新ゴとは、モリサワからリリースされている和文書体である。角ゴシック体に分類されるサンセリフ(無装飾)書体の一つ。写植書体として1990年にリリースされ、のちにデジタル化された。
概要
四角いパーツによって構成される角ゴシック体の中でも、平坦な線による無装飾ないわゆる「モダンスタイル」の角ゴシック体の代表例の一角として、DTP黎明期からデファクトスタンダードに位置付けられている書体である。濃密になり過ぎない文字の濃度調整が独特の明るさと清廉さを生み出し、一定の品格ある雰囲気を有させている。
設計を指揮したのは小塚昌彦氏。「リュウミン」やAdobe「小塚ゴシック」などでも知られる名うての書体デザイナーである。
削除動画サムネイル (原宿時代) |
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モダンスタイルの角ゴシック体は今でこそ多数の種類があるが、モリサワは印刷業界がデジタル化の波に乗る中でAdobe社と組んで、黎明期に本書体のデジタル化を行ったため、現代において多数の企業のコーポレート書体に制定される人気書体の一つとなった。恐らく、この書体を見ない日はほとんどない。
例えば、JR(東日本ほか)の駅名標に用いられている和文書体がコレである。なのでニコニコだと鉄道系の動画で用例が多かったりする。あと、かつてニコニコ動画の削除動画で表示された字幕や、サムネイル「視聴できません」も新ゴ。
背景
新書体ブームとゴナ
伝統的な雰囲気を持つゴシック体 (見出しゴシック体 MB31 モリサワ、1961年) |
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日本の書体デザインでは元来、文字の骨格に関して独特の制約があった。角ゴシック体においてもそれを尊重した伝統的な骨格を有するものが多数で、エレメントにも筆を思わせる装飾や脈絡がみられてきた。
しかし1970年代、業界を牽引していたタイプファウンドリーの一つ「写研」からリリースされた「タイポス」「ナール」などを端緒とする新書体ブームがあり、均質で無装飾の書体の提案があった。
これに対し、モリサワは角ゴシックにおいて試みた最初期のメーカーの一つで、書体デザインのそれまでの常識の範疇から外れたとまでは言い難いながら、1971年に仮名書体「じゅんゴシック」、1972年に総合書体「直B101」という、直線や均一な線の特徴を持つ書体をリリースしていた。
一方、写研は更に、ナールのデザイナーであった中村征宏に依頼して新しい角ゴシック体の制作をおこなった。ゴシック体として最も太いデザインというコンセプトがあり、無装飾な欧文書体にインスパイアを受けた、無装飾で直角や垂直などの幾何学を思わせるモダンなデザインに仕上がる。1975年、「ゴナ-U」としてリリースされたその書体は非常に緻密に整理されており、極太から細いウエイトまでフォントファミリー化しても重厚で、広告に用いられたり、日本のメガバンクなどが次々に制定書体に採用するなど大きく広まることとなる。
この書体が与えた影響は大きかった。幾何学的な造形のためにデフォルメや独自の骨格解釈、またパーツの重ね合わせなどといった大胆な処理を厭わない設計思想は多くの書体デザインに影響し、また各社は同様に均質なサンセリフのゴシック体の開発に躍起となった。
新ゴシックの開発
顧客からの需要もあり、モリサワも同様の書体開発に乗り出す必要に駆られる。そこで「ツデイ」や「アローG」という総合書体を開発したが、前者は直101の特徴を引き継いで垢抜けない印象であったし、後者は丸々としていて非常に明るくウエイトも少ないなど、汎用的なゴシック体とは少し違ったものとなっていた。
そこで1986年、書体デザイナーの小塚昌彦はモリサワへ、ツデイとアローGを足して2で割ったような新しいゴシック書体の制作を提言、制作に乗り出した。「ゴナ」がどっしりと構えた中庸な雰囲気なのに対して、懐も広めながら少し抑え、重心は上げた。カーブは深めにとって、優美な印象を作った。
また当時最先端の書体デザイン用コンピューターシステム「IKARUS」を導入してのシステマティックな作業を行なった。ドイツURW社で開発された、世界で最初のデジタル・アウトラインフォント制作ソフトと言える代物で、自動で中間の太さを生成する機能を備えた同システムを活用したシステマティックな作業によって、4年の制作期間を経て、完全に統一された雰囲気での8ウエイトの同時リリースが実現(※それまでは、少しずつウエイトを拡充していくのが一般的だった)。
こうして1990年、「新ゴシック」という名前でリリースされたのが本書体となる。
特徴
全体的な曲線でバランスを取りがちだが 新ゴは直線を強調して最後の部分で 急激に曲線への変化を加える (左例:新ゴ-U 右例:ニューロダンEB) |
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モダンスタイルのゴシック体においては、フトコロ(字面の広さ)のほか、どこまでを直線的とし、どこまで曲線を描写するかが設計思想の上で分かれ目となりがちである。
先述したゴナの場合は視覚的な印象を優先しており微妙な曲線の変化を加えたりしているが、新ゴの場合はフトコロを非常に広めにとり、直線は直線として、曲線は曲線として描写している。これによって幾何学的で整理された印象がある。
また、隙間を先発のゴナよりも多めに空け、明るく潰れにくい印象が保たれた。仮名のいわゆる「伝統的な骨格」を一部意識している部分もあり、視覚的に違和感を覚えることが少ない仕上がりである。
上記の設計を踏まえても、「な」の独特の接続処理などゴナとの類似は否めず、実際に写研に訴えられたこともあったが、その背景には多数の工夫があり、結果として雰囲気等によってその役割は確かに分散している。太さではゴナに及ばないものの、明るさはゴナよりも主張して、埋没しない訴求力を秘めている。
時代に合わせた変化もある。より多くの人が読めるようなユニバーサルデザインに配慮した、UDフォント「UD新ゴ」は多くの公共的な場面での制定書体に用いられている。出自や特徴などによって賛否の分かれる新ゴシリーズではあるが、ある種の定番として浸透に成功していることは間違いないだろう。
関連動画
関連項目
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