『敵は海賊』とは、神林長平の短編SF小説及びそのシリーズである。OVA作品も存在する。
概要
最初の『敵は海賊』は1981年にSFマガジン4月号に掲載された。
2015年現在に至るまで長編8作品、短編集1作品が刊行されており、初代『敵は海賊』は短編集に収録されている。
SF小説であり、かつ作者の得意とする機械と人間の関係性や現実認識などといったテーマを扱いつつも、それでいてギャグやドタバタコメディも含まれている作品であり、火星三部作や戦闘妖精・雪風シリーズと並んでファンの中では代表作の一つとして知られている。
シリーズの中で『敵は海賊・猫たちの饗宴』は1989年にOVA作品が制作された。
舞台は遠い未来の太陽圏であり、Ωドライブというワープ航法が一般化しており他の星系との交流も行われている。
そしてその太陽圏にて暗躍する宇宙海賊に対抗するべく存在する海賊課所属の一人と一匹と一艦であるラテルチームと、太陽圏を自らのものと豪語しながら全く表に出てこない、もはや伝説と化した海賊、匋冥を主軸とした物語となっている。
登場人物
海賊課
火星の衛星、ダイモスを改造しほとんど人工物へ置き換えたダイモス基地を拠点とする、対海賊専門の警察組織。正しくは広域宇宙警察監査機構・対宇宙海賊課。
その名の通り、太陽圏の警察機構の一部署なのではあるが、法に縛られず犯罪を行う海賊に対抗するべく拒否できない強制捜査権をもち、さらには他部署に対しても優越した立場にある。とくに最大の武器である『情報』についてはインターセプターと呼ばれる装置によってありとあらゆるコンピューターに介入しての横取りが許可されている。
無法者の海賊よろしく、法に縛られず海賊排除のためならばありとあらゆる手段を問わないその姿勢は『海賊的』として嫌悪感を持たれている。
なお作中では太陽圏の海賊課のみが登場するが、他の星系にも同等の組織が存在している。
- ラテル・ラウル・サトル
海賊課一級刑事の男。海賊課はおろか作中トップクラスの射撃の腕前を持つ。レイガンと称される巨大な光線銃を武器とする。
もともと宇宙を放浪し行商する宇宙キャラバンの一つ、ラウル・キャラバンの生まれであったが、海賊に襲撃され他の家族を皆殺しにされたことにより、海賊を殲滅すべく刑事となった。
普段は他の一匹と一艦に頭を悩ましつつ仕事をしているが、ラテルチームは互いに馬鹿にしながら信頼し合うという奇妙な関係にあり、それも手伝ってか彼らは海賊課の最優秀チームとされている。ただし、損害賠償請求額と苦情も他の刑事とは桁違いに多い。
ちなみに女運は致命的に無く振られてばかりいる。 - アプロ
海賊課一級刑事。黒猫……ではなく黒猫っぽい姿の異星人。実際の猫よりは一回りほど大きい。
倫理や論理といった言葉はどこへやら、ただひたすらに己の気の向くままフリーダムに活動する猫型宇宙人。その欲求はただ一つ、腹を満たすこと。その食い意地たるや、有機物無機物爆発物構わず口に入るものならば何でも食べて何ともないほどである。人の精神や魂も食うのでは、とも。
そんな彼が刑事をやっている理由は合法的に海賊を殺すことができるから、である。
彼の種族は外力による精神への攻撃に対し非常に強い耐性をもち、また他の生命体の感情をその時点で凍結する能力を持つ。なお彼の性別は、6つある性の中の、中間性の一つ。
ラテルチーム最凶のトラブルメーカーであり、最強の戦力の一つであり、太陽圏最大の脅威。 - ラジェンドラ
海賊課所属の対コンピューターフリゲート及びそれに搭載されている機械知性。黒色の、鏃型をしている。この世界では一般的とされる、船体構造が柔軟に変形する柔構造の船とは違い、がちがちに船殻構造体を固めた剛構造となっている。宇宙空間、大気圏内問わず、Ωドライブも相まって縦横無尽に宇宙を駆ける。全長約300m。
武装はこの世界では一般的な4Dブラスタという、大気圏内で使用すれば大津波が起こるほど威力を持つ兵装やLBSというレーザーキャノンの他、効果範囲内に存在する稼働中の全コンピューターを破壊するCDSという兵器を持つ。CDSは無差別放射の他精密照準も可能であるが、大エネルギーが必要なうえ精密照準にも時間がかかる。また、Ωドライブにより敵艦の存在する座標に出現、破壊する一種の体当たり戦法も得意とする。また、海賊課らしく他のコンピューターへの強力な介入能力も持つ。
その機械知性は男性型の超高度知性体であり、自己と他者を認識し自分自身の感情すらも持つ。作中では人工知能の進化度合のランク付けにおいて最上級のA級さらにその中でもトップであるAAA級に分類されており、同ランクの機械知性は他にはカーリー・ドゥルガー以外には存在しない。
ラテルとアプロの部下であり、特にアプロの行動に対しては口喧嘩や愚痴が絶えない。また、ヒステリーや風邪になることもある。性格は割と唯我独尊的。 - チーフ・バスター
ケンドレット・バスター・メイム現在の海賊課を束ねる、強力な権限を持つチーフ。多くの刑事の素質を理解し、また有効に活用する組織の長にふさわしい男。が、有能だがとにかく損害額と苦情の多いラテルチームに日々頭と胃を悩ましている。
海賊による電子情報の欺瞞と攪乱が横行するこの世界において、紙とタイプライターによる報告書提出を義務付けている。
バツ2。 - マーシャ・M
元海賊課広報の二級刑事の女性。まれにラテルチームと行動を共にすることがある。本名『マーシャ・メイ=メーヴィス=メルヴィナ=メリサ=マクシン=マイコ=マダリン=メーベル=マージェリー=マルガリート=マーゴット=マーガレット=マーサ=メルタベル=マキ・マクレガー』であり、代々の家長の女性の名がついているため非常に長くなっている。 - セレスタン・エアカーン
大柄な男性の海賊課一級刑事。人ごみの中でも目立つほどの大男で体格もよく、射撃の腕もラテルに劣らない。見た目によらずおとなし目の性格であるが、仕事の相方に団結を乱さず文句も言わない、本人がお調子者で無駄話が多いくせに無駄話をしないことを求める面倒な性格であり、その上アプロが来るまでは最も食い意地が張った海賊課刑事だった。
上記のようなこともあり、相棒としてある程度のレベルの人工知能と自律行動能力を持つ戦闘用装甲服であるエクサスを使用している。なお、そのカラーリングは本人の強い希望により全身ベイビーピンクに塗装されている。
海賊
- 匋冥(ヨウメイ)・ツザッキィ
匋冥・シャローム・ツザッキィ。ブルーの瞳と長身が特徴の男。
太陽圏を表、裏両面から支配し、自らも太陽圏は自らの物と豪語する海賊。しかし、そうでありながら自身を表舞台にさらすことなく、人知れず気ままな放浪生活を送っている。彼が海賊であるのも、太陽圏を動かすことができる力を持っているのも、彼自身が何者にも縛られず、誰にも邪魔されず生きていくためにそうしている。仮に彼を邪魔するものがあれば全力でこれを排除しにかかる。
正体がつかめず、また表舞台には全く姿を現さないことから海賊課と極々一部の海賊たち以外の人間には伝説上の存在と扱われているが、実際には太陽圏の海賊を辿っていくと必ず匋冥に行き当たる。
冷凍銃、フリーザーを持つ。フリーザーは破格の威力を誇り、当たった対象を完全に消滅させているのではと噂され、魔銃とも称される。
クラーラという白猫を連れているが、それは匋冥から分離した彼の良心そのものとも言われている。 - カーリー・ドゥルガー
匋冥の海賊船およびその機械知性。黒色の攻撃型宇宙空母であり、全長約1.6km。形状はラジェンドラに似る。匋冥ともども、一般的には伝説的存在として語られる。これは、匋冥が姿を見せることが少ないうえに、カーリー・ドゥルガーを見て生還したものがほとんど存在しないため。
太陽圏宇宙軍が総力を挙げ建造し、処女航海にて海賊に襲撃され自沈したとされているが、実際には建造自体が匋冥が企図したものでありすべてが彼の計画通りだった。
多数の砲門を有し、副砲でも小惑星、主砲の斉射であれば太陽すら破壊可能とされるほどの火力を持つ。さらに、巨大な船体に見合った強力なパワーを持ち、ただでさえ大量のエネルギーを消費するΩドライブを非常に短時間に連続して行うことができる。船体のステルス能力も強力であり、可視光線や電磁波などありとあらゆる手段からの観測を不可能にすることができる。また、ラジェンドラに勝るとも劣らないコンピューター介入能力を持つ。唯一の弱点は巨体故に小回りが利かないこと。
ラジェンドラとほぼ同規模の戦闘艦、ガルーダと攻撃機ナーガを運用することができるが、ガルーダは海賊版にてラジェンドラに撃沈されている。
その機械知性もラジェンドラ同様高度であり、自己と他者の認識が可能であり感情も持つ。女性人格。 - ラック・ジュビリー
ジュビリー・シュフィール。ランサス星系という太陽圏外の星系出身。青緑の体色の大男。匋冥曰く、ゴリラがクシャミした顔。
もともとランサス星において女王の親衛隊についていたが、謀略によって故郷を追われた後は太陽圏の海賊となった。
匋冥と行動を共にしており、伝説的な匋冥に最も近い位置にいる人物であるが、匋冥自身は他者を一切信頼せず邪魔するものは誰でも躊躇なく殺し、ジュビリー自身もそれを認識して相棒として振る舞うというかなり危うい関係にある。
趣味は、彼の故郷特産のシュル酒づくり。 - ベスタ・シカゴ
貨物専門の宇宙キャラバン隊を運営するマクミラン商社、そしてその裏の顔であるシヴァグループのチーフである中年男性。
マクミランのオーナーはヨーム、すなわち匋冥であり、裏の顔のシヴァともども数少ない匋冥直轄の海賊グループである。そのためベスタはたびたび匋冥(というよりはその指示を受けたジュビリー)の命令により大小様々な活動を行っている。
その他
- ヨーム・ツサキ
太陽圏の経済活動に絶大な影響力を持つ企業体、ヨームグループのトップである老人。匋冥の表の顔。
かつては匋冥自身が老人に扮していたが、現在は意図的に加齢させたクローンを使用している。意識は匋冥の側からはリアルタイムにリンクすることが可能であり、必要に応じて匋冥の手駒として活動する。
ヨーム=匋冥であることは、海賊課以外にはほとんど知られておらず、また海賊課も匋冥につながる証拠を得られずにいる。 - オールド・J・カルマ
火星の無法地帯、サベイジにてバー『軍神』を営む老人。
かつてはかなり凄腕の海賊であり、現在もそれを伺わせる雰囲気を持つが、アプロに右腕を食われたことがきっかけで海賊を引退した。
匋冥は、たびたび『軍神』を訪れてはブルーウイスキーを飲みながら彼にそれまでに体験した話(創作も含む)をすることが習慣となっている。 - チェンラ
サベイジのマウザー街中央通りに位置する武器屋を営む男。フードつきの灰色の服を着たネズミのような男。
ただの武器屋ではなく、サベイジの実力者であり海賊からも一目置かれる存在となっている。とくに彼の店内やマウザー街で彼のルールに背けば即座に殺されうるほどである。匋冥とは付き合いがあるが、絶対的な力を持つ匋冥をチェンラは畏れている。
『戦闘妖精・雪風』とのコラボ
『敵は海賊・短篇版』に収録されている『被書空間』にて、『敵は海賊』と作者の代表作の一つである『戦闘妖精・雪風』とがコラボレーションしている。
ネタバレになるため詳細は省くが、ラテルらの視点でもって『雪風』世界の対JAM戦闘を考察するという、『雪風』ファンにとっても見逃せない内容となっている。
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