概要
『教皇選挙(原題:CONCLAVE)』は2024年に公開されたアメリカ・イギリス合作映画。
英国ジャーナリスト・作家のロバート・ハリスの同名小説を題材とし、密室のシスティーナ礼拝堂で行われるコンクラーベの果てに、誰が新たなローマ教皇の座に就くのかを描くミステリー映画である。
第94回アカデミー賞で脚色賞を受賞。
実際の「教皇選挙(コンクラーベ)」については該当記事を参照のこと。
あらすじ
キリスト教最大教派・カトリック教会の最高指導者にしてバチカン市国元首であるローマ教皇が死去した。
前教皇の葬儀後に執り行われる「教皇選挙(コンクラーベ)」を取り仕切るのは、ローレンス主席枢機卿。己の信仰に疑問を抱き、昨年には前教皇に辞意を伝えるも慰留されていたローレンスは、これを己の最後の奉仕とするつもりであった。
選挙宿舎となるサン・マルタ館には、世界各国から117名の枢機卿が集う。その中でも当選を有力視されているのは、前教皇を公然と批判する保守派最先鋒・テデスコ枢機卿、史上初のアフリカ系教皇の座を狙う保守派・アディエミ枢機卿、中道ゆえ幅広い支持を集めるトランブレ枢機卿だ。ローレンスは前教皇の改革姿勢を引き継ぐリベラル派にして盟友のベリーニ枢機卿に支持が集まるよう、それとなく働きかけながら選挙準備を整えていく。
しかし、いざ選挙が始まるや否や、これが使徒としての最後の試練であるかのように、ローレンスの目前には様々な問題が浮かび上がるのだった。
トランブレが前教皇の死の数日前に面会し、何らかのやりとりをしていたという未確認情報。
前夜、滑り込みで現れた「名簿に無い118人目」の枢機卿・ベニテス。
ローレンスの隣室となったアディエミが抱えているらしき問題。
そして、決して少なくない票を得たローレンスに、野心の疑念を向けはじめるベリーニ……。
密室のサン・マルタとシスティーナで繰り広げられる、3日間の物語。
作風
教皇選挙 | |
基本情報 | |
---|---|
監督 | エドワード・ベルガー |
脚本 | ピーター・ストローハン |
音楽 | フォルカー・ベルテルマン |
製作 | テッサ・ロス 他 |
配給 | キノフィルムズ(日) |
公開日 | 2024年10月25日(米) 2025年3月20日(日) |
上映時間 | 120分 |
映画テンプレート |
監督は第94回アカデミー国際長編映画賞作品『西部戦線異状なし』のエドワード・ベルガー、脚本と製作総指揮は『ザ・ゴールドフィンチ』などを手掛けたピーター・ストローハンが担当している。
現実のコンクラーベは(当然ながら)完全密室・非公開だが、本作では綿密な取材と構想に沿い、極力現実に近いであろう空間と様式を創造し、素晴らしい構図と映像美で表現している。アカデミー美術賞にもノミネートされたセット造形にも注目したい。このビジュアル面が本作の第一の魅力で、映画全体を格式高い雰囲気で包み込んでいる。どの場面を切り抜いても画になる美術は必見である。
ストーリーテリングは「密室劇」で、舞台はサン・マルタ館とシスティーナ礼拝堂のみ。加えて、出来事はローレンス枢機卿の目に入った事柄のみしか描かれず、更に外部の情報は秘書役の聖職者が報告する断片的なものに限られるため、ミステリー効果を最大限に高めている。
……が、そんな雰囲気とは裏腹に、繰り広げられるお話は(身も蓋も無いことを言えば)「選挙で揉める爺さんたち」。過去のゴシップやら買収やら極右アジテーションやら、意外と俗っぽい聖職者たちが繰り広げる、信仰心とエゴのぶつかり合いもまた、もう一つの魅力である。法衣姿で電子タバコをふかしたりスマホをいじったり、宿舎と礼拝堂を移動するたびにマイクロバスに詰め込まれる法衣のジジイ達が観られるのもオモシロポイント。
勿論、そうしたお爺たちを余すとこなく表現した役者陣の熱演も観客を物語に強く引き込む原動力となっている。特に己の立場に迷い、状況に揺られ、最後に光を見出すローレンスを担当したレイフ・ファインズの演技は絶賛されている。
第97回アカデミー賞で脚色賞、ゴールデン・グローブ脚本賞を受賞した前評判も合わさってか、半年遅れかつ非メジャー配給による公開となった日本でも、公開規模を考えると意外なまでに高い集客・収入を記録。観客はシニア層が多めだが、全体としては幅広い世代に受けており、販売客席数も休日と平日であまり差がない。
奇しくも公開一か月後には、現実の第266代ローマ教皇フランシスコが亡くなったことでコンクラーベの開催が決まるという時事ネタもハマり、近年洋画の不振が目立つ日本においては久々の「ジワ売れ」洋画となった。
登場人物 / 演者
- トマス・ローレンス枢機卿 / レイフ・ファインズ
- この物語の主人公である、ローマ教皇庁首席枢機卿。前教皇を篤く慕っており、そのリベラルな姿勢を引き継いでいる。社会の変貌を見続けた果てに自身の信仰に迷いが生じており、教皇になる意欲も無い。盟友ベリーニの当選を望んではいるが、選挙主催としては厳格に事を運び、様々な諸問題の対応に奔走することになる。
平時は裸眼だが、ものを読むときは老眼鏡をかける。お陰でベリーニと区別が難しい。 - アルド・ベリーニ枢機卿 / スタンリー・トゥッチ
- ローマ教皇庁次席枢機卿。米国出身・バチカン教区所属。リベラル派の急先鋒であり、世間の下馬評では最大の次期教皇候補とされている。本人は「まともな人物は教皇になろうとしない」とその勤めを評しつつも、テデスコやトランブレに牛耳られるよりは自分がやりたいと、選挙戦に名乗りを上げた。しかし予想以上に保守派への揺り戻しは大きく、苦戦を強いられることになる。
禿頭に眼鏡が特徴だが、劇中の大半でカロッタ帽を被っていることもあってローレンスと区別が難しい。 - ジョー・トランブレ枢機卿/ ジョン・リスゴー
- カナダ・モントリオール教区所属。保守派寄りだがリベラル派にも理解を示す中道的立場。穏健派ということもあり、北米地域を中心に高い支持を集める。
落ち着きのある明朗な人物だが、裏では様々な策謀を走らせる強かな男。前教皇の死の数日前に会い、何らかのやり取りを行った未確認情報がローレンスに伝わったことで、物語は動き始める。
前頭部の髪が後退した眼鏡の男。例によってローレンス、ベリーニとの区別が難しい。 - ジョシュア・アディエミ枢機卿 / ルシアン・マサマティ
- ナイジェリア教区所属。史上初のアフリカ系教皇を目指す。政治姿勢としては保守派であり、元々の支持基盤であるアフリカ地域の他にも幅広い支持を集めている。
サン・マルタ館ではローレンスの隣室となるが、ある夜、一人のシスターが彼の部屋を訪ねてきたことが明らかとなり……。 - ゴッフレート・テデスコ枢機卿 / セルジオ・カステリット
- イタリア・ベネチア教区所属。ラテン語ミサを提唱する保守派急先鋒であり、前教皇を頻繁に批判していた。ともすれば傲然とした、自信溢れる振る舞いが目立つ原理主義者だが、一方でスキャンダルの類とは無縁であり、一定の支持を集めている。
ガタイのいい体格と黒縁眼鏡、白髭が特徴。著名人で例えるなら宮崎駿と庵野秀明が混ざった感じ。 - ヴィンセント・ベニテス枢機卿 / カルロス・ヴィエス
- メキシコ出身。アフガニスタン・カブール教区所属。イスラム圏や政情不安定地域で奉仕を続けてきた異色の人物で、身の安全を考慮した前教皇によって極秘裏に枢機卿に任命されていた。コンクラーベ前日に前教皇の任命書を持参して参上し、一同を驚愕させつつも迎え入れられる。
外見こそどこかくたびれた様子だが、様々な酷地を渡り歩いてきただけあって、確固たる自らの信念を持つ。本人はローレンスを高く評価しているが、それがローレンスとベリーニの間に亀裂を生む遠因となる。 - レイモンド・オマリー高位聖職者 / ブライアン・F・オバーン
- 通称「レイ」。ローマ教皇庁の高位聖職者であり、コンクラーベではローレンスの秘書的存在として活動する。自身も投票対象故に外界との接触を断つローレンスに代わって情報調査を行い、朝と夕方の移動時にそれを報告する密偵役を担う。
- ウォズニアック大司教 / ジャセック・コーマン
- ローレンスとは長い付き合いのローマ教皇庁の一員。若干気の弱い所があり、疑念を伏せておくことに耐えられず、選挙前日というどうしようもないタイミングでローレンスにトランブレの疑惑を伝える。
- シスター・アグネス / イザベラ・ロッセリーニ
- サン・マルタ館のシスター長。枢機卿たちの世話をするシスターたちのとりまとめ役で、彼女達一人一人に深い愛情を向けている。職務上、様々な情報に接しており、やや強引に調査協力を求めるローレンスに辟易しつつ協力する。
受賞歴など
- 第97回アカデミー賞(2024)
- 脚色賞(ピーター・ストローハン) 他7部門ノミネート
- 第82回ゴールデングローブ賞(2024)
- 脚本賞
- 全米映画俳優組合賞(2024)
- キャスト賞
- 英国アカデミー賞(2024)
- 作品賞 / 英国作品賞
小ネタ集
- 御当地バチカン/イタリアでは、闘病中だった教皇フランシスコを敬い、本作の宣伝はあまり行われなかった。
- 劇場パンフレットには、劇中で使われる投票用紙のレプリカが付属している。折るのも勿体ない気がするが、これであなたもコンクラーベごっこができる。
- 高齢の白人男性を見慣れず、本作の登場人物の見分けがつきづらい人もいるだろう。そんな人は「胸元」と「手首」を判別ポイントに加えてみよう。
- 2025年5月9日(日本時間)、フランシスコの死去によりコンクラーベが執り行われ、本作の日本上映もそろそろ終幕に入りつつある頃、ロバート・フランシス・プレボスト枢機卿がアメリカ出身者として初めて教皇に選出され、レオ14世となった。幸いにも映画のような事件は起こらず(起こらなかったはず)、2日間、4回目の投票で決着している。
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