現まで抗不安薬を併用することがある。
抗うつ薬を使用する上で気をつけなければならないのが、自殺を誘発するおそれがあることである。これは意欲の低下で踏み出せなかった自殺に対しても、薬が効いてくると自殺を決断する意欲・行動力も生まれてしまうため。若年患者に多いとされる。
また、薬が体に合わないと投与開始直後や増量時などに焦燥感、不安感の増大、不眠、パニック発作などの症状が出ることがある。これは賦活症候群(アクチベーションシンドローム)と呼ばれる。
副作用の辛さから、あるいは一時の回復で治ったと判断して服用を中止してしまう人がいるが、継続服用していた抗うつ薬を突然中止すると、ふらつきや目眩、頭痛、不安、不眠などの離脱症状が現れることがある。これにより症状が悪化する恐れがあるので、副作用などが辛い場合は医師や薬剤師に相談して徐々に減らしていくことが重要。作用時間の長い薬に置き換えつつ減らすという手法も取られる。
三環系抗うつ薬
最初に作られたクラシカルな抗うつ薬。構造式中に3つの環構造をもつ。1960年代に多く開発された。
ノルアドレナリン、セロトニンを非選択的に取り込み阻害するほか、アセチルコリン受容体を遮断してしまうので、口渇、便秘、吐き気などの副作用が多く、緑内障や前立腺肥大には禁忌。またヒスタミン受容体も遮断するので眠気が強く現れる。抗うつ作用は発現に2~3週間かかるのに、副作用はすぐ出るため人気は薄い。
医薬品名 (商品名) |
備考 |
イミプラミン (トフラニール) |
元々は統合失調症治療薬として開発されていた薬。副作用は多いものの、古い薬ゆえデータが揃っているため一定の人気がある。意識を高揚させる作用が強い。 |
クロミプラミン (アナフラニール) |
薬効強化のためイミプラミンに塩素(chlorine)をくっつけたのでこの名前。アメリカでは当初「副作用多すぎ」「鎮静作用強すぎ」「イミプラミンとの違いが微妙」とボロクソ言われて販売が認可されなかったが、強迫性障害によく効くことが分かり、1990年にそちらの区分で認可された(欧州での認可から24年後)。 |
アミトリプチリン (トリプタノール) |
最強の抗うつ作用と最強の副作用を持つ。眠気をもたらす抗ヒスタミン作用と5-HT2A受容体遮断を併せ持つので、眠気がとにかく強い。就寝前の服用が推奨される。 |
アモキサピン (アモキサン) |
三環系抗うつ薬の中では副作用が弱く、作用発現が早い。高用量で統合失調症にも用いられる。 |
四環系抗うつ薬
三環系抗うつ薬を改良したもの。構造中に4つの環構造をもつ。効果発現が三環系抗うつ薬に比べ4日ほどと早く、持続時間が長い。
医薬品名 (商品名) |
備考 |
マプロチリン (ルジオミール) |
ノルアドレナリンの再取り込みを選択的に阻害する。当時はセロトニンの効果がよく分かっておらず、ノルアドレナリンの効果を高めるのがセオリーだったのだが、ノルアドレナリンに特化したマプロチリンは三環系抗うつ薬とそれほど効果が変わらなかった。ここから製薬メーカーはセロトニン重視の方向にシフトしていく。痙攣の副作用が出やすいとされる。 |
ミアンセリン (テトラミド) |
放出量に応じてノルアドレナリン放出を抑制するα2受容体を遮断し、ノルアドレナリンをドバドバ出させる。アミトリプチリンと同じく抗ヒスタミン作用と5-HT2A受容体遮断を併せ持つので、眠気が強い。統合失調症の睡眠導入剤として使われることも。 |
セチプチリン (テシプール) |
ミアンセリンの効果を改善させたもの。力価にして10倍の効果をもつ。副作用の眠気も改善されている。 |
SSRI
80年代に多く開発された。後述のSNRIと並んで、うつ病に対する第一選択薬として使われる。
セロトニンの再取り込みを選択的に阻害する。分泌量に応じてセロトニン分泌を抑制する5-HT2C受容体の作用を反復投与で減弱させる(ダウンレギュレーション)ので、結果としてセロトニンの分泌が良くなり、より効果が得られる。
医薬品名 (商品名) |
備考 |
フルボキサミン (ルボックス) |
日本で初めて発売されたSSRI。「心の風邪」はフルボキサミンを日本で販売する際に用いられたキャッチフレーズ。 |
パロキセチン (パキシル) |
抗うつ薬といえばコレというくらい大人気の抗うつ薬。「SSRI」はパロキセチンをアメリカで販売する時に用いられたキャッチフレーズ。 |
セルトラリン (ジェイゾロフト) |
天下のファイザーが開発したSSRI。SSRIの中で最もセロトニン再取り込み阻害作用が強い優等生でアメリカでは一番人気だが、パキシル一強の日本ではいまいち不遇。最強の抗うつ作用を持つアミトリプチリンを治験の比較薬に選んで蹴落とされたこともあるかわいそうな子。 |
エスシタロプラム (レクサプロ) |
シタロプラムという抗うつ薬の鏡像異性体のうち、効果の高いS体だけを抽出した薬。抗ヒスタミン作用などの副作用が減り、4分の1ほどの量で効果を発揮するようになった。 |
SNRI
セロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害する。作用発現が早く、副作用が少ない。
医薬品名 (商品名) |
備考 |
ミルナシプラン (トレドミン) |
日本で最初に認可されたSNRI。作用、副作用が比較的弱めで、代謝経路が特殊なので他剤との併用が容易である。 |
デュロキセチン (サインバルタ) |
アメリカで売上1位の抗うつ薬。アメリカでの治験が上手くいかず開発が中断されたが、日本の治験データは良好だったため、手を引いたイーライリリー社に代わって治験の共同担当だったシオノギ製薬が独自で開発を続行。小柄な日本人で良好な結果を示したことから用量設定ミスが判明し、販売にこぎつけた。治験ボランティアの募集を日本で初めて新聞の一面広告に出したこともあるが、応募者のバイアスが大きく、その試験は失敗したそう。 |
ベンラファキシン(イフェクサーSR) |
SARI
セロトニン再取り込み阻害に加え、セロトニン受容体への直接作用(5-HT1A受容体刺激、5-HT2A受容体遮断)を併せ持つ。5-HT2A受容体遮断による眠気が主な副作用。
医薬品名 (商品名) |
備考 |
トラゾドン (デジレル、レスリン) |
眠気が現れるので、不眠を伴う患者に向く。就寝前の服用が推奨される。トラゾドン自体はSSRIより10年ほど前の薬だが、SSRIのブームに乗っかろうとトラゾドンの改良薬であるネファゾドン(商品名:サーゾーン)がSARIと銘打って販売していたので本品も実質的にSARIと分類できる。なおネファゾドンは肝毒性が強く日本で認可される前に販売中止になってしまった。 |
NaSSA
ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬。α2受容体を遮断することでノルアドレナリンとセロトニンの放出量を増やし、抗うつ作用以外をもたらすセロトニンの受容体を遮断することでセロトニンの抗うつ作用への選択性を高める。現状ミルタザピンのみがこれを冠して販売されているが、構造的には四環系抗うつ薬の系統。
医薬品名 (商品名) |
備考 |
ミルタザピン (レメロン、リフレックス) |
5-HT2A受容体遮断による眠気が現れるので不眠を伴う患者に向く。睡眠薬の危険性が過去に騒がれたことから鎮静作用がある新型抗うつ薬はアメリカの認可が通らないことが多いが、ミルタザピンは高い実力からそれを跳ね除けた。商品名のレメロンは"Luctor et Emergo(苦労するが、いつか苦境から抜け出す)"という古いラテン語の格言、リフレックスはRE(recovery=再生、remission=寛解)+FLEX(Flexibility=柔軟さ)に由来する。 |
関連商品
関連項目
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