この放射線を出す能力を『放射能』といい、放射能をもつ物質を『放射性物質』、原子核や同位体を『放射性同位体』という。放射能を直接測定する事は困難な為、測定した放射線の量を元に計算し、算出する。
概要
電磁波の一部と粒子線には電子をビリヤードのように弾き出して原子を陽イオンと電子に分解する作用があり、これを『電離作用』という。(簡単に説明すると、電磁波とは空間そのものの振動で、粒子線とは原子・分子の流れ)。
電離作用を持つ電磁波を『電離放射線』と言い、電離作用を持つ放射線『電離放射線』のうち、粒子の性質を持つ物を『粒子放射線』と言う。この『電離放射線』とは、いわゆる放射線のこと。放射線のうち電磁波であるのが『"電磁"放射線』、粒子でできている放射線は『"粒子"放射線』。電離作用を持つ電磁波を『"電磁"放射線』と呼び、電離作用を持たない(電離作用を及ぼす程のエネルギーが無い)電磁波は『"非電離"放射線』と呼ばれる。
この電離作用を利用して放射線を測定するのがガイガーカウンター(GM計数装置)である。ちなみに放射線はランダムに放出されるので、複数回測って平均を出すのが正しい使い方。
電磁波のうち放射線(電磁放射線)に該当するのはX線(γ線)。
中性子線、電子線、陽子線、陽電子線、α線、β線、宇宙線などは粒子放射線(原子・分子の流れ)である。
不安定な原子核(親核種)が放射線を放出することで安定な原子核(娘核種)になることを「壊変」と呼び、壊変により親核種の半分が別の核種に変化するまでの時間を半減期と呼ぶ(寿命のようなものと思えばいい)。内部被曝を考える際などは、体内から排出される時間(生物学的半減期)も考慮し、有効半減期を計算する。(1/有効半減期=1/物理的半減期+1/生物学的半減期)
影響
電離放射線が物質に放射されると電離作用により原子が分解され、化学変化が発生する。
人体の場合、体内の水に化学変化が起きDNAの遺伝情報に損傷を受ける。
細胞分裂が活発な部位ほど(幹細胞、造血細胞、上皮基底細胞、水晶体、等)この影響を受けやすく、損傷が修復できる限度を超えると細胞分裂がうまく出来なくなり、その部分が自死する。
(この作用を逆手にとり、器具・飼料などの滅菌に用いられてたりもする。)
この生体への影響を考える際に使うのがシーベルト(Sv)という単位で表される等価線量である。等価線量は組織・臓器の平均吸収線量と放射線荷重係数の積で求められる。
健康に対して顕著に悪影響を与えるのは、体に浴びた放射線の積算量が一定を超えた時とされ、具体的には1年間に100ミリシーベルト以上とされている。これは1時間あたり11マイクロシーベルトを24時間、365日ずっと浴び続けたときの値である。これより少ない量の人体への影響は報告されていない。
ちなみに物質1kgに放射線が与えたエネルギーの大きさを吸収線量と呼び、グレイ(Gy)という単位で表す。また、一秒あたりにどれだけ壊変が起きるか(放射能の大きさ)をベクレル(Bq)で表す。シーベルトは核種や被爆する者の年齢などに左右されるので、ベクレルを単純計算でシーベルトに換算することはできない。
α線
222Rn、226Ra、235U、239Puのように質量数の大きい原子核が壊変して生じたヘリウムがその正体。本体が他の放射線に比べて段違いに大きいので放射されたときの電離作用は大きいが、3cmほどしか飛ばないうえ、何かにぶつかるとそこですぐ止まってしまうので厚紙程度で遮蔽できてしまう。そのぶん体内被曝したときのリスクは大きい。
β+線
エヴァンゲリオンのポジトロンライフルでお馴染みの「陽電子」。原子核の陽子から放出され、陽子は中性子になるので、娘核種の原子番号は1減り別の元素になる。
(陰)電子の「反物質」(該当記事を参照のこと)にあたり、電子と結合すると180°方向に2本のγ線(消滅放射線)を放出する。これは対(つい)消滅と呼ばれる。敵を対消滅により破壊しようというのがポジトロンライフルだったわけだが、電子は空気など身の回りに沢山存在するため、命中するまでにどんどん対消滅してしまうのでβ+線を大気中で遠くまで飛ばすことは難しい。水中で火炎放射するようなものである。(詳しくは「荷電粒子砲」の記事を参照のこと)
現実世界では陽電子を放出するよう標識された薬剤を投与し、体内で生じる消滅放射線を観測して断層像を得るポジトロンCT(PET)に用いられる。後述のSPECTよりも感度と定量制に優れる。代表的な放出核種は11C、13N、15O、18F、22Naなど。寿命が短いので院内に小型加速器(サイクロトロン)がないと行えず、コストが高い。
β-線
身の回りに多くある「(陰)電子」。原子核の中性子から放出され、中性子は陽子になるので、娘核種の原子番号は1増え別の元素になる。
放出核種は3H、14C、32P、35S、90Srなど。体内動態を知るための動物実験(トレーサー実験)などに使われる。診断用が多い放射性医薬品の中にあって、131Iのヨウ素剤は甲状腺がんやバセドウ病の治療、89Srは骨転移がんの骨痛治療、90YはCD20抗原陽性の悪性リンパ腫治療に用いられる。
飛距離は30~40cmほど。β線の透過度の低さはα線に次ぎ、1cm程度のアクリル板やアルミ板で遮蔽できる。ただβ線をはじめ荷電粒子は進行方向を曲げられると減速した分のエネルギーが制動X線として放出されるので、実際にはそれを遮蔽する鉛板が別に必要。
この制動放射という現象を利用して、β線を亜光速まで加速させ、磁場をかけて曲げることで人為的に強い連続X線を得ることができる。この技術はシンクロトロンと呼ばれ、工業や構造解析などに利用されている。
γ線
放出核種は40K、60Co、123I、125I、131I、137Cs、222Rn、226Ra、235U、99mTcなど。実態は高いエネルギーをもつ親核種が発する電磁波であり、電荷を持たないので周りの磁場などに影響されず直進する。
体内に投与し、断層像を得る単一光子放射断層撮影(SPECT)に用いられる。半減期の短いβ+線に比べ、核種を工業的に生産し、取り扱うことが容易なのでコストが低く、PETよりもよく用いられる。
例えば診断によく用いる99mTcは半減期が6時間(一日で1/16になる)と短く使いづらそうだが、その親核種である99Moの半減期は66時間。工場で99Moを作って病院に持ってきた後、99mTcに変化した分を取り出して使えばいいわけである。これを乳搾りに例えてミルキングと呼ぶ。親娘の乳搾りとか変な想像をしないように。
透過力が高いので遮蔽には厚い鉛板が必要。ちなみにガイガーカウンターは検知管がアルミで囲われており、透過性の高いγ線(及び金属にぶつかって生じるγ線由来のβ線)だけをなるべく測定するように作られている。
X線とγ線の違い
これらを何らかの測定によって区別する方法はない。X線発射装置から生成したものをX線と呼称しているにすぎない。波長だけに注目しエックス線よりも波長の短いもの(およそ10pm)をガンマ線とすることもある。正式には、原子核内のエネルギー準位の遷移を起源とするものをγ線と呼び、核外での軌道電子の遷移を起源とするものをX線と呼ぶ。
しかし対消滅で発生したγ線は先述の定義からあぶれる。少なくとも電子と陽電子の対消滅に原子核はどこにも現れないので「原子核内のエネルギー準位の遷移」と言う定義は苦しいものがある。もちろん「軌道電子の遷移」にもなりえないのでX線の定義からもあぶれる。
放射線を利用しているもの
温泉
温泉水1kg中にラドンを3nCi(ナノキュリー)(=8.25M.E.(マッヘ単位)=111Bq(ベクレル))以上含有するものを放射能泉(旧泉質名。現代の定義はwiki参照)と呼ぶ。いくつか例を挙げると以下のような温泉がある。
- 湯之島ラジウム鉱泉保養所 ローソク温泉(ラドン 20.2μCi=747kBq/kg)
- 猿が城温泉(ラドン 7.87μCi/kg=291kBq/kg)
- 有馬温泉(ラドン 60nCi/kg=2.2kBq/kg)
関連リンク
関連項目
脚注
- 6
- 0pt